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第108話 強制連行。過去へ

教室を脱した後、俺が向かったのは隣の教室。そこで弁当を食らった。当然、周りからは「誰こいつ?」の目で見られたが気にしなーい。

漫画なら屋上や中庭で食べるのだろう。だが現実はそうならない。屋上が開放されているわけないし、中庭は暑いしそこまで行く気にはならん。トイレ飯なぞ論外。よって別クラスで食べることにしたのだ。


「あの、あなた誰……?」


「今日転校してきた平等院鳳凰丸と言います。おつありー」


「び、平等院? 絶対偽名だよね?」


「それ分かるー」


「こっちは何一つ分からないんですが……」


新たなクラスメイト達と楽しく談笑。良いねぇ平和だねぇ。今頃隣の教室はどうなっているのだろうか。お嬢様と日清が言い争っていそうだよね。まぁ俺には関係ありません。


「あ、予鈴鳴った。じゃあ俺行くわ」


「え、ど、どこに?」


「このクラスで過ごした日々、素敵な思い出、ずっと忘れないよ」


「いや昼休みしか過ごしてないけども!? 素敵な思い出ミクロサイズにも程があるよ!」


「対ありー」


「え、ちょ、待って平等院鳳凰丸君」


「俺は火村陽登じゃボケェ!」


「きゃああぁ!?」


しつこいので唾を吐き散らして教室から出る。阿鼻叫喚して唾から逃げていく少年少女。やはり唾攻撃は有効らしい。じゃあな、1年B組のみなさん。避難させてくれてサンキュー。


「お、日清は帰ったのか」


1年A組の教室に戻ると日清綺羅々の姿はなかった。そしてクラスメイトの何人かがモップで床を掃除している。


「なんで飯時に掃除するんだよ不衛生だなぁ」


「「えー……」」


クラスメイト達がため息を吐く中、俺は自分の席へと座る。

この昼休みだけでクズ度を大いに高めた気がするよ。やっぱ俺はこうでないとね~。てことで俺は寝る。おやすみ~。






寝ていたら放課後になった。うーん、非常に快適な午後でしたわ。もうすぐ期末テストなのに居眠りしちゃった、てへっ。

弁当箱だけを入れた鞄を持ち、お嬢様の元へ向かおうとしたその時、


「火村陽登、来てもらおう」


目の前に現れたのは生徒会副会長さん。あら昨日ぶりですね、って来てもらおう? あー、日清か。こりゃげんなり。


「嫌です」


「君に拒否権はない」


「拒否権の有無とか知らんし。生徒会だからって偉そうに命令しないでもらえます?」


「貴様……いいから来い」


苛立ち気味に俺の机を叩く副会長。その音を聞いてクラスメイトは息を潜めて芋助に至っては悲鳴をあげる。

はぁ~……ちょっと口論しますか。俺は副会長と向き合う。


「俺を連れて行きたいならまず理由を言ってください。それから同行をお願いしましょうよ」


「そんなのは必要ない。日清生徒会長が呼んでいるのだから大人しくついて来い」


「はい違う~。生徒会長だからって一般生徒に命令していいわけねーだろ、それこそ権利ないわ。生徒会=偉いとか思ってんのか? 漫画の読みすぎだ」


「な、なんだと……!」


「さっきからまともな反論こねーけど? 生徒会だから何でも通用すると思うな。一般の生徒より偉いって言うなら少しは大人らしい対応してこいやドアホ」


「こ、の……言わせておけば……!」


この人が生徒会のエース、ねぇ。頭がクソ固くて呆れるわ。来い来い言って理由を言わない。んな一方的で理不尽な物言いはウチのお嬢様だけで十分なんだよ。


「じゃ、さよならです」


「待て! 生徒会長の言うことは絶対だ!」


「だーかーらー、分かってねーなー。極端は話をしますが、例えば俺の母親が危篤で今から病院に行かなくちゃいけないとしましょう。それでも生徒会長の命令を優先しないといけない、そう言いたいのですか?」


「そ、そういうことは今話していないだろ」


「本質は一緒ですよ。俺には外せない用事がある。生徒会長様には申し訳ないけど今日は参上することが出来ません。また後日お伺いします。ってことをな、普通ならもっと礼節正しく言えるはずなの」


俺は副会長に詰め寄る。睨みを効かせて舌打ちする。生徒会の名を出せば大人しく従うと思うなこのクソ野郎。


「それをアンタが一方的に命令して円滑なやり取りを乱しているんだよ。分かるか? アンタは偉そうにせずもっと大人の対応をするべきなの。生徒会副会長なら尚更そうだろうが」


「くっ、こ、この……」


「馬鹿のひとつ覚えのアンタの為に俺が頭下げてやるよ。家庭の事情の為、今から会いに行くことは出来ません。大変申し訳ありませんが、また後日に何卒よろしくお願いします」


俺は頭を深々と下げて謝る。この時点で俺の勝ちだよバーカ。

どう考えても正論を言っているのは俺であり、さらには頭を下げて謝る俺を誰が攻めることができようか。ちなみに家庭の事情はない。


「くっ、い、いいから来……っ、なんでもない」


副会長の悔しそうな顔がウケる。そりゃ俺がちゃんと断る理由を述べて頭下げているのだ。それなのに「いいから来い」とは言えねぇよなぁ?


