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番外編 ヘラヘラ太陽と木の下で

入学して一ヶ月、その人と出会った。

クズで最低で、人の嫌がることを平然とやってのけて、突然大きな声で叫んで暴れたりする、すごい人だった。一ヶ月遅れで入学したのも一年間ニートをしていたからで……うん、すごい人だ。

でも本当は良い人なんです。誰に対しても遠慮せず本心で接してくれて、真剣じゃなくてもちゃんと向き合ってくれて……たまに見せてくれる優しさが、ちょっとズルイ。


私には関係ない。きっと私なんかじゃ相手にしてもらえない。そんな人だと思っていた。

でもその人は私のことを見てくれた。緊張して人と上手に話せない私に対しても容赦なく罵倒してきて最後まで付き合ってくれた。ニヤニヤと笑いかけてくれた。

その人に救われた。ヘラヘラとしながらも眩しい笑顔を見せてくれた。私にとって初めての人。家族以外で出会えた、特別な人。


クズで最低で言葉使いが悪いけど、でも私にとって……素敵でカッコ良くて優しくて……だから私は、この感情を持ってしまったのだろう。


私は、火村君のことが……











「陽登! 次の授業、移動教室って違うじゃない!」


休み時間が終わり次の授業が始まる三分前、怒鳴り声と共に雨音お嬢様が2年A組の教室に戻ってきた。あらら、お怒りモードですね。顔が赤黒いですよ?


「私に嘘を言ったのね! 最低! 死ね!」


「死ねとか簡単に言っちゃ駄目ですよお嬢様。今時の少年少女はホントすぐに自殺しまっせ」


「自殺じゃなくて私がこの手で殺してやろうかあぁん?」


あらやだ口調が俺そっくり。お金持ちのセレブお嬢様が使って良い言葉ではございませんことよ。

先程、俺はお嬢様に「次の世界史、三年の教室でやるらしいですよ」とナチュラルに嘘をついた。特に意味はない。ただの嫌がらせだ。

三年の教室に二年生が行く、周りの三年生はポカン状態だっただろう。あー、愉快痛快ダイアモンド✡ユカイ。


「ちなみに移動教室ってのは文理別の授業の際に教室を変更することを言うぞ。地域によっては修学旅行のことを指す場合もあるらしい。みんなの地域はどうかなっ?」


「誰に話しているのよこっち向け!」


「芋助ガード!」


「急に召喚しないでぐへぇ!?」


お嬢様が殴りかかってきたので即座に隣の席の芋助を盾にして防ぐ。芋助の顔がぐしゃりとへこんだ。ジャイアンに殴られたのび太みたい。分からない人は『ジャイアン のび太 殴る』で画像検索しよう。


「なんで俺を盾にしたの? 俺はビッグ・シールド・ガードナーなの!?」


「テメーに大層な守備力はねーだろボケ。あと気安く俺に話しかけるな、俺は教科書の偉人に落書きするので忙しい」


「その程度で忙しいとのたまうなよ!? ね、ねぇ天水しゃん」


「ウザイ。失せろ」


「二年目でも俺の評価が変わらない!?」


お前が変わってねーのはお嬢様と話す時に赤ちゃん言葉になることだよ。いい加減慣れろよ、芋助もお嬢様も。

雨音お嬢様は芋助を殴っても怒りが収まらず、俺を睨んで再度拳を握りしめる。やだなぁ、殴られたくないなぁ。俺が悪いのだけど殴られたくない。

どうやって逃れようかクズ思考を巡らせていると、教室の前の扉から担任が入ってきた。ようババア、ナイスタイミング。去年はババア直前だったが一年経ったのであだ名をリニューアル、ババアと呼ぶことにした。ド直球。


「ほら席に戻れよ」


「ふんっ、放課後覚えてなさい」


ここで許すことはなく後で制裁を加える気満々のお嬢様は自分の席へ戻り、


「芋助も戻れ。あとこれ、教科書返すわ」


「俺の教科書に落書きしていたの!?」


中世の偉人らに鼻毛を書き加えた教科書を押しつけられた芋助も自分の席へ戻った。

俺の隣は芋助、斜め後ろは雨音お嬢様、ちなみに前の席は東大田原君。うんうん、いつメンに囲まれて俺は幸せだよ。イジる奴が多いのは楽しい。


ただ、一つだけ悲しいことがある。

二年生になって、クラス替えがあって……俺のオアシスが、木下さんが……違うクラスになった……。


「クソ……クソがあああああぁ!」


「火村君、黙ろうか」


「テメーが黙れやババア」


「はーい周りの人達は非難してね」


担任が凄まじい勢いで俺の顎を蹴り上げる中、脳裏に浮かぶ木下さんの顔。

あの子だけが俺の癒しだったのに……はぁ。






ババアの授業が終わって本日の授業も終了。今日もクソみてーな座学の連続でしたとさ。

ババアのクソ長いホームルームを聞き流しつつ教科書と筆記用具は机の中に置き去り、いつも通り軽い鞄を片手に忍者の如く教室を飛び出た。後ろから追ってくるのは当然、雨音お嬢様。


「待ちなさいよ馬鹿陽登!」


待てと言われて待つ奴がいるかバーカ。二次元三次元問わずこの世の理だろうが。

ひたすら逃げ続けるがお嬢様もひたすら追い続けてくる。あー、面倒くさい。

このまま逃げ果せても屋敷でドSメイドが加わって余計に制裁を受けてしまう。でも今は逃げたい。嫌なことは後回し。クズってそういうものなんです。


「あ、お嬢様、おっぱい揺れまくってますよ。ほらたぷんたぷんって」


「っ!? うるさい!」


実際お嬢様の胸は揺れていた。走ると揺れる、これも世界の常識。

怒りに任せて走っていたお嬢様にも恥ずかしさはあるらしくスピードが緩まった。勝機、ここで一気に振り切ってやる。

曲がり角を抜けて階段を一気に下りる。校舎二階の三年生の教室とは反対の道を進み、とある教室の中へ駆け込んだ。


「はあ、はあ……あ、どうも皆さんういっす」


教室の中にはエプロンを着た女子生徒の面々。今から活動を始めるであろう、調理部の皆さんだ。君らのホームルームは早く終わったんだね。ウチの担任は話が長いんだよ。死ねババア。


「あ……ひ、火村君……」


調理部の面々、その中で俺がよく知っている人がいた。俺が、クズで他人に関心がないこの俺がよく知っていると言うくらいに仲が良い奴だ。

一年の頃はセミロングだった髪は伸びてお嬢様にも負けないサラサラのロングヘアー。白桃を思わせる少し紅潮した頬、パッチリとした瞳はオロオロと左右に揺れる。そして顔、マジ小さくてマジ美少女。

この子の名前は木下ゆず。小動物系最強の超癒し系女子だ。


「はあ、はあ……」


「走ってきたの?」


「はぁはぁはぁはぁ……!」


「ひっ、火村君?」


いやこれは息切れではなく興奮しているからですよ。やっぱ木下さん可愛いわ。セミロングのボブヘアーも良かったけど今のロングも素敵だね。可愛さを兼ね備えつつ女性らしい美しさと色気も出てきた。何それ無敵?

