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第106話 拗ねる

教室に戻ったが雨音お嬢様の姿はなかった。何も伝えなかった俺に非はあるが少しぐらい待ってあげようという慈悲の気持ちがないあいつも悪い。というか携帯で連絡しろ。俺が教えたアプリばかりしやがって。

だが結局は俺の自己責任っつーことで。運転手の黒山さんは呼ばず電車に乗って帰ることにした。


せっかく一人で帰るのでたまには寄り道してフリーダムな時間を心ゆくまで楽しもう。そうしよう。

若者が好んで食らう人気のジャンクフード店でシェイクとハンバーガーをテイクアウト。食べ歩きながらゲーセンへ寄ってメダルゲームを軽く嗜み、中古書店で少年漫画をざっと十巻分読破し、隣接したレンタル店でCDをチェックし新曲を試聴。トドメにラーメン屋で大盛りラーメン炒飯セットを食らって、屋敷に帰り着いたのは夜八時過ぎになった。俺ってば一人を満喫し過ぎ~。


「おかえりなさい陽登君。遅かったですね」


玄関で出迎えてくれたメイドさんは少し頬を膨らませていた。ぷぅー、と可愛らしい擬音が聞こえてきそうである。二十四歳が無茶しやがって……!


「遅くなってすいませんでした」


メイドさんにはメールで遅くなる旨を伝えていたが一応謝っておく。頭を下げ、そのまま流れる動作で靴を脱ぐ。謝罪からのスムーズな体運び。競技であれば芸術点として加算されること間違いなし。


「あ、メールで伝えましたが晩飯はいらなゲポォ」


「承知してます。ですからその汚らしいゲップはやめてくださいー」


呆れと苛立ちが合わさる辛辣な口調と、穢らわしいからさっさと部屋に入れと告げている目線。モチのロン、今日は疲れたんで即ベッドインするさ。

二階へと上がり、自分の部屋に入ってベッドにダイブ。あぁ~幸せなんじゃ~。いつも豪華な食事を堪能しているからな。ジャンクフードやラーメンを食べたのは久しぶりだった。


……日清と会い、話すのも、久しぶりだった。

あいつ元気そうだったな。今は生徒会長だってさ。昔から成績優秀で真面目な性格だったからお似合いだよ。


俺はベッドから立ち上がり、窓の前に立つ。

……今日、俺と日清は再会した。同じ高校だと知り、また昔のような関係になるのだろうか。

俺がサボり、あいつが世話を焼く。あの頃のような……


「入るわよ」


ドアが開いて雨音お嬢様が入ってきた。入ってきてから「入るわよ」と言った。あのー、順序が逆ですよ。馬鹿なんですか。


突如としてやって来たのは雨音お嬢様だった。私服に着替えており、短いホットパンツに目がいく。健康的な肌の眩しさ、制服と比べて遥かに露出の多い生足。とてもじゃないがこの物置小屋では釣り合わない、モノホンのお嬢様。


「何か用っすか?」


ドアが閉まって狭い部屋で俺とお嬢様が向き合う。尋ねてみれば雨音お嬢様がまっすぐ俺を見て答えてくれた。


「お昼休みに来た、生徒会長と知り合いなのよね?」


妙に語気が強い気もするが別段気にすることなく俺は頷いて肯定する。


「中学校の同級生?」


「おう」


「小学校は?」


「小学校もだな。幼稚園は違ったと思う」


質問に対して簡潔に答える。その繰り返し。特に隠すことじゃないから普通に答えるけどさ、どうしてこいつはそんなことを聞いてくるのだろう。

俺の疑問は解消されることなく引き続きお嬢様から問いかけが飛んでくる。


「仲、良いの?」


少しだけ言い淀んだ質問。目線が揺れた。


「そうでもねーと思う。向こうがどう思っているのかは知らんけどな」


「……放課後、生徒会長と会ってたの?」


「まぁな」


高校入試の面接みてーな淡々としたやり取り。これは会話と呼べるのだろうか。ただの質問タイムだ。Yo~、質問尋問、俺悶々。ラップのキレが悪い。


「ふーん……」


質問は終わりなのか、お嬢様が間の伸びた声を出す。目を細めて口を尖らせている。

まーた不機嫌な顔し……ん、いや。これはいつもと違うような。


「ハルちゃんって呼ばれていたわね」


ピリッとスパイシーな棘のある言い方。どうしてかな、なんかお嬢様が……不貞腐れている気がする。不機嫌とは別のオーラを感じるんですが。


「あー、あいつは昔からそう呼ぶんだよ」


「……ふーん。んー、ふーーん」


ふーん、と連呼しているが納得してない。明らかに納得のいかない顔をしているよね。どしたのマジで。

俺の勘違いでなければ……拗ねてんの?


「へー。ふーん。んー」


「おい一体何だ」


俺の問いには答えずお嬢様は動き出す。狭い部屋に押し込まれたベッド、そこへダイブしたのだ。ばふっ、と柔らかい衝突音が聞こえた。え、何をしているの。それ俺のベッド。


「突然部屋に入ってきて何がしたいんですか」


「別に」


お嬢様はベッドの上でゴロゴロする。俺に足を向ける体勢だから俺の位置からモロに生足が見える。見えまくる。見事なまでに息呑む、きめの細かい綺麗な足。ムチムチとまではいかない程良い肉付きはなぜか目が離せない。普段見えていない足の付け根まで見えているから余計にエロさを感じる。

下手したらホットパンツの隙間から……見え、げほん。ゃ、その、あなたは女の子なんだからガードを緩めないでください。


「俺のベッドだぞ。どけよ」


「むー。へー、ぶぅー」


さっきから変な声を出してばかりだなこいつ。……ぅ、ゴロゴロするのやめてくれる? なんつーか、すごくムズムズするんだ。

女の子が俺のベッドの上でゴロゴロしているこのシチュ、胸がドキドキしてしまう。ぐっ、可愛くてあざといんだよその仕草。即刻直ちにやめろっ!


ったく、ウチのお嬢様はどうしちまったんだよ……?


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