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俺をエースと呼ばないでくれ  作者: たちまちいさか
29/40

人生初のお姫様ダッコが意識のない女性とか衝撃的スギる

「飛騨くん、キミは時速百六十キロの速球を打ったことはあるかい?」


「いいえ。辛うじてバットを当てる程度で…ヒットになる当たりには程遠いです」


行きつけのバッティングセンターにチャレンジコーナーができて、野球部全員で挑んだことがある。


「本当に打てないままだと思うかい?」

その問いには投手として『無理だ』と答えたくない。


-時速百二十キロだって早いと言えば早い。緩急とリズムこそ投球の肝なのだ。


「感覚というか、タイミングですね。確かに…」

自分で言っていてかみしめた。


「つかむまで時間がかかると言うだけさ。焦ることはない」


三日後に控えた<ソルブレイド・オンライン>の<旅団戦>で、旗艦を()とすという目的のため、隊長-玉城宿理(たましろしゅくり)によって立案された『スリングショット作戦』。


その仕上げとなる<ガドール・レラジェ>の突入に、金田部長の提案で、先行していたオレたちも合流することになった。


オレか角野さんが突入に参加できれば、あらゆる防御ステータスを十秒間封印する<防御無効(シールドブレイカー)>を前線で使うことができる。


防御無効(シールドブレイカー)>が赤の旅団の旗艦<ハルバルガエナストス>にどこまで通じるかは不明だが、先日のエリアボス<ク・ラヴ・バラム>には有効だった。


オレ個人としても、旗艦ほどの巨大戦艦が丸裸になるのを見てみたいと思う。


オレと角野さんは三十分ほどシミュレータで<ガドール・レラジェ>にアンカーフックをかける練習をしてみたが、活路を開くほどの手ごたえは得られなかった。


「金田部長。オレが視認したと思うところから接触までの秒数を正確に測ることはできますか?」

「可能だよ。録画した動画で試すかい?」


さっきシミュレーターで練習している時に、自分たちの視点(ビュー)モニターは金田部長のパソコンに表示されていた。


トライした中でも<ガドール・レラジェ>の荷電粒子砲(バスターランチャー)射線上に素早く入れた回を表示してもらう。


ほぼ真後ろに<ガドール・レラジェ>を捕らえているはずだ。


「見えたと思うところで、エンターを押してくれるかい」


オレは後ろから手を伸ばして、金田部長のキーボードにスタンバイする。


動画が再生されて、あの時の状況が流れた。

オレは真後ろを見ていて、<ガドール・レラジェ>が来るのを待ち構ええている。

見えたと思った瞬間エンターキーを押す。


「…5秒33。意外に遠いところで視認しているね」


金田部長はシミュレーターの位置情報を見て、通過までの時間を計算していた。


「誤差を見たいので、複数回やってもらえるかな」


言われる通り、何度か試してみる。


「…5秒31。すごいねコンマ02前後でタイミングが同じだよ」

『飛騨先輩。さすがです』

目を丸くした角野睦美が会話速度で携帯のメモに表示する。


実際はこれを敵地の中でやることになる。

今は余裕があるからこのアベレージだ。


「スゴイと言っても、これはあくまで視認のタイミングが同じなだけだし」

純樹(あつき)の言うとおりで、視認のタイミングが同じなら、いくら速くても少しはタイミングが合ってくるはずなのだ。


「で、実際のアンカーで失敗してるから、思っているように機体がコントロールできてないんだよなぁ」


視認から正確な通過時間が分かっても、それに合わせた機体コントロールは反復して、身につけるしかない。


金田部長が言った通り、『つかむまで時間がかかると言うだけ』なのだが、今回はその時間があまりない。


『焦るな』と言われても無理な話だ。


「いつものように正面から来るのに合わせるかな」


敵に装甲の弱い背面を見せることになる。

何より不安なのが、いざというとき前面二枚盾の能動的防御(シールドパリィ)が使えない。


今までは背後から来る<ガドール・レラジェ>にアンカーをかけようとしていたのだがそれ自体に無理があったのだと思う。


『飛騨先輩。それなら私が先輩の背後を守ります』


「頼めるかい。<ガドール・レラジェ>と合流する時にアンカーでキミとオレの機体をつなぐ」


『それだと先輩が一本しか使えなくなります。私が先輩の機体にアンカーをかけますから』


「あくまで二人が前線で生き残った場合だけどね」

『大丈夫ですよ。先輩は私が守ります』


「ありがとう。オレも角野さんを守るから」

『え…その…私なんかを…』

お互い言っていて恥ずかしくなった。


「ぷしゅ~」

角野さんが眼鏡のツルを両手で挟む。


「っと、宿理ちゃん!」

その時だ、背後で玉城先輩が、よろめいて千成(ちなり)ちゃんに支えられる。


「大げさ…だな。だ、大丈夫だ…」


玉城先輩はロウの様に真っ白な顔色になっていた。


「すまないが電話を…たのむ」


千成ちゃんの目配せでオレが玉城先輩を支える。


さすがに冗談好きの千成ちゃんでも『お姫様ダッコ』とか、からかう余裕がない。

慌ただく携帯を取り出すと玉城先輩の自宅に連絡をしているらしい。


玉城先輩は意識が保てないのか、目も閉じかけている。


「できるだけ、ちゃんと寝かせるために、こういう時は自宅に帰ることになっているのだよ」

金田部長も心配そうだ。


玉城先輩の不眠症の事を知らない角野さんはあまりの騒動に立ち尽くしている。

純樹が見かねて説明しているようだ。


「主治医さんも自宅に来てくれるらしいんだ。それで元部長の家の人が車で迎えに来るんだよね」


「飛騨くん、宿理ちゃんを校門までお願い。カバンはウチが持って行くから」


「え?オレがっスか?」

「あのさ、無駄にデカいって言われたい?マー兄ちゃん」


オレは仕方なく玉城先輩を抱き上げる。

-軽い。驚くほどだ。


「さすが!」

バシバシ背中を叩く千成ちゃんの手が痛い。

-なんか嬉しそう。親戚のおばさんか?


「先生には私から言っておくよ。玉城には後のことは任せろと伝えてくれたまえ」

金田部長がメガネクイをする。


「じ、冗談…いうな…かねだ…私は…さ…参加する…ぞ…」

玉城先輩が腕の中でうわごとの様に抗議している。


とにかくオレは校門まで、玉城先輩を運ぶことにした。


校舎内は部活の時間帯で人通りもなく、人目につくことなく校門までたどり着く。


ほどなく、高級車とひと目でわかる黒いセダンが校門にやってきた。


運転していたスーツ姿の女性がすぐに降りて、後部のドアをあける。


「そのまま乗って!」

「え?オレもっスか?」


「あ、カバンとか…」

「はい、カバン」

千成ちゃんは玉城先輩のカバンだけでなく、オレのカバンも持ってきていた。


「飛騨くん、宿理ちゃんを頼んだで!」


車は玉城先輩をお姫様ダッコしたオレを乗せるとすぐさま出発したのだった。

ここまでお読みいただきまして

ありがとうございます。


やっと、29話をアップできました。


今回はちょっとシリアスな展開と

なっています。


さらわれた主人公はどうなるので

しょうか。


次回は玉城家の面々が登場です。


引き続きお付き合いくださいませ。

よろしくお願いします。

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