興奮して鼻息が荒くなる俺の後ろ、扉の向こうから聞こえるは雨音お嬢様の慟哭。まだ探しているのか。しつこい女は嫌われるぞ。つーか俺お前嫌い。オレ、オジョウサマ、キライ。


「悪いけどしばらく匿って」


「う、うん」


「サンキュー木下、フォーエバー木下」


雨音お嬢様もそのうち諦めて帰るはず。それまではこの調理部で時間を潰させてもらおう。遠慮を知らない男、火村陽登でござーます。


「あ、あのね火村君……」


「あ?」


「う……なんでもない、です」


木下さんは何か言いたげに口をごにょごにょと動かすも言葉として発することはなく俯いてしまった。

うーん、一年の時と比べて自分の意見を言うようになったが今でもたまに口つぐむことがある。この偉大なる俺が特訓に付き合ってやったのに何だ貴様は。犯すぞオラ。つーか犯したい。これ、一年の時から言ってるな俺。


「まあどうでもいいや。今日は何作るの?」


「き、今日は……クッキーです」


「お前らいつもクッキー作ってんなぁ」


「う、うぅ」


何落ち込んでいるんだよ。言い返してええんやで? ホントこの子は良い人過ぎる、いつか誰かに犯されるぞ。つーか俺が犯したい。

木下さんの消極的な態度には呆れてしまうね~。と、木下さんの両サイドから女子二人が飛び出してきた。袖を捲って腕を構えると、強烈なラリアットを放ってきごでぃば!?


「ちょっと火村君、ゆずちゃんが落ち込んじゃったでしょ!」


「もっと優しい言葉かけてあげてよっ」


ラリアットの後すぐに俺の首を絞めにかかる二人。

で、出たな、名も知らぬ調理部の女子二人。この二人は木下さんと仲が良いらしい。木下さんとは正反対のキャラでやけにエネルギッシュ、俺が調理部に来る度にこうしてイジめてきやがる。

テメーら女だから調子乗ってんじゃねーぞ。いつもは急襲されて息継ぐ暇もないが今回は負けねぇ。まずは腕を振りほどいて、


「ほら火村君クッキーだよ食べよう」


「ゆずちゃんが作ったのほら食べよう」


「んがぼぼぼっ」


腕を振りほどくことも、何か言うことも出来ずに口の中へクッキーが押し込まれた。いやお前らマジですごいね!? お世辞や冗談抜きでこの俺を圧倒する奴は滅多にいないぞ。

今回も名も知らない女子二名に完敗してしまった俺は大人しく口をモグモグさせる。あ、美味い。


「ど、どうかな?」


木下さんはさらに目を左右に泳がせて指をモジモジとさせる。

なーんすかその男心くすぐるムーブは。これを天然でやっているからすごい。大抵の男は今のでイチコロだろうよ。


「もぐもぐ……ん、まあ普通だな」


感想述べた途端、左右の女子二人が再びラリアット。同じタイミングで放ってきやがった。絶牛雷犂熱刀かよ。


「火村く~ん、いい加減にしようね?」


「どうして素直に褒めないの?」


「俺がそーゆーキャラって知っているだろ。滅多に褒めないんだよボケ共ぉ」


あぁん?と女子二人を睨んですぐに移動を開始。

この二人の近くにいるとマズイ。どこかへ避難しなくちゃ。あれ? お嬢様から避難する為にここへ来たのにまた避難するってどゆこと。一難去ってまた一難?


……つーか、すげー美味しいって褒めているよ、二人きりの時ならな。

ただ、調理部のメンバーがいる前で言うのが恥ずかしいだけだ。ひねくれキャラなめんな。そうやすやすとデレてたまるかってんだ。

っと、そうだ避難するんだった。

他のメンバーは俺のクズさにビビッて距離を開けているし、他に隠れる場所は……


「ひぅ!? ひ、火みゅら君?」


「木下さんガード!」


絶好の隠れ場所を見つけた。それは木下さんの背後であーる。

快活な女子二人から姿を隠すように木下さんの後ろに立つ。肩に手を置いて少し密着するポジションで迎え撃つことにした。

ふふっ、これなら絶牛雷犂熱刀も防ぐことが出来る。どうだざまーみろバーカアーホお前らの生理再来週~。


「……おお」


「うーむ、GOOD」


……ん? 予想していた反応じゃない。なんであの二人は満足げに微笑んでいるんだ。それだけじゃない、他の調理部の面々も拍手したりキャーキャー騒いでいる。

なぜだ? 俺が何かした、か……って、


「あ、あうぅぅ……」


俺の前、木下さんがフラフラ揺れている。あれ、なんか触れている肩からすげー熱が……というか頭から湯気らしきものが……?


「く、首に息が……ふにゃぁあぁ……」


「どうした木下さん!?」


「陽登の声がした! ここね!」


「ぎゃあああ今来るんじゃねぇクソお嬢様ぁ」











土曜日。学校はお休み。とても良い響きだ。

そういや近年では土曜授業を再開しようとクソな意見が出ているらしいな。なんだそのダークドレアム復活並みの所業。土曜の朝は三度寝がセオリーだろうが。

いつもなら起きて寝て起きて寝るの三度寝をかますところだが今日は用事がある。


「こ、こんにちは」


「よう。時間通りだな」


「火村君って待ち合わせ時間はしっかり守るんだね」


おほほ。まるで俺が社会のルールは遵守していないみたいな言い方、嫌いじゃないよ。


「まっ、クソ芋助やクソ日清やクソ金堂先輩、クソお嬢様との待ち合わせならウチナータイムよろしく遅刻するけどな」


「く、クソって何回言うの?」


「四回」


「回数を問うたわけじゃないよっ」


はいナイスツッコミ~。ご褒美に俺の棒を突っ込んであげ、おっと下ネタだったね失敬。

まあ、あなたとの待ち合わせには遅れないよう気をつけているよ。それに今回は俺が呼んだわけだし。

今から木下さんと遊ぶ。というのも、この前調理部で木下さんに迷惑をかけたからだ。俺が背後に立つと木下さんはショートしてしまった。調理部の方々はヒューヒューと囃し立てて雨音お嬢様はキレて、まあ色々とあって木下さんに詫びを入れようと思った次第。


