第114話 テスト後のご褒美
ふふっ、ニヤける頬を抑えきれない俺は高級なテーブルの上にテスト用紙を並べる。
「すごいでしょ~、この素晴らしい点数!」
「すごーい、見事に全て赤点ギリギリですね」
スネ夫の如く自慢する俺に対するはメイドさんの呆れた声。おいおい、「こいつの自慢する基準低すぎるだろ」みたいな目をしないでください。
最近は色々と事件があったが、あっという間に期末テストは終わって答案用紙が返却された。中間テストでは凄惨たる結果だった俺だが木下さんのおかげで今回はかなりの高得点っ、俺の基準では。おかげで補習は一つもなし、ハッピーな気持ちで夏休みを迎えられることが決定。こ、れ、は、嬉しすぎる~!
「いいでしょ~?」
「いいですねー、どうでも」
「頭ナデナデしてよ~」
「画鋲を存分に散りばめた手袋作ってみましたー、じゃあいきますねー」
「タンマ、俺の頭が穴だらけになる」
何とんでもないグローブで頭撫でようとしやがる。褒める気皆無じゃないか。冷静に考えてください、アホの俺が頑張ってテストに励んだこと自体すごいんだよ。さあ褒めろ、もっと愛でろ、せめてそのグローブは外して。
「それに陽登君を褒めるわけにはいきません、こちらの点数と比べたらねー」
そう言ってメイドさんが出してきたのは別の答案用紙。どの教科も全て九十点以上。雨音お嬢様のやつか。
「いつもお嬢様の高得点を見慣れているので陽登君の点数では……ぷぷっ」
あ、馬鹿にしてる。メイドさん鼻で笑っている。クッソ~、英才教育を受けてきたお嬢様と俺ではそもそもの頭の出来が違うから仕方ないだろ。あのクソお嬢様、教えるのは下手なくせに勉強はできるのかよ。
「次はもっと良い点数取りましょうねー」
「ちぇー、じゃあ俺は出かけてきます」
「雨音お嬢様とおデートですか?」
「んなわけないでしょ」
あいつとデートするぐらいなら寝た方が遥かに有意義だ。まぁデートってのは当たっているかもね。えへへー、またしてもニヤけてしまう。
「たまにはお嬢様とも遊んであげてくださいね」
「気が向いたら」
「あと私と飲み行きましょうー」
「気が触れたら」
メイドさんとテキトーな会話をし終えた俺は屋敷を出発する。外は暑くて嫌になるが歩く速度は落ちない。寧ろ早足になる。なぜなら~、ドゥルルル~、木下さんと遊ぶから! イェイ! イェイ! 雪山にいるのは~、イエティ!
そう、テスト勉強を教えてくれる代わりに遊び行こうと木下さんが提示したのだ。木下さんに会えるなら暑い中でも歩こうと思える。当たり前だよなぁ!?
高ぶるテンションを携え、スキップで待ち合わせ場所へと向かう。
「沙耶おはよー」
「おはようございます。もうお昼前ですよ」
「んー……これ陽登のテスト?」
「そうですー」
「見事に全教科赤点ギリギリじゃない……」
駅って絶対人がいるよね。さすが日本が誇る公共機関、利用者はたくさんなのだ。のだ。
そんな駅の前にある公園は待ち合わせ場所として最適、と考える人が大勢いれば混雑するのは必然。人波が絶えない駅前公園で特定の人を探すのは大変だ。
「木下さんみーっけ!」
あ、木下さんは例外です。あんな可愛い子、目を凝らさなくても自然と見つかるよ。
俺は駅から歩いてくる木下さんへ向けて全力で手を振る。そりゃもう全力。分度器で言うと0度から180度まで左右へ振りまくる。分度器で例える意味はない。
「ご、ごめんなさい。待った?」
「えーと、五分と二十二秒待った」
「ご、ごめんなさい……」
「え、予想外のリアクションで寧ろ俺がごめん」
そんな細かいこと言わなくてもいいじゃん、みたいなツッコミをするところだよ普通。お嬢様なら「は? いちいち細かいのよ馬鹿陽登」と言って謝るどころか貶してくるぞ。
ホントこの子は気が弱くて真面目だなぁ。もっとこうガッ!っていこうぜガッ!と。まぁそこが木下さんらしさなんだろうけど。
あと……私服可愛い。最近はファッション雑誌を読んでいないので流行は把握していないがとにかく木下さんの服はセンス良い。いつも制服姿を見ているから私服がとても新鮮でグッとくる、グッと。俺さっきからニュアンスだけの表現ばっかりだな、ジュニアや宮川かよ。
「つーかその帽子好きだな」
「あ、あうぅ……火村君にもらったから……」
「え、俺があげたっけ?」
「そ、そうだもんっ!」
うお、大声で言うことですか……ビックリした。木下さんはキャップを被っている。これは俺が気まぐれであげた物なのだが、どうやらこの子は随分と気に入っているらしい。
メンズ用だが木下さんには抜群に似合っている。いや木下さんが男っぽいと言いたいのではなくて、キャップと服を相性良くコーデしているセンスを称賛しているのです。かわえーなー、もう可愛いしか感想出てこない。グルメリポーターが美味しいを連呼するのと一緒さ。
「で、今日はどこに行く」
「う、うーんと……決めてないです」
「それはあれですか、デートは男がエスコートしろってことかオラ」
「で、ででで、デート……っ」
男がデートプランを決めろ、男が全て奢れとでも言いたいんですかー? 生憎俺にそんな紳士力と気前の良さはありません。あー、でも木下さんがせっかく時間を作って休日に会ってくれるしテスト勉強も見てもらったし俺がエスコートするべきか、って……なんで顔赤いの?
木下さんは顔を赤くして口をパクパクさせている。こいついつも赤面してるな。金魚になりたいの?
「う、ううぅ……」
「木下さん?」
「……えへへぇ」
「木下さん!?」
突然ニヤニヤしだしたけども!? え、やだこの子精神不安定? 何を考えているのか分からない……とりあえず嬉しそうだからいいか。
あー、デートって言ったけど実際は違うよな。木下さんはそんなつもりは微塵たりともないだろうし。何を浮かれているんだ俺は、勘違い男子はモテないぞ。それ以前に性格面で俺はモテない。あ、悲しい。
「とりあえず飯食べようぜ。腹減った」
「デート……えへへっ」
「話聞いてる?」
「ふぇ? あ、う、うん聞いてないよっ」
「聞いてないんかーい」
「あ……ご、ごめんなさい!」
「いや謝らなくていいから」
んじゃまレッツゴーしましょうよ。ペコペコ頭下げる木下さんを制止して俺らは歩きだす。
テストも終わって楽しい楽しい休日の始まりだ。