この後、恐ろしい攻撃力の機銃の噂が流れたらしい
『各機発進!』
チーム<超急戦>の隊長、玉城宿理の一声で、
オレたちの<作戦名スリングショット>が開始
された。
<ソルブレイド・オンライン>の大規模戦闘イベン
ト<旅団戦>の中で前人未到の旗艦撃墜を目指す。
<旅団戦>のルールの改定で、復帰位置がチーム
の先頭機体位置から半分の場所からになったことを活用し、
超加速状態で再突入し、敵の旗艦にいち早く攻撃をしかけようというものだ。
まずは、チーム先頭機体を<旅団戦>の中央空域
より少しでも前に送り出すことが肝心だ。
射出装置の加速があるうちに<クタナ・ハルファス
>の圧縮炉加速を重ねる。
球体の全方向モニターに映し出される風景が加速によりギュンと歪む。
射出装置内の暗闇から抜けると、色彩の宙に出る。
艦隊がズラリと並ぶ壮観な様子がみるみる遠のいて行く。
<クタナ・ハルファス>は、単発エンジン式の小型機の中で
最高速が優れた機体だ。
速度が機体強度を上回る間、多少機体にダメージが
入るが、圧縮炉加速を三段階重ねた時は
宙域を数秒で横断できる。
圧縮炉加速を重ねた時の加速エフェクトはかなり
の迫力だ。
さらに機体がきしんで、警報音が鳴り始める。
角野機には「離れないように…」と言ったが
少し先行するつもりだった。
といってもそのまま、敵旅団に突っ込んで行けば
数秒で撃墜されてしまう。
旅団同士の中間地点、戦艦の主砲が届かないギリ
ギリの位置、B地点を目指す。
角野さんの<クタナ・フォラス>もよくついて
きている。
金田部長と調整した単発エンジンはいい仕上がり
のようだ。
レーダーに機影はない。
「飛騨機、B地点に到着。もう少し前進します」
『玉城機より飛騨機。無理をしなくていい。
攻めすぎて敵のレーダー網に入らないように』
『師匠。遅れてすみません』
少し遅れて、角野機がB地点に到着した。
『玉城機、狙撃位置到着。
<赤>は<魚鱗の陣>を敷くようだ。
先頭はもちろん<ハルバルガエナストス>…
天は味方したぞ」
索敵能力に優れる<ガドール・レラジェ>に搭載された
超望遠カメラで敵陣を確認したようだ。
確かに目標の艦が先頭にいてくれるのは助かる。
『ついでに敵影だ。
巡洋艦クラス<ケファ・ハーゲンティ>が二隻
先行している。
一隻は我々と遭遇する進路だ。戦闘準備!』
オレの<クタナ・ハルファス>のレーダーにはまだ
機影はない。
やはり、<ガドール・レラジェ>の『眼』はかなり
の性能だ。
<旅団戦>では、開始まで各旅団は横並びの仮の
陣形で待機していて、開始と同時に実際の陣形に
移動する。
つまり、この間はオレ達の目標とする旗艦<ハル
バルガエナストス>がどこに移動するかわから
ないのだ。
敵の陣形が整って、本格的な艦隊の前進が始まれ
ば、ほとんどの場合、艦対艦戦闘が始まるまで、
陣形に動きはない。
オレ達がB地点を維持するのは、敵艦隊の前進が
始まるまでの間だ。
『<ケファ・ハーゲンティ>より艦載機が出たぞ。
機影は3…4…全部で8だ。
香駒、射程に入り次第、マーク4、5、7の順
で射撃。
続きは追って指示を出す。前衛の仕事を増やすなよ』
『香駒、了解』
『飛騨機、前衛の指揮を任せるがいいか?』
『了解です』
『金田機、配置到着』
『桂間機も配置到着。バッチコイや』
『飛騨機、角野機、今更の確認だが、敵が狙撃に気づいて、
何機通ってもかまうな。B地点の戦線維持が最優先項目だ』
『玉城機はウチらに任せとき』
『了解。頼みます』
『敵影、感!師匠、8機、来ます』
『まずは6機ほど…減るけどね』
敵の機動残光が見えたと思ったとたん、
香駒純樹の宣言通り、敵機の数が減っていく。
