どうしても緊張する相手の基準って人それぞれなわけで
「おはようございま~す」
文化系のあいさつは面白い、もう夕方なのに朝仕様だ。
翌日、将棋部の部室に行くと、誰もいないのか静かだった。
と、金髪で眉目秀麗を絵にかいたような美女がテーブルのところに座っている。
瞳の色も緑かかっていて完全に外国人だ。
「ちわス。えと、銀嶺先輩っスか?」
銀嶺静御という名前から、勝手に日本人だと思っていたが、どうやら違うらしい。
先輩からは、昨晩、思った通り、アバターを設定変更したいとメッセージがあった。
学生手帳の写真を送ったりといろいろさせられたが、留学先から帰るというのは聞いていなかった。
「は、はじめまして、飛騨です。二年です」
これだけの美人を前にすると、さすがにオレも緊張する。
銀嶺先輩はこちらを一瞥すると、フイと目をそらした。
-うお、クールビューティ…。
-マゾなら大喜びだろうが、体育会系にはちと腹立たしい対応だ。
-あれ?でもなんか、デジャヴを感じる。
以前もどこかで同じ目にあったような。
改めて見ると、銀嶺先輩は思っていたよりガッシリしていた。
いや、別にいやらしい目で見てなんてないが、胸なんか妙に浮いた感じが…。
-コレ…男だ。
「もしかして、シルヴァーニ…くん?」
顔をよく見ると、同じクラスのレオーネ・シルヴァーニだ。
クラスで一人だけ外国人なので、目立っている。
すぐ隣の席なので、編入後すぐに話しかけたが、さっきの感じで目をそらされたのだ。
「飛騨くん、これには事情があンだよ」
なんかスゴイ迫力でこっちにやってきた。
「黙っててくれよ。な?な?罰ゲームみたいなもんなンだよ」
女装で両腕をつかまれる。
見た目にスゴイ美人だが、やっぱり怖い。
「その格好でつかまれると、なんか怖い!とにかく放せ」
「だから騒ぐなって言ってンだろ」
「レオっち、着替えすんだ?」
スターンとドアを開けて、部室に入ってきたのは桂間先輩だった。
「取り込み中?じゃま!?」
「違います!」
お花畑が全開だ。
「どういうことっスか?」
レオーネは今にも泣きだしそうな顔をして、イスに座って落ち込んでいる。
「いや、女装な、静御ちゃん指令なんよ」
「ウチの姉貴、いつもこンな感じでさ」
「姉弟?だって名前が…」
「姉貴は日本名で通しているからな」
「オレも銀嶺玲央って名前あるンだけど、名前とのギャップで小さい頃いろいろあって…」
「両親と相談してカタカナ名前にしたンだよ。その方がいろいろ楽になった」
「静御ちゃん指令って?」
「なんかオレが姉貴の地雷を踏ンだらしくって、留学中、将棋部に入る時はこの制服を着ろと言われてさ」
「ウイッグはウチが貸してあげてん。化粧もウチやで綺麗やろ」
「綺麗にしてどうするんです?」
「その方がおもしろいやん」
-あんた鬼や。
「お帰り、私之彼女!」
なんか金田部長が『金ちゃんさん先輩』で部室に入ってきた。
「いやコレは…」
「わかっているよ。レオくんだろ」
-あんたも鬼や。
「静御くん、今回はレオくんに何を悟らせたいだろうねぇ」
「悟る?」
「ウチの姉貴、何かを伝える時、言葉で言わないンだよ」
「ウチも理由は知らないんよ。ただ着替えの面倒見たってとは頼まれてな」
「ホント難しくってさ」
レオーネは頭を抱えてしまう。
「おはようございます」
そこに、純樹と角野さんが入って来る。
「姫が…姫がいらっしゃいます」
角野睦美のスイッチがなんか入った。
「キミ、誰?」
「だ…わた…」
『緊張で声になりません。私のお姫様。私、角野睦美です。一年生です。』
「オレ、男だよ。角野さン」
「…に、偽者?影武者?」
「誰がだよ」
「それでも、今のレオっち。静御ちゃんそっくりやで」
「これが本物の静御ちゃん」
桂間先輩がスマホで以前撮った銀嶺先輩の写真を見せている。
-偽物、本物って、酷いなあんたら。
「姫です!私のお姫様です」
「あのなぁ、姉貴はそういうの嫌いだから本人には言うなよ」
角野さん、写真相手でも何か発動させている。
「レオーネくんはそのままの恰好ってことだよな」
「レオでいいよ。香駒にももう見られたしな」
「ボクも最初はビックリしたよ。レオ先輩が目覚めたかと思って」
純樹もそこそこ言いやがる。
「お前…射撃ン時、傾けるぞ」
「ごめんなさい。お願いします」
「レオ…くん、射撃って」
「『くん』もいいって。その代り、こっちも飛騨って呼ぶからな」
「オレがオーブワンの操舵士だよ」
-なんだよ。普通に話せるやつじゃないか。
「そういえば、なんで教室で声かけた時、目をそらしたんだ?」
「オレ、お前みたいにデカイやつ苦手なンだよ」
-なんだそりゃ。
「デフォルト、コワ面…」
「純樹。今度アンカーで引き回す」
それを聞いた金田部長がメガネクイをする。
「いいね。その案、試してみよう」
「と、言っても、引っ張られるのは飛騨くんの方だけどね。この後のブリーフィングで詳しく話すよ」
そこに、元部長で隊長の玉城先輩が入ってきた。
「諸君。おはよう」
昨日、対局があったので一日ぶりだ。
「私が留守の間に何があっただと?」
金田部長があらかじめ報告を入れていたのか、いささか不機嫌だ。
「姫です!私のお姫様です」
手当たり次第か角野さん。
「誰だ。キミは?」
「私、角野睦美です。一年生です」
「あれ、話せるの?角野さん」
『はい。私、緊張するのは年上の方だけなので。』
角野さんは、昨日よりかわいくグレードアップしたスマホのメモ機能に素早く書いて見せた。
-この内容、見せられねぇ。
「三年の玉城宿理だ。将棋部のOGだが、チーム<超急戦>の隊長だ」
「オージー?…OG!ということは年上ですか?」
「三年だと言っているだろう。角野」
「中学三年かと…」
「ふぐっ、なかなか無礼な奴だな。面等向かって言われたのは久しぶりだ」
みんな気を使っているんですよ。
-いや待て、オレも二日前に言ってるんですが、聞いてないことになってますよね?隊長。
「私より少し背が低いので、まさかと思いました」
「んな!」
「な、なな、なにを言っているのだ。気のせいだ」
玉城先輩は角野さんの前に立つと胸を張っている。
-いや、ちょっと背伸びしてないか?隊長さん?
「玉城先輩…なんかしっくり来ません」
角野さんが身長の件は気もにせず何やら考え込んでいる。
「下のお名前は?」
「宿理ちゃんやで。かわいいやろ」
桂間先輩が後ろから抱きついた。
その拍子に玉城先輩のかかとがついて、ドングリの勝敗があきらかになる。
-ご愁傷さま。隊長。
「宿理先輩。うん、いいですね。宿理先輩にします」
「だから、私のことは隊長と呼べ、角野~!」
玉城先輩、ちょっと涙目だ。
ここまでお読みいただきまして
ありがとうございます。
さて残念系出揃いました。
次回はミーティング回です。
チームメンバーの秘密が明らかに…
引き続きお付き合いくださいませ。
なにとぞよろしくお願いいたします。




