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第19話 三日目・お嬢様初めての喫茶店

「いっぱいあって悩むな~」


「……さいですか」


その後も色んなお店を見て回った。

キャピキャピと女子高生らしく物を手に取ってじっくり見比べて悩むお嬢様。

付き合わされている俺の気力は尽き果てる寸前だ。これ、しんど。


「うーん、保留ね。次のお店に行きましょう」


「え゛? まだ見るの?」


もう何軒見たと思ってやがる。

小学生への贈り物だぞ、さっさと決めろって。

げんなりする俺とは対照的に雨音お嬢様のテンションは高いまま。次のお店へと入っていく。


「ほら火村急いで」


あ゛ー、やだやだ。

二時間は歩き回った。おかげで足はパンパンだ。

足もだがそれ以上に精神はボロボロ、溜め息を吐く気すら起きない。

そこまでして得た成果は、


「キリンさんやっぱ可愛いっ」


最初に入った店で見つけたキリン柄のハンカチだった。

じゃあ今までの二時間は何だったんだよ!って話だ。ブチギレそうである。

お嬢様は包装されて袋を大切げに持ってホクホクの笑顔だ。随分と楽しそうにしちゃって。俺は死にそうだよ。


「あ、どうせならもう一つ何かお揃いで買おうかな」


「お嬢様ぁ!」


「ど、どうしたの?」


いやさすがにこれ以上は無理。マジで無理だ。ギャル風に言うとマヂ無理。ゴリラ風に言えばウホウホ。

俺は限界です倒れそうですせめて休憩ください。


「一階のカフェで休みましょう。長時間歩いてお疲れでしょ?」


「え、まだ全然余裕」


「休みましょう!」


無理矢理お嬢様の手を引っ張ってエスカレーターを降りていく。

誰か助けて! 俺はもう泣きそうだよ……。


一階のどこかテキトーにカフェっぽいお店に入る。

店員のお姉さんにピースして人数を告げ、奥の空いているテーブルへと座った。


「あ゛~、生ぎ返る~」


椅子に座れるって素晴らしい。やっと落ち着けた。

あぁん椅子は最高ぉ。今なら電気椅子に座れる気分。いや処刑はヤバイよね。

にしても腐ってもさすが女子高生、買い物に何時間かけていやがる。腐っているくせに。


「ふぅ、とりあえず休憩してからまだ見回るか考えようぜ。何にしようかな~」


「い、いいのかしら?」


あ、何が?

落ち着いた雰囲気の、オレンジ色の穏やかな照明に照らされた店内。シンプルで綺麗な白テーブルは好印象だ。

店内には俺ら以外にも若いカップルや老夫婦が何組かいる。その中でお嬢様はソワソワしてどことなく落ち着きがない。


「もうすぐ晩ご飯の時間でしょ? 勝手に間食したら沙耶に怒られるかも」


子供みてーな心配していたのか。

雨音お嬢様は不安げに俯いて袋をぎゅっと抱える。何その仕草、初見だったら惚れているんですけど。あざとい。あざ子だ。

だが残念、俺はアンタの性格ブスさ加減を知っているから惑わされない。

ったく、変なところで心配しやがって。そんなところだけお嬢様なのかよ。


「いいんだよ今時の高校生は寄り道ぐらいするさ。それに少しなら晩飯も大丈夫だっての」


メニュー表をお嬢様の前に差し出す。キョトンとする雨音お嬢様。理解力皆無か。うわっ…お嬢様のIQ、低すぎ…?

俺はメニュー表の飲み物のページを指でトントンと叩く。


「ゆっくりでいいから選べ。別に少しの間食でメイドさんは怒らねーし、もしもの時は俺が謝ってやるから」


しばらくお嬢様は考え込んでいた。

むむむ、と唸り声を出して目を閉じていたが少し経つと目を開けてメニュー表を凝視し始める。

そうだそうだ選べ。どうせ買い物して寄り道しているんだから今更カフェで飲み食いしても問題ないさ。


「うぅ、メニュー多い……ね、ねぇ」


「自分の飲むやつぐらい自分で決めろ」


「むぅ~……」


お嬢様は十分以上もメニュー表をガンつけていた。

こんなカフェに来たことないのかは知らんけど、ここまで長時間悩む人を初めて見たわ。どんだけ悩んでるの?


