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第119話 実家

火村家。社畜なだけあって金はあったらしく、庭付きで二階建ての見事な一軒家さ。まっ、家族で団欒したことなんて数回しかないんだが。

こんな家、天水家の馬鹿デカイ屋敷や骨董品より無駄だ。今すぐにでも燃やすか爆発してやりたい。クレしんの野原家みたいに爆発させようぜ。


庭は雑草が生えまくり、リビングのテーブルは埃を被っている。何より、家の中はひんやりと寒くて静かで、あの頃と変わっていない。


「変わってないね」


「当たり前だろ。帰るか」


「せっかくだしお掃除しよっか」


俺の話はガン無視か。しかも掃除って、なんで俺が自分の家を掃除しなくちゃいけないんだよ死ねよ。掃除するぐらいだったら爆発させるわ。誰かデイダラさん穢土転生してー。芸術は爆発だ!をやってもらおう。

しかし俺の願いがデイダラさんや日清に届くわけがなく、ましてや逃げることも出来ない。はあ……めんどくせー。


「雑巾や掃除機はどこにあるの?」


「こっちだ」


押入れを開けて掃除道具一式を取り出す。すぐに気づいた。掃除機の位置、新しい雑巾、以前俺が使った時と少し違う箇所がある。

……あのクソババア、やるなら毎週やるぐらいの気概を見せろや。それが無理なら最初からするな。


たまに母さんが帰ってきていることが分かったところで俺は何も思わない。新品のタオルを用意してまずはテーブルや棚を拭く……って、なんだよ。

日清が隣でニコニコと笑う、俺は大きく舌打ちをして睨みつける。


「ハルちゃん手際良いね」


「……そういう諸説もあるかもな」


「素直じゃないなぁ」


「ウザイ。……別に、馬鹿みてーに掃除していた頃の名残だろ」


小学生の頃は掃除に洗濯、あらゆる家事をやっていた。両親の負担が少しでも減らしたいという健気な時代が俺にもあったんですよ。今となっては黒歴史だがな。え、ニート生活の方が黒歴史だろって? そういう諸説もあるよね。


とにかく、やるならさっさと終わらせるぞ。日清に道具を渡して俺は掃除を始める。

テーブルを拭いて、雑巾で床を駆け抜け、掃除機をかける。今も屋敷で散々やっているおかげで何気に掃除スキルが上がっていたらしく、自分でもビックリするくらいテキパキと掃除が進む。


「ニートの風上にもおけねぇ……」


「ねぇねぇハルちゃん」


「テメーはなんでアルバム持っているんだよ」


日清はソファーに座って卒業アルバムや写真を見ていた。何そのリラックスモード、お前が掃除しようって言ったんだよな? そのお前がなんで堂々とサボっているんだよ!


「真面目ちゃんが随分とふざけた真似をしやがって……!」


「ハルちゃんも一緒に見よう」


「嫌だ。思い出に浸るくらいなら羊水に浸るわ。胎児ニートとして一生を過ごすわ」


「それ人生と呼べるの? あと胎児ニートって単語の破壊力すごいね」


中々良いツッコミ入れるじゃん。さすが幼馴染なだけあっ……ちっ、うるせぇ黙れ。

日清を無視して掃除をする。が、日清が俺の服の端をつまんでクイクイと引っ張ってきた。一緒に見ようってのが伝わってきてムカつく。


「小学生のハルちゃん可愛いよっ」


「だから見ないから。テメーがパンツ見せたら見てやるよ」


「はい」


「スカートめくるな!」


ピラッ、じゃねーし! 女の子が躊躇いもなく下着を露出すんなよ……。日清の思わぬ行動に動揺が隠せない。水色だった……じゃなくて!


あ、分かった。俺ってセクハラや女子の嫌がること言うけど逆に堂々と見せられたら狼狽するんだな。

なんだ、ただの口だけ童貞野郎じゃん。あぁ!? 誰が童貞だとゴラァ!


