体が頑丈だと損をする扱いを受けることもある
「ふーっ…」
声に出して、吸った息を半分吐く。
腹に残った半分の息をギュッと体の中で圧縮するイメージで口を閉じる。
『ここぞ』というときの決め球を投げるときのルーティンだ。
チーム<超急戦>の旗機、<ガドール・レラジェ>が再突入するときに、進路を一掃するため荷電粒子砲を発射する。
それは、進路の予告を兼ねている。
荷電粒子砲の残光が消えないうちに機体をその場所へと滑り込ませた後、このルーティンを入れることで、ちょうどよい『間』を取ることができるようになった。
視認できたと思った瞬間、機体を通り過ぎる<ガドール・レラジェ>を、オレの放ったアンカーフックが捕らえる。
そのタイミング、五秒三二…。
すさまじい加速で、オレの機体は横向きに引っ張られた。
「シミュレーションでは完璧だね。恐れ入ったよ」
モニターで観ていた金田部長がボイスチャットに話しかけてくる。
オレは将棋部の環境でもシミュレーションの<ガドール・レラジェ>に、アンカーフックをかけられるようになっていた。
一発目で失敗したときは冷や汗が出たが、二回目に成功してからは七回連続で成功だ。
「ただし、正面からだけっス。後方から来るのにはかけられないので、敵に背を向けることになりますね」
「マスターは私が守ります」
オレを近接戦闘の師匠と仰ぐ角野睦美の頼もしさよ。
「頼むぜ。ユニ…」
『ユニ』というのは彼女のコールサインの『ユニコーン』を縮めたものだ。
練習中に角野さんの要望でそう呼ぶことになった。
「飛騨君がアンカーフックのスタンバイに入る直前までは<ガドール・レラジェ>の射程に入っていないからねぇ。届くのは荷電粒子砲のみだし」
「ボクとしては実体のある超電磁砲の方が射程短いって納得いかないんだけどさ」
<ガドール・レラジェ>の砲撃手、香駒純樹は不平をもらす。
「やはり支援のできない数十秒は飛騨機と角野機の二機でしのいでもらうほかないか…ふむ…」
そう言いながらも、金田部長は何か考えている様子だった。
「とりあえず、個別の課題もクリアしたし、どこかの戦域で実践的な演習をしておこうか」
「それやと、第三空域のザコわらわらのあたりがええんやない?」
「…異議なし」
「よし、それなら全員、駐機場で集合だ」
「私は一旦<ガドール・レラジェ>のナビ席に入るよ。ここからはコールサインで演習する」
「了解!」
自然とスイッチが入って全員の口調が戦闘モードに切り替わる。
作戦の再現なので、旅団の旗艦<イルクルムプリビルス>からの発艦からだ。
<旅団戦>では戦闘開始前から隊列で待機して艦隊と合わせて行動する機体と、戦闘開始と共に射出場から発艦して、とにかく早く戦闘空域に出る機体に分かれる。
今回はチーム<超急戦>は後者で、チーム全機が発艦スタートだ。
「オーブワンより各機。発艦はこちらのカウントダウンで。状況送れ」
「ナイトワン準備よし」
「ユニコーン準備よしです」
チームのみんなの声を聞きながら、オレの機体<クタナ・ハルファス>も射出場に入る。
「選択エリア3。コースオールグリーン。発艦どうぞ」
女性管制官の声を確認した。
「ワイバーン準備よし」
「作戦開始、十秒前…五、四」
金田部長の声がボイスチャットから入り、ゲームへの心酔度がグッと上がる。
「三…発艦、今!」
軍隊隊方式のカウントダウンに合わせて機体を発艦させる。
-金田部長マニアか。
射出場が急加速でよりギュンと歪み、一瞬で色彩の宙へ送り出された。
「ユニ!行くぞ!!」
「はい!マスター!」
オレはすぐに圧縮炉加速を発動させ、射出速度に上乗せする。
すぐ横を角野機の<クタナ・フォラス>がしっかり着いてきていた。
角野機に換装されたばかりの圧縮炉は癪なくらいのいい加速だ。
ズズン!
