今日もさびしくソロで狩るわけだが
『ヒマならまたゲームしない?<ソルブレイド・オンライン>のIDまだある?』
年下の幼馴染、香駒純樹はゲームを続けていた。
そもそも<ソルブイレド・オンライン>のことを教えてくれたのは純樹だった。
オレは気になって<ソルブイレド・オンライン>の公式サイトのランキングで純樹のIDを検索した。
試用版からのユーザーなら大抵上位にいるはずだ。
すると驚くことにここ数か月の間、<白の旅団>の撃墜数ランキングトップになっている。
「チーム超…急戦…そのまま超急戦でいいのか?」
純樹は知らないチームに所属していた。
オレたちがゲームを一緒にしたのは中学三年の正月からふた月ほどのことなので、もう一年以上はゲームの上で会っていない。
-お互い別のチームでゲームをしていたのか。
さらに純樹は機体を乗り換えていた。
<ガドール・レラジェ>。
<白の旅団>の艦載機の中でも大型クラスの複座式攻撃機だ。
三連型エンジンで最大12ヶ所に兵装をマウントできる。
<ソルブイレド・オンライン>の複座式のメリットは操舵士と射撃手、管制手をわけられることにある。
<ガドール・レラジェ>は最大4人乗りなので、この機体を選ぶこと自体がチーム編成必須となる。
さながら小型の宇宙戦艦だ。
それにしても、敵機遭遇している時間分にした撃墜数がすさまじい。
-10秒以内に撃墜してないと、この数字出ないよな?
野球をやると大雑把な計算が得意になるものだ。
<ソルブイレド・オンライン>は敵機遭遇の間隔は短い。
それにしても撃破までが早すぎる。どんな武器を使えばこんなに早く敵を撃破できるものか?
とりあえず、ログインしたついでに少し飛ぶかと駐機場に移動する。
機体整備は専用AIが担当してる。
「マスター、できてますよ機体」
だいたいは女性AIを選択するみたいだけど、オレはこの爽やかメガネ君が気に入ってる。
「ありがとうソルトさん」
「お礼を言われると励みになりますね」
ボイスチャットをオープンするとAIがまるで人間のように受け答えする。
「それにしてもボクを選択するなんてマスターは変わり者ですね」
「ほんと人間みたいだよ。あんた…」
機体ステータスを開くとセッティング内容が表示された。
確かに先日依頼したエンジンが換装されていて最大航行速度が上がっている。
直進のみだが最高速超える圧縮炉加速の継続時間も長くなった。
こうなったら試したくなるのが性ってもんだ。
さっそく射出場に移動する。
オレは<白の旅団>の中でも戦艦クラスを持つチームに所属していないので、旅団の旗艦<イルクルムプリビルス>からの発艦になる。
「選択エリア4。コースオールグリーン。発艦どうぞ」
女性管制官の声が世界の扉を開く。
気持ちが一気にゲームに心酔する。
球体の全方向モニターに映し出される風景。
射出場が加速によりギュンと歪む。
暗闇がパッと開けた先は色彩の宙。
「いつもながらスカッとくるわ!」
エリア4はこの宙域の最深層のひとつ前だ。
すぐに圧縮炉加速を発動させ、射出速度に上乗せする。
ズズン!
映像に加えて、ヘッドマウントディスプレイと専用コントロールが軽く振動する。
モニターの映像にバースト時特有のメーターが表示され、ガンガン速度の数値が上がっていく。
エリアが深いので、すぐに敵機遭遇し、敵のロックオンを受ける。
警報が鳴るが無視して、チェーンバーストを追加。
敵の弾はオレの残像を射抜いていく。
「もう一発!」
オーバースピードで機体がガタガタと揺れ始める。
速度ゲージも上がりきって、ひとケタ目がチラチラ動くのみとなった。
次々に敵がロックオンしてオレを追うとするが、スピードが違いすぎて置き去りになってしまう。
『エリア5到達。最深層エリアです。警戒してください』
「よっしゃぁ!」
速度記録を上回った上に、エリア横断の新記録も更新だ。
別に公式に記録される内容ではないが、速度にこだわるオレとしては満足だ。
実はこの速度を利用してちょっと試したいことがあった。
「ついでにちょっと狩ってくか」
エリアに入ってすぐに機獣が並走をはじめた。
さすがにこのエリアの敵はそこそこスピードもあるので後ろから当たる速度で撃ってくる。
オレはバレルロールで敵弾ほかわすと機体を急減速させて敵をやり過ごした。
すれ違いざまに、アンカーフックを打ち込む。
機獣に引きずられる形で機体がいつもの横滑りを始めた。
シールドを当てやすいように姿勢制御し、機体をわざと半回転させる。
機体がブレているうちにアンカーフックを巻き上げた。
ガガガン!
初手攻撃で敵のステータスが表示される。
<ナグ・クロケル>。
守備力五百で宙域最速の小型機獣だ。
三機一体の連携攻撃が特徴と情報交換ボードで見た。
そうなると横合いから援護射撃が来そうだ。
早々に片付けたい。
ガ!ガン!
連続して攻撃が入るが固い。さすが最深層だ。
それでも、能動的防御でノーダメージのこっちと違い、一撃で敵の守備力は1ゲージほど削れていく。
すぐに目の前で大きな爆発が広がり、一瞬で通り過ぎた。
接近戦の醍醐味はこの爆炎を突っ切ることにある。
「お次は?」
待つまでもなくロックオンされていて、残りの二機がオレを追ってくる。
敵弾を再びバレルロールの連続でかわし、二機をやり過ごす。
アンカーフック発射。
一機は取り逃がしたが、再び水上スキーが始まる。
二機同時にアンカーが入ると巻き上げたとき面白い現象が起こるのだが、それはまあいい。
釣り上げた<ナグ・クロケル>を撃破すると、オレはもう一機をレーダーで探した。
いない。
索敵圏外に行ったか?
と思ったその時、レーダーにノイズが入る。
ジ…ジジ…
機体に取り入れられた機獣のテクノロジーたち。
ビ…ジビギガ…ゴ…
それらはエネルギー-つまり電力を供給する装置-に従属する習性を持っている。
しかし、その支配とは別に本能的な支配構造を持っており、より強いものには畏敬を、もしくは畏怖を感じる性質があるのだ。
グゴオオオオオオオォォォォッ!
より強い機獣と遭遇する場合…
それは雄叫びのような音となって機体の中に響く。
「って、マジっかよ…」
色彩の宙がほころび、ブロック状に点滅するあいまいな影のようなモノが目の前を覆い尽くした。
オレに並走するそれは一瞬で鎧のような外郭を持つ巨大な獣機の姿となる。
デカイ。デカ過ぎるだろう。
ギンン…
外郭の表面にライムグリーンの意匠が浮き上がる。
エネルギーの高さを示すようにそれはパンプアップして膨らんでいく。
「うそっ…だろぉ」
信じられないことにオレは、ザコ2機を倒しただけで宙域のボスを出現させてしまったのだ。
ここまでお付き合いいただきまして
ありがとうございます。
思わぬところでエリアボス出現です。
いよいよニキロメートルを超えるボスとの
戦いが始まります。
続きをお読みいただければうれしいです。