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俺をエースと呼ばないでくれ  作者: たちまちいさか
13/40

有名棋士の娘とかそれだけでプレッシャーなわけで

「不眠症?」


「そう、玉城宿理(たましろしゅくり)は中学三年の正月以来、 命に関わるほどの不眠症なのだよ。そのため身体はほとんど成長していない」


確かに彼女は高校三年生にしては中学生くらいの体格だ。

それが不眠症が原因だったとは…。


「中学三年の正月以来って、何か原因があるんですか?」

「その話をするにはこれを観るのが早そうだ…」


金田部長の話に併せて、パソコンの前に座っていた香駒純樹(かごまあつき)がサッと手を動かした。

動画は何かのテレビ番組の録画データのようだった。


「玉城の父親は有名な棋士…王城(おじろ)名人といえばテレビに出てるから知ってるだろう?」

将棋を知らない者でも知っている名前だ。


「あの突然引退して話題になってた人ですよね」

「実はね。あの引退のきっかけを作ったのは彼女なんだよ。この録画はその時のものだ」


「テレビの正月企画でさ。元部長が中学生でプロになる前なんだけど。親子で一局指したんだよね」

オレは将棋のテレビなんて初めて見た。


玉城先輩は今とあまり変わらない容姿で着物姿だ。

髪型も綺麗に結い上げて着物に合わせた格好になっている。

隣に立つ羽織袴の王城(おじろ)名人はテレビで何度も見た顔だ。


「ところで王城って…」


「この時はもう玉城(たましろ)が本名だよ。名人は七冠を取ったときに正式に改名して『玉城』になったんだ。それがさ棋士は原則本名で活動だから、わざわざ戸籍まで変えたのに…」


「『玉城』が失礼な誤植と勘違いされて、抗議が殺到したのだそうだ。メディアも協会も『王城』でないとわかりにくいということで、棋士としての登録名はそのままになってしまってね。名人は名前に『王』の字が入っていることがずっと気になっていたらしいのに。気の毒なことだよ」


録画データの内容は少し進んで、王城名人が親娘で対局することになったところだ。


将棋盤の前に二人が座って、司会者が二人の戦績などを紹介している。

画面下のテロップの苗字が親子なのに違うのが何とも妙だ。


「後で説明するが、二人はこの対局である対局をたどるような将棋を指す」

動画の二人は淡々と将棋の駒を取っては指してを繰り返している。


まるで機械が考えてるみたいなスピードだ。


「飛騨くん。驚いているね。これは過去の対戦記録『棋譜』という決まった手を打つからこのスピードだ。しかし、それにしたって暗記してないと打てない訳だから、この二人は特別早い。それとね、二人の将棋はこの後、本来の棋譜の手から少しずつ変化していく…」


迷いなく指していくうちにハタと名人の手が止まった。

持っていた扇子を杖代わり体を前のめりにする。


「これは王城名人がやるルーティンでね。長考に入る

 ときには必ずこうするんだ」


「チョウコウって何です?」

「長く考えるで長考。将棋は普通持ち時間っていうのがあって、その時間を使って次の一手を長く考えることができるのさ」


「この棋譜はね、王城名人が当時最強といわれていた青峰名人に挑んだ時のものだ。俗に『王城マルチ』と呼ばれている。各所で起こっている一見小競り合いのような差し筋が、最後にパズルのように組上がって一気に攻めに入るというような戦法だ」

金田部長が興奮した様子で眼鏡クイをする。


「玉城がかつての王城名人、そして、王城名人がかつての青峰名人の手を指している…」


『そうか…キミがここに至っていたとはね…』


動画の中で王城名人が杖にしていた扇子を両手に持って身を起こした。


『負けました…』

次の瞬間、玉城先輩…つまり自分の娘に向かって深々と頭を下げる。


『え?名人投了ですか?まだ決定的なところは全然ですが…』

解説を務めていた棋士が驚いていた。


「私はこの戦法を見てプログラムの世界にドハマりした。この先が全く見えない。とても人間の考えられる内容とは思えないと感じた。ならば、コンピュータは?どうしても私は試したくなってプログラムを夢中で勉強した」


