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第122話 ほぼ集合

眩しい日差しが小さな窓から差し込み、時のオカリナの魂の神殿みたいになっている。あそこのダンジョンって謎解き楽しいよね。闇の神殿より先に行ってしまう。つーか闇の神殿が怖すぎる。

夏休みになって一週間が経った。メイドさんと野球観戦に行ったり、お嬢様がゲームするのを見せられたりと嫌な日々が続く中、今日も外出する。


「準備は万端。しゃーね、行くか」


リュックを背負って部屋を出る。らんらんらん、蘭姉ちゃーん。いい加減コナン君の正体に気づこうな角ドリルさん。いつまで映画で「新一……?」ってシリアストーンで呟くの?

まぁそれはいいや。鼻歌まじりに一階へと下りて玄関へ向か……あ、


「どこ行くの?」


玄関のところで雨音お嬢様に会った。会ってしまった。同じ家に住んでいるから会って当然なのだが、うーむ嫌なタイミング。

長年ではないにしろ何ヶ月かの経験で分かる。こいつは俺の外出を許可しないつもりだ。一応抵抗してみるか。


「ちょっとコンビニ行ってきます」


「リュックを背負って?」


「リュックってポケットがいっぱいあるから万引きしやすいかなと」


「堂々と犯罪予告するな!」


「ごめんちゃーい。では行ってきま」


お嬢様の横を通り過ぎて靴を履いて玄関を出る。そのつもりが、通り過ぎる前に肩を掴まれてしまった。やっぱ駄目か。


「遊びに行くつもりでしょ」


「……そうですけど」


「誰と行くのよ」


それ聞いてくると思った。じっと見つめてくるお嬢様の目をしっかりと見返して俺は口を開く。


「一人だよ」


「じゃあ私も行く」


「ごめん嘘、木下さんと行く」


「絶対に私も行く」


木下さんの名を出すとお嬢様の目つきが変わった。あからさまに敵意剥き出すのやめてもらえます?

雨音お嬢様も来るのか……はぁ、ただでさえ面倒なことが控えているのにこいつの相手をするゆとりはないんだが。

よし、逃げよう。警備ロボに完敗した俺だがお嬢様一人ぐらい余裕で撒いてみせる。


「あっちに泉ちゃんがいる!」


「え、どこ!?」


お嬢様が後ろを振り向いた。チャンス、この隙に外へ出て全力ダッシュだ。

地を蹴り、腕を振るい、大きな扉を開こうと、


「騙されないわよクソ陽登」


体がガクンと揺れて足が止まる。リュックが動かないのだ。

……覚悟してゆっくりと振り向けば、眉間をヒクヒクと動かす笑顔のお嬢様がリュックを掴んでいた。


「以前も逃げられたことがあったからアンタの行動パターンはお見通しよ」


「あ、あははー、今日の日差しみたいに眩しい笑顔ですねっ」


「逃げんな」


「はい」


ニコニコと笑うお嬢様の額には青筋。笑顔だけど激怒しているのがヒシヒシと伝わってきた。

逃げられなかった……しゃーない、連れて行くか。


「分かったよ。よろしければお嬢様もご一緒しませんか?」


「仕方ないわね。付き合ってあげるわ」


そりゃこっちの台詞だっつーの。


「四十秒で支度しな」


「着替えてくるわ」


俺は玄関に座り込む。後ろから聞こえるのはお嬢様が自室へと向かう足音。

今のうちに逃走も可能……なわけないよね。だって奥の部屋でメイドさんが見ているから。こっちすげー見てる。

ニコニコと天使みたいに微笑むメイドさんの手には何かのスイッチ。そっか、下手に動いたら警備ロボさんが出動するんだね。電撃浴びたくないので大人しく静止を貫き通す。


「準備万端! さあ行くわよ」


待つこと三十分、お嬢様が戻ってきた。貴様、四十秒と言っただろうが。もうシータ連れて行かれたわ。飛行戦艦はラピュタへ旅立ったわ。


ちなみにお嬢様は夏らしい格好をしていた。水玉模様のTシャツの上から薄いパーカーを着て、短いホットパンツを穿いている。存分に晒された素足は眩しく、足のつけ根がたまらなくエロイ。足なげーな。あなたそれだと痴漢に遭いますよ?


