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第120話 実家からの帰り道

あー、食った食った。


「ごちそーさん」


「お粗末様。美味しかった?」


「普通」


「ハルちゃんいっつも普通って答える!」


ぷんぷんっ、とぶりっ子アイドルの如く両手を腰にあてて頬を膨らませる日清。それが許されるのは可愛い子だけなんやで。ブスがやると殺意が芽生える。あー、ブスいじめたい。ブスの泣き顔見てゲラゲラ笑いたい。

まぁ日清はブスじゃないけどさ。寧ろ美じ……なんでもねーっす。


久しぶりに実家の食卓で飯を食べた。日清が作った料理はどこか懐かしく、下手したら母さんの料理より懐かしくて……なんでもねーっす。やっぱこいつといると調子狂うなぁ。


「食器洗うから持ってきて」


「あぁ食器は俺が洗うから、とか言わねーからな」


「知ってる」


エプロンを着た日清に食器を渡す。当然俺は洗わない。だって面倒くさいじゃん。それに日清と肩並べて食器洗うとかごめんだね。

俺はリビングへ戻るとソファーに座ってテレビを点ける。何か面白い番組ないかなー。タレント名鑑みたいなキレ味鋭いのが観たい。最近なら水曜にある番組がそれに近いよね。あれはクズの俺から見てもかなりクズな番組だ。


「ハルちゃん先にお風呂入っていいよ」


「今テレビ観てるから後でいい……んあ?」


待て待て、英語で言えばウェイトウェイト。サラッと流れたが今こいつ変なこと言ったよな?


「風呂ってなんだよ。まさか泊まるつもりか?」


「そうだよ~」


そうだよ~、じゃねぇ。返事が軽すぎて宙に浮くわ。むむっ、例えツッコミ難しいな。フットの後藤さんマジ尊敬する、じゃなくて!

何を言ってんのテメェ? なんで泊まる気でいるんだよ。俺だって泊まるつもりないんだぞ。


「俺は屋敷に戻るしテメーも自分ん家に帰れや」


「せっかく帰省したんだから今日は泊まっていこうよ」


「お前は俺の母ちゃん? 母乳出るようになってから出直してこい」


「中学校の頃はよく泊まってたでしょ」


「それは昔の話だ」


中学時代のこと。帰りの遅い母さん、つーか帰ってこない母さんの代わりに日清が晩飯を作ってくれた。その流れで日清がここに泊まることが何度かあった。今思えばすごいことやっていたな俺ら。

だがしかし今は違う。俺らは高校生になった。いくら幼馴染でも年頃の男女が同じ屋根の下で夜を過ごすのは問題があると思われる。


「不純異性交遊の臭いがプンプンするぞ」


「えへへ」


「なぜ悦に浸ってるの? 俺に襲われてもしらねーぞ」


「ハルちゃんなら、いいよ」


「エロ漫画的展開かな?」


お嬢様やメイドさんなら拒絶反応示すのに日清には通用しなかった。いやいや普通嫌がるだろ。なんで寧ろ乗り気なんだよ。乗り気……はっ!?


待てよ、英語で言えばウェイトよ。

俺は首を捻って日清を見る。元から高かった背はさらに伸びてエプロンがちんちくりん。俺ぐらいの身長の日清は俺の視線に気づいて「ん?」と言ってこちらを振り返る。

……こいつ、俺を襲うつもりじゃないだろうか。そんな気がして、そうなったら疑念は深みを増していく。

逆レイプの可能性が出てきた。襲われるのは俺の方なんじゃ……!?


「帰る」


「えー、泊まっていこうよ」


「俺の初めてを捧げるつもりはない」


「何言ってるの? ハルちゃん頭おかしいよ?」


知ってる。


「飯食っただけで十分だ。泊まる必要ねーよ」


「え~」


「え~、じゃない。食器洗ったらさっさと帰り支度しろ。つーか俺が洗う」


遅くなったらマジで泊まることになりかねない。立ち上がって日清の横に並んで食器を洗う。

俺の童貞がちょちょいのちょいされる前に食器をちょちょいのちょいで片付けなくては。うおおおぉ使用人スキル発動!