『このままいけば私は負けるでしょう。この将棋の続きはぜひ若い方々でお願いしたいと思います。ですので私はこの続きは打てません』

王城名人がインタビューを受けて話している。


『おこがましいとは思いますが、これは私からの遺産だと思っていただければ…』


そして、王城名人は愛おしそうに娘を見た。


『何よりもこの手に至ったのが、私の娘であることがとてもうれしいのです』

動画の中の玉城先輩は何が起こったのかわからないいった風に呆然としている。


録画データを止めると、金田部長が大きなため息をついた。


「この日から玉城の頭の中は、指さなかったこの日の続きに支配されている。ふと時間があくと思考が始まるそうだ」


痛ましさがそうさせるのか、眼鏡を外してハンカチで磨いている。

眼鏡をはずしても目はほとんど糸だ。


「ほんと、元部長お父さんは全然そんな気なかったんだろうけど…」


「それで不眠ですか」

「人間は眠る前が一番ヒマだからね」


「体力の限界が来るとさすがに眠れるらしいけど、それでも元部長数日は眠れない日が続くんだって…」


金田部長は再びメガネをかけると、メガネクイをする。

ん?これは、金ちゃんさん先輩のメガネクイだ。


「ちなみに、玉城は静御(しずみ)くんの指導で上手に化粧で隠すようになったが、目の下のクマがヒドイ。黒髪ストレートもあいまって、一時期はのろい人形のような形相で学校にきていたそうだ」

どんな状態だったかなんとなく想像できる。


「困ったことに王城マルチは今のところ人工知能では再現できてないんだよね」


「王城マルチの行程でいくつかの手をAIには『良手』とみなしてもらえない。かと言って、そういった『手』をAIに『特例で良手』と編み込んでも、後半はガタガタになってしまって攻め込まれると押し返す『手』がない。王城マルチは謎の多い将棋なんだ」


糸だが、メガネの奥で金田部長の目が静かに輝いている。


「ところが、玉城は中学の時にそれで王城名人の上に行った。私はそれを分析し再現したい。スパコンを用意はできないからの分散処理(クラウド)で試行錯誤の真っ最中さ」


-それでこの将棋部はソルブレイドで上位キープを強いられているわけか。


「この解析が進めば自ずと彼女を思考連鎖の呪縛から解放できる。しかし、これは私の卒業までに出来るか否か、五分五分といったところなのだよ」


「そこで、部長は考えたわけなんたけど。他にも元部長を眠らせるいい手はないか…」


「将棋から離れるのがいいと思って、いろいろ提案したが、イマイチでね。ここは静御くんに叶わなかった」

「副部長が元部長を強引にソルブレイドに連れて入ったんだよね」


「『宇宙の美しさに打ち抜かれた』のだそうだ…」

それは昨日、本人からも聞いた話だった。


「最初はオペレーター席に座っているだけだったんだが、リアルタイムの采配に興味が出たらしく、私にいろいろ聞いてくるようになった。そこで、私は新たに指揮機を作って彼女に采配を委ねる事にした」


「采配がよりモノを言う長距離射撃を優先することなって、ボクが射撃手(ガンナー)に転向したんだよね」

それで、純樹(あつき)が使っていた機体を替えたのか。


私之彼女(マイプレシャス)のオーダーだからね。香駒に協力してもらって、極上のものが用意できた。最高の戦いと最高の勝利、それこそが今の彼女にとって最高の睡眠薬なのだよ」


「部長、いまちょっと『金ちゃんさん先輩』入ってましたよね」

「わかっていただけて何よりだ。飛騨くん。この際、楽しみたまえ」


元部長の事情を考えれば深刻になりそうなところだが、キャラまで作って塗り替えるとか。

金田部長、恐れ入る。


と、そこにノックの音がする。


入ってきたのは長身の男だった。制服の名札が二年生だ。


大佐(たいさ)。お久しぶりです」

赤弓削(あかゆげ)くんじゃないか。久しぶり。元気かい?」


その返事を前にもう一人男が入ってきた。こちらも長身だ。


「金田…邪魔するで」

「…クロも一緒か」


「その呼び方が許されんのは、あんたがオレたちの部長である時だけや」

これはすぐに察しがついた。


この二人はパソコン部のたぶん現部長とその補佐あたりだ。

-殴り込みとか、マジっかよ。

ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


この話を上げる前に羽生九段と藤井七段(当時四段)が

似たようなことになってしまって、驚いてます。

これを考えてたのが2015年。

筆が早ければ予言ぽくなったかも。


永世称号いくつもあるのに羽生九段。

カッコいいです。シビれます。

王城名人のモデルはもちろん羽生九段です。


そういえば、テレビの録画データを再生するところ、

最初は純樹が検索で表示してましたが、

録画データと書きました。

「捕まるよ、マジで…」なので。


引き続きなにとぞよろしくお願いいたします。

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