「この前は悪かったな。今日は俺がエスコートしてやる」


「あ、ありがとう」


「……で、準備はしてきたよな」


「う、うん。……み、みみみみじゅ着だよね」


言えていなかったがそのとぉーりだ。

今から行くのはプール。……そう、水着だ。み、ず、ぎ、だ。

ついにこの日が来た。ついに今日、木下さんの水着姿を拝むことが出来る! やっっっっっっったぜ! おうおう待たせたなぁ諸君、俺はここまで辿りついたぞ。

エスコートしてやる、なんてのは建前。自分が行きたい場所を選んだに過ぎない。俺のゲスさたるや天晴でござるな。あぁ、楽しみ。ぐへへ。ぐへへへ。ぐへへへへぇ。


「? 火村君?」


「なんでもないよ。さ、行こうぜ。キラッ」


おっと下劣な思考が勝手に再生されていた。気を引き締めて優しいスマイルを浮かべる。キラッと自分で言っちゃったよ。キラッ。

んじゃま楽しい一日を過ごしましょう。木下さんと並んで屋内プールへと入っていく! ぐえっへへへへ~。




都内で最大級を誇る屋内プール、なんちゃらアドベンチャーなんちゃらって名前だ。正直名前とかどうでもいい。

常に平行波が押し寄せる大型プールを始めとする様々な種類のプールがあり、スリル満点のウォータースライダーや滝の中を歩けるトンネル等、子供から大人まで楽しめるんだってさ。うんどうでもいい。


当たり前だろうが。プールを楽しむ、その前にビッグイベントがあるんだよ。こちとらそれが一番の楽しみなんじゃい。

海パンを穿いて上に薄いパーカーを羽織っただけのラフなスタイルで俺は待つ。ひたすら待つ。まだか、まだなのか、もう我慢出来ないよ僕ちんと僕ちんこ。


「お、お待たせ……」


木下さんの声。脳に届く前に筋肉が反応、首をゴギィ!と捻って見た先には……!!!!!


まずは最初に、木下さんの水着姿は最高だということを断言しておこう。

お花をたっぷりとあしらった華やかな花柄のバンドゥタイプのビキニは自然なボディラインを魅せてくれて可愛らしいデザインをしている。波打つようなフリル生地はシンプルながらもパッと目を引くカラーリング。

何より、水着のデザインよりも何よりも素晴らしいのは、そのたわわに実った双丘、つまりおっぱい。


「ま、マジか」と息呑んでしまう程に大きい。大きいだけじゃない、形が完璧だ。少し背の低い木下さんのスリムなウエストと華奢な体のバランス比を損なわずに、けれどボリュームたっぷりなお胸の谷間は深くエロく、生唾がドバドバ溢れて止まらない。

控えめなタイプの水着なのに、それを乗り越えて押しのけて圧倒的な存在感を魅せつけてくる。なんだそれ、最高じゃないか! おい! おっぱい! おっぱいだよ!


「そ、そんなに見ないでぇ……」


木下さんはぷしゅ~、と湯気を出して恥ずかしげに両手で胸元を覆う。

いやいや無茶な要求しないでもらえます? 見るに決まってんだろ。今日はそれを見に来たんだよ。つーかそれだけの為だよ。

ドキドキが止まらない俺は不自然ながらも笑みを浮かべて木下さんに近づくとデジカメを取り出す。この日の為に、メイドさんに土下座して口座から引き出した金で買った光学50倍ズームの最新デジタルカメラである。


「せっかくだし写真撮ろうぜ」


「え、えぇ!?」


「ほら撮るぞはいチーズ」


「あ、あうう」


顔を赤らめて両腕でその抜群なスタイルを隠してしまう木下さん。ちっ、その手どけろ。ふざけているのか貴様あぁん?


「はい気をつけして」


「うぅ~」


「気をつけしなさい!」


「で、でも」


「気をつけ!」


何度も気をつけ!を叫べば観念した木下さんがプルプル震えて腕を下げた。

たっぷん、と大きなおっぱいを、撮る。撮る、撮りまくる。全身を写るように撮ったり近づいて胸元を接写したり下からのアングルで下乳を撮影する。

おっほ、こりゃたまらんぜよ。撮れば撮るだけおかずが増えていく。下からのアングルがエロ過ぎる。


げへへ~。いやー、やっぱり良いモノをお持ちでしたな~。

勿論その最高な巨乳だけじゃない。触れば柔和でスベスベな白い肌も、スラッと艶めかしい足も、どれもこれもエロイ。やっぱ水着って最高だな。普段はおどおどしていて大人しい木下さんの水着姿だからこそ価値が跳ね上がるってもんだ。

さてお次はちょっと水着ズラしてみよ……ん?


「う、うぅ……もうやめてよぉ……っ」


撮影枚数が百を超えたあたり、木下さんの様子が変わった。赤いリンゴのように真っ赤な顔に伝わる涙。

羞恥が限界を迎えてしまった木下さんは泣いていた。それでも気をつけを守っており、それがかえって俺の良心にクリーンヒットして……


「うおお!? な、泣くなよ!」


「だ、だって……」


「あぁごめんごめんやり過ぎたね! マジすんません!」


即座にデジカメを仕舞い、パーカーを脱いで木下さんの肩にかける。

な、泣かれるとは。クズの俺でもさすがに反省した。恥ずかしいのに俺の言いつけ通り直立をやめずに泣く姿を見たら……。


「ひ、火村君」


「悪かったって。ほら泣き止んで」


「うん……」


ぐす、ぐす、と言いながらも涙は止まった木下さんに謝罪しまくる。まあ写真は消しませんけど!

……にしても、視線を感じる。俺に、というより隣の木下さんに。

撮影に夢中で気づかなかったが男共がこちらをチラチラ見ているのだ。お目当てはやはり、きょぬーか。木下さんは俺に撮影されているだけでなく周りからも見られて恥ずかしさのあまり泣いたのだろう。


不意に沸く、イラッとした感情。その感情に従って歯を剥く。


「おいおい見てんじゃねぇよカス共」


俺は辺りの男共に威嚇しながら木下さんの周りをぐるぐる回る。

貴様らみたいなモブ人間に木下さんの水着姿を拝ませるわけねーだろ。見ていいのは俺だけなんだよ。俺以外の奴には見せたくない。あら私ったら意外と独占欲強いのかしら?


「ちゃんとパーカーの前閉じろよ。何してんだよ肌見せんな」


「え、えぇ……?」


さっきまで写真撮っていたくせに、と言いたげな木下さんだったがパーカーのファスナーを上げてくれた。うんうんそれでいいよ。

……なんか俺、俺様キャラになってる? マジで独占欲強い? テンションがおかしくなっているのは確かだけどさ……うーん……。


「ひ、火村君、泳ご?」


「……ん、そうだな」


何気にプールへ来たのは中学の時以来だ。せっかくだし、満喫しますか。下心は心の底に閉じ込め、ニッコリと微笑んで波出るプールに飛び込んだ。






それからは存分にプールを楽しんだ。

大きな波に揺られながら泳いだり、何度もウォータースライダーを滑ったり、普通にエンジョイ。「そーら水かけちゃうぞ~」とか言っちゃいましたよ。普通か。


「腹減ったな。焼きそば食べようぜ」


「うんっ」


恥ずかしがっていた木下さんも慣れてきたのか、ぎこちなさは消えて微笑ましい微笑みを浮かべている。微笑ましい微笑みってなんだよ。まあいいや。

木下さんにはテーブル席に座ってもらい、俺は一人焼きそばを買いに行く。「おっさん焼きそば。早く用意しろこっちは客だぞ」と捲し立てると店員のおっさんは目を細めた。怒るなってばよ~。


