ミロンとユーキ
ミロンは初めて人間と会い、それも年頃の美人さんとの対面で緊張していたが、ダンジョンに向かいながら、ぎこちないながらも会話を続け(ユーキのリードで)緊張が解けつつある。
「さすがの私も緊張した。この島に蛇神様であるナーガ族がいるとはな。ミロンは、いつからナーガ族と暮らしているのだ?」
「赤ちゃんの時にこの島に流れ着いた俺を、シロさんは育ててくれたんだ。だから14年くらい暮してる。言葉も魔法もシロさんから教わったんだ」
「ミロンは知らないと思うが魔法が使える人間は少ない。魔法が使えるだけでエリートと言っていい。私も使えないしな。どんな魔法がつかえるのだ?」
「俺は付与魔法。シロさんみたいに嵐を呼んだり雷を落とせれば良かったな」
「・・・人間の世界では、そんな大魔法が使えるのは何人もいないがな」
「ユーキさんは凄い装備だね。人間は皆、こんな凄い装備なの?」
「ユーキでいい。君の事を少年と呼び続けるぞ。この装備の良さがミロンも解るか。これでも私は安寧国の王族でね、これは王家に伝わる国宝なんだ」
「王家に伝わる国宝なんてカッコイイ!それにお姫様だったの?」
「ふふっ。私が男勝りでこんな装備をしているからお姫様には見えなかったかな。これでも国民から愛されるお姫様なんだが。まあ、子供の頃はおてんば姫と呼ばれていたが」
「お姫様なのに何で深いダンジョンに行くのかな。あそこは危険だよ。モンスターも罠も危険なものばかりだ」
「そうだな・・・国を救う力を得るためにダンジョンに挑む。私に力が無いから隣国との戦に負け続け、多くの兵士が死に領土も半減した。これは私が命を掛けてでも挑まなければならない試練だ。慎重に探索するつもりだが何が起こるか分からない。約束してくれ。危険を感じたらミロンは逃げろ」
「ユーキを残して1人で逃げるなんて嫌だよ。俺の付与魔法は役に立つと思うし」
「君は男の子だな。可愛らしくは思うが・・・私は魔法が使えないから、正直に言ってミロンの魔法には期待している。魔法が無ければ倒せない敵もいるかもしれない。だがこのダンジョンは私が挑むべき試練だ。巻きこんでしまった君に死んで欲しくない」
真剣な眼差しに気圧されとミロンは思わず「わ、わかったよ」と答えていた。
「聞きわけが良くて宜しい。ご褒美にこれをあげよう。由緒ある剣だから大切に使うように」
ユーキは腰に吊るした予備のショートソードを外しミロンのベルトにくくり付けた。ミロンは初めて装備したショートソードの予想以上の重さと、これから挑む試練の重さによろけそうになった。
「安心していい。私もミロンと同じくらい恐怖とプレッシャーを感じている・・・だが、どんなことをしても国を救う力を得なければならない・・・」