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俺をエースと呼ばないでくれ  作者: たちまちいさか
14/40

ライバルはむしろいい人みたいで気の毒で

「今さらクロなんて親しげに呼ばせたるかボケ」


入って来たのは恐らくパソコン部の現部長のようだった。

長身にコワ面。特徴が自分に類似してて悲しくなるが、こんな迫力はオレにはないぞ。

アゴに薄い無精ヒゲまである。

留年じゃないのか?


「じゃあ『黒木くん』。相変わらず不機嫌じゃないか。何か良いコトでもあったのかな?」

「最悪やで。相変わらずあんたのおかげで最悪や!」

長髪をガシガシかきながら、黒木先輩とやらは、ますます不機嫌になった。


「クロ先輩はいつもこのペースで大佐(たいさ)とケンカだけして帰ってくるので、今日はボクがお目付役です」

「おい、アカ。それやとオレがお使いできないバカに聞こえるで」

「苦労をかけるね赤弓削(あかゆげ)くん」

金田部長も人が悪い。


「クロ先輩。これは大佐の挑発です」

「ナイス冷静沈着、赤弓削くん」

ブレない赤弓削くんに金田部長も思わず突っ込んだ。


赤弓削くんはまばたきひとつせず受け止める。

というか、まばたき少ないな赤弓削くん。


「ところでなんで金田部長は大佐(たいさ)って呼ばれてんの?」

純樹(あつき)に耳打ちすると。

「金田部長の名前だよ。読みは『オオサ』だけどね。ほら書くと『金田大佐』で階級みたいだろ。パソ部ではみんな『たいさ』って呼んでたんだよね」

-それだと結局、呼び捨てなんだがな。


変な空気が一瞬流れたが、黒木先輩は着ていたウインドブレカーのポケットに手を突っ込んだ。

この人物なりにかしこまっているらしい。

「率直に言うで金田。部に戻ってこい。まだ間に合う。あんたの腕やったらな」


本当に素直に言ってきたので金田部長も驚いて、糸目が少し開いた。

糸目、開くのか!

なぜか純樹(あつき)も派手に驚いている。


「あんたが取ってきたロボ部の仕事(プログラム)も、ドローン定期便のスタンドアローン飛行の仕事(プログラム)もちゃんと進んどる。一人で立ち上げて、ここまできたんやろ。それを途中で投げ出すほどの価値があの女に本当にあるんか?」