そういや去年、木下さんと祭に行った時も焼きそば買っていたなぁ。あれからもう一年経ったのか。月日が流れるのは早い、なんて年寄りじみた台詞を吐きたくはないが実際そう思ってしまう。俺も歳かもね、てへっ。


「おまん、じゃなくお待たせ~」


焼きそばを持ってテーブル席へ戻る。

すると、木下さんの傍に知らない男が二人立っていた。一人は茶髪で一人はロン毛の、いかにも大学でウェイウェイしてます的な二人組で、あぁあれナンパだなと瞬時に理解した。

ちょっと目を離した隙にナンパされるとは相変わらずモテモテですね木下さん。去年の特訓を思い出すよ。やだ、俺ってば思い返してばかり。マジでおっさん。


「ねえ一人?」


「俺らと遊ばない~?」


ナンパ男二人は定番の口説き方で木下さんに話しかけている。ベタ過ぎて面白味がないね。AからCの三段階で評価をつけるならあいつらの評価はDだ。

さて、俺が颯爽と飛び出して「俺の女に手を出すな、キラッ」と助けても構わないが良い機会だ。木下さんが自分一人の力でナンパを退けられるか見届けてみよう。物陰に身を潜めて様子を伺う。


「あ、あの私……」


木下さんは辺りをキョロキョロして上手く喋れないでいた。俺を探しているのか? 残念、俺は隠れていまーす。

木下さんが強く拒否しないのをいいことに二人組はさらに接近するどころか剰え木下さんの肩に手を乗せてきた。……は?


「俺達って金持ってるしなんでも奢るよ~」


「連絡先教えて~」


少し離れた位置からでも分かる。男共がニヤニヤと下卑た笑みで木下さんの体を舐めまわすように見ていることに、木下さんの肩に触れた手はスルスルと胸の方へと向かっていることに。

あ゛? なんだあいつら。何勝手に触れているんだよ。木下さんが何も言わないからって調子乗ってんじゃねぇぞ。


苛立つ。ムカつく。再び沸き立つ感情に身を任せ、俺は木下さんの元へ駆け寄っ


「わ、私、彼氏がいるのでやめてください」


って、え。

木下さんはナンパ男の手を弾いて立ち上がる。パーカーを羽織り直してキッと睨んで、拒絶した。


「えー、ちょっとくらいいいじゃん」


「彼氏も許してくれるって」


「嫌です!」


強く拒絶している。はっきりと断っている。それでも怯まず再度迫ろうとしているナンパ男二人から木下さんを守るように俺は割って入った。


「プールでナンパとかベタ過ぎてキモイんだよお前ら。昨今のラノベでも薄ら寒い展開だぞ」


「はあ? 誰だお前」


「邪魔するなよ」


身長は然程変わらないが二対一、ナンパ野郎共は俺の睨みにも臆することなく強気な態度を取る。

ドラマなら俺がこいつらを拳で追い払うんだろうね。でも生憎、リアルでそんなことはありえません。でもでも拳を使うまでもなく撃退する方法はある。

木下さんにはグラマーな姿を見せてもらったから今度は俺が魅せてやるぜ、羞恥心ゼロな者に許された華麗な退治の仕方を。


「すいまっせん監視員のお兄さーん! 知らない男に絡まれて困っています助けてくださぁい!」


非暴力で且つスマートな撃退法、それは助けを呼ぶ。

え、なんだそれと思う人もいるだろうがこれがベストの解決法なのだ。大声を上げても平気な俺にピッタリ。現に監視員のお兄さん達がこちらへ向かってきている。


「た、躊躇いもなく助け呼びやがった!」


「おい逃げ……ひっ、す、すいません」


ナンパ二人組は取り押さえられると連行されていった。ふっ、雑魚め。

連れて行かれる情けない姿を光学50倍ズームで撮影した後、俺は振り向いて渾身のドヤ顔を浮かべる。


「大丈夫だったかい? 俺が来たからにはもう安心さっ」


ふふっ、完璧だったろ? 遅れて来て他人任せだったくせに何決め顔しているんだよ!と言われること間違いなしさ。

そう思っていた。けれど返ってきた反応はそれとは真逆。木下さんが俺の腕を掴むとぎゅうぅと力強く握りしめた。


「怖かったです……っ」


「……へ?」


「ひ、一人でなんとかしなくちゃって思ったけど上手く言えなくて……ひ、火村君がいなくて、不安で私、私……!」


緊張が解けた時、抑えていた感情が噴き出す時、人はどうなるのか。

心理学を専攻しているわけではないから分からない。ただ言えるのは、木下さんの瞳から涙がボロボロと零れていた。


「ちょ、な、泣くなよ!」


「だ、だって」


「いやこのやり取りさっきもやったからな!?」




またしても木下さんが泣いてしまったが時間の経過と共に落ち着きを取り戻してくれた。焼きそばを食べ終えて泳いで、今は帰り支度をしているところだ。

たくさん泳いで疲れたねー。え、泳いでいるシーンがない? 知らんし。


「さっきはた、助けてくれてありがとう」


「構わんよ。それに木下さんもナンパを断るの上手かったぞ。あとは俺みたいに大声で助けを呼べば完璧だ」


「大声は無理……」


「無理とか簡単に言うんじゃねー犯すぞ」


「や、やめてっ!」


「よーしその調子だ。あ、監視員さん違いますこの子とは友達ですから俺を連れて行こうとしないで」


危うく監視員のお兄さんに連行されそうだったよ。いやいや犯すってジョークですよ~、何言ってんすか~。俺と木下さんは友達どころか親友、付き合う手前なんですって~。

そういや木下さん、ナンパを追い払う時に彼氏って……。


「なあ。彼氏がいるって言ってたけどさ……」


「っ、あ、あれは、その、えっと……」


「あー悪い悪い、咄嗟に嘘をついただけだよな」


彼氏がいると言えば引き下がる奴もいるよね。有効な手だと思うよ。

木下さんが恒例の口パクパクを始めている。落ち着きなされ。たとえその場しのぎの嘘でも木下さんに彼氏と言ってもらえて嬉しいよ。割とマジで。


「まっ、俺が彼氏だったら嫌だよね~。だって俺はクズの中のク」




「私は、火村君がか、彼氏でも嫌じゃないです……」


「ズ、って……へ?」


予想外の返事に、今度は俺が口をパクパクさせる番だった。思わず目を丸くして見つめる先には胸元で指をモジモジさせる木下さん。俺と目が合って一気にかあぁ、と顔を火照らせる。

彼氏でも嫌じゃないと言った。確かにそう言った。それってつまり……?


『うっほ、マジか。じゃあ俺ら付き合おうぜ毎日全身触ってやるぜウホウホ!』

と言うはずだった。以前の俺ならそう返していた。

そのはずが、どうして、なぜ……なぜ俺はこんなにも…………照れているんだ。


「あ、その、い、今のは……あうぅ」


「お、おう……」


うおおぉいどうした俺ぇ。なんで照れているんだああぁぁ。モブキャラみてーなリアクションしてどうしたおい!

