第11話 二日目・豪華な朝食
シェフが朝食を運んできた。
ホクホクの白米に味噌汁の良い匂い、容器にはポテトサラダが盛られて木製のサーバーフォークとスプーン。
小鉢には切り干し大根。他にも副菜が二品もある。
何より目立つのはベーコンエッグ。ハウルの城の朝食に出てくるような厚く大きいベーコンだ。卵も恐らく烏骨鶏に違いない、そんな気がする。
なんだこの豪華な朝食は。これがお金持ちの朝食なのか。
祖父母の家でもこれくらいの品数出ていたがレベルが違う。同じ和食で質の差を見せつけられている。同じクラスの美人とブスくらい差があるぞ。
「どうしたのよ。早く食べなさい」
雨音お嬢様は当然のように食事を始めている。
おいアホ。アホの子。お前にしたら日常かもしれないが俺からしたら異常だぞ。
おまけに昨日の晩飯は玄米と味噌と少しの野菜だ。あまりの高低差に胃がビックリしそうだよ。
「いただきまーす。うめーな」
ま、いつまでも困惑してちゃ時間が足りない。せっかくの豪華な飯なんだ、冷めないうちに食べなくては。ベーコン美味い。
「すいませーん、お代わりください」
「火村って図太い性格してるよね」
「順応性が高いと言ってくれ」
シェフに大盛りでご飯をもらう。
この切り干し大根でご飯一杯はイケるぞおい。
味噌汁は具だくさんではなく少しのみ。だからこそ味噌のシンプルな深みが出て、飲めばほっこりする。
「庶民には豪華過ぎる朝食でしょ」
「お前が偉そうに言うな。インスタント味噌汁すら作れなさそうな面してるくせに」
「い、インスタントくらい作れるわよ」
ほぅ、本当か?
「じゃあインスタント味噌汁を作る為に何がいるか言ってみろ」
「え、えっと……お味噌汁だから味噌でしょ? あとは……」
「馬鹿か。インスタントだから味噌なんていらねーよ。お湯だけでいいんだよ」
「えっ!? 何よそれ引っ掛け問題じゃない!」
引っ掛けではねーわ。というかこいつマジか。
インスタント味噌汁を作ったことない。ってことは普通の味噌汁を作れるとは思えない。そもそもこのお嬢様に料理が出来るわけないわな。
「味噌汁も作れないとかないわー。結婚したらどうするんだよお前」
「シェフに作らせればいいでしょ」
これが金持ちの発想か。終わってるね。
母親の料理を食べたことないなんて可哀想過ぎる。母の味は母乳しか知らないってか?
「どこの御曹司か知らないけど将来お前と結婚する男が可哀想だな」
「ふん、大きなお世話よ。火村なんて結婚出来そうにないわね」
「結婚する気なんてさらさらないね。老衰まで過ごせるだけの金とシェフがいれば十分だ」
「アンタもシェフ頼りじゃないっ」
「すいまっせーん、ご飯と味噌汁のお代わりください」
「無視するな!」
「行ってらっしゃいませー」
メイドさんに見送られお屋敷を出る。
今日も車で登校だ。なんて便利。
「なぁ雨音お嬢様」
「何?」
お、今日は話しかけても黙れとか言われない。
ちょっと質問してみるか。
「お嬢様ってボッチなのにちゃんと学校には行くんだな」
「……黙ってろ」
結局言われちゃったよ。
またしても不機嫌そうに顔を歪めて窓の方へそっぽ向かれてしまう。
「俺だったら仮病使って休むけどな。メイドさんの話だと休んだことは一度もないって」
ボッチのくせして皆勤賞とは大したメンタルだ。そこは尊敬するよ。
「別に。休む程のことでもないわ」
「でも修学旅行で満喫行くんだったら休もうぜ」
「なっ……あ、アンタどこまで知っているのよ」
こちらに振り返って驚いた表情をするお嬢様。
まぁ、そっか。性格の悪いこいつでも一応は女の子で人間なんだ。こういった反応も出来るよな。
「俺の仕事、聞いてるか?」
「……沙耶から聞いた。友達作りでしょ」
だったら話は早い。今日からさっさと、
「余計なことしなくていいから。私は今のままで十分なの」
「いや、でも」
「放っておいて」
本当に黙ってなさい、そう言われた気がした。
雨音お嬢様は正直言って可愛い。クラスの中でもトップクラスだ。
性格終わってるけど、それでも話し相手の一人や二人は欲しいだろう。そんなの誰でもそうだ。
ボッチでいい、一人でいい。そんなのは強がりだと俺は思う。
確かに中にはマジで一人でいたいって奴がいるのも事実。強がりではなく本心でボッチ希望の奴が。
「でもなぁ……」
「うるさい」
「はいはい」
昨日の昼休みに見た、あの表情が頭から離れない。
芋助を拒絶した後、俺の方を向いて悔しそうに悲しそうに怒っていた。
あれは、一人でいいと思っている奴の顔じゃない。
さて、どうしたものか……これは面倒くさい仕事を引き受けてしまったな。
まぁ初日の大失態もあるし、二日目もズタボロじゃ親に見せる顔がない。今日は頑張ってみようかな。
雨音お嬢様の友達作り、やってやるよ。