その話を聞いて、糸目が再び閉じる。

さっき話を聞いたばかりだからわかるが『地雷』を踏んだ。


「考え直してくれ金田。あんたなしではどっちも普通に仕上がってしまうんや」

普通で何が悪いのかと思っていたら、金田部長は大きなため息をついて、黒木先輩の肩をたたいた。


「…赤弓削くんはこの場に連れて来るべきではなかったな。何をやってるんだ、クロ」

一瞬だけ金田部長が別人のような表情でつぶやいた。

たぶん、近くにいた黒木先輩とオレにしか聞こえていない。


「普通にはならないよクロ。赤弓削たちもいる。私と君たちで創り上げてきたじゃないか。今のパソ部ならトガった仕上がりにできるはずだ。もう、私抜きでもね…」


「そうじゃないのです大佐。クロ先輩が言いたいのは…」

「アカ。よけいなこと言わんでええ…」

黒木先輩は赤弓削の腕をつかんだ。

少し後悔したような、吹っ切れたような表情だ。


「つまり、一緒にやり遂げたいってことやんな?」


いつの間にか黒木先輩の背後に桂間先輩が立っていた。

「また、来たんクロッキー。熱心やなあ。金ちゃんさん先輩はウチらのもんやさかい、いい加減あきらめぇな」

「近い!相変わらず距離がおかしいぞ。あと『クロッキー』言うな」


「あの女狐が主犯なんは、わかっとるけど。千成(ちなり)、お前かて同罪やからな」

「人の彼女に女狐なんて、ヒドイなあ黒木くん」

「さすがに女狐は静御(しずみ)ちゃも悲しむやろな」


「ぬあああっ、女狐は撤回する!し、銀嶺(しろみね)に言うとけ!用件済んだら返せてな!!」


黒木先輩、コワ面のわりに押しが弱い。

これでは完全に将棋部のペースだ。


「じゃあ、卒業まで帰ることはないかな…」

「クロッキー先輩いい人だなあ」

純樹がここぞとばかりに追い打ちを入れる。


「何ぬかしとる香駒。お前かて当事者じゃボケ。勝手に金田に付いて行きよって!」

「え?覚えてました。一カ月だけのお試し入部みたいなものじゃないですか」


「なんかムカつくガキや。いっちょ、勝負といこうやないか!」


「オレらが勝ったら香駒をパソ部に連れ戻す!」

「クロ先輩。それはいらない条件です」


「……アカ。なんでお前が腰を折んねん」

「ウチは対価も用意できませんよ」

黒木先輩のビシッと指さした指が下にうなだれた。


「ところで、気になってたんやが、なんでここに飛騨がおんのや?」

「彼は昨日入隊した」


「何ぃ。なんかここはリタイヤ組の吹き溜まりやないか」

「クロ先輩。それは彼に失礼です」


「彼は肘を痛めて休部中です」

それは一年までの話だ。今は退部している。


「リタイア組ってオレ以外にも…誰?」

「黒木先輩と桂間先輩は前はバドミントンの男女ペアだったんだ」


「か、ご、まぁ!その話はワイのおらへんとろでせぇ」

今度こそ黒木先輩の怒気に純樹がすくみ上がった。

オレの後ろに隠れる。

お前は小学生か。


「香駒を連れ戻すというのは飲めないが、対戦なら大歓迎だ。少し()らないか黒木」


「ええやろ、ここらで点差をさらにつけたるわ。何機出す?」

将棋部(うち)は二機で行くよ。私は参加しない」


「何ぃ?」

黒木先輩と赤弓削くんが顔を見合わせた。


「ふ…、私の<カタン・オリアクス>に照準してきたようだが、そっちは<旅団戦>まで取っておくといい。今日は私の替わりに飛騨くんを出す」


「今日はメンバーを変えようか。桂間はオーブワンで出てくれ。香駒はそのままガンナーで」

二人は指示にコクリとうなづく。


「前衛は飛騨くんに頼めるかな。私は今日は控えるよ」

「飛騨くんはスゴイんやで。こないだ話した千本ノックの人や」

桂間先輩が自分の事のように自慢する。


-千成ちゃん、敵に情報与えてどうするんだ。


「ああ、機体貫通(ペネトレーター)の…って、コラ!金田、汚いで!飛騨を勧誘したのはポイント目当てかいな」

「あの時の謎の支援者とは<超急戦(われわれ)>のことだ」


「ポイント分配をせずにチーム統合かいな。まあ、あることやけど…飛騨も災難やったな」

-クロッキー先輩いい人だ。言わないけど。


「いや、まあ元々ソロだったのと、純樹…香駒とはチームプレイする予定だったので」

「そういうことなら、遠慮なくやらしてもらうで!」


「大佐。対戦形式は?」

「エリア5のアリアリでどうだい?」


『アリアリ』とは対戦中でもザコ敵もエリアボスも出現するモードのことだ。


「ええで。飛騨もおるからお手並み拝見や」


「ワイの荷電粒子砲(バスターランチャー)の餌食にしたるわ」

「クロ先輩、それ負ける側のフラグです」

黒木先輩のビシッと指さした指が下にうなだれた。


「五分後にスタートや。行くで、アカ」

「失礼しました」

赤弓削くん本当にブレないなぁ。


黒木先輩がスターンと勢いよく部室のドアを開けると、角野睦美(すみのむつみ)とかいう女子がなぜか立っていた。

あの図書室でよく見る一年生だ。


「…!……!!」


突然、コワ面が目の前に出現したので、青ざめた顔でヨロヨロとへたり込む。

間一髪で素早く動いた桂間先輩が受け止めると、彼女は口から魂でも抜けたように気絶した。


「今、声にならない悲鳴上げてなかったか?」

「高周波?ちょっと耳痛いね…」


「ワイの扱い何やねん…」

「大丈夫、クロ先輩は少し顔が怖いだけです」

黒木先輩がヨロヨロと引き上げて行った。


「えっ、恋の予感?」

「桂間先輩、なんでそこまで頭の中メルヘンお花畑なんですか。彼女はたぶん図書室の用件で来ただけです。たまにありましたので」


「保健室ですかね?」

「まあ、そこのソファに寝かせよう。すぐ目を覚ますだろう」


「わあ、この()軽い!ええなあ、筋肉ない女子…ふわふわや」

角野を抱き上げて、今度は桂間先輩が謎のダメージを受けている。


「代わる?お姫様ダッコ」

「ボクはまだ一年生ですから、変なフラグ回収に失敗して暗黒時代を迎えるわけにはいかないのですよ」

「お前、顔はいいんだからもっと自信持てよ」


「グラスハートに言われたくないんですけど」

「あー、君たち時間ないよ」

角野に使うハンカチをぬらしながら金田部長が催促する。


「飛騨くんはこのマシンで頼む。将棋部ではこれが最速だ」

「あざっス」


念のため自分のヘッドマウントディスプレイを持ってきておいてよかった。

昨日使ったが、部室のは少し使いにくい。


「アドバイスはするが、各個判断に任せる。香駒とは組んでいたことがあるんだろう」


「まあ、大丈夫でしょう」

「…だね」

純樹と久しぶりにアイコンタクトした。


一年ぶりだが、オレも高ぶってきた。

「よし、前哨戦だ。見せつけてやろうじゃないか!」

ここまでお読みいただきありがとうございます。


がんばりました。

二日目更新です。

人物一気に増えてすみません。


角野ちゃんはだいぶ前に出てるんですが、

やっと合流です。


次は<赤の旅団>一位と直接対戦です。


なにとぞお付き合いくださいませ。

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