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第134話 みんなでカラオケ

これまでの思い出を振り返る。

バーベキュー、海、お祭り、と様々なイベントをこなしてきた。自分で思う、俺普通に夏休みを楽しんでね? と。

だがそんな夏休みも半分終わってしまった。いやまだ半分も残っている。どう捉えるかはその人次第だが俺は圧倒的に後者。

まだのんびり出来る。サマーバケーション素晴らしい。あと一年くらい続けばいいのにね。

八月中旬。気温は変わらず三十度を超えて日差しは灼熱の如し。あーアイスが美味しー。


「ハルちゃんアイスが服に落ちたよ」


俺の服をハンカチで拭くのは日清。前髪を大きなピンで留めて横に流した髪がサラサラで可憐。


「私の所有物に勝手に触れないで」


俺の右腕を引っ張って不機嫌そうに唸り声上げるのは雨音お嬢様。夏らしい大きな白い帽子が似合っている。


「ひうぅ怖い……」


俺の左腕に隠れているのは木下さん。半泣き状態で怯えている姿はどこか愛おしく映って見えた。


「会長、そんな奴の世話を見る必要はありませんよ!」


「今日たまたま藁人形と五寸釘持っているんだ。ハル、髪の毛寄越せ」


俺の前には以下略の奴らが二人。どちらも憎悪に満ちた目で睨んでくるがどうでもいい。

駅前の広場。今日はこのメンバーでカラオケに行く。わー高校生っぽい。


「ハルちゃんとカラオケ行くのは久しぶりだねっ」


「記憶にございません」


「私達がよく行っていたカラオケ店、最近可愛い店員が増えたよ」


「よしそこに行こう。俺会員カード持ってるぜ!」


日清とは中学時代によく一緒にカラオケに行っていた。というか日清に誘われて連行されていた。

真面目な模範生だったくせに遊ぶ時は遊ぶ奴なのだ。所謂ところのリア充ってやつ。反吐が出る。おろろろー。あ、これはただの嘔吐か。


「へぇー、久しぶりなんだ。私と陽登はいつもカラオケに行ってるもんねーっ」


俺が反吐を出す前にお嬢様がドヤ顔を出してきた。勝ち誇った表情で意地悪くニヤニヤと笑って日清を見ている。

たまらず日清は顔をしかめて頬を膨らませた。クールが売りのくせに挑発に乗るな。お前、お嬢様の煽りに耐性が低いぞ。


「会長を小馬鹿にした態度を取るな。生徒会副会長として僕が粛正してやる」


「陽登、あいつなんとかして」


「金堂先輩っていつも同じキレ方で芸がないですね」


「なんだと……!?」


命令に従って煽ったら金堂先輩が怒った。この後日清に叱られて金堂先輩が黙るのは定番であるがいつもと同じ流れはつまらない。少し変えてみましょ。


「って芋助が言ってましたー」


「うおぉい俺!? 悪意100%のスルーパスやめてぐえぇ!?」


「貴様ぁ! 僕のキャラに文句があるのかあぁ!」


「す、すみません! でもキャラに関しては最初の寡黙な時と比べてうるさいなと思いますうぅ!」


怒った金堂先輩が芋助を締め上げる様を携帯のカメラ機能で撮影。滑稽な姿であり、且つ金堂先輩を脅すネタが出来た。

最終的には計七つの弱みを握って副会長にどんな願いでも一つ叶えさせるのが目標でーす。ぶはは。


