オレのやり方は「後ろからガンガン」ですが
「玉城先輩。少し余裕できたらオレのやり方について説明しますよ」
オレのやり方とは、シューティングゲームであるこの<ソルブレイド・オンライン>ではごく少数派の体当たりプレイ「衝突攻撃」のことだ。
このゲームの機体には自分で選んだ武器が4箇所から、機体によって8箇所まで同時に装備できる。
「衝突攻撃」は本来、射撃武器を装備する機体の<腕>にあたる左右のフロント・ポート両方に敵弾を弾くシールドを装備して敵に体当たりを入れる近接…いや接触攻撃だ。
SF的な物理志向がウリの<ソルブレイド・オンライン>だが、シューティングゲームだからか、それとも3Dだからなのか、機体衝突時についてはいくつかのルールしか存在しないらしい。
情報交換ボードで確認した内容ではこんな感じた。
-機体のダメージは機体同士がぶつかったときに質量・運動エネルギーに応じて双方に行われる。
-機体同士がぶつかった場合、質量の差により機体同士は弾かれる。(ポリゴンのメリ込み防止?)
-装甲特性や物理攻撃軽減などにより、ダメージが軽減される。
-シールドが間にあった場合、ダメージが軽減される。
そして、一番のキモは…。
「それにしても体当たりがこんなに強かったとは。ザコなどほとんど一撃じゃないか」
-シールド装備時にトリガーで行う<能動的防御>は敵弾と衝突のダメージをゼロにする。
という事だ。
敵と接触する瞬間両方のシールドのトリガーを引く。
<能動的防御>で機体同士がぶつかったときの質量・運動エネルギーは全て敵側にのみ伝わるのだ。
「一撃じゃないですよ。少なくとも二回はぶつかってます」
「二回?撃破まで一瞬じゃないか」
「アンカーフックでつながっているから敵は撃破まで何度でも戻ってくるんですよ」
彼女の言う「ザコ」は小型の機獣なので、衝突計算で離れる距離が短い。
一瞬で何回か衝突するので「一撃」に見える。
それにしても俯瞰視点で見ていると、とてもチープに見える。
小型のザコ敵と言え、サイズと推進力は機獣の方が大きい。
アンカーフックに引きずられて都合よくこっちの機体は相手の装甲が薄い背後にぶつかる。
相手に入るダメージが大きいのはそれだけが理由ではない。
「ところで、さっきから敵に表示される数字は何なのだ?ダメージ表示にしてはケタが少なすぎるが…」
「これはカウントダウンですよ。先輩」
敵に衝突すると敵の上に「10」から始まるカウントダウンが表示される。
「これが今日部室行った時に話した、あのエリアボスがドロップしたアイテム…」
「そうか、これが件の<防御無効>!」
件って…どこの時代の人だよ。
このカウントダウンの間、<防御無効>の放つナノマシンの浸食であらゆる防御スキルが無効化される。
つまり、「二回」とは、初撃は通常ダメージと<防御無効>のナノマシン付与。
二撃目以降「10」カウントまでがダメージ軽減なしの生値ダメージとなるのだ。
「本当にスキル・スロットに<防御無効>って表示が。これは本当にシューティングゲームのコンソールなのか?」
「正真正銘<ソルブレイド・オンライン>のプレイですよ。」
「我々とはまるで違う。こんな戦い方があるなんて…」
追尾式の武器を選択中に敵をサイトエリア内に入れるとロックオンカーソルが付く。
そうすると、機首が勝手に敵のほうに向く機能があるのだ。
これを利用して撃破まで撃ち合い(チェーンデスマッチ)するのだ。
多くのプレイヤーが減速し、ほぼ停止状態になって敵を射撃武装で撃つところだが、オレはわざと加速して敵の横へ横へと回り込むように進みつづける。
敵もまたオレを追うように近づくわけだが、傍から見れば敵と仲良くクルクル回っているようになる。
そのうち敵との距離が近づきすぎて視界から消えてしまう。
機体の姿勢制御が遠心力に負けて8の字を描くように遠のくのだ。
その瞬間を狙って機体リア・ポートに装備したサイド・アンカーフックを撃ちだす。
機体の真横を通過中の敵にちょうど当たるのだ。
アンカーフックでつながると推進力のある方に引っ張られることになる。
たいていは機獣の方に引っ張られるので、いきなり横移動が始まり、ゲームはまるで鯨狩りに変わる。
アンカーを巻き上げて、敵に背後から近づき、シールドを叩き込む。
機体同士がぶつかった場合、質量の差により機体同士は弾かれて距離があく。
そこに機体を回転させて、シールドが効率よくあたるように機首を敵に向けて突き込むように当てる。
もちろん、衝突の瞬間にトリガーを引き、<能動的防御>をぶちかます。
実は今日初めて俯瞰視点で<防御無効>の動くところを見たのだが、機獣のドロップアイテムらしい意匠の脈動が発動していてカッコいい。
「実に力強い…まるで剣の様だな。これは君にしか使えないよ飛騨将斗雄くん」
ふと、視線を感じたのでオレはヘッドマウントディスプレイのバイザーを上げる。
そこにはオレを正面から見ている先輩-玉城宿里の小さな顔があった。
「キミは一週間後、私と共に旗艦を墜とすことになる!」
間近に顔があったことにも驚いたが、オレは彼女の瞳の色彩に心臓をつかまれたかのように思った。
この瞬間、彼女はオレの「隊長」になったのだ。
ここまでお付き合いいただきまして
ありがとうございます。
チートアイテム<防御無効>
登場です。
シューティングゲームなのに、
ぶつけないと効果出ないとか。
隠しアイテムです。
次の章から、主人公がチートアイテムを
手に入れたお話しになります。
少し時間がもどります。
なにとぞよろしくお願いします。