安寧国
船の旅も3日目。
島から初めて出たミロンには、全てが初めての経験だった。船の中を探検したり、船員の仕事ぶりを眺めたり、食堂の手伝いをしたり、ユーキも船のことは船長に任せているようで、ミロンと海を眺めながら会話(暇つぶしを)する時間が多かった。
ユーキは特に夜空を眺めることが好きだった。今日もミロンと2人で満天の星空を眺める。
「明日には私の国に着く。ミロンには、まずこの世界についてを学んでもらう。知識がなければ何も決められないからな。まだ、少しは時間がある。自分の進む道をミロン自身で決めて欲しい」
「世界の事は知りたいから嬉しいけど。俺はユーキと一緒にいるつもりだけどね。どうして、時間は少ししかないの?」
「私の国“安寧国”は、隣国と戦争を続けている。何度も戦いに敗れ、国土の大半を失っている。この戦争で父である国王も兄も戦死した。王族は私が最後の1人だ。次の戦いに負けるか、私が死ぬと国が滅ぶ。なに、心配はいらんぞ。ミロンが進む道を決める間くらいは時間があるはずだ。それに今回の探索で私は力を手に入れた」
ユーキは煉獄剣を抜き月明かりに照らす。魂を吸い取る魔剣は、ユーキの意思に答えるように淡く輝いた。
「ユーキが魂を賭けてまで守りたい国か。早く見てみたいな。たくさん人がいるのかな?」
「そうだな、小国だが王都だからな。人口は2万人くらいだな」
「そんなにたくさん!イワシの群れと同じくらい人がいるのか!」
「私の国民をイワシとか言うな。確かに戦争に負け続けた弱い国ではあるが・・・明日は王都を案内しよう。ミロンも気に入ると思う。今日はもう寝よう」
ミロンは自室に戻ったっがワクワクして朝まで眠ることができなかった。
「あれが安寧国の王都だ」
ユーキは街を指さしエッヘンと胸を張った。胸も威張ったようにタユンと揺れる。
港には何十隻もの船が浮かび、その先には石造りの大きな建物が陸地を覆っている。とにかく人が多い。ミロンは50人まで数えたが、人が多すぎて数えることを諦めた。
船を降りユーキとミロンは王都の中を歩いた。ユーキの人気は絶大で、すれ違う住民のほとんどが「姫様」「姫様」と近づいてくる。ユーキも住民達に気さくに声を掛けた。
大きな教会と商店街を回り、市場に入った。
「ここの串焼きは最高だ。食べて行こう。店主、2本もらおう」
手渡された串焼きは、脂身が混じった大きな肉を串焼きにして、絶妙の甘辛ソースに浸してあった。ミロンは一口食べて、
「これは、旨い!こんな旨いものは初めて食べた!」
この串焼きは、世界最高と思っていたシロさんの手料理を超える旨さだった。人の街で初めて食べた串焼きがミロンの好きな料理ランキング1位になった。「シロさんごめん・・・」と呟きながら、もう1本追加注文する。
食べ歩きしながら市場を回るとミロンは疑問が浮かんだ。串焼きを売るおばさん、母親に連れられ買い物する女の子、買い食いする女学生の集団・・・
「人の街って女性ばかりなんだね」
「普通は男女半々だがな。この国の多くの男は兵士として国内の防衛拠点に詰めている。それに今までの戦争で戦死した男も多いからな」
食べ歩きで満腹なった2人は、街の中央にある城に向かった。
「姫様!よくぞ、ご無事で。早速、場内に姫のお帰りを伝えて参ります!」
城門を守る衛兵に声を掛けると、城門を開け姫の帰還を叫びながら場内に走り去る。ユーキは城門を潜り、ミロンを案内しながら迷路のような場内を進む。ミロンは城の大きさに圧倒されながら、ユーキの後ろをただただ付いて行った。しばらく城内を歩き、薄暗い廊下の扉の前で止まり、
「エミリア!戻ったぞ!」
ユーキとミロンは扉を開け部屋の中に入った。カーテンが閉まる薄暗い室内は、たくさんの本が床に山積みされ足の踏み場も無い。ユーキはベッドに近付き、勢いよく布団を捲った。布団の中には、膝を抱えて丸くなった少女が恨みがましい視線で2人を睨んでいた。