「てゆーかアンタも陽登から離れなさい。何様のつもりよ」


「そ、そんな……」


ゲラゲラ笑っている間に今度はお嬢様と木下さんが衝突。俺はクソアホ二人の撮影をやめてお嬢様をたしなめる。


「見る者全てに噛みつくのやめろ。大日本帝国かお前は」


「だってあの女が……」


「いつまで忌み嫌うつもり? クラスメイトだろうが。ほら挨拶」


肩をペシーンと叩いて促すとお嬢様は膨れっ面をしながらも木下さんを見つめる。木下さんは怖がりながらも丁寧に頭を下げた。


「よ、よろしくお願いします天水さん」


「失せろ」


だから喧嘩売るんじゃねぇ! 挨拶しろと言ったら失せろと言いましたよこいつ。就職活動の面接なら即アウトだよお前が失せろよ。

あーあ、まだ集まったばかりなのに喧々しちゃっている。こいつら協調性ゼロか。今日はメイドさんもいないのに。てことは俺が仕切るの? うげぇ……。


「はいはい皆さん移動しましょうねー」


「陽登、あの女は帰らせて」


「だったら俺も木下さんと一緒に帰る」


「むぅ」


「むぅ、じゃねーし」


口を尖らせるお嬢様の肩を押して移動させる。

他の方々もついて来てくださいねー。置いていきますよ。特にモブキャラ男子二名。いつまで胸ぐら掴んでいるの?


今日は前回のバーベキューと同じく今回も芋助が企画して俺らを誘ってきた。断ってもよかったのだが、お嬢様がカラオケは行きたいとおっしゃったので付き合うことになってしもうた。

やれやれ、今日も屋敷で惰眠を貪ることは出来そうにない。暑い中げんなりとしながら俺は先頭を歩いてカラオケ店へと向かう。


「いらっしゃいま……げっ、お前は!?」


「あ、ブス店員じゃないですかー。今日も受付やってんのかよ、いい加減キッチンに回れやブス」


自動ドアが開くと受付にいつかのブス店員が立っていた。ここの店長は何を考えているんだ。もっと可愛い子を採用しろ。


「お嬢様、呪文を唱えてください」


「誰が唱えるか! もう騙されないわ!」


「ちぇー。木下さん、ピリカピリララ ポポリナペペルトって言ってみて」


「ぴ、ピリカピリララ ポポ、り、リナペペルトっ」


俺の無茶ぶりに懸命に応えてくれた木下さん。その健気さに惚れてしまうわ!

良い子だなー、でも嫌なことは断っていいんだよグリーンだよ。糖質70%オフ。


「こらっ、人をブス呼ばわりしちゃ駄目でしょ。それに木下さんに唱えさせないで」


日清に頭を軽く叩かれて注意された。ちょっとの粗相でも見逃してくれないんだね。これだから幼馴染は嫌だ。俺の個性を潰すつもりですかコノヤロー。

と、受付のブスが細い目をさらに細めて睨んできた。おうおう喧嘩売ってんのかブスのくせに。俺が本気出したらお前のブスっぷりを徹底的に貶して泣かすことも出来るんだからな。


「それが接客する態度かよブス。ブスなんだからせめて不快にさせない程度の愛嬌を出せよブス。まぁブスが愛嬌良くしても結局はブスだから意味ないけどな。って後ろのあいつが言ってました」


「また俺にスルーパス出した! ボンビーをなすりつけるノリでサラッと発言の責任を押しつけるなよぉ!」


受付を済ませてボックスへと入る。やっとだよ。カラオケする前から精神が削り落ちたんですが?


