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第103話 幼馴染

コーヒーの香りが漂う職員室。向かった先は一年A組担当教員のババア直前の元。

来たわね、と言ってババア直前は俺に数枚のプリントを差し出した。


「なんすか?」


「火村君、中間考査酷かったでしょ? これ期末の対策プリント」


どうして俺の周りの大人は俺に嫌がらせをするのだろうか。やはり俺は知らずうちにマゾヒストな雰囲気を醸し出していたのかもしれない。罪な男だよ全く。


「それ明日まで提出してね」


「せんせー、俺明日から海賊になるんで無理です」


「すごく意味の分からない言い訳をもうするの? ふざけないでください」


「ふざけていません俺はドーラ一家に加入して数多の財宝を」


「あ、そっちの海賊? 麦わらの一味だと思ってた」


舐めないでください。あんなろくに海賊行為もせず人助けばかりの冒険家とは違うんですよドーラ一家は。一つの石を奪う為に船を奇襲して僅か数分で軍の警備打ち破ったんですよ。マジでトップが有能。


「現実味のない夢は見ないで今目の前の課題をこなしてください。君は周りより一年遅れているのだから」


「せんせー、夢を見るのは若者の顕著な特徴です。高校生全員がリアルな未来展望して公務員目指し今から法律を勉強したら何も面白くないですよ」


「火村君は話の本筋を逸らすのが好きみたいですね。いいからプリントはやってね。期末を落としたら本当にヤバイのだから」


コーヒーを一口飲んだ先生はもう何も言うことはないといった調子で椅子を回して自分の席に着いた。だが俺は動かない。


「せんせー、俺の話を聞いてください。生徒の話を聞かない教師が現実にいていいんですか。それこそ夢がありません」


「君はそんなに喋るタイプだった? 言いたいことはプリント終えてから聞きます」


「ババア直前ー」


「おい今なんつった?」


再び椅子が回って鬼の形相が見えそうになった辺りで俺はバックステップを開始。体を反転させて小走りで職員室を去った。

あぶねーあぶねー、声に出しちゃったよ。良い子のみんな、俺みたいになっちゃ駄目だぞ☆


「にしてもだりーなー」


担任は俺の学力を心配して課題を与えてくれたんだろうがはっきり言って迷惑だ。強制された勉強ほど嫌なものはない。ラピュタのあらすじでも書いて誤魔化してみるか。


「よーす、ただいま諸君ー」


教室へと着き、気怠げに入室。俺がいなくてもクラスメイト達はおかまいなしに楽しく雑談&ランチなう。雨音お嬢様と木下さんがそれぞれチラッとこちらを見たぐらいだ。あとは、


「おかえりハルきゅん。で、どうだった?」


満面の笑みで出迎えてくれた芋助。あのさ、俺がさっき殴ったのもう忘れたの? 馬鹿なの?

まだ頬が腫れている芋助の横を抜けて自分の席に座る。続いて芋助が前の席に座った。


「で? 何があったの」


「俺と芋助は頭終わってるからプリントやれってさ。これ芋助の分」


課題プリントの半分を芋助に渡して俺は食事を再開。ナチュラルに嘘をついて課題を半分押しつけた俺は性格も終わってるみたいだ。


「うえーマジかよ。じゃあなんで俺は呼び出されなかったんだろ?」


「芋助は呼び忘れたんだってさ。ま、お互い頑張ろう。明日までに絶対やってこいよ。そして俺に渡せ」


「ん、ん? おう分かった」


「ちなみに担任にババア直前って言ってきた」


「それ結構やらかしているよ!?」


口に出しちゃったものは仕方ないさ。これ以上担任をキレさせない為にも課題はしっかりやっておこう。だから芋助、絶対仕上げてこいよ。じゃないともう一発殴るからな。俺は暴君かな?

卵焼きを口に放り込んでプリントを机の中に押し込む。まずは腹ごしらえといきますか。



「ここに火村陽登はいるか?」


大きな声。それは廊下から聞こえた。先程の放送と同じく、教室はシンと静まり返る。またしても視線は俺の方へ。それと、もう一つの方向へ。俺もそっちを見ている。

入り口に立っていたのは男子生徒だった。髪のトップも寝る程のストレートヘアーで、眉毛はキリッとして偉く真面目な表情。薄い顔をしているが気迫と真面目さが滲み出た、なんともまぁザ・模範生って感じの奴だ。とりあえず、えっと……誰だこいつ。


「誰だよあれ」


前に座る芋助に小声で尋ねてみる。クラスは静寂に満ちてとてもじゃないが普通のボリュームで喋れる雰囲気ではない。

尋ねたのに返事が来ない。横を見れば、あ、あ、あ……と震える声を出す芋助。どうした。


「は、ハル。本当は何をしたんだ」


「いや何もしてないって」


「だったらどうして生徒会副会長の金堂公史郎(こんどうこうしろう)先輩がお前のこと呼んでいるんだよ!」


生徒会、副会長ぉ……? ふーん、あれがこの高校の副会長なのか。真面目な見た目通り役職も立派なものだね。

だが余計に分からん。どうして生徒会が俺を呼んでいる?


