プロローグ4(ヒロインと自己紹介)
今回でメインヒロイン登場!
目的地のヴィネツィア・ジュリアは、聞いていたものとは随分違っていた。
ガイドブックには観光用の人工的に作り上げた白い砂浜にサンビーチが作られたいい感じのデートスポットと言う風に書かれていたが、いざ着てみると水辺のクリーチャーに海中を占拠され、遊び場は純粋な砂浜にしかなかった。
その事にガックリと肩を落として落ち込んでいた俺の肩を叩いて。
「人生そう甘い事は無いわよ。・・ま、アンタの目的の剣の神【クリュサオル】を祭る神殿に行く魔導シップは行く人が余り居ない割にそんなに高額では無いから残りのお金でも大丈夫よ。それに、お金が足りなかったらあたしが立て替えて上げてもいいしね?勿論、利息は貰うけど♪」
「それは心強いが・・トイチじゃないよな?」
「幾らなんでもそんなぼったくりはしないわよ。それに、金貸しの商売の基本は長期に借りてくれる人を探すのが基本よ?馬鹿げた利息を取ってたらそんなの直ぐに広まってあっという間に借りてくれる人が居なくなるわよ。」
「それを聞いて安心したよ。・・じゃあ、金にこま・・」
俺が金を借りる可能性の話をしていると、突然キャリーのスマホが鳴り出した。
そのホログラムをキャリーが見るなり血相を変えて・・
「ゴメン、昇治。本当は最後まで案内したかったんだけど、どうしても外せない用事が出来たわ。・・仕方ないからID交換しましょう?」
といって、俺に赤外線通信でのID交換を申し出てくる。
俺は折角の幸先のいいスタートとしての友達という事で、何の迷いもなくその申し出を受けた。
「ほい。・・・っし、これで何時でも連絡取れるな。・・・困ったことが有れば俺で良かったら力に成るよ。」
「あたしこそ。何時でも尋ねて来なさい。今渡したIDの中にはあたしの信用できる者だと言う証拠の品が有るわ。だからそのIDを見せれば、このイタリアの殆どのお店はあたしの住所を教えてくれる筈よ。」
へー、なんだか偉い奴なのか?サッパリした性格だから、そんな風には見えんが・・。
まあ、偉い奴と知ったからって今からヘコヘコして見たって、今までの言動は知られてるから意味ないんだけどさ?
ここは普通に接するのが良いだろう。
「おう、その時は頼りにさせて貰うわ。・・・そんじゃあ、またな?」
「ええ、生きてたら何処のホテルでバスの続きでも良いわよ?」
「ホントか!?」
俺は話の流れに付いて行けなくなりそうだった。
しかも・・・
「さあ?それはご想像にお任せするわ?お金で抱きたいなら、1000兆USダラー持って来れば精一杯ご奉仕して上げるけど?」
と言った冗談まで言ってくるので・・
「それは無理!!」
と反射的に答えてしまった。・・・それを天使の笑みで笑いながら見ているキャリーは
「ふふふ、残念。それじゃ、今度こそ、行くわね?」
そう言ってキャリーが自分の指にしている指輪に魔力を篭める仕草をして・・・
「(転移魔道具発動・・)」
何事かボソッと言うと、光の粒子と成って何処か遠くへと飛んで行った。
その光景を見ていた俺は・・・
「あんなことが出来る魔道具まで有るのか・・ホントに何でもアリだな、魔術って奴は・・」
そんな感じで考え事をした後、神殿に行くための魔導シップに乗る為、船着き場へと急ぐことにした。
船着き場へと来た俺は、その魔道シップに感動していた。
惚れ惚れする様な流線型。
船首に備えられた女神像を模した像の魔道大砲。
船尾に付けられた科学技術の填められたモーター。
今の世界全てがこの船に収束しているような感じがした。
ふと船の先を見ると、船首に立って何かをブツブツ呟いている金髪碧眼の美少女が居るのだが、俺はその何となくイライラした様子に
(こういう場合は幾ら綺麗でも近づかないのが吉だな。何か有った時に変な誤解が生まれる可能性が凄まじい。)
そう思い、入り口で担当の人にさっき船着き場で買ったチケットとチップを渡してすごすごと船室へと引っ込む俺は、美少女が訝しげに睨んで居る事に気付かなかった。
船室は思ったよりも広く、これなら余程の大人数でも無ければ場所の取り合いにならないだろうと安心した。
しかもキャリーが言った様にそれ程見ようと思う物が無い場所なのか、はたまた海の中心にある孤島行きの船だからか、客と言う客は居なかった。
「ふぅ~、何にしてもあと半日ほどの旅で俺の運命が決まるとなれば、なんというか切ない物が有るよな~。」
「へー、それはそれは面白そうな話だね?僕で良ければ話してくれないか?」
不意に聞こえた声に振り返ると、真っ赤に日焼けした金髪の男性が足元に小さい女の子を引き連れてこちらへ向かって来ていた。
「アンタは?」
「ん?おっと、これは失礼。自己紹介をすると、僕はローマ教皇の側近の家系の者で、名をエドモンド・ホールディングと言う。この子は僕の娘のニア。ああ、教皇の側近と言っても知ってるとは思うけど昔話の時代の様な権力は今は無いから、そんなに緊張する事は無いよ?今はキリシアン王の時代だからね。欠片持ちでもないあの方がどうしてあんなに慕われるのかは不思議なんだけど。」
何故か最後が愚痴になっていくのはこの国の人達の特徴なのかと思った俺だが、特には気にせず気になった事を聞く。
「なあ、欠片持ちってなんだ?」
「え?・・知らないのかい!?」
俺の質問に眼を見開いて驚くエドモンド。
(そんなに有名な名称なのか?)
