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俺をエースと呼ばないでくれ  作者: たちまちいさか
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なんで幼馴染の弟分ってこんなにかわいいんだ

「サワリンって…センターになってから最近かわいいよな」


アイドルグループについて話す男子の会話。


教室で交わされる何でもないような会話だが、その一瞬前の話題はこうだ。


「ほんと野球部惜しかったよな」

「しかたないよ、あっちは去年の準優勝。リベンジってヤツ?」


「これで今年は甲子園なくなったのか?」

「夏はトーナメントだし、負けで即終わり…だろ」


そこまで話していた二人は凍りついている教室の空気に気が付いた。

オレが教室にいたからだ。


少し前まで、オレは野球部に所属していた。

オレが辞めたせいで野球部は苦労している。


何人かはまだ覚えているから、野球部の話題はいつもこんな感じになった。

とにかく、みんなの視線が辛い。


オレを見ることもできず、そらすように下を見る視線が…。


こんな時はオレが教室を出るのか通例となっていた。


クラスはほんとん持ちあがりなので、二年の春から特技を活かして推薦枠を狙う体育科から普通科に編入したオレはまだ一人でいることが多かった。


これは、先輩-玉城宿里(たましろ しゅくり)とネットカフェに行った前の日の話だ。


足が自然と図書室に向く。


幼なじみの香駒純樹(かごま あつき)が図書委員をしていて、たまに会うことがあったからだ。

小さいときから一緒だった弟分が今では唯一の息抜きになっていた。


「マー(にい)ちゃん。たまには本借りて行きなよ。ここ図書室なんだけど」

「まあ、そう言うな。お前のマスターぶりもサマになってきたぞ」


「誉めても何も出せないよ。ここ図書室だし」


純樹は入ってきた新刊書籍のデータを慣れた手つきでパソコンに入力している。


「で…また、クラスから逃げてきたの?」

高校生なったばかりの後輩くんはずいぶん生意気言うようになっていた。


毎日毎日野球をしていたので、ずっと時間がなかった。

こんな風に純樹と話すのも何年ぶりかだ。


「ふん。居場所を作るにはそれなりに時間が必要なんだ」

「どうせ、マー兄が悪いに決まってるよ。ただでさえデカくて、デフォルトでコワ面なのに」

デフォルトでコワ面ってなんだ。


小柄なのでオレと違って純樹の方が話しやすいのは認める。

ふわっとした笑顔が似合う…それにコイツはモテる方なのだ。


「ヒマならまたゲームしない?<ソルブレイド・オンライン>のIDまだある?」

「…ま、まあ」


試用(ベータ)版で一緒にやったときのIDって、フレンドリストでチェックしても、一度もアクセスしてないみたいだし…プレイしてる時間帯いつなのかな?」


「その…製品版をはじめたからIDを改めたんだ。親父のお下がりでマシンも改めたし、ちょっと事情もあって…」

しまったと思ったときには遅かった。


純樹を含めて、今までチームプレイをしたユーザーにゲームを続けていることを知られたくなくてIDを変えたのだ。


「え?マー兄ぃ、ゲームでもやらかしたの?」

「違う!しかも何だ『でも』って」


「コレ、お願いします」


その話しが終わる前にショートカットの小柄な女子がカウンターに文庫本を差し出した。


「あ、はい、手続きします。ほら、マー兄、ボク仕事」

そういうと純樹は本の貸し出しカードをリーダーに指し込んだ。

オレにとってはいい助け舟になった。


女子はメガネの向こうからオレを一瞥すると、何も言わず視線を前に戻す。


-図書室でちょっとうるさかったか?

無言の圧力を感じてオレは少し身を引いた。


「はい、お待たせ角野さん。返却は一週間でお願いします」

「あ、ありがとう。香駒くん」


本を受け取ると彼女は図書室から出ていった。


「あの子…知ってるのか?」

「ああ、同じクラスの角野睦美(すみの むつみ)さん。本の虫だよ。たぶん入学以来で軽く二百冊は読んでるかな」


「なに?マー兄ちゃん、ああいうタイプが気になる?」

純樹のヤツめ。高校生になって少し色気をつけやがった。


「…違うよ。女の子でも冒険小説を読むんだなと思っただけさ」

「ああ、アレはスペースオペラの定番さ。戦記モノとしても読める逸品だよ」


昔は一緒に野球もしたが、純樹は文化系だったな。


「マー兄ぃも本読んだら?少しは教養が身に付くかもよ」

「お前、本当にオレのことナメてるだろ…」


予鈴が鳴り、オレたちのたわいない癒しの時間も終わる。


「休み時間…もう終わるな。じゃあな純樹」

「マー兄ちゃん」


「もう、その呼び方やめろよ」


「心配はしてないけどさ。もっと気を楽にしなよ。楽しまないと損するだけだよ」

「ああ、ありがとな」


図書館を後にしながら、正直しくじったと思った。


ゲームを…<ソルブレイド・オンライン>のことは純樹に悪くて続けていることを秘密にしていた。


まさかオレが…


「エース」と呼ばれることに絶えられなくてチームプレイができなくなったなど、話せるはずもないからだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


ちょっと、重い話ですが、お付き合いいただき

ありがとうございました。


スペオペ定番、戦記モノで図書室で借りるなら。

女子が借りていたのは銀英伝です。

最近改めてアニメになってうれしかったです。


次の話はメカ出ます。


なにとぞお付き合いくださいませ。

よろしくお願いいたします。

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