煉獄
ミロンは意識を戻した。頭がクラクラし記憶が曖昧だ。幸せな時間を過ごしたような・・・
「目覚めたか。もう少し体を休めろ」
目を開けると微笑むユーキの顔。
「フフッ。どうかな私の膝枕は?傷ついた男はこれが堪らなく好きだと書物で読んだことがある。堪能するが良い」
ゴツゴツした金属製の腰鎧が頭に当たり正直痛いが、ユーキの優しさに包まれながら至福の時間を過ごした。できれば腰鎧は外して欲しかった・・・
「あれ?ユーキの胸、大きくなってる?」
「なんだ。覚えていないのか。ミロンのスキルで成長したのだ。胸だけではないぞ。勇者にクラスチェンジし魔法も覚えた。その魔法でミロンの怪我を治すことができたのだ」
「俺のスキルってことは・・・」
「そうだ、まさに赤子の如くだったぞ」
目の前にせり出す双丘を物欲しげに見つめる。トレントの教え「巨乳は正義。巨乳は吸う為にある」を思い出していた。スキル使用時に無意識だったことが悔やまれる。また、吸わせてくれないかな・・・
コツン!とユーキのゲンコツがミロンのおでこに軽く落とされた。
「女の胸は無遠慮に眺めて良いものではないぞ。分かりやすい奴め」
「そんなんじゃない・・・」ミロンは真っ赤になりながら視線を反らす。ユーキは優しくゲンコツを落とした頭を撫でながら、
「ミロンが助かって良かった。死んでしまうと思ったぞ」
「ユーキは命の恩人だね。怪我も完全に治ってるし。ありがとう」
「礼を言い、詫びなければいけないのは私の方だ。私の都合に巻きこんだお前を死なすところだった。すまなかった」
「謝らないでほしい。俺の意思でユーキについて来たんだから。危険だったら逃げる約束をしたのに逃げなかった俺が悪いし・・・それに仲間は助け合うものでしょ?」
「フフッ。子供扱いして悪かった。ミロンは立派な戦士だ。私は助けられてばかりだが・・・」
「だから、仲間は助け合うもの!」
「・・・ありがとう、ミロン。私達は仲間だ」
ミロンは子供扱いされていた自分が仲間に認められ堪らなく嬉しかった。ユーキの膝の上で甘える姿は、子供そのものだったが。
ミロンはユーキの回復魔法と膝枕に癒され、2人は元気一杯でダンジョン攻略を再開した。
「でやー!」「うりゃー!」と奇声を上げながらユーキはミイラ男達をバラバラに切り裂いていく。この地下9階はミイラ男がうろつくフロアだが、勇者にクラスチェンジしミロンの付与魔法で強化したユーキにとっては敵ではなかった。
そして、このダンジョンの主であるキングマミーも数分で撃破し、ついに地下10階にたどり着いた。今までのダンジョンとは違い、フロア全体が神殿のような構造になっている。モンスターの気配も感じない。目的の封印された武器は捜すまでもなく中央の石で作られた祭壇に突き刺さっていた。
「この剣が封印された武器に間違いない。封印解除には大いなる試練を乗り越える必要があるらしい。ミロンは下がっていろ」
ユーキが祭壇に近付き、突き刺さった剣に手を掛け、力一杯引き抜こうとしたがびくともしない。更に力を込めた直後、剣が淡く輝き出し、
「・・・クックック。人間よ。いくら力を込めても私を抜くことはできない・・・」
唐突に淡く輝く剣がしゃべった。
「我は、安寧国の王女、勇者ユーキだ。国を救うため貴方の封印解除に来た。大いなる試練を受ける覚悟もある」
「・・・クックック。人間よ。大いなる試練なんて大げさなものは無い。必要なのは1つの約束だけ・・・ユーキが死んだら、魂をもらう。魂を吸収させてもらう・・・この約束だけで大きな力が手に入る。魂は剣の中で無限に続く煉獄を清めの炎に焼かれ続けるが・・・」
「なんだ、そんなことか。この魂を貴方に捧げると約束しよう。私は命や魂、私の全てを犠牲にしても力が必要だ」
「・・・ユーキとの約束は結ばれた。私の名は煉獄剣。私の力を自由に使うが良い・・・」
ミロンは、目の前で交わされた約束に口を挟むことが出来なかった。
「ミロン、やったぞ!私は力を手に入れた。国を民を救うことができる!」
ユーキは、煉獄剣を胸に抱き、涙を浮かべ喜びを噛みしめている。ミロンはこの姿を見ながら、ユーキが命や魂を捧げてでも守りたいものを見たいと思った。