「・・ふむ。髪の色がこの国には少ない黒色という事は純粋な東洋系の人種かー、なら詳しい事は魔術師にしか聞かされてないのかも知れないね。・・・良いだろ、ここで会ったのも何かの縁だ。少しだけお話しようか。欠片持ちって言うのは名の通り欠片を持ってる者の事。そして、肝心な欠片と言うのは古代の神の体の一部の事だ。この部位に関してはそれぞれの神によってさまざまだが、大凡古代の壁画に描かれている像と同じ姿と考えて多くても10位と言われている。」
「そんなにあるのか?」
「ああ、けど大きさは何故か体に収まれば関係なくなると言う話だ。僕は実際の現場を見てないから分からないけど、過去の資料にそう書かれているらしい。僕も過去に欠片持ちの家系だった人から聞いた話をそのまましてるだけだから、真実味は低いけどね?」
「え?魔術師皆が知ってることなんじゃないのか?」
「ああ、皆が知ってるのは言い伝えによる御伽話の事だよ。お伽噺にはこうある。『古代の神がみ、大戦によって体を失う。されどその脅威は依然健在。人々はその欠片を探し求める。そして、その力をその身に宿す。』っていう物が有る。これは読み取れた部分のみを皆が何年もかけて翻訳した物で、魔術師関係の書物の一番最初に書かれている物だ。興味があれば見てみると良い。まあ、今の言葉以外は書いてないんだけどね?」
「・・・それで?その話が本当ならその欠片を体に填めればかなり大きな力を持てるのか?」
「そうだけど、そうじゃない。その欠片達の本質はまだ全ての欠片を宿した事のある者が居ないから分からないらしいけど、基本は宿した者自身でなく、その身近に居た者や生物に納め、その者を圧倒的支配力で自分の配下にする事で力を得るらしい。・・が、クリーチャーには聞かないらしいがね?」
(なんかややこしいな。なんでそいつ自身に力が宿らないのかも分からんし・・・まあ、今の俺には関係ないか。しかし、誰にでも権利はあるのか?)
