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第13話 二日目・置いていかれる

放課後になり、帰り支度をしているとあることに気づいた。

雨音お嬢様がいない。


「どこ行ったあの女」


あいつと一緒に帰らないといけないのに。トイレか? 排泄か? 排卵か?

しょうがねぇ待ってやるか。

暇つぶしに外の景色でも眺めようと思ったら、なんか見覚えのある高級車が見えた。


……天水家の車だよな? お嬢様っぽい女子生徒が乗車しているところだった。

あれ、なんか、これ……あっ、動き出した。


「おいおい俺は!?」


その場で叫んでみたがここは校舎四階、下にまで届くわけもなく車は発進していった。

あ、の、クソ女。俺を置いていきやがった。まだ昼休みのことで怒っているのかよ。クソが、クソ……あぁもう鼻クソが!


「やべ、どうしよ」


悪態を吐いても仕方ない。今からどうやって帰るか考えなくては。

お屋敷には車でしか行ったことがなく、道なんて全部覚えているわけがない。

ましてや車で三十分以上かかるのだ。歩いたら何時間になることやら。


電車かバス? 最寄り駅は?

あー、詰んでる。これもう駄目だ。

絶望のあまりその場に倒れてしまう。俺、終わった。野宿決定か。


「いや、まだだ。芋助ぇー!」


顔を上げ、唯一の知り合いの名を叫ぶ。

が、返事はない。どこ行ったあいつ。


「なぁ誰か、芋助がどこ行ったか知らないか?」


まだ教室に残っているクラスメイトに尋ねる。

が、俺に話しかけられてビビっているのか、どいつもこいつも目を合わせようとしてくれない。

ヤバイな俺完全にクラスで浮いてるぞ。どうしてこうなった。


「いや無視するなよ。なぁ東大田原君」


テキトーに近くにいる男子生徒に話しかける。


「ぼ、僕は東大田原じゃないよ」


「東大田原じゃなくていいから芋助がどこ行ったか教えてくれ」


「ひ、土方君は軽音部だから部活に行ったんじゃないかな?」


軽音部ぅ? 芋助のくせして洒落た部活に入りやがって。だが学校内にいるのは好都合。急がなくては。

携帯でメッセージを打ち込んで送信。念の為軽音部の部室に行ってみるか。


「サンキュー助かったよ東大田原君」


「だ、だから東大田原じゃないって」


「東大田原サイコー!」


「か、頑なに!?」


教室を出て走る。

恐らく俺一人で天水家に帰るのは無理だろう。帰れないのは分かった。

ならばせめて今日泊まる場所を確保しなくては。この学校で唯一の知り合い芋助。奴の家に泊めてもらう他ない。


教室を出て走る。走って、止まる。


「軽音部の部室ってどこだ?」


いや俺まだ入学して二日目だぞ。部室がどこにあるとか全然知らねーよ。なんで走ってるの。馬鹿なの?


「東大田原くーん!」


教室に戻ったが東大田原君はいなかった。つーか誰もいない。

なんてこった皆もう帰ったのか。早くね?

つーか部室の場所くらい廊下にいる奴に聞けばいいだろ。俺さっきから効率悪いなクソが! 俺も鼻クソかよ。


「……あぁあ、なんか疲れちゃったよ」


自分の椅子に座って机に突っ伏す。

このまま教室で一夜過ごした方が楽なんじゃないかな? あー、でも毛布は欲しい。あと腹減ってきた。悲しい。

なんで俺がこんな目に……春まで夢のニート生活を過ごしていたのに。はぁ、涙が出そう。くすん。


「あ、あの……どうかしたんですか?」


声をかけられた。横を向けば、そこには一人の女子生徒。

セミロングのふんわりした黒髪、整った綺麗な顔。おどおどと怯えながら話しかけてきたその子は、確か……。


「東大田原君?」


「え……ち、違うと思います」


「んー、名前出てこないわ。ごめんな」


クラスメイトってことは分かるんだよ。

あと昨日は職員室まで案内してもらった。でも名前が分からん。


「わ、私、木下ゆず(きのしたゆず)と言います」


すると自己紹介してきた。これはどうもご丁寧に。

てゆーかやっぱり皆は俺に怯えているんだね。これ完全にお嬢様のせいだろ。

いつかあいつの筆記用具を俺のケツに挿入してやる。俺の処女を筆記用具に捧げてやる。俺にメリットはない!


「木下かー、よろしく。俺は火村陽登だー」


「う、うん。えっと、火村君は何してるの?」


「世界に疲れて項垂れていたのさ」


「そ、そっか」


おどおどしながらも懸命に微笑もうとしてくれる木下さん。ぐう可愛い。

性格のキツイお嬢様を見てきたせいか、こういった大人しい女の子を見ると心が癒される。グッピー見ている気分。グッピー可愛いよねグッピー。


「もうこのまま寝るから無視していいよ」


「で、でも警備員さんや先生が見回りに来ると思うよ?」


だよな。うーん、やっぱ芋助を探すか。

と思っていたら携帯が震えた。見れば芋助からの着信。


『やっほーいハル君。どうしたんだい?』


「今日お前の家に泊めて」


『へ? 別にいいけど俺はこれから部活だから帰るのは七時になるぞ』


「じゃあそれまで時間潰すわ。とりあえず住所教えろ」


『把握~、後でメールしておく。ついでに俺の誕生日も書いておくわ!』


「誕生日は大量のカナブンの死骸プレゼントしてやるよ」


通話を終了。

ふう、なんとか宿は見つかった。助かったぜサンキュー芋助。

あとは時間を潰すだけか。どっかネカフェかファミレスで過ごす、もしくは駅前で美女ウォッチしておこう。


「ひ、火村君?」


「あぁ俺帰るわ」


鞄を持ち、席を立つ。そのまま教室から出ようとしたが、木下さんが両手に抱える荷物に目が止まった。


「何そのプリント」


「あ、これは明日使う、し、資料だって」


そう答えて木下さんは席に座ってプリントをホッチキスで留める作業を始める。


「そんなの日直の仕事じゃねーの?」


「え、えっと日直の人が休みでもう一人の天水さんは帰っちゃって……」


おいクソ女ぁ! お前日直だったのかよっ、ちゃんと仕事していけよカス。


「それで昨日の日直の私が代わりにすることになったの」


俯きながらボソボソと喋って木下さんは再び作業に戻る。

せっせと一生懸命ホッチキスで数種類のプリントを留めていく姿は健気であり、同時に可哀想だった。

こんな面倒くさい仕事押しつけられてさ、同情するよ。俺なら雨音お嬢様の机に入れて帰るね。そして明日あいつが怒られたらいいんだブハハハ。


「てことでじゃあな」


「は、はい」


もちろん手伝うつもりはない。断れなかった自分の弱さを嘆け。はい残念でしたね~。一人寂しくシコシコ作業してろ。

教室に残る木下さんに目もくれず俺は教室を後にした。

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