「では急ぐのでこれにて失礼。お嬢様、帰ろうぜー」


副会長を置き去りに俺はヘラヘラ笑ってお嬢様の元へ。あー気持ち良い~。それっぽいこと言って相手黙らせるの最高~。ぶはは惨めですのぅ。ざ、ま、あ。ぶははっ!


「……くっ、手ぶらで帰るわけにはいかない。たとえ僕が悪者になろうとも……!」


「んあ? 何ブツブツ言ってんの」


「火村陽登、貴様を連行する!」


……おいおい、こいつはアホか。たった今あなたは論破されたの。強引に連行しようものなら、あなたは話を聞かない無茶苦茶野郎ですよ。テレビ版ジャイアンぐらい横暴だ。


「いい加減にしてくだせぇよ。だから家庭の事情が……って」


「うおおぉ!」


体が浮く。なんと副会長に担がれてしまったのだ。え、こいつマジか!? 何してやが、


「全ては日清生徒会長の為に!」


「だーめだこいつ頭おかしい」


副会長は廊下を疾走する。担がれた俺、なす術なし。あっという間に生徒会室へと到着。入れば、そこには日清の姿。


「ハルちゃん来てくれたんだね」


……あーあ、めんどーなことになりそう。











生徒会室には俺と日清と副会長の三人のみ。日清は俺に何か用があるらしいがまず処理すべき問題がある。俺は副会長の方を見る。


「お前ふざけるなよ。俺が丁寧に、ちゃんと、しっかり、頭を下げて断ったのに無理矢理連れて来るとはどーゆーことだ」


「そ、それは……ぼ、僕は自分の仕事を全うしたに過ぎない」


「だーかーら! そんな一方的な言い分が通じるわけないだろ。開き直るな、まずは俺に謝れ」


「……も、申し訳ない」


「土下座しろや」


「な、なぜそこまで……!」


「はあ? 当然だろ。いい加減、分かれよ、あ?」


「くっ……っ、す、すみませんでした」


副会長は土下座した。オラオラもっと床にこすりつけろや。写真撮ってやるよ。


……まさかここまでするとはね。

論破されて何も出来ない、何かすれば批難される、それを押し切って強引に連行した。加えて下級生の俺に土下座する、こいつは自分の評価やプライドを捨ててまで日清に尽くしているのだ。


普通なら出来ない。この副会長、頭が固いってわけじゃなさそうだ。

全ては生徒会長、日清の為。日清の言うことは必ず実行するという確固たる意志と忠誠がこいつにはある。

ここで俺が思うのは一つ、


「ふーん。便利な奴隷を買っているんだなお前」


日清を見てケラケラ笑う。ごめんねー、実は俺も頭おかしいんだわ。


「俺を連れて来る為だけにこの下僕君のプライドはズタズタだぜ? お前サイテーだなクソだよクソ」


「き、貴様! 生徒会長に無礼な態度は許さ、ぐぇ!?」


「テメーも学習しろよ。今のお前は俺に頭上がらねぇの。大人しく俺の椅子代わりになってろや」


「ぐぅ……」


土下座する副会長の上に座って鼻をほじる俺。アイアムクズ。オゥイエスイエス~。

さーて、座り心地の良い椅子が手に入ったことですし。日清カップさん、話をしましょうか。


「俺をここに呼んだ理由を言え」


「えっとね、明日はお昼一緒に食べよ?」


「はあ~?」


これには驚きだ。そんなことを言う為だけに俺を呼びつけたのか。俺が座っている真面目君が必死になって連れて来たのが哀れになってきた。


「……ハルちゃんは嫌なの?」


「嫌だね。お前と飯食う必要がない」


「あるもん。私はハルちゃんを更生させたいの」


……この台詞懐かしいな。

蘇る、昔の記憶。あの頃はいつも隣に……日清がいた。いつも俺の世話を焼いて、そして、一人ぼっちの俺の傍にいてくれた。


「……思い出して。私とハルちゃんの楽しかった日々を……」

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