見えない味方ってどうなんだ
「マジっかよ。ザコ2体でボスって…ねぇわ」
予告にあたる中ボス的な敵を撃破することで宙域ボスが現れるはずなのだ。
少なくともエリアザコを相当数倒さないと宙域ボスは現れない。
そんなの撃破した覚えはない。
ギンン
ボスの意匠が再び膨張する。
何かデカイ攻撃が来る前兆だ。
圧縮炉加速をかけ、オレはとにかく距離を取った。
機獣の武装面が本体の周りを回転し、オレを正面に捕えると大きな腕のようなものを交差するように構える。
巨大な爪の様なビームが左右に4条生え、それをクロスするように振った。
爪ビームはランダムに間隔を変え、時にチリチリと干渉しあうほど狭まる。
爪はさらに1キロメートルを超えるまで伸び続け、離れたオレに向かって横凪ぎに飛んできた。
オレは機体を反転させると爪の間をかいくぐるように避ける。
避けきれないところでは能動的防御を当てに行った。
ビームはオレの機体の上下をスゴイ勢いで通り過ぎていく。
下腹にグッと力が入る。
いつもながら巨大武器の回避はゾクッと来るな。
機体をかすめただけでかなりダメージを食らった。
能動的防御も万能ってわけじゃない。
ダメージによる振動がコンソール越しに伝わる。
「ビームにはどうも合わせづらい…」
集中するとブツブツ言うのは投球のときからのクセだ。
プッシュバンドのタイミングで当てるオレにとってはボール的なものが一番しっくり来るんだが。
「バットにバットは合わせづらい!」
ビームの一閃の後は少し間があるらしい。
特殊な攻撃にはスキがつきものだ。
オレは圧縮炉加速をかけて一気にボスとの距離をつめる。
衝突攻撃はボスには試してなかった。
この戦法自体ソロになってから考えたものだ。
あくまでザコを効率よく狩るための衝突戦闘だ。
それにソロではまずボスには遭遇わない。
質量差でこっちが弾かれるはずだが。どうだ?
圧縮炉加速だけでは速度が足りない。
加速に使う距離も足りない。
「くそっ!手がコレしかねぇかよ」
機体を垂直に立てるのが怖くて少し斜めに入った。
ガガン
能動的防御はうまく入ってこっちは無傷。
機体を当てた瞬間にボスの守備力残量が表示され、五百ほど削ったが。
この宙域ボス-<ク・ラヴ・バラム>-の守備力はおおよそ五十万。
五行にわたってゲージが表示されたのでゲージ一本、十万ポイント。
これでは一時間以上かかる。
質量差で機体が一方的に弾かれて遠のく。
アンカーフックをボスにかけて機体を再びぶつける。
何度かぶつかるとスピードがなくなってしまう。
加速を得るためには敵に引っ張ってもらうのがいいのだが、この<ク・ラヴ・バラム>は動かない要塞タイプのボスらしい。
仕方なくオレは一旦チェーンバーストで距離を取る。
後ろからボスの放ったホーミングレーザが迫ってきた。
バレルロールとチェーンバーストを使った緩急でそれらを避ける。
何条かの光線がオレの機体の横をかすめて通り過ぎていく。
この宙域ボスの攻撃はホーミングレーザーと機雷のようにのろのろ動く極端に遅いファイアボルト。
そして、大きな予備動作から放たれる巨大な爪ビーム。
巨大な剣のような腕を持つ<ク・ラヴ・バラム>との戦いは黙々と繰り返す作業のようになってきた。
オレの機体に搭載された修繕素子は時間さえあれば素子搭載量に応じたダメージを直していく。
なんとか機体の守備力残量を維持していた。
弾薬が尽き、何度か<撃破再生>も考えたが、単独でボス戦になった時の条件を知らない。
つまり、オレが死んだ時点でボスが消える可能性があるのだ。
衝突攻撃のみで途方もない繰り返し作業。
運悪く爪ビームの干渉波に挟まれて何度か死にかけた。
百回は突っ込んだであろうこの粘り。
たぶん野球のせいだ。
これはノックで鍛えられた体だけ動かす感情オフの集中力おかげ。
なんでゲームに使ってるんだという自己つっこみはともかく…。
<ク・ラヴ・バラム>の守備力残量がやっと残り一本になろうとしていた。
と、そのヒットゲージが残り一本になる。
今度は確かに見た…。
