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第117話 休日の昼下がり

薄い雲から太陽がチラ見している休日の昼下がり。七月の半ば、曇り空のおかげで気温はさほど高くなく、降水確率は低くて夏にしては外で過ごしやすい日だ。

ベンチに座る俺の視界には滑り台や砂場で遊ぶ子供達、それを見守るママ達の姿が映っている。


ここは公園。子供連れの親子で賑わっている。微笑ましい光景だね、日差しは強くないのに眩しいよ。クズの俺じゃ目が眩んでしまう。

じゃあなんでここにいるんだよって話だ。それは砂場にいる二人のせい。


「トンネルできたー!」


「泉ちゃんすごいっ!」


仲良く遊んでいるのは泉ちゃんと雨音お嬢様。今日はお昼から泉ちゃんが遊びに来た。お外で過ごしやすいから公園に行ってみてはどうですか、とメイドさんの提案を即採用したお嬢様によって俺も無理矢理連れて来られた。

毎度のことながら俺に拒否権はなかった。いや頑張ればエスケープ出来たかもしれないが、今日は泉ちゃんがいる。小さな天使にせがまれたら断れない。


「陽登お兄ちゃーん」


「おーう」


「陽登! 早く来なさい!」


「あ?」


天使が笑いかけてきたので微笑み返し、般若が睨んできたので睨み返す。よっこらしょっと、行きますか。


「お城作ってんの?」


「うんっ」


「見たら分かるでしょ馬鹿陽登」


「お前は黙って工事進めてろ」


にしても金持ちのお嬢様が二人、公園にいる姿は貴重なのかもしれん。一般市民に混じって普通に遊んでいる。

談笑しているお母さん方に言いたいね、ここにクソ金持ちの女がいますよー!って。安い肉食ってるお前らと違ってこいつら高級霜降り肉食べているよー!って。


「陽登お兄ちゃんも手伝ってっ」


「任せろ。ファンタジー感溢れる巨城作ってやる」


トンネル貫通で満足する俺ではない。もっと大きくて立派で大砲を撃ちそうな城を築いてみせよう。

意気込んで砂場にしゃがみこむ。すると隣のお嬢様が俺を小突き、手に持っているカメラを押しつけてきた。


「アンタは写真撮りなさい。泉ちゃんを撮りまくるのよ」


カメラマンか。まぁいいけど。

砂のお城で遊ぶ泉ちゃん、ついでにお嬢様もセットで写真を撮る。幼女を撮影するって犯罪臭するな。でも俺なら通報されない。だって若くてイケメンだから。イケメンで良かったー。


「何カメラ持ってニヤニヤしてるのよ気持ち悪い」


腹パンされた。どうやら俺は気持ち悪い笑みを浮かべていたらしい。え、それって通報されるやつじゃん。悲報、火村陽登はイケメンじゃなかった……!?


「ほら泉ちゃんっ、一緒に写真撮ろう~!」


「はいではいきますよ。はいチー」


「陽登お兄ちゃんも一緒に!」


はいチーズのチーで泉ちゃんに止められた。はいチーって麻雀でチーしたみたい。鳴くのあんまし好きじゃないんだけどな。


「別にこいつは写らなくていいでしょ泉ちゃん」


「やだっ、陽登お兄ちゃんも一緒!」


嬉しいこと言ってくれるね。俺の腕にしがみついて目を潤ませる泉ちゃんにキュンキュンする。一方、雨音お嬢様は不服そうな顔。だが残念、お前は泉ちゃんの言うことに逆らえないよなぁ。

てことで近くにいたお母さんに頼んでカメラを渡す。おい庶民、さっさと撮れ。手ブレしたらお前のガキぶん殴る。と言いたいが、


「お願いしまぁす」


乱暴な発言しちゃ泉ちゃんの教育上よろしくないので丁寧に頭下げてお願いする。俺も丸くなったものだ。


「それじゃあいきますね、はいチーズ」


砂のお城を背景に、俺とお嬢様の間に泉ちゃんの形でピースサインを取る。ママさんがシャッターを押してパシャリ。

柄にもなくピースしちゃった。ちょい恥ずかしい。


「うふふ、可愛らしい親子三人ですね」


カメラ持ったお母さんがニコッと笑えばお嬢様の顔が一気に真っ赤に染まる。


「ち、ちちちちち違うわよっ、なんで私が陽登と……!」


落ち着け、本気で言っているわけねーだろ。他のお母さん方と磨き上げた公園トークのノリだよ。何顔真っ赤にして否定してんのさ。

お礼を述べてカメラを返してもらう。確認したら綺麗に写っている俺ら三人。ははっ、こんなクソ若い子持ちの夫婦がいてたまるか。


「私と陽登が夫婦……っ~!」


「さ、固まっているお姉ちゃんは放っておいてお城作ろうか」


「うんっ」






その後も仲睦まじく遊んだ。久しぶりに滑り台やブランコに乗った。童心に戻れたよ、と十代のくせにしみじみと思う。


……まぁ、実際懐かしいよ。こういった遊戯で遊んでいた頃は。


「それじゃあ私は泉ちゃんのお家に行くわ」


「行ってら」


遊び疲れたので今から一緒にお風呂入ってお昼寝するらしい。当然俺は不参加。いや行っちゃ駄目だろ。お昼寝はギリセーフでも一緒にお風呂はアウト。いつもなら悪ノリで俺も行く、と言うが泉ちゃんがいるからね。泉ちゃんに悪影響与えちゃいかんよ。


なので見送る。高級車に乗ったお嬢様二人。そのうち一人は窓から顔を出して号泣している。


「陽登お兄ぢゃんバイバイ……っ」


いやだからなんで別れる時いつも大泣きしてんだよ。また会えるだろ。この調子じゃ卒園式の時はどうなることやら。泣きすぎて脱水症になるんじゃね?


