定型ポーズに『腕組ふんぞり』を登録できる人を尊敬する
「待たせたな!諸君…」
一声目に力を入れすぎたのか、後半明らかにヨロヨロな声になる。
チーム<超急戦>の小さな隊長、玉城宿理は
<旅団戦>開始五分前に駐機場に現れた。
話は少しさかのぼるが、これが彼女の今日の第一声…。
チーム全員、ログイン済みで、ハラハラしながら待っていたので
大きな歓声が上がる。
「隊長っ!」
「玉ちゃん!」
彼女は駐機場の入り口から、ひとけりでこちらに
来ようとしたが、軌道がそれて宙に上がってしまう。
無重力中の移動は手足に付けたセンサーで簡単にできるはずだが
やはり本調子ではないらしい。
オレと桂間先輩が同時に玉城先輩に駆けつけた。
「すまないな。ふたりとも…」
おそらく、ついさっきまで、意識がなかったはずだ。
無理もない。
「お礼を…名前を呼べる間に、お礼を言いたかったのだ」
「飛騨くん、千成、金田…いつもありがとう。心配かけてすまない」
「玉ちゃん…ほんまに良かった」
ネコミミのついた桂間先輩のアバターが思わず抱きしめる。
「飛騨くんには、重ねてお礼を…この準備のために宗兄様に
頼みに来てくれたそうだな」
「無断ですが、宗輔さんを巻き込んでしまいました」
-『そうにぃさま』って呼ばれてるのか…
そう言えば宗輔さんも『光海ちゃん』とか呼び方に
こだわってたな。
「いや、いいんだ…家族にはそのうち話すつもりだった」
すると、玉城先輩のアバターの上にチャット時の吹き出しが出る。
『宿理ちゃんを頼みます。こちらもそばについてます』
宗輔さんはログインしている玉城先輩のそばにいるらしい。
『了解です。ありがとうございます』
こらちもチャットで返した。
「玉ちゃん、ちゃんとごはん食べたん?」
「軽くおかゆをいただいた。晴子さんのご飯はいつも最高だ」
「さて、改めて諸君。心配をかけてすまなかったが、もう安心だ」
ナイト二人を従えて、水戸黄門みたいになっている。
「なぜならば、私には勝ち筋が見えている…」
-やっと隊長が『らしく』なってきた。
「今日は前人未到を果たすとしよう…
赤の旗艦<ハルバルガエナストス>を撃墜するぞ!」
「おう!」
「今更、確認することもない。ブリーフィング通り進めるとしよう」
「隊長。悪いが、一点問題が…」
金田部長が『再突入が一度も合わなかった』件を話そうとした。
「無問題…だよ。金田」
「静御ちゃんの口癖や…」
「その件は、飛騨くんが家族に話してくれていた」
「『それ』については、私なら問題ない。
実はこんな時が来るだろうと思って、距離に合わせた正確な
カウントダウンは以前から練習していた。
それに、もともと私には将棋で鍛え上げた体内時計があるからな」
彼女は今度こそ、腕組みをしてふんぞり返った。
「やるね…隊長。恐れ入る」
「なに…管制なら誰よりもできるようにならねば」
「さて、各員搭乗だ。時間がないぞ」
「玉ちゃんはウチが運ぶわ。飛騨くんは初手が肝心やから行って…」
玉城先輩もうなづく。
「了解です。じゃあ後で…」
オレは床を蹴って、自機の<クタナ・ハルファス>に向かう。
整備AIのソルトさんが機体の前に待機している。
「マスター、オーダーは全てクリアです」
執事服はそのままだが、『ご主人様』は慣れないので
『マスター』に戻してもらった。
「ありがとうソルトさん」
コンソールを確認して完璧な仕上がりに礼を言う。
昨日の『営み』がふと脳裏によみがえる。
「ソルトさん…」
拳を突き出すと、グータッチが返ってくる。
これもAIのやっていることだが、確かな感触があるのだ。
「ご武運を…」
「ありがとう」
<クタナ・ハルファス>がハンガーアウトして、射出口に移動していく。
『お、閣下だ…』
香駒純樹がこの期に及んで緊張感のない口調で話す。
<旅団戦>の開始を告げるカウントダウンが表示された特殊モニターに
白い軍服の紳士が移る。
<白の旅団>のゼイン旅団長だ。
公式情報によると、AIとかではなく『中の人』がいるとのことだ。
『諸君、まずは<旅団戦>への参加を感謝する』
オープンチャット内で団員達の歓声が上がる。
月に一度のイベントなので参加者のテンションも高い。
『今<旅団戦>は<白の旅団>発足から12回目の記念すべき戦いとなった。
今日は勝利で1周年を祝おうではないか!諸君らの活躍と武運を祈る!
特務作戦参加の各隊は所定の配置を確認!
作戦は1分後の号令をもって開始とする!
各員第一種戦闘配備にて待機せよ!』
今回、チーム<超急戦>は独自作戦を展開するので、
旅団から出る特務作戦に参加していない。
特務作戦は旅団の陣形にかかわることや、別動隊を作るなど
<旅団戦>の戦術にかかわることに参加する。
特務作戦が成功した時には、ボーナスも出るが多くは『数』を
必要とする作戦が多いため、巡洋艦を持たない<超急戦>には
不向きな内容だ。
『管制室より伝達。コースオールクリア。
発艦のタイミングは作戦開始後、各員に譲渡します。
作戦開始まで30秒…』
旗艦<イルクルムプリビルス>の女性管制官の声が
オレをゲームに引き込んでいく。
『玉城機より各機、旗艦オペレーターのカウントゼロで発艦だ』
『金田機了解、各機送れ』
『桂間機了解』
『角野機了解です』
『飛騨機了解』
『10秒前…』
「角野機、練習通り行こう。離れないように…」
『師匠、了解です』
旗艦オペレーターのカウントが減っていく。
『2…1…ゼロ、発艦どうぞ!』
『各機発進!』
オレたちの<作戦名スリングショット>が開始された。
長い間、お待たせしてしまってすみませんでした。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
お話が少し前に戻って、<旅団戦>開始直前のことになります。
よく考えたらヘッドマウントディスプレイを付けて
周囲が見えてない所を家族に見られてるとか、
とんだ羞恥プレイですね。
玉城家の家政婦、晴子さん、いつもと違う口調で話す
宿理ちゃんを見て、驚いているかも。
宗助さん、悪意なく動画撮ってますよね。
評価もいただいて、ありがとうございました。
引き続き、よろしくお願いいたします。