「そんで、その欠片ってのを宿せるのは誰にでも出来るのか?例えば魔術師以外とかでも。」
「うーん、それはまだわからない。その欠片自体ほんの僅かしか何処にあるのかというのが分かってないし、契約条件も有って誰が、如何いう物が選ばれるかは謎なんだ。今までの例で言うなら側近の体に手を触れながら神言を紡ぐのが大体の方法だけど、古いのになった近くの石像なんかが対象に選ばれる例も有ったらしい。その時は一種の召喚魔術使いみたいになったらしいけどね?今から向かう神殿も分かっている内の数少ない一つだが、誰が行っても未だ何の反応もない。分かっているのは文献の内容とまだ一つの神の物でさえ全ての欠片を持つ者が現れたことは無いという事。しかも・・」
「しかも?」
「過去に一人だけ二つ目を見つけて体に収めようよした欠片持ちが居たんだが・・神の力に耐えきれずに体が消し飛んだらしい。」
「・・・・」
(なんっじゃそりゃー!怖ええじゃねえか。・・・けど、そんな一か八かの危険が有っても力が貰えるなら探してみるのもありかも?どうせ、一般人の未来はそれ程明るくないし・・)
俺が急に黙ったのでエドモンドが心配するなと言いながら。
「大丈夫だよ。変ないい方をすれば一つとして体に受け入れる事が出来ない者の方が大多数なんだから。魔術師だろうが一般人だろうが、スタートラインが見えないのは皆一緒だよ。・・さあ、そろそろ出発の
時間だ。どうやらお客さんは僕らを入れても4人だけみたいだけどね?」
そして、船員の2名の魔術師(魔道シップなので優秀な魔術師が二人も居れば動かすのには問題が無いのだそうだ)が船室にて今回の船旅の説明を始めた。
まず、船長の様な帽子を被っている壮年の男性が自己紹介をする。
「魔導シップアルテミスへようこそ、わたくしこのアルテミスの船長を国から任されておりますコンラッドと申します。往復で丸一日と短い船旅ですが、よろしくお願いします。そちらの御嬢さんは知っているでしょうがね?」
そう言って頭を下げる船長。そして、眼を向けられた少女も会釈で答えていた。
続いてもう一人が前に出る。かなりの痩せた青年だ。
「どうも、あっしは機関部担当のレイランドです。今は作業用の自立AIに作業を任せてきているので、あっしがここにいる事で如何こうなる事はありません。どうぞご心配なく。・・・特にそちらの御嬢さんよく利用してくれる人だね?ずっと不機嫌そうですが、分かっている様に余程の事が無ければクリーチャーにでも襲われない限り沈んだりはしませんよ。そこは保障します。」
レイランドがそう言うと、不機嫌そうにしていた先ほどの金髪の美少女が慌てたように手を顔の前で横にブンブンと振っていた。
「え?・・・いいえいいえ。そうじゃないんです、少し考え事をしていたもので・・。こちらこそ不快な思いをさせて申し訳ありません。この船がそこいらの船より余程安全なのは度々乗せて戴いているので分かってます。」
そう慌てて謝り、凄い勢いで頭を下げた。
その様子を皆微笑ましく眺めている。
そして、レイランドが勘違いを謝り自己紹介を求める。
「それはどうも、こちらこそ勘違いをしてすいません。・・えっとお名前を教えて頂けますか?お嬢さん。あっしは記憶力に自信がないので確か聞いたことが有ると思うんですが、思い出せないんです。皆に自己紹介も兼ねてお願いしますよ。覚えていられるかは分かりませんがね」
「あ、はい。私はリチアと言います。短い間ですが、今回もよろしくお願いします。」
「はい、こちらこそ。」
という風にどちらもわだかまりを残すことなく自己紹介を終えた。
そしてその流れで自己紹介をしないといけない感じになったと思ったのか、エドモンドが前に出て名乗った。
「僕はエドモンドと言います。此方の娘はニアです。・・ほら、ニア。ご挨拶をしなさい。」
父のエドモンドに背を押され、一歩前に出たニアと言う子供は、たどたどしくも名を名乗った。
「ニアは、ニア・・です。よろしく・・です。」
そう言ってペコリと頭を下げる。
そうすると皆が笑顔で「よろしく」と返してニッコリとし、その影響でまたニアはニッコリとするループ状態となった。
そして、俺も仕方ないので皆と同じように一歩前に出て自己紹介をした。・・・皆と同じように名前と、後は目的だけだが。
「俺は神木昇治です。俺の目的は一先ずこの船の行先の剣神何とかっていう神様の神殿なんで、もしかしたらこの行きでお別れかも知れませんが、よろしくお願いします。」
「え?貴方あの神殿に何の用なの?・・まさか【神の欠片】の資格者を狙ってるの?」
俺の目的を言ってから先ほどのリチアが何か凄い目で見てきた。・・あの眼は見覚えがある。
(あれは魔術師でないのにクリーチャーの跋扈する外に出ている一般人を馬鹿にする目だな。一般人を嫌悪する目ではないけど、あの目は俺の嫌な眼の一つだ。見た目はスゲエ好みだが、あまり関わらない方だ良さそうだ。)
そう言う結論に至った俺は、極力刺激しないいい方をすることにした。
「いや?その資格者ってのが何かは知らないけど、俺は地元で少し嫌な事が有ってな?そして海外に行こうって時に偶然見かけた占いの屋台でその神殿に行けば俺の転機が訪れるって聞いたから、何もしないよりはマシだと思って来ただけだ。何の目的かと問われれば行くだけが目的だな?」
「ふーん、そうなんだ。・まあいいわ。私はあの神殿の定期的な管理をする家の者だから、今回はその日ってだけ。・・けど。」
「けど?」
「もし、選ばれたらしょうがないけど、無理矢理神殿の【神の欠片】を奪って持ち去るのなら、一般の者でも命は無いと思いなさいよ?」
(え?これって脅迫?)
