キャラが悪役っぽくなる分には許容できるんですが
「あ、ふあっ…」
翌朝、あくびをしながら家の玄関を出ると、珍しく香駒純樹が待ち構えていた。
野球部の朝連などで時間が合わなかったのもあり、純樹が高校生になってからも、お隣さんでも時間を合わせて出てくるようなことはなかったのだが、昨日の今日では無理もない。
「あのさ、マー兄ちゃん、メール、ラインにメッセージ、全部スルーってどうなのさ?」
「…すまん」
「まぁ、例のシミュレーターにかかりっきりと思たから電話は遠慮したけどさ」
純樹、あいかわらず空気の読めるいいやつだ。
頭なでといてやろう。
「とりあえず、玉城先輩な…ちょっとピンチだ」
-決戦当日もそうだが、昨日知ったが、出席日数もな。
まあ、これは言わないでおこう。
「あのさ。こんなことはたまにあったけど、倒れた現場にいたのは昨日が初めてだったんだよね」
-コイツなりに動揺してたのか。悪いことしたな。
「ところで、マー兄は仕上がったの?」
「そっちは今日、部室でな」
実際、よその環境でもできるかは、まだ微妙だった。
教室に入って席につくと、昨日までは何も話しかけてこなかったレオーネ・シルヴァーニが隣の席からオレをつついた。
「昨日、元部長、倒れたンだって?姉貴からメール来たよ」
「ああ、大変だった…」
「姉貴は心配ないって書いてたけど、本当に大丈夫なのか?」
「専門の医者もついてたし、たぶんな…」
それを聞いてレオーネもホッとしたらしい。
「元部長の家、スゴイだろ。姉貴のお供で行ったことある」
「お屋敷…だったな。アレは…」
クラスで口を開いたことのないオレが、一番なさそうなレオーネと話している。
教室のあちこちで女子たちがヒソヒソ話を始めていた。
-いや、オレもレオーネも普通だって…。
「ああ、それとな。オレ、もう女装しなくてよくなったぞ」
さすがにコレは小声だ。
「お、答えわかったのか?」
「自力ではわかンなかった」
「なんだ、そうか…」
「でも、飛騨には感謝なンだぜ」
「なんで?」
「姉貴が『正直者の友達に免じて』って、怒ってた理由を教えてくれた」
「その『正直者』って?」
「もちろンお前」
「アレそのまま話たんか~」
「姉貴が『黙ってると怖いって、コンプレックス』だってさ」
「会ってもいない人のコンプレックスえぐるとか、勘弁しろよ」
「まあ、そのおかげでオレは部室に入りやすくなった。これからも相談に乗ってくれ正直者」
「で、静御先輩が怒ってた理由って何だったんだよ」
「あ、先生が来た。後でな」
-って、マジっかよ!気になって先生の話、何にも入らんわ。
やきもきしながら、ホームルームや授業を過ごしたが、合間合間にレオーネの姉の銀嶺静御先輩が何に怒って「女装」だったのか、話してくれた。
-それより、教室のザワつき様よ。
普段、教室で一言も話さなかった二人が、突然休みたんびに話すようになったら目立つのは当たり前だった。
話す方も、聞く方も先が気になって、ガッツり話し込む姿に『レオーネ大男好き』説まで持ち上がっているようだったぞ。
とりあえず、静御先輩が怒ってた理由と、なぜ『お題』が女装だったのかについてだが…。
レオーネが『服を着て写真撮るだけだろ。モデルの仕事くらい自分にも出来る』的なことを父親に話したらしい。
それを聞いた静御先輩が怒って『服を着る』とはどういうことか思い知るがいいというお仕置きだったそうな。
モデルは『コレは服か?』と思うほどのモノを服として着こなし、その世界観の住人然としてふるまうことが必要と言うのが静御先輩のモデル観なのだそうだ。
『一概には言い切れない』とのただし付きだそうだが。
これでレオーネの『服』に対する既成概念や『ゆるい』部分は部室で女装することで吹き飛んだことだろう。
授業が終わった後、部室に行ってオレはそれを実感することになった。
静御先輩の『目を合わせない』に対する『答え』だ。
オレのアバターに装備されたのは、アイマスクのようなバイザーだった。
ちょうど、現実のオレ達がゲーム中にしているヘッドマウントディスプレイをシンプルにした感じだ。
もしかすると、某アニメの敵役や怪盗〇〇のような目に穴のあるマスクを付けられるのかと思ったが、目元や表情を示すものは付いていなかった。
普段見慣れた感じに近いと安心できる。
機体に乗る時に装着する頭を覆う透明なヘルメットにも干渉しない作りだった。
ただ、オレのような体格だと、目を隠すだけで…。
「いよいよ悪役が板についたね。マー兄ちゃん」
「お誉めにあずかり光栄だよ!純樹くん」
ログインして駐機場に入ったオレを純樹が下から見上げてからかった。
「先輩、マスクカッコイイです!」
後輩の角野睦美もログインしてきた。
-なんて、いいフィルターを持ってるんだ角野さん。
「これは!先輩をマスターと呼んでもいいですか?その…師匠と言う意味で」
「まあ、いいけど…」
-あれ?なんか違和感が。
「角野さんがオレと話してる!」
「はい、昨日、大佐どのに作っていただきました。
私が話しているのは、全部文字チャットになるんです。先輩には…あ、マスターには読み上げの声が聞こえているはずです」
-音声入力を文字化して、再び音声に出力しているのか?
まるで本人が話しているようだ。
「確かにこの方がコミュニケーションは取りやすいね。助かるよ」
「え?…い、いま笑いました?」
「静御くんのアイデアだ。かわいいだろう」
「なんか、一気にマイルドになったね。マー兄ちゃん」
「目を隠すことで欠落する情報を補完するためのデザインだそうだ」
「どういうことです?」
「あ、今度は『疑問形』だ」
みんながモニターを見て笑っている気配がする。
オレも気になってバイザーを上げて、金田部長の手元のパソコンを見た。
(?_?)
オレのアバターの目元を隠すバイザーに顔文字が…。
「マジっかよ!(>_<。)」
本当に長らくお待たせしてしまってすみません。
ここまでお読みいただきまして
ありがとうございます。
評価もいただいてありがとうございました。
<旅団戦>一日前。いろいろと準備で大変ですが
主人公にやっと居場所ができました。
レオっちは人見知りで、めんどくさがりなだけで
「チヤホヤ」さえしなければ、普通の奴なのです。
静御ちゃんのせいで「女の子が苦手」なだけなのに
クラスの女子には「男好き」と勘違いされて、
この日以来、しばらくこのネタでクラスはザワつく
ことになりました。
主人公、違う意味で声がかけづらい存在になってしまいました。
静御ちゃんは登場していないのに、いろいろと絡んでますね。
バイザーの顔文字表示は表情AIに登録された
「キャラの表情」として会話に合わせて表示されています。
こんなゲームほしいですね。
ちなみにログイン画面に自分のアバターの外観は表示されて
いるので、主人公はその時点で、顔文字の出ていない顔の
変更内容を知っていて動いています。
さて、主人公は無事、訓練の成果を発揮できるのか?
引き続きお付き合いくださいませ。
よろしくお願いします。




