表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/150

第2話 出会い

「陽登、起きなさい」


「んがっ……え、着いた?」


「アンタこの状況でよく爆睡出来るわね」


目が覚めた。ママに起こされるの久しぶりぶり〜。嬉しさのあまり羊水に帰りたいよママぁ。もっかい羊水に浸らせてよぉ。

俺は欠伸をし、車の窓から外を見る。


「ふぁ〜、って……え、何この豪邸」


漫画の世界かな? ……なんだこのデッカイ家は。 

唖然とする俺に対し、母さんは「車から出ろ」と告げ、つーか返事待たず俺を引きずり降ろした。寝起きに厳しいババアだ。


「ここが今日からアンタがお世話になるところよ」


「あ、すいません洗顔ネット忘れたので取りに帰りたいです」


「お前はただ逃げたいだろうが。忘れたのは洗顔ネットじゃなくて向上心だ。ここで思い出してこい」


忘れ物したと言っただけでこの言われよう。

いやいやクソババア、洗顔ネットの重要さ知らねーの? アレがあるとないでは泡の立ち方違うんだよ。思春期は肌に敏感なんだぞ。はだおもいなんだぞ。


「さ、行くわよ」


「うへぇ」


抵抗虚しく母さんに引きずられて豪邸の門をくぐる。やめろぉ、今この場で嘔吐するぞオラァ。


それにしても、マジで馬鹿デカイ建物だな。ゼルダシリーズで登場する何かしらの神殿と言われてもおかしくないぞ。

まず重厚な鉄の門があり、壁は高くそびえて見上げてしまう。あ、庭がある、アホみたいに広い庭がある、おまけに噴水まであった。色々ありすぎて逆に気持ち悪いわ。


「話は通してあるわ。行きましょう」


「行きましょ、じゃねーよ。縄外せや」


俺まだ縛られているんだけど。すげー嫌なんだけど?

しかし母さんは聞く耳持たず歩く。俺は引きずられる。

あのさぁ、俺ここまで引きずられてばかりだね。もっとカッコイイシーンとかないのかな。


まぁ逃げられそうにないので大人しく引きずられる。

ママはクソ大きな扉を開けて、なんかメイドさんと話して中へと入っていく。俺は引きずられたまま。


「今メイドさんいたね~」


「呑気か」


結構綺麗な人だったよ。ペロペロしたい。

とある部屋に入り、ソファーに座らされる。

ママは「もうすぐ来るから」と告げた。来るって、何が?


と、その時、扉が開かれた。

入ってきたのは、一人の少女。

見た、目に飛び込んできた、目を奪われた、言葉が出ない。その美しさに。


「こちらは天水雨音(てんすいあまね)さん。アンタが仕える主人よ」


色白の美しさが際立つ綺麗な肌は透き通るような透明感がある。腰まで伸びた黒髪が細くサラサラと宙を流れる。滑らかで艶やか。

パッチリとした瞳は奥の中で自然とキラキラと輝く。そりゃもう、キラキラだ。

瞳も髪も肌もただただ息呑むばかり。そして顔、美少女。

パッと目に飛び込んで一目見ただけで分かる確信が持てる断言出来る、これは可愛いと。

超がつく程の美少女が、そこにいた。


と、美少女が口を開く。


「何この冴えない目つきの男は」


おい何だこのクソ女。初対面の人に対していきなり喧嘩腰とは覚悟出来ているんだろうな。声も綺麗だね、とか思う前に苛立ったぞ。

女は訝しげに俺を睨んでくる。あ? やんのかコラ。


「あなたみたいな冴えない男嫌いなのよ」


「テメーの好き嫌いなんて聞いてねぇよ、まずは挨拶しろや馬鹿」


次の瞬間、母さんからガチの拳骨が振り落とされた。脳天を潰す一撃に俺の意識は軽く飛びそうになった。


「ぐ、ぐおおぉぉっ!?」


「……何よこの失礼な奴は」


「ごめんなさい。私の息子、馬鹿なの」


いってぇ、マジで痛い。

あまりの痛みに視界の中を星がグルグル回っている。眼球キラリ流れ星だよ。自分で何言ってるのか意味分からん。


「もしかして……今日から私の使用人になるのって」


「ええ。こいつよ。ほら自己紹介しなさい」


襟首掴まれて上体を起こされる。

あらら母さん、腕力すごいですね。ゴリラの血でも流れてます? いや待てそれだと俺にもゴリラの血が流れていることになる。それは嫌だ。

間を取ってスーパーサイヤ人ってことにしておこう。それなら許せる。オッス、オラニート!