「見せたよ」


「……クソ日清」


今のクソ日清は日清綺羅々を罵っただけで、有名カップ麺で有名な某会社をディスったわけではありません。そこ大事。

掃除機を置いて、俺はソファーの端に腰かける。日清との距離はしっかり空けておく。


でも無駄だった。即座に日清が移動して距離はゼロになった。くっつくな暑苦しいだろうが。

……日清と肩を並べ、一つのアルバムに頭を寄せる。


「これ運動会の時の写真だね。ハルちゃん一生懸命走っているよっ」


「いやこの時ゴールテープの奥で母さんが股開いて『羊水に飛び込んできなさい!』ってやっていたから頑張っただけだから」


「ハルちゃん羊水ネタ好きなの?」


嫌いではない。


「まっ、母さんが股開いていたのは嘘だけどな」


「ハルちゃんのお母さんはそんなことしないよ~」


「そもそも運動会に来てねーよ」


親父と母さんが運動会を見に来たことはなかった。父兄参加の競技で誰を応援すればいいか困惑したわ。

運動会だけじゃない。学芸会も授業参観も、全て不参加だった。挙句の果てに卒業式も来なかった。卒業式に至っては、親父は来ないと確定していたぐらいだ。


だって死んだのだから。


「やっぱクソみてーな思い出ばかりだな」


「あ、ハルちゃんが写ってる」


「お前マイペースだな。俺の悲しい心情も無視するのかよ」


日清が肩を寄せてアルバムを見せてくる。距離が近い。俺らはカップルか。


「遠足の写真だぁ」


「懐かしいな」


「ハルちゃんと迷子になったんだよね」


「ちげぇよ、お前がどこか行ったから俺が探してやったんだろうが」


「一緒に怒られたよね~」


「今思えば俺が怒られたのは納得がいかない」


俺は迷子になった日清を探しに行ったのだから寧ろ褒められる立場のはずだ。まぁ見つけた後こいつと遊んでいたから怒られたんだけどな。


「小さい頃のハルちゃんは目がキラキラしてるね」


「まるで今は腐っているみたいな言い方だな」


「あってるでしょ?」


「大正解だ」


「あ、中学のアルバムも見ようよ」


「へいへい」


小学校のアルバムを置いて中学校の卒業アルバムを取り出す。おぉ、新品みたいだ。まぁ一度も開いてないし、もらったのは一年前だもんな。


「おい見てみろよ、俺の目腐ってやがるぜ」


「入学式の時から腐っているね」


「我ながら引くわ」


入学式、自然教室、文化祭とページをめくっていく。俺が写っている写真はもれなく全て目が腐っていた。

おいおい、もっと良い写真なかったのかよ。え、採用していない写真はもっと酷いって? それ分かるー。だって俺カメラ向けられたら中指立てていたもん。カメラマンいつも青筋浮かべていたなぁ。


「ほら私とハルちゃん一緒に写ってる」


「創作ダンスの時か。俺の丸々三分間ホホホイする案をお前が不採用にしたよな」


「これも一緒に写ってる~」


「職場体験のやつか。パン屋に言って生地でうんこ作ったら超怒られたわ」


「あ、これも~」


「修学旅行ね。人が気持ち良く大仏の膝で寝ていたのに起こしやがって」


あれ? 俺ものすげークズじゃん。いやそうじゃない。そこじゃなくて、


「やたらと俺ら一緒に写っているよな」


「だっていつも一緒にいたもん」


「それはキラちゃんが俺につきまとったからだろ」


毎日俺にからんできやがって、だから俺らは周りから冷やかされたんだよ。そりゃいつも一緒にいたら付き合っていると思われて当然か。


「あっ、これ文化祭の写真!」


「げ、俺も写ってるじゃねーか……」


写真に写る村人の格好をした俺の姿。これはよく覚えている。小道具や照明の仕事がしたかったのにキラちゃんが無理矢理村人Bの役にしたんだ。俺が寝ている時に勝手に決めやがって……そのせいで放課後居残って練習させられたわ。


「ハルちゃんったら本番で突然下ネタ言って一度幕が下りたよね」


「そしたらすぐにキラちゃんが腹パンしてきたよな」


「私がハルちゃんを殴ったのはあの一度だけだよ」


「マジか。お前超寛容じゃん」


散々やらかしたのに殴られたのは一度だけか。そう考えるとキラちゃんは優しい。雨音お嬢様とか俺が何も悪いことしてないのに殴るんだぜ?


「あれはハルちゃんが悪いんだからね」


「見に来るはずだった母さんが仕事で来れなかったから拗ねてやったんだよ。よって俺は悪くない、母さんが悪い」


「ハルちゃんのお母さん忙しいから仕方ないよ」


「忙しい、ねぇ……じゃあそのうち母さんも死ぬかもな」


「こらっ、縁起でもないこと言わないの」


「いや割と現実になるかもだぜ」


「? どういうこと?」


お前は知らなくていいよ。ただ、いつか母さんも親父と同じ末路をたどることになると予感しているだけさ。

もしそうなったら、その時、俺は……


「まっ、今はどうでもいいわ。それより腹減ったわ」


「私もお腹減ってきた」


「じゃあ帰ろうぜ」


「私が作ってあげるね」


「なんでやねん」


ツッコミを入れたがキラちゃんには届かなかった。立ち上がると、俺の手を引っ張って「今から買い物に行こっ」と言ってきた。

おいおい正気ですか。まさかここで食べるつもりじゃないだろうな?


「久しぶりに作ってあげる~」


「キラちゃんに作ってもらう必要ねーよ。帰ったら一流シェフが豪華ディナーを作っ」


「えへへ」


「あ? 何笑ってやがる」


「ハルちゃんがキラちゃんって呼んでくれるから嬉しいの」


「……」


アルバムを見ていたせいで気分が昔に戻っていたらしい。本当、我ながら引くわ。恥ずかしい、何これ結構恥ずかしいぞ!?


「買い物に行くぞ日清」


「え~、キラちゃんって呼んでよ~」


「日清行こうぜ」


「素直じゃないなぁ」


「知ってるだろ」


「うん知ってる」


ニコッと笑うキラち、日清に目を背けて俺は玄関へと向かう。日清はすぐに追いついて、俺の手を握る。やめろ、と言ってもこいつは言うこと聞かないか。


大きなをため息一つ、俺は日清と肩を並べて買い物へと向かった。

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