バースト時特有のメーターが表示され、速度がドンドン上がっていく。
作戦ではオレと角野さんがとにかく早くB地点へ到着し、その位置をキープするのが重要となる。
数秒加速したところで、さっそくレーダーに敵影が現れる。、
エリア3のザコ敵は<ナグ・ハボリム>。
タメ系のビーム兵器を持っているので、接近するとエンジンの機動残光とは別に赤い光の尾を引くのが特徴だ。
とにかく、次から次へと現れる敵で、ロックオン・アラートが鳴り止まない。
「敵と交戦に入ったら、そこを維持するか前進してくれ。その場所を仮のB地点とする」
「ワイバーン了解。ユニ、敵と接触して減速したらあまり離れないで行こう」
「了解です。マスター」
先頭の機影<ナグ・ハボリム>を真正面で迎えると、バレルロールでかわしてアンカーフックをかける。
<ナグ・ハボリム>はオレの機体<クタナ・ハルファス>より少し大きいくらいなので、引きずられるほどではなく、アンカーフックをかけたとたん機体が弧を描いて回り始めた。
つりあいは取れていないので、いびつな回転だが、勢いは死んでいない。
その軌道を利用して、すぐ近くを通りかかったもう一機の<ナグ・ハボリム>を衝突攻撃で撃破する。
能動的防御を使って、こちらのダメージはゼロだ。
続けて引っ掛けた方の<ナグ・ハボリム>に攻撃する。
<ナグ・ハボリム>は<防御無効>のカウントダウンの表示がつくまでもなく爆散した。
角野機の方も同じように、<ナグ・ハボリム>にアンカーフックをかけて軌道を変えながら機体をぶつけに行っていた。
「マスター。<ナグ・ハボリム>が軽くて回ってしまいますね」
「そうだ、ユニ。こっちにまっすぐ来れるか?」
「はい、マスター」
角野機は敵の攻撃を避けながら、オレの機体のすぐ横を通る。
オレは角野機にアンカーフックをかけると圧縮炉加速を発動させ、大きく回転を始めた。
「えええっ?!」
「一度試してみたかったんだよ。味方機同士で回転して加速をつけられたら、狭い空域でも速度が保てて衝突攻撃がやりやすいかなって」
角野機とオレの機体はほぼ同じ質量なので、その場で安定した回転を保っていた。
圧縮炉加速ですごい速度になっている。
ザコ敵に撃たれているが、能動的防御の効きもいいので簡単に防御できた。
―これ、ずっと回っててもいいんじゃないか?
「ダメですマスター。私コントロールアウトしちゃってます」
「え?なんで?」
「…パイロットレベルの差…かな?」
金田部長はすぐに思い当たって、モニターしている様子だった。
「ユニコーンのパイロットレベルは?」
「二十八です」
角野さんの声の向こうで角野機の機体の警報が鳴っている。
「それだと仕方ないね。ワイバーンは歴も長いし、先日からのエリアボスのキルボーナスでパイロットレベルにかなり差があるんだろう」
「パイロットは通常、急な加減速で、視界がホワイトアウトしたり、ブラックアウトする。
その後、視界が回復しても、しばらくは呼吸が荒いせいで、マスクの口元が白く曇るんだ。
パイロットレベルが上がってくると、どんな機動にも耐えられて機体性能のすべてを引き出せるんだけどね」
―リアリティーすげえ。というか、オレ、その演出知らない。もったいない…のか?
