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第104話 生徒会長、日清綺羅々

肩を過ぎ背中まで伸びる髪。一本一本が細く、光を浴びて絹のように輝く。あまりに滑らかな髪をまとめる為か、光沢のある赤色のヘアピンを付けて長い前髪を横へと流している。研ぎ澄まされた瞳はキリッと切れ目、なのに冷酷な印象はなく寧ろ柔和な雰囲気を出していた。


「ハルちゃん、元気にしてた?」


口を開けば歯並び綺麗な白い歯と桜色の舌。思わず目がいってしまったがすぐに視線を上へ。


「なんでお前がここにいるんだ……日清綺羅々(にっしんきらら)」


肩にかかった髪を手で払い、微笑むのは日清綺羅々。同じ小学校、中学校だった同級生で、分類上は幼馴染と言う奴か。会うのは一年ぶりだ。

見た目は変わっておらず、いや……その…………少し印象変わったな。大人っぽくなったというか、あー、うん……綺麗になったと思う。背も伸びてるしスラッとした体型はモデルみたい。

雑誌に載っていてもおかしくない日清、その顔は少し曇って俺を見つめてきた。俺はなんとなく目を逸らす。


「フルネームで呼んでどうしたの。昔と同じ呼び方でいいのに」


「うるせ。思いもしない人物に会って少し混乱しているんだよ」


そうだ。これは予期しない再会だった。不意打ちを食らうとはこのことを指す。まさか日清が同じ高校にいるなんて、さらには生徒会長をやっているなんて。

驚きのあまり目から鱗が、まぁ出ないよな。出せたら人外だよ。言葉の綾でも鱗はないわ。引くよそんな奴。


「さっき放送で名前聞いてもしかして、と思ったの。……同じ高校だったんだね」


「全くだ。お前がいると知っていたらここに入学しなかったよ。何なら今からでも転校を考えるレベル」


吐き捨てるように言葉をぶつけるが、日清はクスッと笑うだけで俺の悪態を意にも介していない様子だ。その余裕ある表情、ちっ……懐かしいな。


「相変わらず捻くれているのね。もっと喋りたいけど……」


日清がチラッと目線を動かす。方向から察するに黒板上の時計を見ているのだろう。

また目線が動き、俺の後ろを見ている。直後、副会長が応答する声。俺の横を通り過ぎ、日清の後ろへ回り込んだ。


「放課後、生徒会室に来て。話したいことがたくさんあるの」


「え、嫌だ」


「ちゃんと来てね、待ってるから」


俺が言った瞬間に言葉が返ってきた。まるで俺が拒否するのを見越していたかのようだ。気に食わねぇ。

日清はクルリと背を向けると教室を出た。その後を副会長も追う。


扉から出る寸前、こちらを振り向いた。しっとり滑らかな髪が弧を描いて宙を舞う。


「じゃあねハルちゃん。バイバイ」


大人らしい立ち振る舞いと余裕ある姿には似つかわしくない無邪気な別れの挨拶をして、生徒会長は去っていった。

シーン、と逆に何か聞こえてきそうな沈黙が流れる。特に何かを発することもなく俺が自然と頭をかこうとしたその時、周りから机が激しく揺れる音。


「ひ、火村君。会長とお知り合いなのか!?」


音がしたなと思って振り向く直前で誰かが俺に詰め寄ってきた。見れば男子生徒、東大田原君。その目は興奮しており鼻息がフンフンと聞こえてきた。


「どうした東大田原君。何を高揚しているの?」


「高揚するに決まっている。だって、あの日清生徒会長だよ! 僕、実はファンだよ!」


だよ!って言われてもなぁ。俺はピンと来ねーよ。

だけど俺以外の奴らは今何が起きたのか理解しているのか、次々と俺の側へやって来るクラスメイト達。男子もいれば女子もいる。


「すごいな火村っ。あの生徒会長と知り合いだなんて」


「良かったら、お、俺のこと紹介してくれよ」


「あ、私も私も!」


なんだこいつら。急にテンション上がってるぞ。あっという間に俺を囲む輪が形成された。四方八方から飛び交う質問の嵐、加えて生徒会長の名。

どうやら日清はマジで有名人らしい。入学して半年も経っていない連中がこうも盛り上がるのだ。


「は、は、は、ハル~!」


興奮した皆の声を掻き消す特大の叫びが轟いた。見れば床から這い上がって机に手をつく芋助がいた。そういやお前、副会長にアイアンクロー食らっていたな。意識取り戻して何よりだよ。

