第115話 なんでもなくはない二人
飯を食べて映画を観て買い物してカフェでまったり。ただのデートじゃねーかー、でもそれで良い寧ろそれが良い。楽しい。リア充ですわぁ。
「わ、私も払うよ」
「テストのお礼だから気にすんな」
勉強を見てもらったお礼に昼飯や映画代やジュースを奢る。なんと羽振りが良い俺であろうか。給料もらっているからね、これくらいさせてもらいまっせ。
「あ、ありがとう」
頭を下げて遠慮がちにジュースを飲む木下さん。気にしなくてええんやで。
俺もコーヒーをズビズビ啜る。え、汚い音? 細かいことは気にするなベイビー、好きな色はネイビー。いやホント最近ラップのキレ悪い。元は鋭かったわけではないが。
「つ、次はどこに行く?」
んー、そうだな。あらかた見て回ったし、あとはゲーセンで時間潰すとか。あなた今日スカートだしボウリングはしたくないでしょ。
「ま、その辺ブラブラしようぜ」
「うん」
カフェを出て専門店街を歩く。やっぱ高校生にはショッピングモールが一番だ。買い物しなくても見るだけで時間を潰せる。
ちなみに人が多いところを歩くと気分が良い。なぜなら隣に木下さんがいるから。きっと周りからはカップルに見られているのだろう。どうだー、羨ましいだろー。一人で歩いている奴ざまぁ、アニメイトでフィギュア見てろバーカ。
「うふふ、木下さーん」
「う、うん?」
「なんでもなーいよっ」
「?」
一度やってみたかったんだよね、なんでもないよって言うやつ。なんか微笑ましいやん? 見る側の時は死ねやクソリア充と思っていたがやる側になると気持ち良いものだ。
もっと欲を出せば手を繋いで歩きたいがそれは無理。さすがに木下さんに申し訳ない。近すぎず遠すぎない距離を保って並ぶ。
あーあ、木下さんと付き合えたらなー。毎日チューしてモミモミしてやるのに。
……そういや今日はどうなんだ。さりげなくチラッと横目でチェック。木下さんは薄いパーカーを着ており、この距離で見下ろしても谷間は見えないが、うむ……大きい。
「やはりお嬢様より……」
前々から思っていたがこの子は素晴らしいものを持っている。平均がどれ程か知らないけど少なくても雨音お嬢様は平均以上で、そのお嬢様より大きい木下さんは相当な巨乳だと分かる。
気弱でおとなしくて癒し系で巨乳……なんてことだ、男子の好きな属性をたくさん取り揃えている。うおー、付き合いてぇ!
「あ、あの」
と、木下さんが口を開く。いつもの如く俯いて両手をモジモジさせている。
あー、ごめんなさい見すぎた。この距離で胸ばかり見られたら嫌だよな。俺は謝る為に腰を落として仁義のポーズをしよう、としたその時、
「い、い、今は天水さんの名前出してほしくない、か、かなーって……」
「え?」
「そ、その……い、今は私といるから、その……あうぅ」
ぷしゅ~、と湯気を出して木下さんは赤くなる。照れている、と同時にどこか不満げな面持ちが見え隠れしていた。
もしかして、今は私と二人きりなんだから他の女の名前出さないでよ!ってことか。何、その、男心くすぐる嬉しい嫉妬。ヤバイ、ニヤけてしまう。
「はいはいごめんね。使用人モードをオフにするわ」
なんてな。だから勘違いはいかんよ、木下さんがそんなこと思うわけがないでしょ。あくまで俺の願望だ。きっと「この私が時間を割いて遊びに付き合っているのだからもっと感謝しなさい!」的なことを言いたいんだ。
クソ生意気なお嬢様のことは頭から放り捨て、俺はニッコリ笑いかける。
「行こうぜ」
「あ、あの」
「お、着ぐるみがいるぞ。膝カックンしてやろうぜ~」
ガキ共に囲まれている着ぐるみをロックオン。どうせ中はおっさんだ。後ろから思いきり膝カックンしてやりたい。さあ悪意あるイタズラしてやろう!
「が、頑張ったのに、伝わってないかも……うぅ」
「頑張った? 何を?」
「ううん、なんでもないよ……」
お、なんでもない出ました! 言いたくなるよね~、リア充っぽくなるよね~!
「今日はサンキューな」
「た、楽しかったです」
夕方までショッピングモールを散策。その後はネカフェで遊んだ。ネカフェはダーツやビリヤードがあって楽しいんだよね。カラオケはしない。ネカフェのカラオケは壁が薄くて声が漏れるのが嫌なんだよなー。
「初めてダーツとビリヤードしました」
「下手だったな」
「ご、ごめ、あ……つ、次は頑張ります!」
「おう、また行こう」
そうそう、謝らなくていいんだよ。そしてまた行こうと約束できたことにハッピー感じる。
木下さんとはこれからも遊び行きたい。ワガママ言われないし気持ちが穏やかになれる。この子マジでオアシス。オアシスの天空竜だ。はい意味不明。
「じゃあまた学校で」
「う、うん。バイバイっ」
木下さんと別れ、まだ明るい空を見上げる。
ニートを辞めてもう二ヶ月以上経つのか……。なんやかんやで過ごせている。オアシスの天空竜木下さん、冷淡ドSメイド、ワガママ理不尽お嬢様、アホ芋、様々なと人と出会い、日清と再会した。
ニート時代と比べたらしんどくてウザイことが多いが、まぁ楽しくやっているかもな。
「もうすぐ夏休みだ」
色んな人と出会ったせいで忙しくなるだろうが夏休みは平穏に過ごしたい。ニート時代では考えられない些細な願いを胸に秘めて屋敷へと帰る。