なんてことだ。クズの中のクズ、滅多なことでは心乱されない俺が動揺している、一丁前にドキドキしている。

だって、それって……嫌じゃないと言われて嬉しく思うってことで……っ。


木下さんは変わった。去年はおどおどして弱気な少女だったのに、今は自分の意見を言えるし笑顔が増えた。

あぁ、確かに変わった。そして、俺も変わったかもしれない。何気なく出会って特訓に付き合って珍しく仲良い関係になれたと言ってもただの友達だと思っていただけなのに、なのに。

水着姿を撮影していると周りの男共から見られた時、ナンパ野郎が木下さんの肩に触れた時、心がざわついた。イラッとした。


自分自身で驚いた。もしかして俺は……


「ぐおおおおっ!」


「ひ、火村君!?」


混乱する頭が一つの解に辿り着く。その瞬間、俺は絶叫し、鞄を振り回し、近くの電柱に向けて頭突きする。そりゃもう何度も何度も執拗に頭突く。


「ぜえ、ぜえ……!」


ふざけんな火村陽登おおおおぉ。お前は怠惰の道を進むことを許された選ばれし存在、他の奴らとは違う高尚でクズな人間なんだぞ。それなのに……普通の人間が思うような感情に満ちてんじゃねーよぉぉぉおおおぉ。

青春? 恋? はあぁん? そんなクソみたいなイベントを味わうキャラじゃないだろうが。


……そうだ、これは気のせいだ。気の迷いだ。だから落ち着け、落ち着いて……


「あの、火村君、大丈夫……?」


「おう気にすんな。ちょっと頭突きの練習がしたくなってな」


「血がドバドバ出ているよ!? それに鞄も……」


鞄? 何を言っ……足元、そこにあったのは無数の足跡のついた俺の鞄。グシャリと潰れており、てことは中に入れてある……


「あああああぁああカメラがあああああぁぁぁ!? 嘘だろおいいいいいいいいいい!」


新八君よろしく絶叫してしまう。

そ、そんな、俺の光学50倍ズームの高性能カメラが……がはっ。


「クソがああああああ! 神よ、いるなら今すぐ時を戻せ! 無理ならお前死ね! ……はい出来ないんだね神死ね!」


「そ、そんな無茶苦茶だよ……」


「せっかく百枚以上撮ったのが……っ!」


「親の仇みたいに地面叩かないでよぉ」


いや親の仇越えただろこれ。そもそも両親に思い入れねーし。

あぁ、なんてことだ。プリントアウトして天井に貼ってベッドに仰向けになった状態でティッシュをドローする、そんな最高のライフワークが待っていたはずが……!


「ひ、火村君立って。周りから不審げに見られて恥ずかしいよ」


「ファック」


「む、無表情で言う台詞じゃないよ! ほらもう帰ろう?」


「ファック死にたいファック」


「ファックをバンズみたいに挟まないでよっ」


一気にテンションが下がった。クソ平凡なカス一般人に分かりやすく例えるとしたら、旅行に行った帰り道に財布を失くした時ぐらいのショックの十倍と言えば伝わるだろう。木下さんのおっぱいを撮り収めたのに……本当に死にたい。

これは再来週まで引きずるだろうな。げんなりする俺を必死に立たせようとしてくれる木下さん。ごめん無理、俺しばらく動けそうにないわ。


「た、立ってよ~」


「そうだな、本当なら勃つはずだったんだけどな」


「? な、何言ってるの?」


「感情に振り回されて鞄を振り回した自分が憎い。死ねよ俺、その次に神は死ね」


「有神論の人達が怒っちゃうって。……そ、その、また来ればいいんだから」


……今、なんて?

顔を上げる。無表情のまま、俺は木下さんを見つめる。

木下さんはビクッと怯えていた(恐らく俺の真顔がキモかったんだろう)が、目を泳がすのをやめて、震える唇を開いた。


「ま、また来よう? その時に……しゃ、しゃしゃし、写真、撮っていいから……」


「……マジ?」


「う、うん」


それはつまり、もう一度木下さんの水着を拝めるし、また写真を撮れることだよな。しかも次回は木下さん本人が了承した。つまり、今回以上に過激な写真を撮ってもいいってこと? そういうことにしよう。

なら俺は、こんなところで項垂れている場合じゃない。立ち上がり、声高らかに喉震わし、涙を流す。


「ありがとう木下さん……! あなたが神か」


「違うよ?」


「次回はマイクロビキニでお願いします」


「そ、それは嫌っ」


とか拒否りながらも俺の言いつけ通り着てくるんだろ~? 木下さんのマイクロビキニとかたぶん俺昇天すると思う。何それ最高の死に方じゃね?


ともあれ、なんやかんやで木下さんとまた来る約束が出来た。やったね陽登、今度は光学100倍ズームのやつ買おうぜ。さーて、またメイドさんに土下座しますか。


「んじゃ帰ろうぜ。次回が楽しみだ」


「う、うんっ。私も、すっごく楽しみ……」


元気を取り戻した俺は木下さんの横に並ぶ。ニヤッと笑えば木下さんはおどおどしながらも微笑みを返す。うーん、この感じいいね。

楽しくヘラヘラと喋りながら帰路を歩き、そしてカメラのデータは壊れていないかなとやっぱり未練タラタラの俺であった。











「ったく、まーたこの行事か」


気持ちわりーイベントが今年もやってきた。俺の大嫌いな甘酸っぱくて青春臭い、学園祭がな。

去年と同じような個性のないアーチをくぐれば和気藹々と盛り上がる校内では着ぐるみや売り子が闊歩している。

また学園祭かよ。去年やっただろうが何回するんだよ馬鹿。ラピュタでも数年に一回しか放送しないのに学園祭は年に一回するのかよ馬鹿かよ死ねよ。


「おばけ屋敷やっていますよー! そこのお兄さん、入っていきませんかっ?」


「テメーらのクソチープな催しに付き合うわけねーだろ。天空の城作って出直してこいチンカス」


呼び込みをする男子の足元に唾を吐きかけてその場を去る。アンチ青春の俺にとってはこの日この場にいるだけで常時中指を立ててしまう。

ま、そうは言っても本当に帰りはしない。なぜなら、


「だ、駄目だよ火村君! ほら謝って」


今年こそはサボタージュするつもりだった俺の元に来たのは木下さん。一緒に学園祭を見て回ろうと誘われたのだ。

うーむ、木下さんに誘われちゃあ断る道理がありませんわな。ただし呼び込みの男子に唾吐いたことは謝らない。


「そんなことよりジュース飲もうぜ」


「自由気ままだね本当……」


去年の夏祭りでも怒られたのに俺は相変わらず他者への嫌がらせを継続中。そんな俺を見捨てることなく真摯に怒ってくれる存在はありがたい、のかな?