「むぅ、ハルちゃんならいいのに」


「アホか。生徒会長が不純異性交遊しちゃ駄目だろうが」


「じゃあ生徒会長辞める」


「マジでアホなの!?」


くだらないこと言ってないでさっさと帰るぞオラ!

食器を洗って拭いて棚に戻してはい完了。テレビを消し、日清の手を引っ張って家を出る。


「ぜぇぜぇ、二度と来るかこんな家!」


「実家だよ?」


「だからだよ」


クソが、もう夜じゃねぇか。補導される時間帯になる前に帰るぞ。俺個人としては警察の厄介になって天水家に迷惑をかけるのは魅力的だが今は日清がいる。さすがに生徒会長を補導させるわけにはいかねーわ。

忌々しい火村家に背を向けて俺は歩く。日清を引っ張りながら。


「ふふ、冗談だったのにハルちゃんムキになりすぎ」


「冗談だったのかよ。鼻毛植えつけるぞテメェ」


「着替えやコンタクトレンズの容器ないもん」


「そういや、お前眼鏡やめたんだな」


中学生の頃は眼鏡をかけていた日清。イメチェンですかコノヤロー。


「イメチェンしたんだよコノヤロー」


当たっちゃったよ。さらにはコノヤローの部分まで当てられた。何お前エスパーなの? 初代の環境では最強と称されたエスパータイプなの? あくタイプに殲滅されてしまえ。


「ちなみにハルちゃんをタイプで表すならフェアリー・あくだと思う」


「だから思考読むな。つーかフェアリーって完全に童貞のこと言ってるだろ!」


この俺に下ネタで返してくるとは中々やるじゃねぇか。さすが幼馴染だな。

故にムカつく。釈然としない。こいつに一泡吹かせてやりたい欲が溢れる。そうだな、下ネタが通じないなら他にもやり方があるさ。見せてやる。ラノベの主人公よ、オラに力を。


「眼鏡やめたのかー……俺、キラちゃんの眼鏡姿が好きだったのに」


決まった、女子をクラッとさせるラノベ主人公みたいな台詞を吐いてやったぜ。ふっふっふ、これを食らえば、


「え~、コンタクトの方が似合っていると思うんだけどなぁ」


あれ? 全然効いていないんですが?

ラノベならヒロインがボンッと言って顔が真っ赤になって「な、何言ってるのよ馬鹿っ」とか言うはずだよな?

所詮は空想の物語だけの話か。もしくは俺が主人公の器ではなかったから。まぁ主人公ならドラゴン・はがねタイプだよな。


「まーた黒歴史作っちゃったわ」


「ハルちゃんはニートだったことが一番の黒歴史だよ」


「伝説の間違いだろ」


とりあえずお泊まりは回避できた。それを喜ぶべき。

後は帰るだけだ。月夜に照らされた道を歩いていこう、そして手はもう握らなくていいから離そう。


……離せよ馬鹿。


「ハルちゃん送ってくれる?」


「その前に手を離せ」


「買い物行った時も繋いでたでしょ。それに暗くて怖いから繋ご?」


「上等だ。握り潰してやる」


「そう言って優しく握ってくれるハルちゃんなのでしたっ」


……さっさと帰るぞ。

夜道、手を繋いで歩く。やっぱりこいつ苦手だ、そう思う一方でこいつの前ではツンデレになっている自分にため息が出た。






「ここでいいだろ」


日清の家は歩いて五分程度だった。近いね。よっ、ご近所さん。


「ありがとっ。泊まっていく?」


「遠慮させてもらいますー」


「それ誰かの真似?」


俺の上司の真似。語尾を伸ばして敬語を使うのがポイントなのですー。

ちゃんと生徒会長様を送り届けやった。金堂先輩も喜んでくれることだろう。そういやあの人は一人で買い出しに行って可哀想だったな。今度会ったら励ますか。まぁ次に会うのは二学期だけど。


