うつむき加減のメガネクイはなんか怖いわけで
「推定必要攻撃ポイントが八千万!」
将棋部、チーム<超急戦>が検証したという今度の<旅団戦>の相手、赤の旅団の旗艦<ハルバルガエナストス>を撃沈するために必要な数値だった。
昨日倒した宙域ボス<ク・ラヴ・バラム>の守備力が五十万だったので百五十倍以上になる。
「撃沈は無理な…」
「いや、撃沈を目指す」
オレが投げかけた言葉をさえぎるように隊長、玉城宿理は再び宣言した。
-そりゃ多分…無理だろう。
「いや、それがね。計算するとそうでもない」
オレの心の声を読んだかのように今度は暫定『金ちゃんさん先輩』が説明を始めた。
「推定必要攻撃ポイントというのは単に守備力ではなく、シールドや防御のエクストラ能力が加わった状態のモノを正面から叩いた場合ということだ」
金ちゃんさん先輩はホワイトボードに「旗艦」らしい落書きをしながら続ける。
「そもそも旗艦が撃破されたのはいままで三回だけ。その内、二回が大破で、ハッキリ爆沈したのは一回だ。ネットでひろったその際の旗艦の推定耐久力はどれも約五千万。今回の赤の旅団の<ハルバルガエナストス>は強い旅団の艦なので何割かは増している」
-先輩、六割増しは「何割か」とは言わないでしょ。
「二十分でこれだけの攻撃を入れるのは確かに正工法では無理やんな」
桂間先輩が肩をすくめる。
-二十分?何のことだ。
「側面。しかも近接で撃ち込む!」
金ちゃんさん先輩は「旗艦」らしい落書の側面に砲撃のような直線を描き加えた。
「対艦戦に強化能力のほとんどを割いている旗艦となると、正面は艦載機ごときの兵装ではほどんど傷つくことはない。
ただし、側面、しかも近接となると装甲強度と装甲の強化能力のみが頼りとなる。
我々が武装強化を注ぎ続けて育てた超電磁砲がものを言うわけだよ」
「貫通する実弾兵器は戦艦相手でも有効で、しかも複数の『当り判定』をまとめて貫通すれば一発の威力は倍増する」
オレはふと誰も問題にしていない項目に気が付いた。
「そもそも<旅団戦>は艦隊同士も戦っているのに、艦載機のみっていうのは無理なんじゃないですか?」
やはり来たかという顔をして金ちゃんさん先輩がお約束のメガネクイをする。
「ふ…それも調査済みだ。艦隊同士の距離のこともあって、<旅団戦>開始から二十分間はお互いの艦船は攻撃しない」
「有効射程も関係しているようだけどね。この間に旗艦に到達し、攻撃するわけだよ」
-二十分とはそのことか。ますます条件厳しいじゃないか。
純樹が考え込んでいるオレを見かねて声をかける。
「マー兄ちゃん。ボクたちが検証して得た情報もあるし、<旅団戦>について情報共有しておこうよ」
「<旅団戦>は通常のゲームと違って、撃墜されたときなどのリスタートにポイントが消費されない」
金ちゃんさん先輩は絵こそ下手だが、ホワイトボードに要点を書きながら話すのがうまかった。
「リスタートする機体や装備を事前登録しておくことでゲーム前半と後半で違う機体を使うこともできることを活用して、わざと脱出するプレイもあるくらいだ」
「ところで、後輩くんは自機のリスタート位置についてルールの変更があったのを知っているかい」
これが「肝」だと元部長、もしくは隊長の玉城宿理の目が輝いている。
「以前は通常ルールと同じで、機体が撃破された位置と所属艦の中間がリスタート位置だった。新ルールでは、所属チームの先頭の機体と所属艦の中間がリスタート位置になる」
「スピードのない機体が撃墜されるとチームとなかなか合流できひんかったんやけど、この改定で私なんかは実際だいぶ助かるわ」
金ちゃんさん先輩がボードに自機のリスタート位置の解説図を加える。
「このルール、チームの作戦によっては自機の撃墜位置より前でリスタートできる」
なるほど、加速のいい機体を先行させればチームはリスタートで有利に体制を維持できる。
「我々はこれを応用して、最速機体を戦線の中間に出現させ、一気に旗艦に到達する」
「題して『スリングショット作戦』を計画したわけだ。それには最初に先行して単機でも撃墜されないような防御重視の機体を探していたわけだが…」
なるほど、どんなに先行してもチームの先頭が撃墜されたらこの作戦は成り立たない。
「つまりキミとめぐり会ってしまったわけだ、後輩くん」
隊長の玉城宿理の目が輝いている。別の意味で。
「それにあたり、今から入隊テストを行う!」
「先輩?オレまだ入りたいとも何とも言っていませんが」
「そこはまあ受けておきなさい入隊テスト」
金ちゃんさん先輩のメガネクイがうつむき加減でなんか怖い。
「つまりキミが先日のボス戦でどんなボーナスを受け取っていてもチームメイトになってしまえば不問ということさ」
「それってオしに拒否権ないんじゃ…」
「ないというわけだよ」
なんてキツネと子タヌキだ。ちくしょう。
「さあさあログインやで。このパソコン使こてな」
「なんだよ初めからそのつもりかよ」
「マー兄ちゃんゴメンね。ボクにはそのつもりなかったんだけど」
「純樹。後でいろいろ聞かせてもらうぞ」
オレがログインするときブラインドタッチをさらりとやってのけるとなぜがギャラリーから歓声が起きる。
なんだよ野球部だってブラインドタッチぐらいするのだ。
「とりあえず入隊テストってことだからやるけど、この作戦にのるかは選択させてくださいよね」
ヘッドマントディスプレイはオレの使う機種よりは古かったがアクセスや処理環境は充分快適だった。
別のパソコンからログインした玉城宿理が、教えたIDにアクセスしてオレの駐機カウンターに現れる。
アバターは髪の色が銀色である以外、本人そっくりだった。
「ふむ、後輩くんのアバター悪くないな。少し年齢設定を下げたほうがいいが」
「マスター、新装備の調整と修理完了してますよ。めずらしいですね。お客さんだ」
さわやかメガネ整備士AI、ソルトが話しかけてくる。
「今からプレイを見せるんだ」
「シュクリだ。コールサインはオーブ・ワンで頼む」
「登録しました。よろしくオーブ・ワン」
ソルトは無重力の中、握手がてら元部長が機体に近づくのをエスコートする。
「一緒に出るつもりですか?」
元部長、今は隊長の玉城宿理はオレの乗機<クタナ・ハルファス>へ飛んでいく。
「これが後輩くんの船か」
オレの愛機は宙域ボス<ク・ラヴ・バラム>のドロップアイテムを装備したおかげでかなり物珍しい姿になっていた。
「人を乗せるのは初めてですよ」
「で、どこに乗るんです」
ソルトが不思議な質問をする。
「そんなのコクピットに決まってるだろ」
「先月、リペア・マテリアル・タンク増設のために、コクピットを単座仕様にしましたけど」
「後輩くん、座席がひとつしかないぞ」
「乗るのはまさかキミの膝の上か?」
早々とコクピットに入り込んだ彼女がひょこりと顔を出す。
「マジっかよ…」
将棋部のパソコンスペックの関係で、オレと玉城宿理はネットカフェに行くことになるのだった。
ここまでお読みいただき
本当にありがとうございます、
お話は最初のシーンに戻ります。
次回はネットカフェ脱出編。
主人公ふたりはどうなってしまうのか?
よろしくお願いいたします。