「そういや調理部の方は行かなくていいのか?」


「休憩もらったから大丈夫。と、というか休めって二人が……」


ごにょごにょと喋る木下さんを見つつ脳には調理部のヤンチャ女子二人の顔が思い浮かぶ。


「火村君はクラスの出し物に参加しないの?」


「しない。去年と同様、今年も準備は一切していない」


「ひ、酷い」


「クズだから当たり前だよなぁ?」


「……みんなから嫌われるよ? 私、火村君が嫌われるのは……」


そう言ってしょんぼり俯いてしまう木下さん。

それも去年の夏祭りと同じだね。なーんであなたが悲しそうな顔するんだよ。別に俺は平気だっての。みんなで協力しないと成功しないのよ!とヒステリックに叫ぶ実行委員の女子に対しても鼻で笑って即帰宅かましてやったわ。


「火村君本当は良い人なのに……」


「違うけどな。……ったく、あー、なんだ、木下さんがそう言ってくれるだけで十分だよ」


俺はポンポンと木下さんの頭を撫でてそっぽ向く。

いいか、絶対こっち見んなよ。見たらアレだからな、アレ……あー、アレしちゃうからな。アレってなんだよ意味不明乙。


「う、うん。私は絶対に火村君のこと嫌いにならない」


……恥ずかしい台詞言ってんじゃねぇよ。聞こえないフリして大袈裟に欠伸する俺はさらにそっぽ向いて……

んあ? なんか、知っている奴がいる。いや、というかあれは……


廊下を一人歩いているのは、母さんだった。母さんは俺の存在に気づくと手を鷹揚に振ってこちらへとやって来た。


「久しぶりね陽登。なんで顔赤いの?」


「うるせぇし……なんでいるんだよババア。仕事はどうした」


「休みよ。せっかくだからアンタの様子見に来たの。アンタは何時から出番? それとも劇じゃなくて模擬店?」


「知らん。俺は何もしな、い!?」


母さんの拳骨が俺の脳天を揺らす。いてぇだろババア何しやがるババア!


「はぁ、サボったのね。アンタ中学の頃は一応頑張っていたらしいのにどうしてよ」


「あん時は日清がうるさかったからだよ」


「あぁ綺羅々ちゃん! あの子には助けられてばかりだったわ。もう最高に良い子なのよね~。懐かしいわぁ、あの子もこの高校だったわね。後で会いに行かなくちゃ」


「勝手にどうぞババア。つーか喋り過ぎ、ババアうるさい。じゃなあババア」


「何回ババアって言うつもりだ」


「三回」


「回数は問うてねーんだよ」


そう言って拳骨がもう一発。テメェクソババア、お前の一撃結構キツイんだよ。これが原因でハゲたらどう責任取るつもりだ。俺は絶対にハゲたくない系男子なんだよおいコラボケ、つーかこっち向けオラァ。


「あら? 隣の子は?」


「は、初めまして。ひ、ひむ、じゃなくて、は、陽登君の友達の、き、木下です」


「何回噛みかけているんだよ。ババア相手に緊張する必要ねーぞ」


三発目が落とされた。オーケー、俺も自分の毛根は惜しい。今日ばかりはババアって呼ぶのやめてやるよ。だから脳天パンチは勘弁。

木下さんは慌てながらも一生懸命に挨拶をし、それ見た母さんは……一気に顔をパァと明るくさせた。


「陽登にお友達!? あらやだぁ、小学校以来の快挙じゃない。この子に友達だなんて信じられないわっ」


盛大に喜ぶ母さんを見て俺はしかめ面。へーへー、どうせはボッチですよーだ。

とにもかくにも母さんは嬉しそう。木下さんに勢いよく話しかけている。


「今後とも陽登をよろしくねっ。こいつったら最低で口が悪くて頭も悪いし目つきも微妙だし向上心ゼロで救いようがないカスだけど仲良くしてあげて」


「おい一体何個俺の短所述べた。精神的に殺すつもりか」


「別にアンタ平気でしょ」


「おう。寧ろ今のは俺の長所を列挙したなぁと感心したくらい」


「ほらね? クズだけど根はちょっとだけ良いところあるから木下さんも見捨てないであげて」


そこは根は良い奴でいいんじゃないですかねママ。根はちょっとだけ良いって、マジで良い部分が少ししかないみたいな感じだろうが。正解だけど。


「は、はいっ。私、火村君にはとてもお世話になっています」


「えー、嘘だー。変なことされたらすぐ通報していいからね」


おいババア息子を牢獄に放り込むつもりか。


「そ、そんなことしません! だって火村君は優しくてカッコ良くて……あ、あ、あうぅ」


木下さんの顔が真っ赤になる。出たよその「あうぅ」って鳴き声。それ俺のハートをキュンキュンさせるからやめてほしい。

と、母さんが俺を小突いてきた。んだよババア、社畜臭がうつるから触んな。


「陽登……この子、めっちゃ良い子じゃない」


「ああ、俺が退学しない唯一の理由だよ。……なんでニヤニヤしてんの?」


「陽登やるじゃん。母さん嬉しいわ」


なぜか木下さんが紅潮した辺りから母さんがニヤニヤと笑いだした。そして俺を小突きまくる。……なんとなーく、冷やかされている感がある。


「もういいだろ。木下さん行こうぜ」


「は、はひっ」


このまま母さんに茶化されるのはムカつくので逃げる。木下さんの手を引き、母さんに向けて渾身のあっかんべーを放って俺は廊下をダッシュ。

後ろから聞こえる、母さんの声。


「綺羅々ちゃんと木下さん、どっち選ぶのー?」


「ババア黙れよ!? 何とんでもねーこと言いやがる!」


母さんから逃げきって一息つく。

最悪だよあのババア。日清と木下さんどっち選ぶのって、まるで俺がどちらを好いているみたいじゃねーか。

ふざけんな。誰が日清だなんて好きになるか。あいつはただの幼馴染だっての。木下さんだってただの友だ…………っ、うるせぇ俺の馬鹿!


「ぐあっ、また動揺しやがって俺のクソ馬鹿カスクソカス……!」


「あ、あうう」


「あ? あー、悪かったな。俺の母さん、頭おかしいんだ」


「そ、そうじゃなくて手……」


そうじゃなくてて? 何を言っているかと木下さんの視線を追うと、俺の手と木下さんの手がガッツリ握られていた。そりゃ指をからめてまるで恋人みたいで……っ、だから浮かれんじゃねぇ俺のアホ!


「っ、わりー。つーかこんなこと去年もあったな」


つーか俺は木下さんとの思い出を思い返し過ぎ。携帯の画像フォルダ見返しているみたいだ。ここ最近そればっかだぞ。

……そうなんだよな。なんで、俺は、こんなにも……。


「あうぅ」


「ご、ごめんて! またショートするのはやめろぉ!」


木下さんの顔から湯気が出ている。ぷしゅーとか言っちゃってる! 慌てて手を仰いで風を送るも、木下さんの真っ赤な顔から熱は引かない。

っ、そのくせ、手は離そうとしない。ぎゅっと握って指をからめて、互いの熱が伝わるせいで俺自身も熱いことが分かってしまうし、つーか俺も離そうとしないし……っ。


…………もう完全にアレだろ。アレだよアレ……恋ってやつだろオラ!?

