第131話 クズと天使のお祭りデート
お祭り。何かを崇めたり豊作を願ったり、よく分からんけど感謝しようやというやつだ。地域の活性化、伝統、金儲け、様々な理由があるにせよ一般市民はとりあえず足を運んでみたくなる。
ただし、ブスの次に人混みが嫌いな俺は行きたくないと考える。ただし、美少女と一緒に行くなら話は別。ニートの次に美女が好きなワタクシでございマッスル。マッスルハッスル~? 腐女子が寄ってきそう。
「お、お待たせ」
「おう。二分待ったわ」
「ごめんなさい……」
「前にもこんな会話あったぞ」
今日はお祭りで、俺は木下さんと行くことになった。デート、ただのデート。
無論、勝負パンツを穿いてきた。ゴムも持ってきた。準備だけは一丁前、童貞あるあるである。そうだろみんな? 財布に入れたそれは使う機会ないから安心しろ。
まあ童貞あるあるはどうでもいい。木下さんが到着して、とても気になるポイントがある。
「浴衣なんだな」
「うん……に、似合うかな?」
木下さんは薄いグリーンとホワイトの浴衣を着ていた。地模様のような立体感ある柄で、上品な雰囲気が出ていて超似合っている。浴衣美人ってやつだ。これはすごい。素直に褒めよう。
「めちゃくちゃ似合ってる。めちゃくちゃにしてやりたい」
「な、何言ってるの?」
「俺も分からん。そして鼻血が止まらない」
「え、え?」
鼻血が出てきました。木下さんの浴衣姿に興奮したらしい。漫画か俺は。
個人的にね、浴衣姿もグッときますがそれ以上に、手に持った巾着が好きです。女の子っぽいよね、女子力が高いと思う。下駄を履いているのもGOOD。生足に下駄、風流を感じます。木下さんの足の指見ちゃった~。はい一生の思い出!
「ティッシュ使う?」
「あんがと。女子力たけーなおい」
さすが小動物系最強。女子力、可憐さ、性格の良さを合わせた総合力では右に出る者はいないだろう。木下さんマジ可愛い。会う度に可愛いと思う俺である。
こんなにも素晴らしい女子と二人でお祭りに来られるとか幸せだ。何度も遊んでいるし……そろそろ付き合っちゃう? 付き合う? 突いちゃう? 突きまくる?
「ひ、火村君さらに鼻血が」
「俺の新モノマネ、決壊したダムだよ」
「己の血を代償にする程のものじゃないよっ」
木下さんはあわわ、と動揺しながらもツッコミを入れてくれた。あなた良い子ね。
さてピロートー、じゃなくてオープニングトークはこの辺りにして屋台を見て回りましょうか。
「何か食べたいのあるか?」
「ん、んーと……」
んーと? 何その可愛い悩み方。君は会う度に俺のハートを悶えさせるよね。今すぐにでも茂みに連れ込んで襲いたい気持ちを横四方固めで押さえ込み、極めて自然な笑みを返す。
「げへへ、じゃあチョコバナナ食べようよグフフ」
屋台のおっさんに小銭を投げつけてチョコバナナを入手。おっさんは声を荒げて怒るが、木下さんが丁寧にお辞儀するとニッコリ笑顔になった。そうなるの分かるよおっさん。そして俺は謝らない。
「はい」
「あ、ありがとうっ」
木下さんは俺にも頭を下げるとチョコバナナを見て、小さな口を開いて、パクッと一口食べた。
あ、舐めなかった。舐めてくれたら最高でした。俺のチョコバナナが喜ぶと思ったのに。安直な下ネタ嫌いじゃない。
「美味しいです。で、でも食べ歩きは……」
「相変わらず真面目だなー。俺を見習え、食べ終わった後の棒を余裕でポイ捨てするぞ」
「最低な行いの見本としてはこの上ないね……」
あ、ひいた? いとも容易くポイ捨てするクソっぷりに幻滅されました?
冗談だって~、ちゃんと拾ってゴミ箱に捨て……痛っ、
「おいクソガキ今俺の手を踏んだぞ! 謝れやカスぅ!」
「ぼ、僕?」
「あー、骨折れた。手の甲がグチャグチャ。水の配分多めの泥団子ぐらいグチャグチャだわ。どうしてくれんの? あ?」
「ご、ごめんなさい」
「は? 泣いて済むと思ってんの?」
謝罪した後にしかるべき対応しろや。おいクソガキ、お祭りに来てるってことはたんまり金を持っているよな。財布の中身を見せてもら……痛っ?
「火村君っ、子供をいじめちゃ駄目だよ! ごめんね、君は悪くないよ」
「ほ、本当?」
「うん。怖かったね」
「うえ~ん」
木下さんは泣くクソガキを抱きしめた。クソガキの顔が木下さんの胸に当たって……ああああぁぁ!? はああああぁぁ!?
「クソガキこの野郎! 俺も触れたことのない聖域に顔うずめやが」
「火村君」
「っ、は、はい?」
「この子に謝って」
「俺が?」
「早く」
「す、すいませんでした」
木下さんの声が冷たかった。たまらずクソガキに謝罪。深々と頭を下げる。な、なんで俺がこんな目に……!?
「お兄ちゃん謝ったから許してくれる?」
「うんっ。ごめんなさいする姿が哀れだから許してあげる」
十は年下であろうクソガキに哀れみを受けた。屈辱!
「良い子だね。じゃあバイバイ」
「バイバイっ、おっぱい大きいお姉ちゃん」
クソガキは笑顔で手を振ると、去り際に木下さんの胸にタッチした。木下さんが「きゃっ」と驚いた声を上げる。
タッチ……え、タッチ…………あぁ!? あのクソガキいぃぃ! ぶっ殺す!
「おい待てやゴラァ! 何さりげなく触ってんだよクソエロガキ! その手、今度は俺が踏みにじってやる!」
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すクソガキ絶対ぶっ殺す。
「火村君いい加減にして!」
「ひ、ひぃ?」
「小さな子供に怒鳴り散らして酷いよ。火村君の馬鹿っ!」
グサッ。言葉が突き刺さった。き、木下さんに怒られた。
木下さんの怒った瞳が俺を睨む。俺の天使が、オアシスが……がはっ!? 鼻血の次は吐血だった。ショックのあまり血が、げふっ!?
木下さんに嫌われた……死ねる。