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第12話 二日目・芋助リベンジ

「おいハル。ハールくーん! 起きなさい!」


誰かが肩を揺する。人の睡眠を邪魔しやがって。

揺すられた左肩も「あ゛あ゛ぁんん!?」とかなりキレているぞ。昨日の右肩よりキレてる。


「おい誰だ人の睡眠を妨げるクズ野郎は」


「俺だ、芋助だ!」


顔を上げればニッコリスマイルの芋助がいた。舌を出して突き出すピースサインがこの上なく腹立たしい。


「すげーな。そんなセンスのないクソ名前を恥ずかしげもなく叫べて」


「両親がつけてくれた名前だぞ、俺は感謝している」


「とりあえず全国にいる土方の中でお前がワーストトップでダサイことを自覚しろよ」


言いたいことはそれだけか。なら俺はまた寝る。

だが芋助は寝かせてくれない。またしても肩を揺すってきた。


「あ゛あ゛ぁんん!?」


「は、ハルがキレた」


「いや今のは左肩がキレただけ」


「左肩が喋ったの!?」


わぁ、こいつぁ驚き世界ビックリ人間だ!と海外番組のMCみたいなリアクションをする芋助。

こいつと絡むのすげー疲れるわ。さっさと用件を尋ねるか。


「で、何か用か?」


「一緒に飯食おうぜ!」


ああ、もうお昼休みなのか。

寝ていてばかりで今何時か分からなくなっていた。


「なぁ今日も学食付き合ってくれよ~」


「分かった分かった、行くからクネクネするな気持ち悪い」


芋助は腰を左右に振りながら上機嫌で教室を出ようとする。俺もそれに続いて、


「火村、待ちなさい」


声をかけられた。あ、これ昨日もあったぞ。

うわぁ、逃げたい。でも逃げたら後でうるさいんだろうなぁ。

ここは大人しくお嬢様に応答すべきだよなー。はあ、仕方ない。


「よっしゃ芋助、あの太陽に向かってゴーだ!」


「よっしゃ任せろ、昔ギリシャのイカロ~スは~蝋で固め~たー鳥のはーね~!」


やっぱ嫌だ。お嬢様に反応するのだりぃわー。

両手を広げて芋助は廊下を駆け抜けていく。こいつが馬鹿でホント良かった。

めんどいので逃走しまーす。






相変わらず食堂は混んでいて見事に舌打ちが止まらない。

お前らそんなに学食を利用したいのか。大人しく弁当かパン持参して教室で食ってろカス共。


「芋助、オススメは?」


「今日の気分だと親子丼か唐揚げ丼が良いぞ」


やっぱお前の今日の気分なんだな。つーか親子丼は昨日食ったわ。

迷って時間を食うのも嫌なので昨日のオススメ麺定食にしておこう。


「ババア! ねえババア! 麺定食一つババア!」


「おい誰だ臆面もなくババアを連呼してる奴は!?」


ババアが怒り狂う。食堂がより更に猥雑のパニック状態になるが、ちゃんと麺定食は来たのでコッソリ回収してその場を離れる。

空いていたテーブル席に座って芋助を待つ。未だ学食のおばちゃんは激昂しており、怒りの咆哮がここまで轟く。


「ぜぇ、ぜぇ、やっと買えた」


「おせーぞ。麺が伸びるだろうが」


「いやなんか今日のおばちゃん荒れていてさ。麺定食頼む奴全員睨みつけてきてたぞ」


誰のせいだよ全く。ババアのことババアって言っちゃ駄目でしょー。

いいから早く食べようぜ。いただきます。


「麺定食はどうだ? 美味いだろー?」


「普通程度に美味い」


「ハルって素直に褒めないよな。ジャッジが厳しい」


そうか? 別にグルメってわけじゃないから何食べても大体美味いんだよ普通程度に。さすがに今朝の飯には驚いたけど。飯なんて不味くなければ良いと思う。


おばちゃんが顔真っ赤で暴れ狂う受け取り口を眺めながらうどん麺をすすっておにぎりを頬張る。賑やかで良いねー。お、ツナマヨだ~。


「なぁハル。実は頼みがある」


俺に頭を下げてくる芋助。この光景、昨日も見たぞ。


「なんだよ」


「天水さんと話す機会をくれぇ」


また雨音お嬢様かよ。

昨日で懲りたはずだろ。あいつに話しかけてもロクなことにならないって。


「昨日は失敗して天水さんに良くない印象を与えてしまったじゃん?」


良くないっつーか最悪の印象な。結婚式の友人スピーチで下ネタ言うくらいの悪手だったからな。


「昨日のは誤解なんだ。ごめんなさい。とりあえずお友達から。要はこーゆーこと言いたいと?」


「イエス! そして最後にはお付き合い……くぅ~!」


こいつには反省と改善の意識はないのか。

話しかけるな、とお嬢様に言われたことを忘れているのかな?