<ガドール・レラジェ>の弾速に武装強化をつぎ
込んだ超電磁砲は、純樹の腕で、レーダーレンジ
外で射撃補助サイトのついていない敵をも撃ち落とす
ことができる。
宣言の6機どころか、出撃した艦載機を8機全部
墜とした。
-純樹のヤツ。言うだけあってやるね…
『飛騨機、敵巡洋艦の再発艦速度によっては、
狙撃をすり抜けて来る敵がある。油断するなよ』
<ケファ・ハーゲンティ>は少しずつ前進しながら次々と
艦載機を送り出してくる。
遮蔽物のない宇宙空間での戦闘で遠距離射撃が当た
ることは絶対有利だ。
<ケファ・ハーゲンティ>は思うように距離を詰め
られず、艦載機を撃破している謎の攻撃の射程を探
りながらの前進になっているはずだ。
『抜けられた。2機行ったよ』
それでも、<ガドール・レラジェ>の超電磁砲の
攻撃に耐える機体が出撃してきたということだ。
敵も無策で突っ込んでは来ない。
『了解、行くぞ角野機!』
『はい、師匠』
オレの<クタナ・ハルファス>と角野さんの<クタ
ナ・フォラス>がそれぞれの敵をロックする。
敵はいずれも<カタン・モラクス>。
赤の旅団では重装備の機体で、船足は遅いが装甲が
固いのが特徴の機体だ。
恐らく三連装ビームキャノンを装備しているはずだ。
断続的に撃たれると、こちらの能動的防御の
持続時間を超えて攻撃される。
ビーム攻撃の予防線をはるために、光学兵器阻害を
発射する。
<カタン・モラクス>は光学兵器阻害を
避けるように横移動をしがら攻撃を始めた。
敵が横移動さえ始めれば、オレの得意に持っていける。
ミサイルや実弾攻撃を避けながら、光学兵器阻害を
間に挟んで、加速して回りこむ。
段々と敵との距離が縮んでいき、旋回軌道の限界を
迎えて機体がすれ違う。
すかさず、アンカーフックを敵にかけた。
<カタン・モラクス>は急減速したが、質量差で
<クタナ・ハルファス>は引かれる形になる。
オレは機体をひねりこんで、フックを巻き上げ
<防御無効>を叩き込む。
ガ…ギギン
<防御無効>の効果を示すカウントが敵に表示
されるが、2度目の衝突で敵は爆散する。
能動的防御を使ってこちらは無傷。
初見ではまず何をされたかわからないうちに敵は
撃墜されることになる。
角野機の方もほぼ同じような手で敵との距離を
つめていた。
角野さんは機体をひねりながら、<カタン・モラク
ス>にアンカーフックを二本とも掛けると、すぐに
巻き上げて、<防御無効>を
敵機の腹に突き立てた。
完全にマウントを取った状態から、前面武装の30
ミリ機銃で重装甲の敵を瞬殺する。
-普通の30ミリ機銃なのに、ダメージ高すぎて
特殊兵器に見えただろうな。
狙撃に耐えた自慢の装甲を『紙』にされた上、
メッタ撃ちにされた<カタン・モラクス>乗りに
オレは同情した。
『師匠、<防御無効>スゴイです!』
興奮気味の角野さんは<防御無効>実戦初日だ。
-角野…恐ろしい娘…
オレは心の中で慄いた。
続けてがんばりました。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
評価もいただいて、ありがとうございました。
いよいよ作戦も本格的に始まりました。
初登場の赤の機体<カタン・モラクス>は他の機体に
比べて戦車のようなシルエットの機体です。
金田部長の<カタン・オリアクス>も似たシルエットで
<カタン>シリーズは特に装甲が固いというイメージで
扱われています。
それをあえて機銃で倒す。
ムーちゃん、サドかもです。
次回はB地点防衛戦、佳境に入ります。
敵の奇策に苦戦します。
引き続き、よろしくお願いいたします。




