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俺をエースと呼ばないでくれ  作者: たちまちいさか
27/40

美少女とデートしているはずなのにお世話スキル誉められる

「ああ、キミだけはどれだけ背が高くても腹が立たない」


オレと隊長-玉城宿理(たましろ しゅくり)先輩は、とある約束のためにアイスを食べに専門店(サーティーワン)に来ている。


「早く食べないと溶けてしまうぞという(たたず)まいもまた愛おしい」


褒めているのはトリプルのコーンアイスのことだ。


「それだけ褒められたら、アイスも本望でしょうね」


隊長さんは見た目だけは、トリプルのコーンアイスを食べているのが似つかわしい状態になっているが、セリフ回しがちょっとおかしい。


-佇まいっていつの時代の人だよ。


「まずはチョコミント、あと…バニラ、そして、チョコミント」

という注文を聞いた時は、店員さんもオレも「チョコミント2つ?」とちょっと突っ込んだに違いない。


「本当におごることになるとは思いもしませんでしたよ」

「なに、この先で元は取らせるとも、次は私が何か御馳走すると約束しよう」


「それと…これを渡しておこう」

オレもバニラのシングルでお付き合いしていると、ご満悦の玉城先輩は何かを差し出した。


渡されたのは、女子の使っている小さなメモだった。

「何です?」

「私の住所と連絡先だ」


どういう意味かとドキドキしながら少し考えていると。


「私は少し体が弱くてな。何かあった時に連絡するか。送ってもらいたい」

-業務連絡か。


「実は父以外の男性とこんな感じで出かけるのは初めてなのだ」

「以前、補導されそうになったというのは?」


「それは金田だ。静御がトイレに行っている間に職務質問されていた」

「それ以外でもクラスの男子何人かと、外で偶然会って話していたりすると、補導されそうになる」


確率が高すぎて、オレもついつい周りをうかがった。

警察官の姿は今のところない。


「あ~っ、どうしよう飛騨くん。緊急事態だ」


このタイミングで言われたのでビックリしたが、何のことはない。


見ると、アイスが溶けて、コーンのところに垂れてきている。

十八歳がやっているとちょっとエッチな光景になってもおかしくないはずだが、やはり子供が困っているようにしか見えない。


「ちょっと待っててくださいね先輩」


店員さんに「不慣れで食べきれないこと」を説明してカップとスプーンをもらった。


「かわいいですね。妹さん?」

「ええ、まあ…」


店員さんのコメントは先輩には伝えないとして、すぐにアイスは緊急回避した。


「ちょっと手を洗ってくる」

「先輩、コレを…」

ついでに湿らせてきた手拭き紙を差し出した。


親戚の子供の面倒を見ることが多いので、こういう手回しだけは良くなってしまう。


「気が利くな。飛騨くん」

何か釈然としない顔をしながら手を拭くと、彼女は思い詰めた表情でオレを見る。


「まさか、お子さんがいたりは…」

「しません!」


「うちの父でもできないぞ。どこで身に着けたお世話スキルだ」

「『お世話スキル』と言われたこと自体初めてですよ」


そういえば、この『お世話スキル』はひとつ上の幼馴染みの塚地駆琉(つかじ かける)が、香駒純樹(かごま あつき)をかわいがるのを見て真似して覚えた。


純樹(あつき)はひとりっ子で甘え上手になり、オレは同じひとりっ子なのに世話上手に。

今でも純樹は『マー兄ちゃん』とすっかり弟気分だ。


「トリプルは欲張り過ぎた。後輩くん手伝ってくれ」

コーンに残したチョコミント一個をようやく半分食べたところで、ギブアップだ。


本当に子供か。玉城先輩。


オレはかじりかけていたコーンを使って、カップにとっていたチョコミントをすくおうとすると。


「な、なな、何をする。後輩くん!こっちはダメだ」

「いや、バニラはオレも食べたんで、ちょっと味見をと思って」

チョコミント好きにもほどがある。


「ち、違うぞ。決してチョコミントを死守せんとしたわけじゃないのだ。ほんとだぞ」

オレの目が『子供か』と言っていたらしい。

彼女は必死で言い訳しようとする。


「その…こっちは私が散々…なめ…アイス…な…でだな…」

真っ赤になって理由を言う玉城先輩の声が、だんだん小さくなって聞き取れなくなる。


「とにかく、まだ早い!」

-何が?