「んじゃま行きますか」


「ところでどこに行くの?」


「河川敷でバーベキューだよ」











舌打ちしたくなる暑さの中、バスと電車を使って目的地に到着。

お嬢様の支度を待ったせいで集合時間はとうに過ぎており、俺ら以外のメンバーは既に集まっていた。


「遅いぞハル!」


こちらに駆け寄ってきたのは土方芋助。相変わらず没個性的な顔している。

芋助は怒っていたが俺の隣に雨音お嬢様がいることに気づくと即座にバックステップ刻んで驚嘆の声を上げた。


「うぇ!? にゃ、にゃんで天水しゃんがいるの!?」


「それはこっちの台詞よ。キモイから消えろ」


「俺が発案者なんですけど!?」


その通り。今日のバーベキューを計画したのは芋助だ。

俺としては芋助と遊ぶ気は全くなかったんだがな。それを思い知った芋助はとんでもない味方をつけた。


その人物は、


「ハルちゃん遅い~」


「会長を待たせるとは何様のつもりだ! 命を賭して詫びてみせろ!」


大激怒して声を荒げる金堂先輩は置いといて、その人物とは日清綺羅々だ。

芋助は日清に言われたら俺が動くとでも思ったんだろうな。クソが……実際そうなったからムカつく。

それにしても、いざ集まってみればなんとも異様な面子だよな。ほら見てごらん、早速お嬢様が日清にガンつけているよ。


「なんでアンタがいるのよ」


「ハルちゃんが誘ってくれたの。あなたこそどうして来たの?」


「陽登が私の使用人だからよ」


「理由になっていませんね」


バチバチィ!と激しい火花が散る。お前らホント仲悪いな。

日清はクールな表情を崩してはいないものの明らかな敵対心を出し、雨音お嬢様はヤンキーばりの睨みを効かして舌打ちを何発も放っている。


「な、なんとかしろよハル」


「そ、そうだぞ。君が仲裁に入りたまえ」


そして俺は野郎二人に挟まれて耳打ちされる。左右から不快な囁きと吐息が当たってフラストレーション爆発寸前、怒りのあまり超サイヤ人になるまである。


「ほっとけよ。当たらぬ蜂には刺されぬって言うだろ」


「凶暴な二匹のスズメバチがホバリングしているんだけど!?」


「会長はただの蜂ではない。女王蜂だ!」


おい一人ツッコミの着眼点間違ってるぞ。日清の崇拝者ならテメーが行けや。

威嚇し合う女二人、右往左往する野郎二人、どちらも勝手にやってろ。俺はまだ挨拶し終えていない奴がいる。その子は木の陰に隠れて震えていた。


「よっ、木下さん」


「あうぅ火村君……」


オアシスの天空竜、木下さんは安堵の表情を浮かべて駆け寄ってきた。

知らん奴ばっかで不安だったろ? おまけに女二人が険悪なムード、怯えさせてごめん。帽子の上から頭をポンポンと撫でる。


「またその帽子被ってるんだな。ちゃんと洗ってんのか~?」


「ち、ちゃんと手洗いで洗ってるよ」


「タグに記載された洗濯方法を遵守してんの? 男は黙って全部洗濯機にダンクだろ」


「わ、私は男じゃないもんっ」


「それもそうだな。あっはっは」


ここに到着してやっと笑えた。やはり木下さんは癒しですわぁ。この子と二人だけで良いんじゃね? その方が楽しいんじゃね? 最初はそのつもりだったんですが。


ともあれ全員揃った。メンバーを確認しようか。

元エリートニート・俺、カスの極み乙女・雨音お嬢様、小動物系最強女子・木下さん、クソ真面目副会長・金堂パイセン、アルミホイルラブレターの書き手・芋助、マイペース生徒会長・日清、以上だ。


やっぱ変な集団だ。お互いを知らない組み合わせもあるだろこれ。

果たしてバーベキューは成功するのか。とても不安である。


「アンタ消えなさいよ」


「ひ、ひうぅ」


「木下さんいじめんなアホ」

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