「じゃあな。夏休みも生徒会の仕事やってろバーカ」


「じゃあね。夏休みは遊ぼうね」


「いやお前と遊ぶ予定ねーから」


「え? ハルちゃんのお友達の土方君が誘ってくれたよ?」


「……あぁクソ、理解したわ」


あのジャガイモ野郎、やってくれたな。俺が誘わなかったから日清を通じてアポを取る算段か。クソがあああ。

落ち着け、ビークール陽登。だからどうしたんだ。芋助が日清を味方につけようが俺には関係ない。どちらも無視すればいいんだ。


「私、待ってるから」


「……知らんし」


手を振りほどく。日清の何か訴える顔とか見ませーん。

さあて、やっと帰れる。超豪華なお屋敷の物置部屋が俺を待っている~。


……後ろから視線を感じる。絶対日清だろ。早く家の中入れよ、何こっち見てんだよ。

振り返りたいが、それは負けな気がするので決して振り返らない。俺は大股で歩きながら駅を目指す。後ろの視線は気にしない。


ちっ、本当やってくれたな芋野郎。あいつだけは許さない。うんこ投げて唾吐きかけて鼻毛と陰毛を植えつけてやる。それが俺に出来る最高の嫌がらせ、つまりジャスティス。ジャスティス陽登があなたの街へ!


「どうしたものかねぇ……あ、電話」


ブルブル震える携帯を一旦股間に当てて快楽を得てから画面を見る。そこに映されていたのは『天水雨音』の名前。


「もしもし~、お嬢様が電話するとは珍しいですね」


『アンタ今どこにいるのよ!』


耳がキーン。開口いきなり大声かよ。鼓膜破るつもりですか。


「今から帰るところですよ」


『早く帰ってきなさいよ』


「なんで怒ってるんだよ。ちゃんとメイドさんには連絡入れたぞ」


聞こえてくる声は苛立っている。声だけでどんな心境か分かる使用人の鑑ですわぁ。

ま、こいつは分かりやすいし、そもそも使用人なら主人を怒らせるなって話ですわな。


『私の方が先に帰っているってどういうことなのよ。寄り道するな!』


「お言葉ですが、寄り道のない人生なんて味気ないですよ」


『一生をニートで過ごすのが夢なアンタの方が味気ないわよ!』


確かに。ところでお嬢様は電話でもツッコミにキレがありますね。俺はあなたにツッコミたいですよ、下ネタ的な意味で。あ、そうだ下ネタだ。


『ちょっと陽登、聞いてるの?』


「おっすオラ童貞。趣味はティッシュをカピカピにすること!」


『い、いきなり何言ってるのよ馬鹿ぁ!』


素晴らしい反応だ。きっと電話の向こうではお嬢様が顔を赤くして唸っているんだろうな。

やったぜ、女の子を赤面させた。俺もラノベ主人公の仲間入り! うん、違うよね。


「今すぐ帰りますよ。別に電話しなくてもいいだろ」


『……だって』


「だって?」


『泉ちゃんについて話したい』


はあ? 可愛い従姉妹を自慢したいから早く帰ってこいとおっしゃっているんですか? 

なんつー自分勝手な奴……あ、それが天水雨音だったな。ホント、相変わらずワガママで理不尽なお姫様だなこいつ。


『陽登聞いてるの? 早く帰ってきなさい!』


「へいへい、了解しましたよ」


『というかこのまま電話で話せばいいんだわ。私って天才ねっ』


「ソウデスネ天才デスネー」


『ねぇねぇ聞いて陽登っ、泉ちゃんの寝顔って超可愛いのよ!』


暗い夜道を一人で歩く。隣には誰もいないが、俺の耳元はずっとうるさかった。

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