「ボーッとするな早く言えよ」


母さんが拳を振り上げる。

分かった分かった、言いますって。


「どーも火村陽登(ひむらはると)です。趣味はなし特技もなし、長所も特にないです」


「就活ならアンタどこにも受からないわよ」


いいんですよ母さん、だって俺ニート希望だから。


「今日からこいつが雨音さんの世話をします。何でも命令してください」


「ただし従うわけではないぞ」


「勝手に付け足すな。全部に従え」


はあ? なんで俺がこんな生意気そうな女の命令を聞かなくてはいけないのだ。ぜってー嫌だね。

そもそも俺がこのクソ女の世話係? この恵まれた容姿からは想像出来ないクソみてーな性格してそうな女の? 冗談キツイよママぁ。


「嫌よ、私こいつ嫌い」


どうやらあちらも俺のことを嫌っているみたいで。

ふんっ、と顔を背けて不機嫌そうにしている。その仕草全く可愛くねーぞバァカ。


「それにさっきから私のこといやらしい目で見てくるし」


「あ゛ぁん? 自惚れも大概にしてろよ野グソ女。誰がテメーみたいな心の汚れた女をいやらしい目で見るかよ」


「なっ……!」


一瞬驚いた顔をしたがすぐにギロッと睨んできやがった。

確かに世間一般的に見ればこいつは可愛い部類に入るんだろうな。俺も最初は見惚れたよ。

けどそんなの関係ないね、性格ブスの時点で終わってるわ。心の整形して出直せ。


「ごめんなさいね、うちの息子ったら口が悪くて」


「あ、それ俺の長所だわ。母さんナイス」


「悪口は長所じゃねーよ短所だよ」


「短いはずの小指が長いみたいな?」


「あ、もう一回殴るわ」


だからドメスティックバイオレンスやめーや。たんこぶの上にたんこぶができて漫画みてーな状態になっているぞ。

頭は痛いどころか麻痺してきたよ。一年間ニート生活で熟成させた脳みそはデリケートなんだぞ。初代ファミコン並だぞ。


「こんのクソババア、殴っても俺の小指は短くならねーぞ」


「ごめんね雨音さん、こいつが働くのは決まったことなの。我慢してね」


俺のそこそこ面白いコメント無視かよ。そして俺の意思も無視か。

あー駄目だ、なんかイライラしてきた。すいませんねぇ、ちょっと大きな声出します。息を吸い込み、構える。


「俺は絶っっっっ対働かないからな!」


「な、何よこいつ。私も嫌だからっ」


「おうおう上等だよ。何が使用人だ。テメーの世話どころかパンツすら洗いたくねーわ」


「こいつクビよ! サイテー!」


おっとぉ、ものの数分で解雇処分かー? 出会って数秒で合体みたいだな、ぶはははは!

俺は大口開けてゲラゲラと下品に笑い叫ぶ。すると母さんに首を絞められた。ぐえ、やめ、死ぬ。


「雨音さん落ち着いて。さあ、よろしくお願いしますを言ってくださいな」


母さんはクソ女に向けて優しく告げて、俺には首絞め。お前これ以上舐めた態度取ると本気で絞め落とすぞと告げている。

ほ、本当にやめて。マジで意識飛びそう。初代ファミコン粉々に砕けちゃうって。


母さんの腕が大きくしなって俺はソファーから床へ投げ飛ばされる。げほ、げほ、と呼吸がしんどい。

顔を上げれば、両腕を組んで不機嫌な顔したクソ女。


「ふん……私の使用人になれることを光栄に思いなさい」


「はあ? ふざけ」


「陽登」


「……これからよろしくお願いします」


後ろから聞こえた唸るような声に脅された。クソ、母さんが怖いよ。

分かったからもう殴らないで絞めないで。


……もう、働くことは回避しようがない。

俺の、夢の、ニート生活は終わりを告げた。

この馬鹿デカイお屋敷で、このクソ生意気な女の使用人として働く。

四月の終わり、微かに残った春風が吹いて夢をさらっていったような気がした。


「私のことはお嬢様と呼びなさい。ボロ雑巾のように働かせてやるわ」


やっぱこいつムカつくなぁ……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