「生徒会が何かする際、必ず最初に出てくるのが金堂先輩だ。どのイベント、どの会議にも現れて場を執る姿から生徒会の切り込み隊長と名高いらしい。会長の右腕であり生徒会を支えるエースだ」


説明どうも。今芋助が言ったことが本当ならそりゃまぁ大層な人物なのは分かったし、クラス中が注目するのも理解出来る。生徒会のエースだってさ。内申点すごいんだろうな。内申点のハットトリックだね。

だがやっぱり解せない。そんなお偉い奴が俺に何の用だ。とりあえず知らんぷりしておく。


「何か問題を起こしたのかよハル」


「思い当たる節がねーな。まだ体操服は盗んでいないし」


「だからどうして体操服にこだわる!? お前本気で盗むつもりなのかよ!」


「いやまぁ出来たらでいいよ。UFOキャッチャーの景品であっても二千円くらいしか使わないと思う」


「んな景品あるか。そして二千円って結構使ってるぞ! やっぱマジじゃん!?」


大声でツッコミを入れる芋助に今度は左フックをかます。落ち着け馬鹿チンがぁ。俺が体操服大好きな変態に思われちゃうだろうが。

さて芋助も黙らしたことだし俺も黙ろう。生徒会さんが何の用か知らないが関わるつもりは一切ございやせーん。今日はそのままお引き取りくださ、って……


「君が火村陽登だな」


俺の横に立つ、生徒会副会長さん。えー……見つかったの? なんで? さっきから俺と芋助しか喋っていなかったしそりゃバレて当然だよねー、うっふん。


「あー……何ですか?」


違いますと嘘つくか迷ったが大人しく本人であることを認めて用件を問うことにした。なんかね、気まずいんだけど。皆が俺を見てくる。み、見ないでぇー。はじゅいよぉ~。

そんな空気を気にせず副会長は無表情のまま俺を見下ろす。


「会長がお呼びだ。会ってもらおう」


沈黙。沈黙。そして芋助絶叫。


「うええぇぇぇ!? 生徒会長ぉぉ!?」


「え、何、うるさ」


目を細める俺に構わず芋助は目を大きく見開いて勢いよく立ち上がった。殴られた直後なのに元気だね。


「生徒会長も知らないのかよ。うちの高校じゃ一番の有名人だぞ」


「知らねーし」


お前……と呟いてジャガイモ君は頭を抱える。ムカつくなぁ。いいから説明しろよ。目で促せば芋助はオホンと一つ咳払い。ちょっとマジな顔をして語り出した。


「いつも金堂先輩が前に出て現場を取り仕切っているが実際それらの大まかな指示を出しているのは生徒会長らしい。そして生徒会長自身、自分の出席する場所では完璧に仕事をこなす超有能人だそうだ。何せ一年生の時から生徒会長をしているからな。二年生にして先生達からの信頼は絶大だ」


これまた説明どーも。つまり、この副会長よりもすごい会長がいて、その人が俺を呼んでいると。より一層状況が意味不明になってきたね。


「話が見えてこねーなー。なぜ俺?」


「そんなの俺が知るかっ。あれか、ハルは生徒会長の体操服を盗んだのか?」


盗んでないよ。さすがに知らない人の体操服は盗れないわ。もし生徒会長ブスだったらどうするんだ。雑巾に再利用する以外ないだろ。


「まぁ生徒会長の体操服だったら俺も盗みたいなぁ。ぐへへ、きっと良い匂いが、はぐっ!?」


ニヤニヤとゲスな笑いを浮かべていた芋助の顔が歪む。

熊の手の如く、目で追えない速さで副会長の手が伸びて芋助の顔を掴んだのだ。メキメキ、と骨の軋む音と芋の悲痛な叫びが響き渡る。


「おい貴様……会長の私物を盗むのは僕が許さないぞ……!」


アイアンクローを決めつつ、轟々と怒りを燃え上がらせて低い声で唸るのは副会長だった。殺意に満ち満ちた瞳で芋助を睨んでいる。え、ちょ、この人やだ怖い。


「あだだだだっ、す、すいませんごめんなさい嘘ですうぐぐうぅぅ!?」


恐らく相当痛いのだろう。芋助は叫び悶え苦しみ、今にも眼球が飛び出しそうだ。あかん、白目剥いているぞ。

だが副会長は離さない。万力のように力を強めていきジャガイモを潰しにかかっている。このままではヤバイ。そう思った時だった。



「その辺にしなさい金堂」


凛として怜悧な一声。静かな声だが何よりも誰よりも鋭く耳に切り刻まれる。

副会長による公開処刑に息呑んでいたクラスメイト達の視線は一気に教室の入り口へ。副会長もその声を聞いた途端、手を離して即座に扉の方を向く。その後ろで芋助が崩れ落ちた。


「も、申し訳ありません会長」


静寂と騒々しさを何度も繰り返す乱れた空間をたった一声で無に帰した人物に全注目が集まる。


俺も声のした方を向いて…………あ、


目が合い、そいつはクスリと笑う。王妃にも似た姿勢正しく気品ある歩き方でこちらへと近づく……


「久しぶりね。ハルちゃん」


「お前は……日清」


幼馴染の日清がそこにいた。

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