前のめりになるだけでボスはとっても怖くなります
『飛騨。一応礼は言うとくで。シューティングゲームで放り投げられるとか人生わからんもんや』
「行きかがりです。それにいい攻撃間近で見せてもらいましたし」
『って、ワイ明らかに狙われてんな』
<トトゥカン・アガレス>が向かう方に<ク・ラヴ・バラム>が回転していた。
オレの時にはなかった反応だ。
機獣の武装面が回転し、黒木先輩を正面に捕えると、大きな剣のような腕が放たれた。
充填が間に合ったのか、<グドラー・ゼパル>の半タメの荷電粒子砲が援護する。
腕はやはりある程度のダメージを受けると本体に戻って行くらしい。
『クローハマー。こちらオプテロン。それ以上こっちに来ないでください』
『冗談ぬかすな。盾無しであんなもんとどう戦うんや』
-オープンチャットでそれ言うとか赤弓削くん残酷か。
『クロ先輩は現在、格好の囮です。そのまま逃げ続けてもらえると助かります』
「さすがは赤弓削くん、その案はいただきだね」
金田部長は愉快そうに生声で同意する。
「金田部長、機体貫通で2ゲージは無理ですかね?」
「こちらの攻撃の最高値が約九万ポイントだしね。機体貫通は、そのダメージが<防御無効>の効果の発揮後に入るかあやしいんだよ」
確かに機体貫通はトドメに持ってこないと、オレが特攻自爆するだけだ。
「さっきの確認ではボスのような質量の大きな衝突判定には、中味を定義する設定に物理性はない可能性があるんだよ」
なるほど、攻撃判定の広い炸裂弾の方がダメージが大きかったことで確認していたアレか。
徹甲弾は、実際に質量ある物を撃つと、入った穴より、出る穴の方が大きくなる。
それは運動エネルギーが伝わった部分が波となって弾丸と一緒に移動しようとするからだ。
しかし、このゲームの中では、入った穴も、出た穴も同じ大きさで衝突エネルギーを計算されてしまうのだ。
機体貫通は機体の大きさがあっての大ダメージということか。
「おそらく飛騨くんはいま勘違いしていると思う。<ソルブレイド・オンライン>はそういう方法では物理判定はしていないよ。いまは説明する時間ないから割愛するけど」
-金田部長。オレの推論を見透かした。超能力者か?
「とりあえず、釣りをしよう。黒木くんを餌にね。いいかい作戦はね…」
金田部長のアドバイスで、オレは<トトゥカン・アガレス>に追いついて、再びアンカーフックをかけた。
船足はオレの<クタナ・ハルファス>の方が速いらしい。
『何すんじゃ、どいつもこいつもワイを餌扱いしやがって。どうせ引くなら、真後ろに向けんかい』
本人の希望通り、フックをかけなおして、<トトゥカン・アガレス>を真後ろに向けた。
ボス怒りモードのホーミングレーザーをかわしながら、振り回し気味のお手玉をすると、オープンチャットに関西弁のめちゃくちゃな罵声が鳴り響いた。
「やめて、もう!ウチ恥ずかしい」
それを聞いていた千成ちゃんがなぜかギブアップする。
『この速度で後退できたらええなと、何べん思ったことか…』
アンカーフックに引っ張られているのに、ちょっと慣れてきたのか黒木先輩がつぶやいた。
いつの間にか<トトゥカン・アガレス>の特殊機能、荷電粒子砲を圧縮炉加速を使用して強制充填していた。
荷電粒子砲は早く充填できる上に、過充填状態になり青白く発光し始めている。
『エネルギー充填百二十パーセント!どこに二十も余分に溜められんねんてことや』
超荷電粒子砲の充填体制だ。
機首が<ク・ラヴ・バラム>の方を向いた瞬間。
『何、睨んどんじゃワレ!』
超荷電粒子砲が火を噴いた。
オレはワイヤーをしならせ、<ク・ラヴ・バラム>の頭から足までを焼く。
守備力残量が四万ほど減る。
