美少女もこんなだと残念な感じになるもんだなと
「まさか、マー兄ちゃんだったとはね」
「って、あのときいたのはお前のチームだったかよ」
放課後、純樹とは図書室の前で待ち合わせした。
「学校で仮想ん中で探してた相手見つけるとか…あんのかよ」
「それ、こっちのセリフだよ」
純樹があきれた顔になる。
「スポ根マンガじゃあるまいに、1時間もボス戦よくやるとか思ってたらマー兄ちゃんとか」
「マジかよ」
「でさ、話をする前に一緒に来てほしいんだよね」
「どこに?」
「部室だよ。すぐ近くだから」
さっさと歩き始めた純樹にオレは慌てて続く。
図書室から少し進んだ視聴覚室の隣にそれはあった。
「将棋部…」
図書室のそばだったのか。
「百回を超える体当たり!見事な根性だった」
部室に入るなり役者がかった声がする。
「誰?」
ちょっと引いて純樹を見たが、純樹の目がジトとそちらを見たきりだった。
「…え~と、紹介はないのか?」
放置に耐えられずその人物は慌てて下がったメガネを直す。
「将棋部部長の『金ちゃんさん先輩』やん」
ポニーがいつの間にか目の下で揺れていた。
キラキラとした目で相変わらずオレを見上げてくる。
「桂間先輩、近いですよ」
「ここには先輩がたくさんいるさかい。私は『千成ちゃん』でええよ」
それに糸目メガネの将棋部部長が追従する。
「私のことは今後『金ちゃんさん先輩』と呼んでもらいたい」
「なんで、『ちゃん』と『さん』と『先輩』が混在してるんだ?」
さすがに純樹がフォローする。
「ああ、それは『金ちゃんさん先輩』の『金ちゃん』の部分があだ名だからだよ」
「で、なんでそれに『さん』と『先輩』が付くんだよ」
「あれ?ほんとだ」
「間違っているぞ香駒」
お約束のメガネクイをしながら将棋部部長が差し込んだ。
「『金ちゃんさん先輩』が私のあだ名なのだ」
「あだ名ってことは呼び捨て?!」
オレは思わずツッコム。
「あだ名に敬称がふたつ付いている段階でバカにされてると思わないのか?」
「国王陛下だって敬称ふたつだろう。私は愛されているのだよ」
「メガネキャラにして想像できないほどプライドないっスね先輩…」
オレは幼馴染の野球部部長のことを思い出していた。
-塚ちゃん、オレ今、あんたには人望があるんだなって気が付いたぜ。
「者ども騒々しいぞ」
またなんか出た?
「このやり取りで何人の新規部員を失ったと思っている。以後、気を付けるように!」
現れたのは長い黒髪が印象的な背の低い女の子だった。
「元部長、連れてきましたよ」
「元部長?」
オレは純樹の呼び方に違和感を覚える。
元部長ならOGということになるが、目の前にいるのはどう見ても中学生くらいに見えるからだ。
「今の場合は『元部長』は少し違うな」
彼女は黒目がちの大きな目を少し細めて、フッと微笑む。
よくアニメなんかで見るアレだ。タメだ。
「今はチーム<超急戦>の隊長だ。」
キメ顔の彼女は確かにスゴイ美少女だ。
ただし、本当に残念だ。
「あのさ、マー兄ちゃん。あからさまに引かないでくれる。ボクもツライんだけど」
「オレ初めて見んだよ中二って」
声を潜めて純樹にギブアップ宣言だ。
みんな中二的な空気を漂わせている。ものすごく帰りたい。
「ほら、ゲームにハマるとみんなちょっとスイッチ入るじゃない。部室に来るとみんなこうなるだけで…わかるだろ」
「わかるけど、オレもゲーム中のボイスチャットじゃこうかも知んないけど…リアルでこれを見せられてもだな」
「まあまあ、ウチらの人と成りは置いといて、とにかく座りぃな『千本ノック』くん」
-人と成りは大切ですよ。桂間先輩。あと『千本ノック』ほんと勘弁してください。
ツッコミは心にしまって押されるまま、オレの体には少し小さい椅子に座る。
「よく来た後輩くん」
「え~と、座っても自分より背の低い女の子に『後輩くん』呼ばわりとか。キミ誰?」
「こう見えても元部長は三年だよ。マー兄ちゃん」
「何?このちっこいのが三年!」
「『こう見えて』が余計だぞ香駒。あと、『ちっこい』言うな!」
少女のローファーが容赦なくオレのスネに入る。
「ってぇっ!狂暴か?!」
「すまん取り乱した。大丈夫か後輩くん」
少女は自分で蹴った場所を真剣な顔でフーフーと吹く。
「…天然?ですか先輩」
「は?私は痛いのを吹き飛ばしていただけだが」
「いまどき痛い場所は吹かないですよ。え~と…」
