表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/150

第27話 五日目・見た目も中身もクズの手紙

作戦を立てよう。俺と芋助によるラブレターを渡す算段を考えることになった。

が、考える暇もなく今日最後の授業が終わりホームルームも終了。

そう、下校時間となったのだ。


「帰るわよ」


掃除当番ではなく帰宅部のボッチお嬢様が学校に残る理由はない。よって俺のところに来て、帰宅を促してくるわけだ。

マズイなぁ、どうやって渡せば……。


「お嬢様、お願いがあります」


「何よ」


「俺は入学したばかりで校内をイマイチ把握していません。俺の為に校舎を案内していただけませんか?」


お嬢様にお願いしてみる。時間稼ぎである。


「嫌よ。今日はダンスのお稽古があるし、校舎の中を回るなんてめんどい」


クソが。拒否んなや。しかしここで折れるわけにはいかぬ。

今日は金曜日。今日を逃せばラブレターを渡せるのは来週になってしまう。

それでは駄目だ。今日中に渡してゲラゲラ笑いたい、俺が。


「お願いしますよぉ、哀れな使用人の為を思って~」


「だから嫌だってば」


ちっ、大人しく了承しろやボケェ。


「でしたら連れションしましょう。さあ」


「はあ? いい加減にしてよ変態使用人」


お嬢様の顔が険しくなってきた。これはキレる寸前だ。

この短気ボッチクソクソ女。テメーは自分が良ければそれでいいのかよ。少しは周りに優しくしてみろや、だからボッチなんだよ。


「アンタの懇願なんて私の気まぐれ以下よ。帰るわよ」


「分かりました。じゃあトイレだけ行かせてください。漏れそうなんです」


股間を押さえてモジモジと腰をくねらせてアピールしてみる。

お嬢様の顔がより一層険しくなってまいりましたぁ!


「……早くして。置いて帰るわよ」


あざーす、と礼を述べてトイレへ向かう。教室を出る際に芋助へアイコンタクト、ついて来いと指示する。

芋助は理解してくれたみたいで、トイレに着く頃には合流した。


「ど、どうするんだよ。天水さん帰る気満々だぞ」


あわわわ、と歯を震わせて芋助が絶望している。

その手にはクソの集大成、アルミ製ラブレター。


「まぁ落ち着けクソ虫。打つ手はある」


「ホントか!?」


「俺が時間を稼ぐ。その間に急いでお嬢様の靴箱に投入しろ」


本当なら机の中に入れて授業中に見てもらうのがベストだったが書き上げるのが遅かった。

朝と同じパターンだが今度ばかりは破かれないことを祈ろう。


「よし分かった全力ダッシュで行く」


「俺も出来るだけ足止めする。頑張れよクソ虫」


「さっきから俺のことクソ虫って呼ぶのやめてくんない!?」


こまけぇことはいい、今はラブレターを投函することだけ考えろ。

芋助の背中を押し、廊下へ飛ばす。行ってこいジャガイモ野郎。


「うおおぉレッツ&ゴーだぁ!」


ものすごい勢いで芋助は廊下を駆けていった。

さて、俺も急がなくては。早足で教室に戻り、雨音お嬢様の元へ。


「遅い」


「いやぁ、激戦でしたわ」


片目を閉じ、舌を出してテヘペロを放つ。お嬢様の顔がより一層ますます険しくなってきた。

俺の評価がゴリゴリ下がっている気がしてならない。まぁ最初から最低評価だったから別にいいけど。お嬢様の評価なんてどうでもいい。俺には矢部君がいれば十分だ。なぁ矢部君。そうでやんす。