薄々分かっていた。だって、この子……完っ全に俺に気があるんだもん! 恥ずかしがり屋のくせに俺が喜んでしまう台詞ポンポン言いやがって。俺が彼氏でも嫌じゃないとかさ、今日だって一緒に学園祭回ろうとか俺のこと絶対に嫌いならないとか言ってさ、俺のこと好きだろお前? そりゃ意識するに決まってんだろうが!?

クソ……恋だと認めたら俺が一般人と同じ思考で嫌だったんだが、ぐ、ぐううぅ!


「……火村君?」


「なんでもねーよ」


「顔赤いよ?」


赤いのはテメーもだろ、と言う前に木下さんの手が俺の頬に。片方は俺と手を繋ぎ、もう片方が俺の頬に添えられ、つまりは体を寄せて木下さんとの距離はゼロになって……ああああぁあだからそういうのズルイんだよクソがあぁ!?


「ぐおおおぉ……っ!?」


「ひ、火村君?」


前々から思っていたんだよぉ。木下さんの狙ったかのようなあざとい仕草や声にキュンキュンしまくりだ。そしてそれらを天然でやっているから尚の事グッときて好きになっ、あああああああぁ!?


「あかん……今日の俺完全に駄目だわ……!」


一度認めてしまうと脳も心も木下さんのことでいっぱい。心臓が暴れて顔の熱は増す。なんだこれ、普通の恋の仕方じゃねーか! 俺は普通の人間だった? そんなわけあるか、俺は選ばれしクズ戦士のはず。

待て、そもそもがおかしい。木下さんの仕草やそれっぽい言動に惑わされただけで本当にこの子が俺に好意があるとは限らない。俺の勘違いだっての。


「ふう、落ち着いた」


「だ、大丈夫?」


「無問題。じゃあ次行こうぜ」


「あ……わ、私、体育館のイベントに……」


体育館のイベント、と言って湯気が溢れる。ふと見た壁には『男女で参加! カップルになる二人へ贈る恋愛劇』のポスター。去年もあったイベントだ。


……………いや完全に俺のことが好きだろおいいいいい!?

逆に聞くけど好きでもない奴とこのイベントに参加するか? しないだろ!? つまり俺のことが好きってことで、そう思うと俺も木下さんのこと意識してあああああぁあさっきから発狂ばかりだよクソがああ! 読んでいる人マジごめんなさいでも一緒に悶々しようぜオラ!?


セコイ、こんなの意識するに決まってる。そして見事に好きになっている俺。なんだよこれが普通の恋愛かよキュンキュンだわとりあえず全員死ねよ!


「……一応聞くが、イベントってあれだろ」


ポスターを指差せば木下さんがボンッと沸騰する。真っ赤だった顔がさらに真っ赤、これ以上顔が赤いを表す表現がないくらい顔真っ赤だ。


「う、うん。火村君と観たい」


そのくせちゃんと自分の意見を言いやがる。あ、これは俺との特訓の賜物か。だとしたら去年の俺はとんでもないモンスター生んだことになる。照れるくせにちゃんと好意示してくるって……あうぅ。

真っ赤な木下さん、そして、俺も同じ。木下さんに誘われたら文句言わず付き合うし、ナンパ野郎にからまれたら一丁前に嫉妬して、


「だ、駄目かな?」


ヤバイ。心臓が張り裂けそうだ……。


「別に。んじゃあ行こうぜ」


どちらも手を離さない。ぎゅっと握り、離さない。互いの体が触れるくらい近い距離で俺らは歩く。

…………あー、クソ。麻痺してきた。口が上手く動かない。というか動きそう。


「あのさ」


あ、ヤバイ。自分で分かる。これは、とんでもないことになると。


「な、何?」

「木下さんに言いたいことがある」


どうした俺、今から何を言うつもりだ。自分自身で認めたからって今言うのはさすがに早すぎる。浮かれすぎだ。

でも、ああ、だっ、あ、口が……っ!






「俺、木下さんこと好きだわ」


ぎゃあああああぁ!? 俺のアホおおおおぉ!?

なんでこのタイミング? 学園祭の最後とかじゃないの? 移動中に告白ってどういうことだよおい!