「そうか名乗るのが先だな。後輩くん」
「私は将棋部の元部長で、今はチーム超急戦の隊長、玉城宿理だ」
名乗りながら彼女はかがんだ拍子に顔にかかった黒髪を耳にかけた。
女性らしいしなやかな仕草に少しドキッとしたが、いかんせんサイズが小さい。
「将棋の世界はちょっと複雑でね。一年や二年で部長というのがたまにあるのだよ」
現部長であるらしい暫定『金ちゃんさん先輩』がメガネキャラの務めとばかりに解説した。
「彼女はすでに女流棋士としてプロなんだ。だからアマチュアの部活は卒業で元部長というわけさ」
「つまりさ、元部長は現役三年だけど本当にOGなんだよ」
「それに宿里ちゃんはな。テレビとかにも出ててちょっと有名なんやで」
「解説ありがとう。しかし、テレビは余計だ。私は本当のところ出たくない」
桂間先輩が元部長に抱きつく。この人がどうも『近い』のはクセらしい。
「毎回、衣装も楽しみにしてるくせに」
「あれは静御ちゃんがわざわざ作っているかと思うと無駄にできないからで…」
「ほんまは楽しみやんな」
「しつこいぞ千成」
「えと、先輩方、悪いんですが話が脱線気味なんでそろそろ本題いいでしょうか」
とりあえず、オレがここに呼ばれたからには昨夜のボス戦の事後処理が不可欠だった。
「そうですよ、元部長。マー兄には例の話にぜひ乗ってもらわないと」
「そうだな…よし」
自称『隊長』の玉城先輩がオレの向かいに座ると、テーブルの空いている椅子にそれぞれのメンバーが腰を下ろす。
それだけで少し引き締まった空気ができた。
「勝負事というのは例えそれがゲームであっても真剣にやるほどに負ければ悔しいものだ」
「昨晩のは…その、すみません。狩場に乱入してしまって」
「勘違いするな飛騨将斗雄くん」
彼女はオレの目を真正面から見た。
「私はキミの戦う姿に感服しているのだよ」
その瞳には確かに賛辞の色があった。
驚いて見渡すと他のメンバーも同様の目でオレを見ている。
野球を辞めてからこういう事は本当に久しぶりだった。
「戦法や機転もさることながら、あきらめない心の強さに私たちは負けた気がしたよ」
「先輩たちもあそこでボスが出るまで粘ってたんですよね」
「そんなにかかってないよ。マー兄。それと『負けて悔しい』はマー兄のことじゃないと思う」
「よくわかっているな香駒。キミに負けたと思ったのは私たちの考えに偏りがあったことに気づかせてもらったからだ」
自称『金ちゃんさん先輩』が隊長の言葉に合いの手を入れる。
「我々の戦法はキミのやる近接戦闘の対極にあると言っていいからね」
「私たちの最大の武器は超電磁砲による超長距離砲撃。安全圏からの狙撃はシューティングの極地と言ってよい」
そこまで言うのに隊長、玉城宿理は大きなため息をついた。
「私たちは学校の最速回線の使用権をめぐって、学内の複数の部活と勝負をしているのだ。
最大の敵であるパソコン部に今月は大きく差をつけられている状況だ」
<白の旅団>随一の撃墜数をもってしても叶わない相手って、どんなチームだよ。
「というのはね、部員以外のメンバーも集めて、パソコン部は巡洋艦クラスの運用を始めたのさ。艦載機はリスタートが早いので防御度外視のトリガーハッピー状態だよ」
巡洋艦は購入、維持だけでも相当なポイントが必要なはずだ。パソコン部、高校生でどこまで本気だよ。
その話を聞いていた隊長の顔が曇る。
「実に醜い有様だ。かつての整然とした隊形重視の采配はどこへ行ったのか」
敵にしてもこの隊長さんにはこだわりがあるらしい。
「とにかく、私たちがゲームに費やせる時間を考えると次の<旅団戦>で余程の戦果をあげる他に逆転の道はない。ところで、後輩くん、<旅団戦>で一番ポイントを稼げる功績は何だと思う?」
「え~と、そうっスね…って。まさか!」
突然振られてとまどったが、<旅団戦>の勝利条件を思い返してすぐにわかった。、
ただし、それは不可能だ。ましてやこの戦力では絶対に。
しかし、彼女は言い切ったのだ。
「『旗艦墜し』。私たちは艦載機だけで旗艦を撃沈する。それが我々チーム<超急戦>の次の作戦だ!」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
さて、まずは主要人物たちがそろいました。
痛いキャラもいますが
それぞれにそうなった事情がありますので
お付き合いくださいませ。
よろしくお願いいたします。