「行くわよ」


「あ、ちょ、待ってくださいよ。鞄お持ちします~」


「……ちゃんと手を洗ったでしょうね」


「皮が剥けるくらい擦って洗いました!」


「……ならいいわ、はい」


お嬢様が鞄を突き出す。それをゆっくりそっと大事に受け取り、ゆっくり慎重に抱える。


「何してるの?」


「麗しいお嬢様の大切なお鞄ですので」


クソみてーなお前のどーでもいい鞄だよな、ペッ!を丁寧な言葉に訳して口に出す。

するとお嬢様の険しい表情が緩くなった。少し悦に浸った満足げな顔。


「そ、そう。やっと火村にも使用人としての自覚が出てきたようね」


「はい。雨音様のお鞄、私めが暖めてさせていただきます」


「秀吉かよ」


「鞄の中のプリントから弁当箱まで全てほんのり暖かくしてやるぜ」


「いいから普通に持ちなさいっ」


怒られたのでいつも通り片手で持つ。

くっ、トークが一通り終わって帰宅する雰囲気になっている。もっと時間を稼がなくては。


「行くわよ」


「せっかくなのでムーンウォークで行きましょう」


「せっかくって何よ、今日マイケルの記念日か何か?」


俺の提案を無視してお嬢様はスタスタと歩いていく。

あ、まだ行くな。


「お待ちくださいー」


お嬢様に追いつく。ムーンウォークで。そして追い抜く。


「上手っ!? なんでムーンウォーク上手いのよ!?」


「田舎にいる時すげー暇だったんで練習してました」


お嬢様の行く先を阻むようにして立ってムーンウォークする。

地味にこれマスターしたわ。見ろやニート生活の賜物、滑らかだろぉ。


「……邪魔」


「ぐへえ」


押し倒されてしまった。なんて奴だ。

廊下に倒れた俺の横を通っていく。あ、パンツ見えそうで見えない。惜しい。


慌てて立ち上がってお嬢様の後を追う。

けど、これだけ時間を稼げば大丈夫だろう。もう靴箱に投函して物陰に隠れるまで完了しているはず。

よし、後はお嬢様が靴箱を開けてくれたら……


「おい! 廊下を走るとはどういうことだ!」


階段手前、教師に怒られている生徒がいた。

芋助である。


……ぬん!?


「す、すいませぇん」


涙声で謝っている芋助。

いやいや……何してんの!?

教師に捕まってるよこいつ! 俺の時間稼ぎは何だったんだよ!


「そういえばお前は昼休みに裏庭でうろついていた奴だな。まさか外に出たんじゃないだろうな?」


「ち、違います野グソしたくて茂みを探していただけです」


おいクソ虫ぃぃ! 野グソ虫、テメこの野郎。

人がせっかくムーンウォークまで披露して稼いだ時間を無駄にしやがってぇ!


と、芋助と目が合う。始まるアイコンタクト、行き交うメッセージ。


……こうなっては仕方ない。後は俺に任せろ。

鞄二つを片手で持ち、もう片方の手をフリーにする。


「学校で野グソとは何のつもりだ!」


「ひえぇ~すいません。で、でも脱糞寸前でして……」


教師に責められている芋助の横を通り抜ける時。僅かな一瞬、刹那、コンマの世界。

芋助の手からラブレターを受け取る。一秒にも満たないすれ違う時、俺と芋助による連携プレー。翼君と岬君を彷彿とさせる華麗なパスだった。

俺とお嬢様はそのまま階段を下りていき、芋助は説教されている。だが確かに受け取った。お前の思い、俺が届けてやる。


「あ、そういえばお嬢様。さっきこんなものを預かりました」


昇降口に来たところでお嬢様にラブレターを差し出す。

お嬢様の顔は……「え、え?」となっていた。そりゃそうだな。ラブレターと言ってもアルミホイルだもん。


「何、それ……」


「知らない男子から頼まれました。お嬢様に渡してほしいと。恐らく恋文ですね」


「いらない。捨てて」


やっぱ駄目か。

だが折れないぞ。中の手紙を見てくれ、反応見たいから。


「お嬢様は今朝もラブレターを破り捨てていましたがそれはあんまりですよ。送り主の気持ちもあるのだから、せめて手紙だけでも読んであげてください」


絶対破るなよ、と念を押してアルミホイルを渡す。

雨音お嬢様はとても嫌そうな顔をしている。気持ちは分かる。アルミホイルだもの。

ジロジロとアルミホイルを睨んでいたお嬢様だが、ようやく封を開けてくれた。

手紙を取り出し、広げ、文章に目を落とす。


さあ、どんな反応をする!?


「……」


最初からクライマックス!

お嬢様の顔はより一層さらに激しく深く険しい表情になっていくぅ!


読み進めるごとに顔は般若のようにシワが刻まれていき、最後には手紙を潰した。


「何よこれ!? キモイ!」


ふぅ~! キモイ頂きましたぁ! あざす、しゃすしゃす!

激怒したお嬢様はアルミホイルをくしゃくしゃに丸めて床へ叩き投げる。


「ほとんど歌詞のパクリだし語尾が意味分かんない! 最後とか何よこれ最低っ! 全文通してまともなこと何一つとして言ってねーよ!」


なんとまぁ激しいキレのあるツッコミですね。これはかなりキレている、ツッコミもお嬢様の機嫌も。


「これを送ったのは誰!?」


「さぁ、俺も知らない奴でしたから名前もクラスも学年すら分かりません」


土方芋助、お前と同じクラスで同じ学年だよぶははは。


「があああぁぁムカつくぅ!」


昇降口、雨音お嬢様の怒りに満ち満ちた怒号が響き渡った。

僕は、とても、満足ですっ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