間違いなくオレが攻撃していないタイミングで少しだけボスの守備力残量が減った。
このボス戦が始まってから気になっていたのだ。
この宙域にレーダーに映っていない友軍機がいる可能性。
このゲームにはレーダーを避けるステルスのような技術はない。
ましてや友軍機はレーダーに必ず映る。
レーダーの性能は機体によって違うため、オレが搭乗している<クタナ・ハルファス>のレーダーのレンジ外にいて、あちらからは見えているという距離にいるはずだ。
だとしても、その距離から届く攻撃は限られる。
多くはビーム兵器だが、そういうのはだいたいエフェクトが派手なのでオレが気づかないわけがない。
「ったく、どうやってんだ?気のせいか…」
それにもうひとつ気になっていたのは、ボス出現中もザコ敵は出るはずなのに、一機もこちらに来ていないことだった。
おそらく出現と同時に撃破されている。
「まさかオレの方が狩場に乱入しちまったのか?」
<ソルブレイド・オンライン>には友軍機を攻撃するプレイヤー・キルの機能がない。
狩場に乱入してもそれならそれで友軍機の方から何か連絡はあるはずで、偶然の鉢合わせの場合「状況中離脱せよ」か「支援す」くらいの意思表示はある。
少なくともレーダーレンジ外からボス出現はない。
このボスを出したのは間違いなくオレだった。
それまでにこの宙域で謎の友軍機がしていたザコ狩りが「たった二機のザコ撃破で宙域ボス出現」の条件を作ったのなら相手にも交渉余地がある。
「後で相談かな」
考えながらも爪ビームパターンに入ったので、衝突攻撃のアプローチに入る。
超大型への衝突角度はここ百回ほどの錬磨でかなり効率化した。
アンカーフックをかけてから三回ほどバウンドする間に二千ほどのダメージを入れられる。
離脱前に圧縮炉加速で深めに当てて、アンカーを外す。
ここでさらに千以上のダメージを追加。
追撃してくるホーミングレーザーを避けながら距離をとる。
宙域ボスの意匠の色が朱色に変わる。
いよいよ最後のラッシュモードに来たらしい。
機獣の武装面が回転し、オレを正面に捕えると大きな腕が本体を離れて飛んできた。
「って、マジかよ」
二本の腕がオレの脇をかすめる。
一本は得意のバレルロールでかわしたが、避けきれずもう一本の腕に接触した。
と、機体の機体状況異常を示すコンソール表示。
障壁無効の状況だった。
避けた腕が反転し、オレをまた追撃する。
今、接触されたら生値でダメージだ。
「マズイ!一発死にする!」
腕の速度はこちらの最高速度を上回る。
追いつかれると思った瞬間。
腕が何かに弾かれて失速した。
見えないが攻撃が当たったためか、腕二本がボスへと高速で戻っていく。
オレの機体<クタナ・ハルファス>の障壁無効はその間に解除された。
『サンキュー』
オレは文字チャットモードで全体公開に書き込みする。
謎の友軍機が見れば、オレの位置を示すコンソールに吹き出しの形で見えているはずだ。
『もう一度頼む』
さっきの腕の戻り、こちらを追って来る時よりもさらに速かった。
「アレを利用させてもらう」
<ク・ラヴ・バラム>はホーミングレーザーを怒りモードでひとしきり撃った後、また朱色の意匠を膨張させた。
腕の発射が来る。
やはり二本の腕はオレを追って飛んできた。
「意図が伝わっていればいいが…」
友軍機の見えない攻撃のタイミングが重要だった。
腕がオレの機体をかすめて通り過ぎる。
今度はあの障壁無効を食らうわけにはいかない。
バレルロールで避けると同時にアンカーフックを<ク・ラヴ・バラム>の腕に打ち込む。
そのベストのタイミングで腕がグンと弾かれる。
また、あの見えない攻撃だ。
アンカーをかけたおかげで今度は腕に大きなダメージが入るのを見ることができた。
そして。
今までに体験のない速度で、宙域ボス-<ク・ラヴ・バラム>-に向かってオレの特攻が始まった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
ボス戦もいよいよ終盤です。
主人公は勝てるのか?
ぜひ、続きをお読みください。
なにとぞよろしくお願いいたします。