息遣いは荒く、未だ眼球が飛び出しかけているがそんなのおかまいなしに芋助は尚も吠え猛る。


「お前生徒会長の知人か! どうしてそれを言わなかった!」


「いや聞かれなかったし。そもそもあいつが生徒会長だとは知らなくてな」


本当にまさかだよ。偶然にしては出木杉だ。あ、違う出来過ぎだ。監督さん彼も映画に出してあげてください。


……いや、ね……日清か。また会えるとは思わなかった。

と、芋助が詰め寄ってきた。やめろジャガイモ臭がキツイ。


「さっきから思っていたがハルは生徒会長とやけに親しいよな。タメ口だったし。どんな関係だよ」


「どんなって言われても。別に? ただの小学校からの同級生だよ」


「同級生……ん?」


何か疑問に思ったのか芋助がピタリと止まる。斜め上を見上げて口が半開き。思考中、という文字が浮かんできそうなくらい考え事をしているのが手に取って分かった。


「何言ってるんだ。生徒会長は二年生でハルは一年生だろ。同級生なわけないじゃん」


「いや間違いなく俺とあいつは同級生だ」


ん、ん?と芋助が口を曲げる。理解出来ていないのか。あ、そういや言ってなかったな。


「俺、中学卒業して一年間ニートしていたんだ。そんでその後ここに入学した」


「へぇー…………え゛?」


納得しかけた顔が歪む。ようやく収まりかけていた眼球がまたしても剥き出しになる。

同時に、周りの奴らも俺から一歩距離を置く。微妙な空気が、流れる。


「……え、えっと。という、ことは…………あ、あの、ハルって年上?」


「そうだな。まともに進学していたら本来は二学年だからな」


「……」


芋助が口を閉ざす。いつもはあんなにも喧しいジャガイモ助が目を伏せて無言になったのだ。

こいつだけじゃない。俺を囲む奴らも、挙句にはクラスメイト全員が黙った。先程以上にシーーン、と重く恐ろしいぐらいの無音。隣の教室の賑やかな声が届く程に静かだ。そして漂うは、なんとも言えない気まずさ。えーと、皆……どったの?


「俺としてはニートで生涯を終えたかったんだが母親に捕まってな。こうして無理矢理高校へ入学させられたんだ」


「……」


「おいどうした芋助。なんか言えよ」


「へっ!? あ、ぁあ、そう、ですね……その、ひ、火村さんの事情は分かりました」


なんで急に敬語ぉ!? なんで急によそよそしいの!?


「ど、どうした芋助。さん付けとかキモイからやめろよ」


「い、いやー……でも火村さん年上っすよね。それはちょっと心苦しいです」


「気にしないからいいよ。つーか今更敬語で話されても困るんだけど。距離を置かれるの気まずいんだけど!?」


それに周りの奴らも明らかに様子が変だ。何、何よ何この空気。ものっそい居心地悪いんですが!?

教室の隅から「一年間ニートって……うわぁ」みたいな声も聞こえてくるしぃ、俺がものすげー駄目な奴みたいな空気じゃん。おいいぃぃ、さっきまでの熱気ある興奮した雰囲気はどこいった!?


「待て、みんな待ってくれ。お願いだから敬語やめて。なぁ芋す」


「ひぃごめんなさい!? お、お詫びにジャガイモ献上するんで勘弁してください」


「農村の年貢か!」

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