「私の美声を聞かせてあげるわ」


オープニングカラオケは雨音お嬢様。ドヤ顔でデンモクを扱ってドヤ顔でマイクのボリュームや照明を調整している。

それ全部俺が教えたやつだよな。自慢げに操作しているけど高校生なら誰だって出来ることだぞ。


「~♪」


ともあれお嬢様は歌う。相変わらず上手い。

それを見て芋助は恍惚とした表情を浮かべ、ペンライトを持つかのように手を左右へ振る。アイドルのコンサートか。


「イェーイ! 天水さん上手だね!」


「黙れ愚民が。私と同じ空間に存在するな」


特に落ち度はなかったのに貶された芋助。同情はしない。雨音お嬢様だぜ? 下手に話しかける方が悪い。


「次は私が歌います」


日清がマイクを持つ。まぁ、なんだ、こいつの歌を聴くのは久しぶりだ。

ちなみに日清の横では金堂先輩が既にペンライトを振っている。お前はペンライト持参かいっ。


「ふん、どうせ私には及ばないわ」


雨音お嬢様の馬鹿にした声。それは日清にも聞こえているはず。だから日清は小さく微笑んで歌いだした。


俺は中学時代に日清とカラオケに行っていた。だから知っている。

日清は、歌が上手い。手を胸元に添えて熱のこもった歌声を響かせている。これには雨音お嬢様も目を見開く。


「さすが会長っ、天使の歌声です!」


金堂パイセンは目をハートにして悶えていた。リアルで目をハートにしてる人初めて見たわ。キモイね。


「ふう……えへっ、ハルちゃんどうだった?」


「素晴らしいです! 僕は感動しました!」


「ハルちゃん、私の歌どうだった?」


日清はペンライト振って感涙するファンを完全に無視して俺に感想を求めてきた。


「別に。相変わらずだなと思ったわ」


「む~。もっと褒めてよっ」


むくれているところ悪いけど俺が誰かを褒めることはないって理解しているだろ? もし俺が赤ペン先生やったら答えが正解でもバツをつけて赤ペン文字で罵倒する自信あるぞ。解雇不可避。

てことで褒めません。黙ってデンモクの画面をタッチする。


……ん? お嬢様が立ち上がった。日清を見て薄ら笑みを浮かべている。


「その程度の歌で陽登に褒めてもらえると思わないで。私ぐらい上手くなって言いなさいよ」


はい出ました雨音お嬢様の性格の悪さ。あからさまに喧嘩売っているのが分かる。

となればお嬢様に対してだけは煽り耐性の低い日清が黙っているわけがなく、不機嫌そうに眉をひそめて睨み返していた。


「じゃあ私とあなた、どちらが上手か勝負しましょうか」


「望むところよ。陽登、例のやつ用意して」


「例のやつって何? ヘルメットとピコピコハンマーか?」


「おいおいハル、叩いて被ってジャンケンぽいするのかよ~!」


俺のボケに軽快なツッコミを入れたのは芋助。久しぶりに喋れて嬉しいのか顔は爽やかなスマイル。無視しよう。

お嬢様は俺からデンモクをひったくるとタッチペンで小気味良い音を立てながら入力し、精密採点モードを選択した。


「これで勝負よ」


「ハルちゃん風に言うなら、上等だよかかってこいや」


恒例の火花がバチバチ散らし寿司。

カラオケで本気で競い合う奴らとか久しぶりに見たわ。逆にお前ら仲良いんじゃない?

ボックスに入って十数分が経過。歌っているのは雨音お嬢様と日清のみ。他のメンバーは二人の勝負に口を挟めないでいた。


「94.325点! はい私の勝ち」


「待ちさないよ。ビブラートと表現力のグラフは私の方がアンタより上よ。それに点数だって0.242点差じゃない!」


「僅差でも勝ちは勝ち。ハルちゃんの隣には私が座る」


「そんな賭けはしてなかったわ! いいからもう一回よ!」


そしてまた二人は歌でバトル。精密採点という明確な点数がついて勝敗は決しやすいのに、負けた方が納得しないから勝負は延々と続く。

……延々と聴かされているこっちの気持ちも考えてください。副会長と芋助はノリノリだけど俺は飽きてきた。


「ごめんな木下さん」


「な、何が?」


「カラオケ来たのに全然歌えないで」


「そ、そんなことないよ。日清先輩も天水さんも上手でずっと聴いていられるよ」


ただの天使。やっぱ木下さんは良い子だ。

俺の中の精密採点では木下さんは満点だよ。ちなみに雨音お嬢様、テメーは赤点だ。


「やった満点出た。ハルちゃん褒めてっ」


「私も100点よ。陽登、崇めなさい」


お前ら人間性と女子力では木下さんの足元にも及ばないからな。

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