幸せな時間
煉獄剣を手に入れたユーキとミロンは、ダンジョンを脱出しシロの巣穴に向かう。
「大幅レベルアップして、勇者になって、煉獄剣を手に入れて・・・フッフッフ・・・」
ユーキはニヤニヤしながら独り言をつぶやき続けている。ミロンは、これから行うことを考え暗い憂鬱な気持ちになった。1つはユーキを説得し安寧国へ一緒に行くこと。もう1つは、シロに島を出る話をして許可を貰うこと。
(シロさん悲しむかな・・・)
ユーキは浮かれ、ミロンは悩みながら進むとあっという間に巣穴に着いてしまった。
「ミロン、よく無事に戻った。人の娘も目的の物を手に入れたようじゃな」
「蛇神様、ダンジョンを攻略出来たのはミロン君の協力のお陰です。お二人のご協力、感謝に堪えません」
「構わぬ。ミロンにも良い経験になったじゃろう。少しは逞しくなったようじゃ・・・人の娘よ。もう、この島にようは無いじゃろ?」
「はい。お騒がせしましたが明日の朝、出発致します」
「・・・人の娘よ。お願いがある。ミロンを連れて行ってはくれぬか?まだまだ、子供と思っていたが今回の経験で巣立ちを迎える力は付いたようじゃ。ふふっ。ミロンよ。旅に出たいと顔に書いてあるぞ。人の世界を見てくるがよい」
「シロさん。俺、ユーキが命がけで守ろうとしている人達を見てみたくて・・・ユーキ、一緒に行っていいかな?」
ユーキは悩んだ。我が国は隣国と戦争中だ。戦況は劣勢著しく、いつ国が滅んでもおかしくない。こんな危険な場所に連れていくべきだろうか?だけど、ミロンの能力を利用すれば、戦争を有利に進めることが出来そうだし・・・あっ、戦争に巻き込んじゃダメかな?・・・でも、弟みたいで可愛いから連れていっちゃおうかなー。
「ユーキ?無理なお願いかもしれないけど・・・俺は一緒に行きたい!」
「・・・コホン。いろいろ考えたが良いぞ。ミロン、一緒に行こう」
多少の邪な気持ちの後押しもあり、ミロンの旅立ちが決まった。
その夜。
ユーキは出発の準備の為、帆船に戻った。ミロンとシロは最後の夜を巣穴で過ごす。
今夜の料理は特別豪華だった。ウサギのスープ、タロイモの揚げ物、ヤシガニの丸焼、ヤシの実ジュース・・・この島のご馳走ばかりだ。
「シロさん、美味しいよー」
シロの愛情がこもった料理を食べながら、ミロンはこれより美味しい料理は無いだろうと思った。美味しそうに食べるミロンをシロは優しく見つめ続けた。
「巣立ちは誰でも経験するものじゃ。我の場合は卵から生まれ、そのまま巣立ちをしたから覚えていないがの。我の事は気にせず旅立つがよい」
「シロさん、今まで育ててくれてありがとう。シロさんがいなかったら、この島に流れ着いた嵐の夜に死んでいたよ」
「感謝はいらぬ。ミロンは我の子。母が子を守り、育てるの当たり前のことじゃ。・・・ミロン、これを持っていけ。人の世界では、これと食べ物や服と交換できる」
シロは握りこぶしほどの金の塊を手渡した。5キロはあるだろうか。一軒家が買えるほどの価値があるが、2人は価値までは知らなかった。
この夜、2人は久しぶりに同じ寝床で寝た。ミロンは2人で寝るといつも巻きつかれ、苦しさの余り逃げ出したが今夜は巻かれるに任せる。今夜は、いつも以上に巻きつく力が強かった。
朝になり別れの時がきた。
入り江でミロンは、シロは別れの抱擁(巻き付き)を交わし帆船に乗り込む。帆船は慌ただしく錨を上げ出航する。
「シロさん!俺、世界を見たら帰ってくるよ。シロさんのこと絶対に忘れない!」
ミロンは、入り江で1人たたずむシロの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。ミロンの巣立ち、ミロンの冒険はここから始まる。
シロは帆船が見えなくなると1人、巣穴に戻った。ナーガに進化してから、ずっと一緒にいたミロンはもういない。大蛇だったころは感じることがなかった“寂しさ”を初めて感じていた。心にぽっかりと穴が空いたような気持ち。ミロンの寝床、、お皿、スプーン、着古した服・・・目に入るもの全てにミロンとの思い出が詰まっている。
「ミロン・・・」
シロは寂しさに耐え切れず巣穴にうずくまった。
涙が溢れ止まらなかった。
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現時点のレベルと能力値
名前:ミロン クラス:魔法戦士 レベル:20 筋力:F 体力:E 敏捷:F 魔力:G
名前:ユーキ クラス:勇者 レベル:55 筋力:S 体力:A 敏捷:A 魔力:S