第14話 二日目・気弱な小動物系女子
じゃあ時間潰しに行くか。まだこの周辺に何があるか分からないからテキトーに散歩しつつ疲れたらファミレスに入るか。
のんびり行こうぜ。気怠げに廊下を歩いて正門を目指す。
……。
…………。
………………あー、なんだろ。
足が止まり、後ろを振り返ってしまう。
あの量を一人ですると時間かかるよな。それをあんなおどおどした女子がやっている。
「いやいや俺には関係ない。別に手伝うとかそんな……」
……う、うぅぅ?
なんてことだ、俺にも良心が残っていたのか。
あの子を手伝えと小さな天使が語りかけてくる。それ以上に巨大な悪魔が無視して行けよカスと囁いていますが。
「いや、でもなー……う゛ーん」
ちっ、分かったよ。じゃあここは公平に決めよう。
今から携帯で時間を見る。分のところが五の倍数だったら手伝いに戻ろう。それ以外は悪魔の指示に従う。
どうだ、運に任せた公平な決め方だろ?
「よし、じゃあ見るぞ~」
まぁ五の倍数なんてそうそうあるわけ、
「せいっ!」
画面には『15:40』と表示されていた。
「よっ」
「え……ひ、火村君?」
「半分くれ。手伝うよ」
木下さんの座る机の前にある机を動かし、机同士をくっつける。
プリントの山を半分に分けて俺の座る机の上へと置く。
「い、いいの……?」
「公平なる決め方だからな」
「?」
まさか五の倍数が来るとは思わなかった。
さすがに五の倍数で負けてしまった以上、もう一回とかやっぱなしってのは駄目だわ。大人しく手伝うことにした。
「あ、ありがとう」
「気にすんな。どうせ時間を潰さないといけないし」
ペコッと頭を下げてくる木下さんを制止しつつ作業に移る。
四枚のプリントを順番に並べてホッチキスで留めたらいいんだな。楽勝、そして面倒くさい。
日直は場合によってはこんな作業をしなくちゃいけないのか。決めた、俺が日直の時はぜってー休む。
「木下さんも災難だな。日直がクズのせいで」
「えっ、いや、その、欠席は仕方ないよ」
「いやそっちじゃなくて雨音お嬢様の方」
「天水さん?」
「あのクソ女、マジで許さねぇー」
怒っていても使用人を置いて帰るか普通? なんて酷い仕打ちだ。昼なんてビンタされたし。
可愛いからといって何しても許されると思うなよ。今時なぁ暴力系女子とか流行ってねーんだよ古いんだよ。今のオタクに響くような萌えを極めろ馬鹿。
「あの……火村君と天水さんってどんな関係なの?」
「俺はあいつの家に仕える使用人。そんな感じ」
「そ、そうだったんだね」
感心したようにぼーっとしている木下さんを見つめる。
目が合い、木下さんは顔を赤くして俯いてしまった。慌てて作業を再開している。うっへへぇ、これはキツイ。女子から目を背けられるとか脱糞しそう。
「なぁ、俺クラスの奴らから避けられているけどもしかして今のが原因か?」
「え、えっと……そ、その……」
「何言われても気にしないから遠慮なく言っていいよ。オラ言えよオラァ」
困ったように俯きながらゴニョゴニョと口を動かす木下さん。
この子はこういったキャラなのか。もっと堂々と喋っていいんだぞ。頑張れ木下。
「て、天水さんって何考えているか分かんなくて誰も話しかけられなかったの。い、いつも怒っているみたいで……」
それには全力で同意する。あいつ常時不機嫌だよな。死ねばいいのに。
「だから、そんな天水さんとまともに喋る火村君のことも皆は警戒していると言うか、その……」
「やっぱあいつのせいか!」
「ひっ、ご、ごめんなさい」
あいつのせいで俺は浮いているのか。ふっざけんなよマジでぇ。
クソボッチお嬢様が原因で距離を置かれて結果、すり寄ってきたのは芋助だけ? そんなのおかしいだろ!
「あ、あの、あの……っ」
「あ? あぁいや木下さんは悪くないだろ。そんなに怖がるなよ」
そこまでビクビクされるとこっちが申し訳ない気持ちになる。
「ご、ごめんなさい私、あの……」
「分かってるよ。とりあえず俺は平民でまともだから普通に接してくれ」
俺まで天水家の人間と思われたくない。
ごく普通の、ごく普通に、ニートを目指す普通の人間だ。
何もせずダラダラ過ごして気づいたら死んでいた、そんな人生を送りたい。朝起きる感覚で天国に来場したいよね。ニートって美しい。
「木下さんのペースでいいから仲良くしてくれよ頼む~」
「は、はい」
この終わった状況を打破すべきにも芋助以外の知り合いが欲しい。
今の俺は某野球ゲームのサクセスで言えば初期状態の各キャラの評価と一緒だ。
もっと頑張るでやんす、と最低な評価を受けているのに等しい。ふざけんなテメーも頑張れ矢部、眼鏡叩き割るぞ。
友情タッグを組むまでとは言わないからせめて普通の評価が欲しいぞ。
「私で良かったら……は、はい、よろしくお願いします」
「よろしーくー」
ビクビクしているが可愛らしい女子と知り合えた。少しだけ学校生活に光が見えたような気がした。