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第124話 混沌バーベキュー

待つこと三十分、メイドさんが来てくれた。


「皆さん初めましてー。天水家に仕える月潟沙耶と申しますー」


真夏の外なのにメイド服を着るメイドさんのプロ意識に脱帽しつつ感謝の気持ちも忘れない。俺はメイドさんに駆け寄ると膝をついて頭を下げる。


「来てくださり誠にありがとうございます」


「珍しいですね。陽登君らしくないですよ」


「それだけ追い込まれていたということです」


誰も喋らない沈黙の気まずさ、喋ったと思ったら罵倒や口喧嘩の嵐、その渦中にいた俺は精神的にグロッキー状態だったんですよ。

今いるメンバーは協調性もなければ新密度もゼロだ。何ならマイナスまである。メイドさんが来てくれて何か変わると信じたい。あなただけが頼りなんです。


「姉さんよろしく頼みます。場の雰囲気を和ませてください」


「なんだか飲みに行きたいなー。誰か付き合ってくれないかなー」


「ぐっ、今度ご一緒します」


「私に任せてくださいー!」


素敵な笑顔で手を挙げるメイドさん。ここぞとばかりにお願いしてきやがって。性根が腐ってますわぁ。

しかし俺は受け入れるしかない。今はこの状況をなんとかすることを第一優先にするべきだ。


「バーベキューコンロやテーブルを持ってきました。どうぞ使ってください」


「あざす。おい芋助、さっさとセッティングしろ……おいどうした?」


コンロや炭を芋助に押しつける。しかし芋助は微動だにしない。目を見開いてメイドさんを凝視している。その反応、大体何を考えているか分かるわ。


「は、ハル。その綺麗な人は誰だ!?」


「俺の上司」


「お、おぉリアルメイドだ。綺麗な人!」


だと思った。


「陽登君のお友達ですか? 初めまして、メイドの月潟沙耶でーす」


メイドさんはニコッと微笑んでピースをする。あざとい、そのポーズあざといですよ。二十四歳が無茶しやがって……! もうすぐアラサーのくせして若々しいポーズしちゃ駄目でしょ。

げんなりする俺の横、芋助は背筋を伸ばして直立するとなぜか敬礼のポーズをした。


「初めまして沙耶さん! 俺は土方芋龍って言います! 軽音部所属でパートはギター、好きな音楽は洋楽です!」


就活生の如く元気な声で自己紹介した芋助。その顔はほんのり赤くて目がキラキラしてる。お前ホント面食いだね。あと好きな音楽は洋楽ってのがムカつく。洋楽と言えばモテると思っているのが見え見えだ。


「あと名前違うだろ芋助」


「言うな馬鹿っ、芋龍の方がカッコイイだろうが」


小声で囁いているところ悪いが、芋がついている時点でクソダサイから安心しろ。


「よろしくね土方君。いつも陽登君がお世話になっています」


「はいハルのお世話頑張ってます! 沙耶さんとも仲良くなりたいです!」


芋助が元気だ。メイドさんに好かれようと饒舌に語っている。俺がいつテメーの世話になった。俺が世話している方が多いだろうが。

メイドさんに詰め寄る芋助。しかしメイドさんは一歩下がって芋助を敬遠する。ニコニコ笑顔が少し崩れて不快感が漏れていた。


「陽登君とは仲良くしてくださいねー。あと私のことは月潟って呼んでくださいー」


「さ、沙耶さん?」


「月潟ですー」


「は、はい……」


会ってすぐに芋助がキモイことに気づいたみたい。でもメイドさんなら優しく接してあげると思ったのにそんなことなかった。嫌悪感を全面に出して芋助を拒絶している。何気に酷い。


「ちょっとメイドさん、あいつ可哀想ですって。つーか俺には下の名前で呼べって言ったくせに」


「細かいことは気にしないでいきましょ~」


「納得いかねぇ……」


「納得いかないのはこっちだバカヤロー!」


俺は芋助に引っ張られて木の陰に連れて行かれた。何を発狂している、顔がいつものようにR指定になっているぞ。テレビならモザイク処理しているレベル。


「おうおうハルさんよぉ、一体どういうことだオラァ」


「何がだよ」


「どうしてお前の周りには美人や可愛い子ばかり集まるんだよ。ハーレムでも築くつもりかテメェ!」


芋助の悲痛で殺意のこもったシャウトを近距離で食らう。息がジャガイモ臭いんでやめてもらえます?