とりあえず、ダメらしいので、カップに逃がしたバニラをつついた。


その様子をなぜか玉城先輩がしげしげとのぞき込む。


「変な味とかしないか?」

「変な味?」


-ひょっとしてチョコミントと重なっていたところのことか?


-なるほど、チョコミントは『変わった味覚』と心配してるのか。


「そりゃ、少しは味がしますけど、大丈夫、むしろアクセントになって、おいしいですよ」

それを聞いた玉城先輩が顔を真っ赤に爆発させた。


「飛騨くんは変態か~!」


後で、自分が舐めたアイスを食べられないかと、気にしていたことを聞いて大笑いさせてもらった。


野球部ではアイスの一口くらい普通に他人のものでも構わずかじり付くので、気にもしていなかった。


「飛騨くん、ちょっといいだろうか?」

アイスを一通り食べ終わった後、玉城先輩が突然切り出した。


「実はな、香駒や千成(ちなり)にキミの経験について聞いた時から、どうしても質問したいことがあったのだ」


「こんな失礼な質問をしていいかわからないのだが…」

それでも、葛藤があるのか迷っている様子だ。


「やっぱりやめておこう。<旅団戦>が終わってからにする」

「そんな風にやめられるとかえって気になりますよ」


「あ~っ…わかった。質問しよう」

あの、玉城先輩が緊張している。


「飛騨くんは野球が今も好きか?」

「え?」


「もっと立て込んだこと聞かれるのかと…」

正直、拍子抜けした。


「それには迷いはないですね。ケガをした今でも野球は好きですよ」

「そうか…そう考えられるものなのか」


「一年生のときに甲子園に行ってしまったことを後悔していないか?」

それを面等向かった聞かれるのは初めてだった。

ちょっとだけ、心の中がモヤっとする。


「…いまは、してませんね」

少し考えてからの返事になった。


「と言っても、この間、塚地主将(つかじキャプテン)と会って、そこでやっと整理ついたかな」


「玉城先輩に言われて気付いたんですけど、正直、なんで一年で終わってんだ~って、最近までイライラしてたかも」

「高校の間、もう野球はできないのだろう」


「そうですね。でも、オレは甲子園で勝つ貴重な経験もできたし、ある意味幸運だったかも」

肘をさするとまだ少しだけ痛む。


このケガを勲章とは言わない。


「人によっては二度と競技選手としてはマウンドに立てないヤツもいるくらいだし」

「そうか、幸運とまで言えるキミを尊敬するよ」


この間といい、玉城先輩を筆頭に、チーム<超急戦(ちょうきゅうせん)>のメンバーはオレを誉めてくれる。


久しく、人に誉められたことがなかったので、本当に心地よい。


「私はね。父に勝てるような棋士になろうとがんばっていた」

玉城先輩はどこを見るでもなく、少し目を伏せて話初めた。


「なのに何も始まっていないときに、父が私に『負けた』と言ってしまったのだ」

玉城先輩の顔から表情が消えてしまう。


悲しみとも怒りとも、そういった『出る』感情はそこにはなかった。


オレが感じたのはたぶん『寂しさ』だ。


「私の家は母が早くに亡くなってしまってね。父は多忙な人だったから家にほとんどいない人だった」

そんな重い話になれていないので、オレは言葉も出ない。


「父親が忙しいのは当たり前だと思っていたし、それについては何も思うところはない…」


「いや、あったのか…」


「最初は父との接点のつもりで勝手に近所の将棋教室に行った」


「玉城という名だから最初は誰も気付かなった。思う存分好きなように将棋をできたし楽しかった。そのうちに父にバレてね。正式に将棋教室にあいさつに来てくれた」


「みんな驚いていたよ。でも、教室の大人たちはみんないい人で、それからも変わらず接してくれた。父の武勇伝もたくさん聞かせてくれたよ。父がコレに生涯をかけるのもわかる気がすると思うほど将棋が…、そして、父のことが好きなったころだ」