「え……!?」


「……なんでもねー。忘れて。つーか忘れろ」


完全にミスった。去年の屋敷で壁殴り以来の黒歴史だ。

一気に押し寄せる、自分へ対する嫌悪。吐き気がする。モブキャラみてーに恋愛脳になって調子乗ってしまった。


「やっぱイベント行くのやめるわ」


手を弾き、体育館とは反対方向へ。


が、その手はすぐに繋がれる。温もりが消えたのは一瞬だけだった。また、手を通じて全身が熱く温かくなる。


「私も火村君のことが好きです! 去年から、ずっと、ずっと……!」


「……気の迷いなんじゃね? だって俺はクズで最低でアホなんだぞ。そんな俺を好きになるわけがない」


自分から好きと言っておきながら、返事をもらっておきながら、俺は逃げようとしている。本当に最低だぞ俺。


「そんなことない」


クズで最低でアホな俺。でも木下さんは手を離さない。俺が自嘲に陥るよりも速く、俺の前に立つ。


「優しくてカッコ良くてたまに見せる笑顔が素敵で……知り合って間もない私の為に協力してくれて守ってくれて……私にとってはカッコ良過ぎるんだから」


「っ……」


「私は火村君のことが好き。好きで好きでしょうがないんだよ……!」


真っ赤な顔。瞳からはポロポロと涙が溢れ零れる。今日だって散々口下手だったくせに今はスラスラと想いをぶちまけている。

学園祭。人が大勢通るような廊下。ムードもクソもない変てこな場所とタイミングで、俺らは向き合って互いのことだけを見つめていた。


「……あー、クソ。不意に人が喜ぶこと言いやがって。そういうところに惚れたんだぞテメェ。恥ずかしいだろうが」


「あ、あうぅ、ごめんなさい……」


「だーかーら、謝らなくていいっての。……本当に俺でいいのかよ」


「……火村君がいい。大好きなの」


「……ふー…………あー、なんだ……こういう時どうすればいいか分からんから、もう一度言うわ」


「大好き。火村君のことが好きで好きで……」


「いや俺に言わせろよ! いいか、こうなったらヤケだ雰囲気とか知らん!」


自分自身すげー意味不明だ。なぜこのタイミングで言ってしまったのか、勢いがあり過ぎて自分でも制御しきれていない。

ならもう、このまま勢いで押し通すしかないだろ。それに……口に出したのは、本心だ。この気持ちは本物なんだ。


「俺は、俺も……お前のことが大好きになっちまったんだよ! 俺と付き合えクソがあぁ!」


俺が叫び、木下さんが涙を流して大きく頷く。

クソとか言っちゃうし雰囲気やムードは皆無だしどっちの顔も真っ赤だし、告白するなんて生まれて初めて超グダグダだ。


だけど、俺らは何度も何度も叫んで泣いて、最後は笑った。今日の事は一生忘れない。なぜなら、この俺が一丁前に恋愛に落ちた瞬間なのだから。











学園祭が終わった。教室に残っていたのは雨音お嬢様。


「帰らねーの?」


俺は黒板に書かれた『学園祭大成功っ』『みんなのおかげ!』の大きくカラフルな文字を消して男性の生殖器を落書きするとお嬢様に声をかける。

ガタン、と雨音お嬢様が立ち上がると……真剣な表情で俺を見つめてきた。


「陽登、私に言うことあるでしょ」


「は? 別にねーけど」


「……木下と付き合い始めたんでしょ」


「……なんで知ってんの?」


黙っておこうと思ったのにまさかもう知られているとは。

な、なぜ? ……学園祭の最中、大勢が通る廊下の真ん中で告白したらそりゃバレるわな。冷静に考えたらそうだわ。


「あー、まあ、うん。木下さんと付き合うことになった」


自分で告白しておきながら、なんつー怒涛の展開だったんだとツッコミを入れたくなる。

ちょっと雑じゃありませんこと? もっと良い雰囲気で告白すれば良かったと思う。ま、やっぱクズの俺に普通の恋愛は無理ってことで。


思わず苦笑いが出る。そんな俺を、お嬢様は変わらず真面目な表情で見つめてくる。……な、何?


「私、まだ諦めないから」


「へ?」


「私、陽登のことが好きだから」


本当に、今日は怒涛の一日だ。改めてそう思った。

まさかだ。雨音お嬢様が、俺に告白してきた。このタイミングで。


「え? はあ?」


「な、何よ悪い!?」


「い、いや悪くはねーけど……」


「……で、返事は?」


「え?」


「返事よ! この私が好きって言ったんだから何か言いなさいよ!」


な、なんつー暴論。いや正論なのか?

こいつも、俺のことが好きだったのか。こっちに関しては全く分からなかった。そう考えると、木下さんって意外と露骨にアプローチしてきていたんだなと思う。

……いや、今は木下さんのことを考える前に、目の前のこいつを見なくちゃいけない。

苦笑いをやめ、俺も真剣な表情でお嬢様と向き合う。この時ばかりは、クズを捨てた。逃げずに前を向いた。


「悪い。俺はお前より木下さんの方が好きだ」


偽りない本心を口に出す。前を向く。それがこんなにも辛い。泣きそうになるお嬢様の顔を見るのがこんなにも悲しい。でも、絶対に逸らさない。逸らしちゃいけない気がする。

お嬢様は泣きそうになって、けれど涙は流さず小さく微笑んだ。


「そ。てことは私のこと嫌いじゃないのね」


「……一年以上勤めてきたからな。本当に嫌いなら、とっくの前に辞めている」


「それが聞けただけで十分よ。じゃあ、帰りましょう」


お嬢様の気持ちに応えられなかった。だけどお嬢様と俺の関係は続く。主人と使用人、俺らは同じ屋敷に住んでいるのだから。

俺とお嬢様の関係は変わらない。俺らは恋人とは違った特別な関係で結ばれているのだと思う。フッた俺が言うのは傲慢かもしれないが、そうであってほしいと願う自分が、確かにいた。


「お嬢様……」


「陽登」


「あ、すんません。俺、一緒に帰る恋人いるんで。テメーは一人で帰れ」


「何よそれ!?」


「いや普通に考えてそうなるだるぉ? ちなみに木下さんと帰らない場合でもお前とは帰らない。パチンコ寄っていくから」


「高校生がそんなところ行っちゃ駄目でしょ」


「気づかなかったか? 俺がたまにお前にあげてるお菓子、あれパチ屋の景品だぞ」


俺たまにチョコとか持っていたじゃん? あれはそういうことです。あなたは嬉しそうに食べていましたねぇ。お嬢様は小さく声あげると俺を恨めしげに睨んできた。


「さ、最低ね」


「お褒めの言葉あざーす」


「褒めてないわよ! あぁもう! お、覚えておきなさい、私はアンタのこと諦めないから!」


「ストーカーはやめてくださいね。家まで尾行しないでくださいよ」


「同じ家じゃない!」


相変わらずぎゃあぎゃあうるさい声から逃げるように教室を出る。ではさよーならー……いや、立ち止まれ俺。


……立ち止まり、教室近くの壁にもたれかかる。耳を澄ませば、聞こえるは、




「そっか、私、駄目だったのね。……陽登のこと、諦められるかな……? っ……」




掠れた声……お嬢様は、泣いていた。あのお嬢様が泣いて……。


「……ごめん」


自分にしか聞こえない小さな声でそっと呟く。

ズルズルと崩れ落ちそうな足を踏ん張り、音を立てずその場を去る。


お嬢様の気持ちには応えられない。俺には、お嬢様より大切な人がいるから。だから俺は前を向くんだ。






「……あ、火村君」


「よ、帰ろうぜ」


昇降口で待っていた木下さんと肩を並べ正門を出る。何も言わずとも、自然と二人の手は重なって繋がる。

……今日付き合ったばかりなのに随分とスムーズに手を繋げたわ。まあ以前から手を繋ぐことがあったから、ね? ……ドキドキ止まらんけど。


「さっき、雨音お嬢様に告白された」


「え……て、天水さんに?」


「断ってきた。……俺、クズだよな」


まさか俺が女子をフる日が来ようとは。もしそうなっても鼻で笑って断るつもりだった。

けど実際に、お嬢様に好きと言われて……胸が張り裂けそうなくらい辛かった。

初めてかもしれない、俺はマジでクソ野郎だと。ヘラヘラじゃないクズって最低だな……。


「火村君……」


「……なんてな。別にお嬢様のことなんてどうでもいいし~? あんな奴、フッて当然だべ」


ヘラヘラと笑いかける。木下さんは、笑っていなかった。


「私、天水さんと話す」


「へ? な、なんでだよ」


「私が火村君を奪ったみたいになるのは嫌だよ……やっぱり、天水さんとは一度話さなくちゃ」


「真面目だな」


「それだけ火村君のことが大事だから……あ、あうぅ」


「いや恥ずかしいなら言うなよ! ……俺も、あいつとはしっかり話すよ」


俺と木下さんの交際、判明したお嬢様の気持ち。それらを今日だけで済ませる程、俺らの関係は浅くない。

逃げず臆せず、もっと、もっと時間をかけて向き合おう。それは、木下さんとも。


「……あー、なんだ、これから、よ、よろしくな」


握る手に力がこもる。噛みかけてダセー、と思う隙間もなく心埋め尽くすのは木下さんのことばかり。


「うん、私……火村君のことが好き」


「何回言うんだよクソボケ」


「謝らないよクソボケ」


「成長したなホント……。帰るぞ」


「うんっ」


ニコリと微笑む木下さん。俺も心の底から笑いが溢れる。

まだ始まったばかりの俺ら。これからの生活が楽しみと一般モブみてーに胸馳せるのも、悪くないと思えた。


更新遅いわ、内容は長くて読みにくいわ、もう散々ですね……。


グッダグダでしたが、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。最高に嬉しいです。読んでくださった方は最高に良い人です。断言します← 



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