第22話 四日目・庭で草むしりとラップ
放課後になり、すぐさま帰宅した俺とお嬢様。
貴重な青春を棒に振っている。それどころかフルスイングだ。
まともな生徒は部活して汗かき充実した日々を送っているのに俺らは何をやっているのやら。いや何もやっていないのか。何もやっていないとか何をやっているんだ。哲学みたいになったね。
「まぁ全然問題ないけどな!」
「なんでアンタはたまに大声を出すのよ!」
お嬢様にキレられた。そらアレだよ十代ってのは精神が不安定なんだよ。いきなり叫ぶことだってあるさ。
それに今時は成人した女性がアニメのキャラを見て発狂しているんだ。オイィィィィ!とか叫んで架空のキャラの誕生日をキチガイな演出で祝っているんだぜ? 世の中俺以外にも終わってる奴らはたくさんいる。
「この世界って腐っているよな」
「アンタの脳みその方が腐ってるわよ」
「テメーもな」
罵り合いながら車を降りる俺とお嬢様。
玄関の前で待っていたのはメイドさん。この人はずっと屋敷の中にいるのだろうか。引きこもりだな羨ましい。
「お帰りなさいませ。雨音お嬢様、陽登君」
「ただいま沙耶」
「お勤めごくろーさまです」
挨拶を交わして家の中に入ろうとしたら、
「お嬢様は今から英会話のレッスンです。陽登君は庭で草むしりをお願いします」
オイィィィィ朝言ってたのマジだったのか。スーパーげんなりです。
ん、つーか英会話って。
「お嬢様、英会話やっているんですか?」
「……一応ね」
「あとはダンスもやっていますよ。以前はもっとたくさんやっていましたが」
「ふん、ある程度やったからいいのよ」
そう言って雨音お嬢様は勝手に家の中に入っていった。
あれでもお嬢様だからな。お稽古や習い事はやってきたのか。お金持ちの宿命だね。
「なんで他の習い事は辞めたんだろうな」
「雨音お嬢様も高校生になり、もっと自由に過ごしてほしいと旦那様方が仰ったからですよ」
俺の呟きにメイドさんが答えてくれた。リプどうもです。
「ピアノや水泳、茶道、他にも色々していました。英会話とダンスは社交界で必須なので今もやっているのですよ」
「へー、お嬢様ってのも大変なんですね」
社交界とかあるのか。あんなのフィクションだと庶民の俺は思っていたよ。まさか実在するとは。
豪華な会場でドレス着て英語喋りながら社交的に踊るお嬢様の姿を思い浮かべたら笑いがこみ上げてきた。何それウケるんですけどー。
「良かったら陽登君も受けてみますか?」
「英会話を? 冗談キツイっすね全力でお断りですわぁ」
「でしたら動きやすい服装でお庭に来てくださいねー」
……それはそれでめんどい。
「へー、つけ麺ですか。実は食べたことないっす」
「柚子つけ麺でね、魚介の濃いスープは絶品だよ。最後は雑炊にできるし」
「ヤベェ、美味そうですね」
庭師のおっさんと雑談しながら草むしりに勤しむ。
こんな広い庭をしっかりガーデニングしてる庭師はすごいですね。
あとこの辺りのラーメン屋にも詳しく、オススメの店を聞かせてもらった。
「娘と行きたいけど最近は反抗期でねぇ、喋ってくれないんだよ」
「中学生は多感な時期ですからね。無理して喋りかけず今はそっとしておくべきですよ」
「う~ん、そうなのかなぁ」
「やっぱアレすか。お父さんのと一緒に洗濯しないでとか実際あるんすか?」
「あれはね、かなりヘコむよ……」
「ぶはは、娘キツ過ぎ」
「笑い事じゃないよ~。小さい頃は可愛かったのになぁ」
「陽登君」
談笑しているとメイドさんがやって来た。
庭師さんはペコリと頭を下げて仕事に戻っていく。
「草むしりはどうですか?」
「かなりしんどかったけど大方終わりましたよ」
気づけば夕日が庭を紅色に照らしていた。
随分と長い時間作業していたのか。俺らしくねーな。ニート王には程遠い。
「お嬢様の英会話も終わるので夕食にしましょう」
「ういー」
疲れたー。軍手を外して腕で汗を拭う。うぐぁ、腰が痛い。
そして腹減ったわ。今日こそステーキでよろしくどうぞ。金持ちなんだから高級肉を使った料理出してくれよ。上品な肉汁がドロドロ溢れるやつとか。
「じゃお俺先に上がります。今度つけ麺食べに行きましょう」
庭師のおっさんも手を上げて返事をしてくれた。
つけ麺ってどんなやつかな。楽しみだわ。
「……陽登君は意外と友好的なんですね」
お屋敷の中に入るとメイドさんが話しかけてきた。
意外とは心外。別に世間話ぐらいはしますよ。
「意外とは心外、ボッチとは大違い、案外俺はナイスガイ~」
「低クオリティのラップはやめてくださいー」」
「ラップに高いも低いもナッシング、あるのはソウルだけー♪」
「うわー今までの使用人で一番ウザイですねー」
メイドさん、苦い顔して別の方向を見ている。まるで俺とは目を合わせたくないみたいな態度。
ですから俺なりのユーモアですって。そんな冷たいこと言わないでくださいYo~。