まあいいさ、丁度良い実験台だ。お嬢様の友達作り、その第一歩となるぜ。

ちなみに朝は頑張ってみると決意していたが今のところ何もやっていません。俺自身も芋助以外に話し相手はおらずお嬢様共々机に突っ伏してました。


「さぁ行くぜイカロス! 美しい太陽を目指して翔び立つぜ!」


壮大な死亡フラグを立てつつある芋助だった。






食べ終わって教室に戻れば真っ先にやって来た雨音お嬢様。


「また無視したでしょ!」


本日も怒り心身だ、いやーいつも怒ってますね。


「いやだからしてないって。聞こえなかったんだよ」


「うるさい使用人のくせして私に逆らうなっ。謝りなさいよ!」


これまたかなりご立腹のようだ。

クラスメイト達もこちらをチラチラ見ている。この中で謝るのか……嫌だなぁ。恥ずかしい。


「まぁまぁお嬢様、落ち着いて」


「謝れ! 私に許しを乞え! 火村の馬鹿!」


最後には馬鹿呼ばわりだよ。このヒステリック女め。

めんどいので芋助を投入、を今すると昨日の二の舞になるのは目に見えている。

もう少しお嬢様をほぐす必要があるな。あ、ほぐすってのは別にいやらしい意味ではないからね。


「えーと、お嬢様を無視してすいませんでした。どーかお許しをー」


頭を下げて謝罪の言葉を吐き出す。これでいいんだろ?


「気持ちがこもってないけどまぁいいわ」


「で、俺に何か用ですか?」


「ふぇ?」


俺に何か用があるから話しかけてきたんだろ?

今なら聞いてやるから早く言えよ。


「え、えっと……」


あ? なぜか歯切れの悪いお嬢様。

何か言いたげなくせして口をもごもごさせて言おうとしない。


「なんだよ」


「っ、今日はもういいの。それより明日は絶対に無視しないでっ」


はいはい分かりましたよ。

ったく怠いな、っと? 後ろで誰か引っ張ってくる。


「おいハル、そろそろ俺を混ぜてくれ」


芋助が耳打ちをしてきた。不快な息が耳に当たる。

そうだな、そろそろポテトを投入するか。今日は良い具合に紹介してやるよ。


「話変わるけどお嬢様に謝りたい奴がいるんだ」


「……」


「昨日は緊張して上手く喋れなかったけどこいつはお嬢様と友達になりたいんだってさ」


そう言いながら芋助を俺の横へ立たせる。ほら今日は緊張すんなよ。


「まぁ仲良くしてあげてよ。おらお前もなんか言え」


「あ、あの、昨日はすいませんっでした。ぼ、僕とお友……達になっちぇください!」


息継ぎのタイミングは最悪だったけど上手く言えた方だと思うぞ。最後は少し赤ちゃん言葉出たが、まぁ及第点だ。

昨日よりは圧倒的に好印象だ。やったね芋助君。


「な、こう見えて良い奴だから……」


「キモイ」


……え?


「話しかけないで。近寄んな」


お嬢様はキレていた。昨日と同じ顔をして芋助をゴミのように見つめている。

不快感がここまで伝わってくることがあるのか、あまりの空気の悪さに胃がキリキリする。


「ウザイ、二度と私に話しかけないで」


「ごふっ」


芋助の体が後方へ吹き飛んだ。勢いは強く、後ろの壁に激突して倒れ、そのまま芋助は動かなくなった。

いや、今のどんな物理エネルギーが働いたの? お嬢様のキツイ発言が砲弾となって芋助を吹き飛ばしたとか。んな馬鹿な。


「火村」


「え、あ、はい」


直後、ビンタが俺の頬を襲った。

バチンッ!と耳覆いたくなる鋭い音が鳴り響き、その後から頬を突き刺す激しい痛み。……え、痛い。


「アンタみたいな馬鹿な使用人は初めてだわ」


「いや、その……」


「消えろ。アンタも話しかけるな」


こちらが何か返す間もなく雨音お嬢様は自分の席に戻ってしまった。

教室の後ろに残されたのは俺と気絶した芋助。

空気と雰囲気は最悪。昼休みなのに誰一人として喋らず重苦しいムードが教室中に満ち満ちる。


えぇー……ムカつくんですけど。何だ今の態度、喧嘩売ってんのか。

暴力女とか現実にいたら最悪だな。マジで許さねーぞクソ女ぁ。



……またあの表情を見たな。

あいつ、どうしてそんなに一人ボッチになりたいんだよ。

だってお前絶対、友達欲しいだろ……?


「ハル……お、俺は一体……?」


「もう休め芋助。所詮は蝋の羽根だったんだ」


「そうか、燃え尽きて俺は落ちたのか……」


上手いこと言ったみたいなノリだけど全然上手くねーぞ俺ら。

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