「移動が完全に犠牲のなるけど、なんて攻撃力だよ」
「当たらなければどうということはない」
オレのつぶやきに、金田部長が耳元で見事に合わせてきて驚いた。
<ク・ラヴ・バラム>が怒り色の意匠を膨張させた。
剣の腕の発射が来る。
二本の腕は<トトゥカン・アガレス>を引くオレの方に飛んできた。
「よし、作戦開始だ」
金田部長の生声の号令がはいる。
『オプテロン。支援射撃や。ヤバイでマジで』
『クローハマー。残念ですが、ボスの影です。こちらも独自に攻撃します』
<グドラー・ゼパル>が荷電粒子砲で<ク・ラヴ・バラム>を背後から攻撃する。
囮を使っているわけだから、これは正しい選択なのだ。
<ク・ラヴ・バラム>の守備力残量が残り1本と2割ほどになる。
想定していた安全圏に持っていけた。
オレはあらかじめトップスピードでボスから逃げているが、腕の速度はこちらの最高速度を上回る。
タイミングを合わせてバレルロールで腕を避け、<トトゥカン・アガレス>にかけていたアンカーフックを外す。
『またか、何すんね~ん!』
黒木先輩はまた超荷電粒子砲の放熱シークエンスのまま放り出される。
腕がオレの機体をかすめて通り過ぎる。
すぐさまもう一本のアンカーフックを腕に打ち込んだ。
「純樹!」
「了解」
超電磁砲が<ク・ラヴ・バラム>の腕を狙い撃つ。
ベストタイミングで腕がグンと弾かれる、二本の腕がボスへと高速で戻っていく。
『なんか当たった!何やこれ~』
黒木先輩が戻る腕に巻き来れたらしい。
「彼はよほど<ク・ラヴ・バラム>に好かれたらしいね」
金田部長が楽しそうに笑っている。
「香駒。弾倉交換、炸裂弾だ。タイミングは私が出す」
「純樹。あとは頼んだ!行くぞ!!」
目の前がブレ始める。
例の機体強度を超える加速だ。
速度表示異常の警告音が鳴り続けている。
愛機<クタナ・ハルファス>の守備力残量が少しずつ減っていく。
「接触まで5カウント!」
目の前に<ク・ラヴ・バラム>巨体が迫る。
鬼が睨むとはよく言ったものだ。
前のめりの<ク・ラヴ・バラム>はあの時より断然怖い。
「2…1…今!」
目の前に炸裂弾の灼熱の火球が広がる。
-<ク・ラヴ・バラム>へ先に超電磁砲が着弾した?
思う間もなく<防御無効>を突き立て、能動的防御のトリガーを引く。
「マイヒーロー…」
誰かの声が聞こえたような気がした。
目の前が真っ暗になり、続けて真っ赤になったりフラッシュしたりと前回の機体貫通とはずいぶん違うエフェクトを見た。
ゴ!ゴボウンッッ!
地響きと共に巨大な<ク・ラヴ・バラム>が崩れるように沈む。
前回は一瞬、目を閉じてしまったが、今回は振り返ってしっかりと見た。
次の瞬間、崩れた巨体が爆風に包まれ、それがそのままオレに向かって迫って来る。
一旦、派手な爆風に周囲を包まれたが、すぐに通り抜けた。
「いゃっほーっ!」
派手に叫ぶ千成ちゃん。
「ガッチャ…」
射撃手らしい純樹のガッツポーズ。
声だけだが目に浮かぶ。
ボスの爆発を見るために後ろを見ていたオレを顔を小さな手が包んだ。
「え?」
オレはヘッドマウントディスプレイのバイザーを上げて現実を見た。
「マイ…ヒーロー…私の英雄様…」
焦点が一瞬合わなかったが、視力が戻ると目の前には…
気絶していたはずの角野睦美の小さな顔があった。
ここまでお読みいただき
ありがとうございます。
引き続きがんばってます。
点滴はまだ続きますが、
ごはん食べられる
うれしいです。
ボス戦ついに決着です。
実はここはゲーム的な仕掛けがあります。
金田部長の謎の行動はのちに解説します。
さて、次回はムーちゃん無双です。
なにとぞお付き合いくださいませ。




