第101話 期末考査に向けて
「では次の英文を訳してもらおうか。火村、言ってみろ」
「はいっ。生真面目なステファニーはストレスを溜める傾向にあって心が病み、夜な夜なペットのニジイロクワガタをしゃぶることがあります、です!」
「全然違う。そもそもステファニーではなくナンシーだ。全くもって間違っているのになぜ声は大きいんだお前」
「そんなステファニーの恋人であるミックも実は人には言えない趣味があり、自分の肛門に制汗スプレーを」
「続けんな、おい、おいこの馬鹿。廊下に立ってろ」
頑張って訳した結果、英語の授業を受けさせてもらえない現代の教育現場に憤りを感じながら俺は廊下に立つ。
俺的には上手く訳せたと思ったんですがね。ミックとステファニー、互いの変態趣向を見せ合う的な? ストーリー性が素晴らしいと思う。映画化待ったなし。
「いつまで立っているんだよハル」
「む、お前はミック」
「ミックじゃねーよ、誰が肛門に制汗スプレー噴出するか」
凛然と立つ俺の元へやって来たのは芋助。ミックと呼ばれたのが気に食わないのか、眉をひそめて苛立った声でツッコミを入れてきた。
「そんなんで再来週の期末考査は大丈夫なのかよ」
「うるせーな。実はお前がスプレーでは飽き足らず、チューペットアイスを挿入していることをバラすぞ」
「だから俺ミックじゃない、というかミックの性癖どうした肛門を酷使させる理由は何!?」
英語の教科書に書いてあったじゃないか。ミックは召喚士の体質があり、気を抜くと肛門から魔獣を召喚してしまうから頻繁に肛門に刺激を与えて鍛えて、って、期末考査?
「期末考査ってもしかしてテストのことか?」
「は? 当然だろ」
期末考査……赤点を取ったら補習授業を受けなければならない、下手したら留年に繋がりかねないで有名な生徒が嫌うテストのことか。
「赤点だと課題で土日が潰れるぞ」
「えー、クソ死ねよ」
「いや俺に言われても、つーかクソ死ねって新しい強調の仕方だな!?」
別に良い点数を取りたいとかは思わないけど課題は面倒くさい。でも下手したら留年の危険がある。留年したら二つ下の奴らと同じクラスになるし、高校三年生の時に成人式を迎えることになる。やっべ、俺超クズになれるじゃん。オッスオラクズ!じゃん。ワクワクしてきたぞ。
まぁさすがに勉強するか。ホントはやりたくねーけど。マジでやりたくねーけど。俺地味に中間テストもボロボロだったし仕方あるまい。
差し当たって必要なのは教えてくれる人間。俺一人では限界があるしどうせサボる。誰かに見てもらうのが妥当だ。
「おい芋助」
「どうしたハルきゅん」
「……なんでもない」
芋助に頼もうと思ったが即座に却下。こいつが頭良いとは思えないし何より気に食わない。こんなアホ顔のキラキラネーム野郎に教えを乞うとかニートの薄っぺらいプライドでも許せない。
でも一応は聞いておくか。
「お前この前の中間は点数どうだった」
「ふふっ、ハルは俺のことをアホだと思っているようだが……」
やけに自信あふれる声。こいつ、もしかして意外と勉強出来るタイプなのか……?
「全くもってその通りだ。見事に赤点ギリギリマンだ!」
「クソ死ねよ」
「ひどっ!?」
ちょっとでも期待した俺もアホだった。何が赤点ギリギリマンだ、要するに頭悪い馬鹿ってことだろうが。そして中間テストの俺は赤点ギリギリ寧ろちょいアウトマンだよ。赤点一つあったよファック。
なんとかなると思っていたがやはり一年のブランクはキツイ。勉強についていけないことが多々ある。ならば人一倍勉強に励むべきなのだが……へへっ、俺がそんな勤勉な真似をするとでも? あ、り、え、な~い。早口で言えば、ありぇなん。
「まっ、お互いに赤点取らないよう頑張ろうぜ」
「クソ黙れよ。クソ死ねよ」
「まだ言うのかよ!? クソがクソ大好きだな!」
「クソしてこいよ」
「なんでハルに排便を命令されないといけないんだよ! あ、やだ、言われたらなんだかしたくなってきちゃった」
クソ変態かよ。あーあ、勉強を教えてくれる人を探しておくか。