「ボクもこのコントロールアウトのせいで、せっかくの機体性能が活かせず苦労したことがあるよ。
だいたいレベル四十にもなると、どんな機体でも大丈夫なんだがねぇ」
「ユニコーンをリリースしてくれ、パイロット回復まではこちらで援護する」
「あのさワイバーン。こっちの仕事増やさないでくくれる?」
「すまん」
「思いっきり投げてください!マスター」
「いや、優しく投げるから安心して」
黒木先輩の<トトゥカン・アガレス>を放り投げたときのことを思い出す。
角野機のアンカーをこのまま放すとマンガのようにクルクル回りながら飛んでいくことになるだろう。
だが、回転で加速がついているこの状況でアンカーフックをはずせば、その比ではない速度で飛んでいくことになるわけだが…。
「あ、そうか!ユニ、キミの方が正しい」
敵の真っ只中なら変にゆるい速度で投げるより、加速を十分に活かしてリリースする方が敵に追いつかれなくて安全だ。
オレは追加の加速をかけてから、アンカーフックを外す。
「ちょっ!今、加速したん?ムーちゃん殺す気?!」
「ナイトワン、状況中だ。コールサインで」
桂間先輩の抗議に金田部長の横槍が入る。
こうまで名前を呼ばないのには理由があって、<旅団戦>には、流れによりチーム外とオープンチャットで行う作戦もある。
そのためチームプレイでは、コールサインやログインネームでプレイヤーを呼び合う練習をしておくのだ。
オレの方は、かなりの加速で敵の一団に特攻をかけることになる。
敵とは反対の方向へリリースした<クタナ・フォラス>はコントロールのないままクルクル回転しながら戦線を離れていった。
―これが正しい。
<クタナ・ハルファス>は投げた斧のように回りながら敵をなぎ倒していく。
こんな回転中でも視界は良好だ。
敵と接触する瞬間、能動的防御を入れていく。
オレはこれが普通だと思っていた。
「ユニ、次は一回転で離す」
「了解ですマスター。コントロール回復しました」
角野機とすれ違う時にアンカーフックをかけてスイングバイ。
一回転以内にフックを放す。
軌道が変化して、敵に狙われにくい。
敵にアンカーをかけてターンし、再び角野機と交差する。
二人の機体が減速しそうな位置にいる敵はオーブワンの超電磁砲が排除してくれる。
包囲されそうになりながらも、少しずつ敵の猛攻を切り崩して前進していった。
「ワイバーン、こちらから見て真横に移動しないで。横射ってツライんだよね」
「ワイバーン了解」
そもそも戦線を前進するのに真横に動いていては意味がない。
できるだけ、前進側にスイングバイを繰り返す。
敵の密集が解けるタイミングで、アンカーをかけたついでに回復弾を試してみた。
後部兵装の斜め射角がちょうどつながった二機の軌道に合っている。
難なく命中して回復素子を散布してくれた。
「これ、二人とも回復してるな。ユニ、支援のない時に使おう」
「ちょっと視界が飛びかけますけど、問題ないです」
「いい感じで課題クリアだね。よし、ここから再突入をシミュレートしよう。オーブワン離脱だ」
ついにこの作戦で最初の課題となる再突入だ。
「了解」
本当に本当に長らくお待たせしてしまってすみません。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
評価もいただいてありがとうございました。
機体を急制御すると視界がブラックアウトする演出は、
その昔、リアル系のフライトシミュレーターで
感動した演出で、ゲームで使いたい設定でした。
今回はそれに加えて、本来は白く曇らない
フルファイスバイザーの口元が息の荒い間だけ
白くなるという演出を加えました。
現実の戦闘機のパイロットは口鼻を覆う酸素マスクを
しているので、バイザーと別になっていますし、
たぶん曇らないはずなのです。
フルフェイスのヘルメットを普段使っているので
前からやってみたかったんですよね。
今回は久々で、もっとお笑いシーンを入れたかったのに
なんかまじめに話だけ進めてしまった感がありました。
もっと執筆がんばらねば。
引き続きお付き合いくださいませ。
よろしくお願いします。