「父が一緒にテレビに出ようと言ったのだ」

「その話、昨日部室で聞きましたよ」

隠していても仕方ない。


「あと、玉城先輩。聞いてしまいました。その…不眠症のこと」


「金田め、言いふらすなと言ってあるのに」

それでも自分で説明せずに済んだことを彼女はホッとしているようだった。


「対局の後はたいてい寝てないって聞きました」

「ああ、負けた後など何日もそうだな」

オレは彼女の渡したメモをポケットの上から押さえる。


「この数年間、将棋は私を苦しめてばかりいる」


好きなものが嫌いになりかけている。

この気持ちは痛いほど、オレにはわかる。

オレには塚ちゃんがいたから、乗り越えられたのだ。


寂しそうにそう言った彼女をオレはほっとけなくて必死で考えた。


「この間、金田部長が将棋は『感想戦』っていうのをやるのがダメなんじゃないか、なんて言ってましたけど…」

そういえば、この話には違和感を覚えた。


「オレはむしろ逆だって思います」


「野球をやっていると、投手(ピッチャー)捕手(キャッチャー)とコンビですし、試合の後でいろいろ二人で考えるし、意見が食い違ってケンカにもなるんスよ」


「そんな時にふと、さっき打った打者(やつ)から聞けたら楽だなって、言ってたくらいなんです」


「教えないっスよ、普通。勝ち方なんて」

「そんな風には考えたことがなかった」


「少しだけ感想戦が楽しみになったよ。ありがとう飛騨くん」


恐らく彼女は『王城(おじろ)名人を引退に追い込んだ天才』として周りから値踏みされている。


オレなんか体験したことのない、逆境の中で将棋を指しているのだ。


そうだ、オレが投げていて孤独を感じた時、一番救われた言葉を思い出した。


「対戦相手だって同じ野球をしている選手の一人だ」

玉城先輩が伏せていた視線を上げる。


「何しろ、お前の球を空振りしてくれる打者がいなくちゃ、三振はとれないんだからな」


「対戦相手は同じ将棋を指す人か…悪くない」

今度こそ、彼女の目が輝きを取り戻す。


「まあ、受け売りなんですけどね」

「塚地か、饒舌だな彼は…」


「それでも、今のセリフを私に言ったのはキミだよ。飛騨くん」


「ありがとう。話を聞けてよかった」

彼女はいくらか楽になった顔をしている。

それでも全て解決した訳ではないことはオレでもわかる。


「まずは<旅団戦>だな。明日から準備で大変だ」


「大変な課題も出されましたしね。なんだかドキドキしてきました」


「私もドキドキしているとも…こんな風に後輩くんと…」

「え、何か言いましたか?」


玉城先輩はオレを手招きする。

少し恥ずかしいが顔を寄せると。


「…飛騨くんは、<ガドール・レラジェ>にアンカーをかけてくれるんだろう?」

玉城先輩にはドキドキさせられる。


「ところで、飛騨くん。私は髪の毛をくくることにする」

店の外を警察官が通るのが見えた。


本当に玉城先輩にはドキドキさせられる。

ここまでお読みいただきまして

ありがとうございます。


やっとデート行けました。

しゅくり人生相談会になってますが。

父子家庭で、家政婦さん一人と

内弟子さん二人と暮らしている

特殊な環境で育ってます。


体が弱いので、屋外活動の経験皆無です。


主人公はひとりっ子ですが、

近所に兄貴分、お隣に弟分と

男の子社会で育って、真逆なふたりです。


アイスのくだりは自分でも楽しみに

してました。


さて、次回は訓練とあまあまです。


引き続きお付き合いくださいませ。

なにとぞよろしくお願いします。

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