「それは、手を出すなって言う脅し?」
俺の質問にリチアは笑って
「ふふ、違うわよ。私が何かするって言う方法もあるけど、単にそうしようとした者は神からのお仕置きが有るって事。これは冗談でも、比喩でもない事実。実際にコソ泥が何人か原因不明の死を遂げてるから、確実よ?その現場を見た者は居ないけど、死体を調べた結果で皆職業がコソ泥で指名手配されてた奴だから、間違いないでしょ。」
「じゃあ、もしその資格者ってのに選ばれたらどうなるんだ?」
「さあ?選ばれる過程はどういう物か知らされてないけど、色んな説があるわね。・・まあ、確実に言えるのは。」
「言えるのは?」
そこで十分にためを作ってからリチアは言った。
「もし、選ばれたらこの国の主な家の者が自分たちの庇護者に成ってくれと願い出てくるでしょうね。勿論、私も命令されればその者に、この場合は貴方に仕える事になるわ。・・まあ、実際は無いと思うけどね?もしもの話よ。けど、もしそうなればこれから先は今までの様な安全の保障された暮らしは出来ないから、それは覚悟して行きなさいね?」
(うわー、かんっぺきに脅迫だよ、これ。・・・けど、こんな子に仕えて貰えたら戦いの毎日でも俺としては本望だな。今までが今までだし。性格が良ければもっといいけど・・)
「それなら挑む価値は十分だな。俺はさっきも言ったが、地元で嫌なことが有って人生に嫌気がしてるんだ。だから少しくらいの戦いなら刺激的だし、占い師からは俺は事情があって滅多な事では死ぬことは無いって言われてな?しかも条件が揃えば今までの不幸が嘘のように良い事が有るってお墨付きだ。だから、もしかしたら俺がその資格者ってのに選ばれる可能性は十分にある。・・・如何だ?挑むには十分な理由だろ。ハイリスクハイリターンってだけだ。」
その言葉で少し驚いたリチアとエドモンドさん。 先ずリチアが
「そんな占い師のいう事で良くもまあそれ程自信を持てるようになるわね?逆に感心するわ。」
と辛口のコメント。更にエドモンドさんが
「滅多な事では死なないって言っても、もし無理矢理【神の欠片】を持ち去ろうとすれば一瞬で死ぬことに成るよ?更に、その占い師が出鱈目を言ったのならそれこそ無駄死にだし・・。折角知り合えたから無駄に死んで欲しくは無いんだけど?」
とコッチは殊更に心配をしてくれている。
(まあ、どっちにしても選択肢は無いんだから当たって砕けるしかないんだけどな?)
「まあ、どっちも心配してくれている様だけど、俺もどうせこのまま地元に帰っても無駄に生きるだけだから、当たって砕ける覚悟で行くだけだよ。」
「まあ、そこまで覚悟なら僕がいう事は無いよ。後は死なない様に祈らせて貰うよ。」
「私もそうさせて貰うわ。」
どうやら二人ともただ心配してくれただけの様だ。
リチアの場合は一般人だと言う事で無駄死にするのが落ちだと言うのが大半の様だが・・
「では、あと3時間ほどの船旅を皆さん満喫してください。・・私共は持ち場が有りますので、この辺で・・・。それでは良い旅を。」
「「「「良い旅を」」」」
そうして、予定通りの3時間後船は無事に神殿のあると言う孤島、神の名を取ってクリュサオル島に到着した。(この魔道シップにはステルス機能と魔力隠蔽の機能が有るらしく、程度の低いクリーチャーなら遭遇の可能性はかなり低いらしい。)
「それでは、私どもはこの場で船の見張りと整備をしておりますので、お帰りの際は戻って着てください。皆さんが戻った時点で寄港しますので。・・・特に昇治さんでしたか?」
「はい?」
船長が俺を名指しで言ってくる。
「貴方の場合は来る事だけが目的だと言いましたが、料金は往復の物なので、船を利用してお帰りに成らない場合でも一言伝言をして置いてくださいね?そうでないと契約違反でこの商売の信用性が疑われますので。」
「あ、そう言えばそうですね。分かりました、その時は誰かに伝言を頼みます。」
「そうしてください。・・では、皆さん。後程会いましょう。」
「「「「はい」」」」
そうして、この島での俺の伝説が始まった。