「決めたっ、アイスロイヤルミルクティーにするわっ」


「りょすー」


テーブルにある呼びボタンを押せばすぐに店員さんが来てくれた。

お嬢様ビックリしてる。ちょっと面白い。


「アイスロイヤルミルクティーとアイスコーヒーで。それとバナナキャラメルクリームパイにフレンチトーストのジェラート添えも」


「お飲み物のサイズはいかがなさいますか?」


「どっちもショートで」


かしこまりました、とお姉さんは丁寧にお辞儀してカウンターに戻っていく。

お嬢様はその様子をじぃーと観察して「ほほぉ」と小さく細い息を吐いている。上京したばかりの田舎者を見ている気分だな。


「火村やるわね。簡単にパパッと注文して」


「これくらい高校生なら誰でも出来ますよ。寧ろ俺は二時間もぶっ通しで買い物するお嬢様の気力に感心します」


「だ、だって楽しかったから」


楽しいから時間を忘れるってのはゲームする子供と一緒だ。おれも昔はゲームしまくったなぁ。

時オカはかなりやり込んだ。ノーダメ縛りとか挑戦したぜ。三つ目のボスで詰んでしまったけどな。


「買い物好きなくせしてここへ来たのが久しぶりってのはどういうことだよ」


お嬢様へ質問する。

まぁ答えは分かりきっているけど。


「……別に。一人で来るところじゃないでしょ」


予想通りの答えありがとさん。そりゃボッチのお嬢様にショッピングする友達なんていないよな。

かといって一人で散策する勇気もない。とても哀れですね、ぷぷっ。


「な、何よ馬鹿にして。アンタだって買い物に行く友達いないでしょ」


「人をボッチ扱いしないでください。単純に俺は外出したくないタイプなんですよ」


出来る限り外に出たくないので。家でダラダラするのが最強だと信じて疑わない。

部屋にこもってゲームしているだけで世界を救えるんだぜ? 幾度となくゲームの世界は救ってきたよ俺。MMOの世界に転生したらチート勇者としてハーレムを築ける気がする。

なので神様よろしくお願いします。タイトルは『ニートだけどチートでハーレムな俺が世界を救う為に妹のパンツを被ってオワタ』で。


「でもさっきは的確な意見を言ってくれたじゃない。見る目はあるのね」


「田舎で住んでいたらたまには外出したくなるんだよ。その時は自転車で一時間半かけて漫画喫茶に行っていた。漫画以外にもファッション雑誌読んでいたからな」


「……火村って無駄なところでエネルギッシュなのね」


違うよ。地方大学の同性率に然り、田舎は娯楽が少ないんだ。祖父母や猫と戯れているだけじゃ飽きるものさ。

満喫は遠かったけど頑張って通ったなぁ。あの時の気分は小野田坂道君だったよ。ちょいエロイ少年漫画を読みたくてニヤニヤしながら自転車乗ってた。


「お待たせしました」


するとここで注文の品がやってきた。テーブルに置かれる飲み物二つと食べ物二つ。

それらを見てお嬢様は感嘆の声を上げて驚いている。黒船来航かよ。


「いただきまーす」


アイスティーを飲み、一息つく。あぁ喉が潤うぜ。やっぱアイス・アリアリだよな。ブラックは飲める気がしない。

熱々のフレンチトーストの上には冷えたジェラート、こりゃ美味そうだな。脳内スイーツ女子なら喜んで写真を投稿するだろう。自慢大会のあれね。


「ん、ほら早く飲めよ」


「う、うん」


恐る恐るアイスロイヤルミルクティーを手に取り、恐る恐るストローを口元に運んで、恐る恐る飲み始めた。

不安げな表情、けど次の瞬間には目を見開いて満面の笑みになった。


「わっ、これ美味しいっ」


すげー楽しげにリアクションしている。

こういったカフェに来たことなかったお嬢様は嬉々と、そして驚嘆の表情を隠せないでいた。


「へぇ~今はこんなのがあるのね」


「そうですよー。フレンチトースト食べるか?」


「ふえ!?」


「心配しなくても食べかけじゃないぞ。ちゃんとナイフで切ったから」


昼の弁当でお嬢様が潔癖症なのは分かりましたよ。

ナイフで半分に切って片方は俺が口に放り込む。うん普通に美味い。

で、残りはお皿ごとお嬢様の方へ差し出す。


「……いいの?」


「いいも何も二人で食べるつもりで注文したんで」


これまた恐る恐るナイフとフォークを持つお嬢様。

俺は下品に一口で食ったが、お嬢様はお嬢様らしく上品に一口サイズに切る。少しぎこちないのは初めて食べる物にビビってるからだろう。


それでも、気品良く正しい持ち方でナイフとフォークを扱う。緩やかで華麗とすら思える雨音お嬢様の食べる姿に美しさを垣間見た。

純粋な、混じり気のない、ただ美しいと思った。


「何これ!? 熱いのに冷たい!」


馬鹿の感想か。

それでも美味しかったのか、お嬢様は嬉しそうに頬を緩ませてもぐもぐしてる。

……こーゆー姿は可愛いのにな。

だが俺は騙されないぞ。こいつ性格悪い。内面は良いけどブスの女の子にその容姿譲ってやれよ。『超絶美人だったのにブサイクと体入れ替わって人生オワタ』だな。


「火村これ美味しい!」


「はいはい良かったですね。こっちのクリームパイも食べますか?」


「食べるー」


そこからはお嬢様と二人、のんびりとティータイムを過ごした。

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