まぁ、あれだね。芋助の言い分は分かる。俺自身も思っていたよ。一体全体どうしてか、俺は顔の綺麗な女子の知り合いが多い。なんでだろうね。


「あんな美人のメイドと天水しゃんと同じ屋根の下で生活、木下さんと仲良くて、生徒会長とは幼馴染……きええぇ!」


「歌舞伎みたいな声出すなよ。市川芋助か?」


「芋龍だ!」


ちげーよ。


「俺なんか仲良い女子なんて一人もいない! 俺のハーレムはせいぜいメークインやキタアカリや男爵薯ぐらいだ!」


「男爵ってハーレムに男が混ざってるぞ」


「とにかく俺はハルのモテモテ具合に腹が立っているんだ!」


んなこと言われてもなぁ。俺は別に異世界転生チート最強ハーレム主人公やってるつもりはないぞ。

それにモテている自覚はない。つーかモテねーよ。今名前を挙げた奴らは顔が良くても性格に難アリのクソ女共だぞ。あ、木下さんは例外です。あの子はハーレムに加えたい。寧ろあの子だけでいい。


「陽登君、お嬢様が早くしろと催促しているので準備をしてください」


「沙耶さ、月潟さん! ハルのどこが良いんですか。こいつクソですよ!?」


「陽登君はクズですけど根は良い人ですよー。私は好きですっ」


俺を呼びに来たメイドさんは芋助の質問にサラッと答えた。あらら嬉しいこと言ってくれますね。嬉しくて股が濡れちゃいそう。ビチャビチャですわぁ。


「俺もメイドさんのこと好きです。一緒にお風呂入りたいなっ」


「陽登君が自身の体を縛って湯船に沈むならいいですよー」


「ただの入水自殺じゃねーか!」






炭に火がつき、網に油を塗って肉を乗せる。赤外線を浴びてお肉がジュージューと焼けていく音と匂いがたまらない。

うーむ、外で食べる肉は格別ですな。お祭りで買うリンゴ飴と同じだね、その場の雰囲気で美味しさに補正がかかる。


「はい木下さん焼けましたよー」


「あ、ありがとうございます」


「日清さんと金堂君もどうぞー」


「ありがとうございます」


「感謝感激であります」


メイドさんがどんどん食材を焼きながらみんなに話しかける。木下さんとは以前会ったことあるし、今日初めて会う日清と副会長とも気さくに会話している。あらやだメイドさんのコミュ力が高い。この人ホント有能だな。


「陽登君はもっと野菜を食べましょー。土方君はジャガイモ食べすぎですー」


「はいジャガイモ以外も食べます月潟さん!」


芋助はメイドさんに夢中。メイドさんの隣に陣取ってハキハキと喋っている。お嬢様には嫌われて木下さんには拒絶され、なら次はメイドさんを狙おうと画策しているのだろう。単純な奴め。

メイドさんのおかげで場の雰囲気が良くなっているのを眺めつつ、俺は肉を頬張る。野菜? んなもん食いたい奴が食ってろ。


「陽登、ウインナー食べたい」


「自分で取れや」


「主の命令よ、ウインナー取りなさい」


そして俺の隣には雨音お嬢様。ちょっと手を伸ばせば届くというのにその動作すら面倒くさがる。なんだこいつ、バーベキューやる価値ねーよ。


「早くして」


「ちっ、分かりましたよ。少々お待ちください」


「なんでズボン脱ごうとしているのよっ」


「え、だってウインナー出せって」


「出せとは言ってないわ! 何よその教科書通りの下ネタは!」


「すいません魚肉ソーセージくらいはありましたわ」


「聞いてないわよ! あと見栄張らないで!」


見たこともないくせに決めつけるな。俺の息子が市販のウインナー程度と思ってんのか。エロ漫画なら女性が瞳の奥をハートマークにして見惚れるぐらい大きいかもしれないだろ。