「お兄ぢゃん……!」


「泉ちゃん、作画尾田先生やめな。お嬢様、またお屋敷で」


「うん」


「素直な返しだな。おもんねーぞ」


「分かった訂正するわ。アンタ帰ってこなくていいから」


天使泉ちゃんと悪魔お嬢様を乗せて車は発進した。じゃあね、楽しかったよ。ゴロゴロする方が楽しいけどな!


もうすぐ夕方。今から帰ってゴロゴロするのも悪くないがせっかく外出したことだし少しブラブラするか。

俺ってゴロゴロかブラブラのみか。ゴロブラだな。コロプラみたい。


「あら奥さんとお子さんはどうしたの?」


「オナラぷっぷ~」


「!?」


先程写真撮ってくれたママさんに放屁して公園を後にする。さて、いつかの時みたくラーメン食ったり立ち読みしたりしてブラブラしようかな。


とりあえず駅へ向かおうと歩く。

すると……え、あれ…………げっ、知っている奴が前から歩いてきている。しかも面倒な奴。ここは……忍法・隠れ蓑の術!


「……何をやっている」


「あ、バレた?」


「ガードレールにへばりついただけで見つからないと思ったか」


「ヤバイヤバイ手がプルプルしてきた。落ちたら車道に出ちゃうよぉ」


「ええいっ世話がかかる!」


車道に落ちかけた俺を引き上げてくれたのは、金堂先輩。ウチの学校の生徒会副会長だ。


「あざした。助かりましたわー」


「……なぜ隠れていた」


「テメーと会いたくなかったから」


「助けた人に対して失礼すぎないか!?」


「なんで制服なんです? 馬鹿なんです?」


副会長は学校指定の制服を着ている。今日は休日で学校はないはずなのに、もしかしてこいつ常に制服を着るタイプのアホか?


「な、何を言っている。僕は生徒会副会長、生徒の模範生となるべき存在だ!」


あぁビンゴ。アホだ。クソ真面目な性格め。

げんなりする俺をよそに副会長君は俺を睨んでくる。おいおいオフの日ぐらい肩の力抜けよ。


「火村陽登、なぜここにいる」


「散歩。そちらは?」


「ふふっ、暇人め」


「じゃあな」


馬鹿にしてきたので踵を返して去る。すると後ろからアホの慌てるような大声、同時に俺の肩を掴んできやがった。


「離せよウゼェ」


「ぼ、僕がどうしてここにいるか知りたいんだろ?」


「挨拶の定型文として尋ねただけだ。それをお前が崩したからもういい。じゃあな」


「待て、ちょ、待つんだ教えるから!」


「いやどうでもいいよ」


「実は今から会長と会うんだ。生徒会の備品の買い出しの為にな」


拒否したのに副会長は鼻高々にに語りだした。そしてマジでどうでもいい内容だった。

なんでこの先輩は自慢げなの? やっぱ馬鹿なの? 日清と一緒に買い物とか、俺だったらガードレールから車道へ飛び降りるくらい嫌だぞ。


そうだな、ちょっとカマかけてみるか。


「金堂先輩、一ついいですか?」


「なんだ?」


「日清のこと好きだろ?」


「なっ、ななななななななななななな!?」


沸騰したヤカンみたいに耳と鼻から湯気を出して顔を真っ赤にする副会長。分かりやすっ、顔に出すぎ!


「なるほどねー。日清のことが」


「ち、ちちちちちちちちちち違うぞ! ぼ、僕は、け、けけ決して、そ、それは確かに会長のことは誰よりも尊敬しているし、その、ひ、人としても嫌いじゃないし、す、すき、だし、でもそれはあくまで会長のことを尊敬しているって意味で」


「じゃあな」


俺が逃げることにした。いやね、慌てふためく副会長をニヤニヤ見つめるのも一興だと思ったんだけどさ、あまりにキモイから遠慮することにした。

口を大きく開いて必死に否定しまくる姿、顔面からは汗が粒となって噴き出て、耳や首元まで赤くなっているのは正直キモ過ぎる。


お前が日清のことが大好きなのは十分に伝わった。それで十分、これ以上キモイ顔を見せるな。あぁ不快。オアシスの天空竜を召喚して癒されたいわ。


「ま、待て! まだ言い足りない!」


「いい加減しつこいなテメェ、今の日清にバラすぞ」


またしても肩を掴んでくる副会長の手を弾く。しつこいので俺が足を半歩下げて反動をつけ、このキモ男の脛に渾身のローキックを叩き込んでやろうとした、


その時、


「あっ、ハルちゃんだ」


げっ、マジかよ……。

ここ最近、学校で非常によくエンカウントしていたクソ幼馴染がこちらを見てニッコリと笑っていた。

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