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第25話 五日目・お芋はお馬鹿

休み時間、お嬢様は机に突っ伏している。寝たフリっすね分かります。

クラスメイト達が駄弁る中、一人何もせず時間を潰す。なんと悲しき生き物ボッチ。大きめのバスタオルをかけて世界から遮断させてあげたくなる。


「で、次はどうするって?」


「もう一度ラブレター作戦でいこうと思う!」


朝のショックから立ち直った芋助は元気に腕をグルグル回しながら答える。

ラブレターって、今朝の惨劇を忘れたのかよ。


「また破り捨てられてポイだろ」


「あれは紙のチョイスが悪かったんだよ。もっと色に拘って可愛らしいシールを貼れば読んでもらえたはず」


こいつなりに改善点を挙げたみたいだが、俺からしたら全くの無意味だと思う。

雨音お嬢様は問答無用で破り捨てた。ラブレター=破る、と脳が処理してるんだろ。シュレッダーと同じ思考回路だよあいつ。天水シュレッダー雨音だよ。プロレスラーみたいな名前になったね。獣神サンダー的な。


閑話休題。たとえ芋助が最高級材質の紙を使おうが手紙に金粉をまぶそうが、結果は全て同じだろう。絶対に無理だ。


「てことでハル、今から天水さんに好きな色を聞いてこい」


「なんで俺が」


「頼むから」


「テメーで聞いてこいカス」


「お願いしますハル様!」


「俺様の美技に酔いな」


「それは跡部様!」


「そうだった、な~んつって」


「「あっはっは!」」


芋助と高笑いしてハイタッチを交わす。


「じゃ、おやすみー」


「って、待てーい! 寝るなー!」


んだようるせーよ。

芋助は変な顔をしていた。タコの口をして眉間にはシワが寄りまくり。中々にキモイ。それはどんな感情を表しているんだ?


「いやいや何さ今のやり取り。全然面白くなかったよね!?」


「そうだなおやすみ」


「寝るなハル!」


しつけーなクソが。茹でてポテトサラダにするぞ。

体を起こして芋助と向き合う。一応話を聞いてやるか。


「やっぱ第一印象を良くすべきなんだよ。手紙一枚でも真心を込めないと」


「そうだな」


「そこをクリアしないと手紙を開けてすらもらえない、最初で最大の難所だ」


「……」


ねむてー……クソつまらん。

英語の授業よりつまらない。ここまで心に響かないことがあるのか。


「勿論手紙の内容はしっかりしているぞ。シンプルで且つ愛のメッセージをだな」


「……」


「おい寝てるだろ。目が閉じてるぞ」


「違う。深い瞬きだ」


「とにかく! まずは手紙の色だ! なぁマジで頼むってハルしかいないんだよ」


芋助は頭を深々と下げて俺の机に頭突きする形になっている。クズの俺に頼る他ない時点でもう駄目だってことに気づけや。

はぁ、ものっっっっっそい嫌だけど仕方ない。芋の頭を叩き、席を立つ。


「お、おぉ!? さすがハル君!」


お嬢様の席に向かう。足取りは重たい。

こいつとは登下校と飯ん時以外は絡みたくないんだけどな。


「雨音お嬢様、起きてますか?」


「……何よ」


顔を上げて俺を睨むお嬢様。寝起きの悪いお嬢様にしては随分と早く起きたものだ。この時点で察し、やっぱり寝たフリだった。

ボッチのバリアを壊してごめんな、さっさと終わらせるから。


「お嬢様の好きな色は何色ですか?」


「は?」


いや分かるよ。突然そんなこと言われても意味不明だよな。

でも答えてくれ。俺も早く寝たいんだ。


「今後の生活で役に立つかと思いまして。教えていただけますか?」


「色、ねぇ。うーん……別にない」


えぇー……。


「今の気分でも良いので何か色を挙げてくださいよ」


「思いつかないもん」


「じゃあ今日の下着の色でいいっすよ」


「言うわけないでしょ馬鹿火村!」


機嫌を損ねてしまったのか、お嬢様のヒステリックな面が発動して俺をグーで殴ってきやがる。

やめろめろめろ、痛い以上にイラっとくるから。


「アンタは一日に一回はゲスなこと言うつもり!?」


同じようなことをメイドさんにも言われた。わざと言っているつもりはないんですけどね。自然と出ちゃうわけですよ。余計にタチが悪いか。

お嬢様は怒り睨んでくる。とてもじゃないがこれでは好きな色とか聞ける状態ではない。ここは引き下がろう。


「もういいです。引き続き寝たフリしてていいですよ」


「フリじゃないもん火村の馬鹿アホ死ねーっ」


はいはい一生そうやって喚いていろ。

お嬢様から逃げて芋助の待つ席へと戻る。目線の先にはワクワクと期待に満ちた顔で手招きしている芋助の姿。


「で、どうだった?」


聞けなかった、ではこいつが納得しない恐れがある。また聞いてこいとか言われかねない。それはすごーく嫌だ。

はぁ、だっり。テキトーに言っておくか。


「銀色が好きだってさ」


「銀色……なるほどシルバーだな」


うんうん、となぜか納得した様子で芋助は頷く。


「よし、昼休みに学校抜けてホームセンターで銀色の紙を買ってくるわ!」


芋助は高らかにそう宣言すると自分の席へと戻っていく。

その表情は「勝った」と物語っているように見えた。


「サンキューだハル。君のおかげでなんとかなりそうだぜ!」


「おー」


やっぱあいつ最高に馬鹿だな。


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