と、絶叫してツッコミを入れるお嬢様の横にメイドさんが来ていた。メイドさんはお嬢様の頭を宥めるように撫でている。


「お嬢様、下品な言葉遣いはやめましょう。陽登君、軽く死んでください」


顔はニコッと、けれど目はギロッとさせて俺を微笑み睨むメイドさん。まーた俺が怒られちゃったよ。軽く死ねってなんですか、悟空的な感じですか? ドラゴンボールの存在を確証されない限り死ぬ気も入水自殺するつもりもありません。


「……」


「会長どうされました?」


「本物のメイドさんを見たら本当にハルちゃんは執事として働いているって思ってね……。そっか……」


「あ、あんなアホで最低野郎のことは気にしなくていいです!」


「金堂、軽く死んで」


「僕もですか!?」


日清と金堂先輩の方も盛り上がっています。


「おい日清、人に向かって死ねとか言うな。死ね」


「貴様ぁ! 会長に向かって死ねとはなんだ!」


「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ馬鹿、ってボケの派生だろうが。本気で思ってねーから安心しろ死ね馬鹿」


「な、なんだとぉ!」


「そうよ金堂。ハルちゃんが本気で思ってるわけないもん」


「買い被りすぎだわクソ日清」


「キラちゃんって呼んでっ」


「ぜってぇ呼ばん」


「ふんっ、アンタこそ陽登のことハルちゃんって呼ぶな。馴れ馴れしくてウザイのよ全力で死ね」


「ですからお嬢様、過激な発言は控えてください」


「みんなすごいなぁ。木下さん大丈夫かい?」


「だ、大丈夫です土方く……あ、クソボケ!」


「なんで言い直したの!?」


メイドさん登場で和んだのに場はまたしても混沌と化してしまう。どいつもこいつもクセが強いんじゃボケェ。

あと、なんとなく分かってきたんだが恐らく俺が一番悪い気がしてきた。全員を知っている俺が歯車となってトークを回すべきなのに全然働いていないどころか場を乱している。副会長の言う通り最低野郎だ。だがそこが良い痺れる憧れるぅ!


「陽登君、私疲れてきました」


「頑張ってください。トークも肉を焼くのもファイトです」


「飲み一回じゃ割に合わないです……」


クセの強い高校生に苦戦するメイドさんをよそに俺は肉とウインナーを食いまくる。木下さんが用意してくれたおろしポン酢のタレが美味い~。肉サイコー。


「あっ、私のウインナー食べないでよ!」


「下ネタやめてくだせぇ」


「下ネタ言ってないわよ!」






その後も和気藹々とバーベキューを堪能した。お嬢様が日清にキレたり、お嬢様が木下さんにキレたり、お嬢様が俺にブチギレたりしたけど無事バーベキューは終わりました。

楽しかったね。このメンバーではもう二度とやりたくないけどな!


「出発しますねー」


「メイドさん運転できるんですね」


「はい。私の愛車、サヤサヤミラクル号ですっ」


「ネーミングセンスの乏しさ!」


メイドさんの車に道具を乗せて俺が助手席に座ると車は発進する。

はあ、無事に終わって良かった。結局お嬢様は誰とも友好を深めず、かえって逆に溝を深めただけ。ATフィールド厚すぎない?

けど俺の知ったことではない。もう疲れました。帰って本来のスケジュールである『寝る』を実行しなくては。


「沙耶、アウトレットモールに寄ってね」


「ですね」


……え、今から買い物? こちとら気を遣いすぎて眠気ビンビンなんだけど。眠気ビンビンって何? 眠いのかビンビンなのかどっちなんだ。


「ちょいと待ち。買い物はまた今度にしません?」


「駄目よ。今日のうちに必要な物を揃えなくちゃ」


「ですね。明日には出発ですからねー」


俺をよそに二人は話を進める。明日には出発って、どこかに行くつもり?


「そういえば陽登君には伝えてなかったですね。明日から三人で別荘に行きます」


別荘…………えっ!?

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