プロローグ1(剣の乙女との再会)
再会と戦闘
燦燦と輝く太陽の下、一人の高校生位の少年、神木昇治がイタリアはローマのコロッセオの門前へと足を運んでいた。
髪も目も黒く、夏という事で短パンとTシャツに身を包んだラフな格好に大きな旅行鞄は、見るだけなら観光か何かと思われる。
だが、それもある点を除けば・・であるが。
先に言ったとおり、外見は観光客なのだろうが、今の時代のこの地上にいてその観光と言う行為自体がそもそもおかしいのだという事も付け加えねばならない。
そして、昇治は腕時計を見ながら時間を確認し、思いっきり顰め面をしてスマートフォンを操作した。
プルル・・・プルル・・プルル・・
呼び出し音が鳴りるも、全く相手は出て来そうにない。
その事に腹が立ち、後先を考えずに昇治はスマホを地面へと叩きつけてしまった。・・結果。
バキ!
「あ、ヤベェ・・・、どうしよう、これ。」
やってしまった結果に嘆くが、壊れた物は普通の方法では元に戻らない。
仕方なく壊れたスマホを短パンのポケットに入れ、指示通りにコロッセオの中へと向かおうとした時、上空が影で覆われた。
その事で昇治は大いに焦った。
見れば、珍し鳥と人の融合型のクリーチャーが空から溶解液を吐きつつ此方に向かって来ているのだ。
「うわっ!こんな時にクリーチャーお出ましかよ、しかも鳥人型だし。リチアの奴、何処行ってんだ?あいつの指定した時間はとっくに過ぎてんぞ?・・・ヤバ!来た。」
少年の愚痴を聞き届けるでもなく、クリーチャー(魔物)の攻撃は少年に降り注ぐ。
地面の溶解液に触れた箇所がどんどん溶けて行っている。
しかし、避けて攻撃しようにも上空にいる地の利を生かしたクリーチャーの溶解液を使った攻撃に、神木昇治は只々逃げるほかない。
そして、なんとクリーチャーが話しかけてきた。
「おい、小僧。そんなに避けてばかりいちゃー面白く無いだろうが。コッチはついこの間生まれたばかりなんだ。少しは楽しませろよ。・・・それ、ビュ!」
そんな事を言いながら鳥人間は攻撃を仕掛けてくる。
そんな相手に昇治は
(面白くしたいなら降りてこいよ!・・・って言っても、実際に降りて来られても困るんだけどな?)
そんな事を考えてる間も、溶解液はどんどん頭上に降り注ぐ。
たまらず昇治は溶解液を避けながらパートナーと成っている筈の少女を呼び出すべく声を張り上げる。(呼んでも来ないと分かっていても、声を出してしまうのはそれだけ追い詰められているからだろう。)
「うわっと、ひぃ!クソーー、リチアー!何処行ったー!」
「すみません。お嬢様はただ今重要な会議に出ておりまして、その話し合いが長引いているのでしょう、私に伝言を頼みました。」
「うわ!ビックリしたー。君は?」
いきなり昇治の耳元で声がしたかと思えば、全身をメイド服に包み込んだ少女が立っていた。見た感じ無表情の顔に少しだけ興味の色が伺える。 頭にメイドの飾りを着け身長は160センチほどで顔の造りは欧米人と言うより日本人に近い。・・ハーフだろうか?髪は黒髪の長髪だが、眼は赤い。何人だかさっぱり分からない人種だ。 しかし、切れ長の眼鏡を掛けた姿は美人秘書に見えなくもない。
「私はリチアお嬢様専属のメイドです。お嬢様からの伝言は私が駆け付けるまで少しの間安全な場所にて隠れていてくれとの事です。」
(ふ~ん?アイツが自分ではこっちに来れない位大事な用件か・・・。しかし・・・・この子は何時の間に現れたんだ?全然気づかなかったぞ?まあ、俺の気配を感じ取れる範囲なんて高が知れてるが・・。)
そう思って一応の心算で昇治は聞いてみた。
「ねえ、君って何時現れたの?さっきまで居なかった・・・っと、ここじゃ何だから、早く中へ入ろう。・・・うわっと!」
鳥人間の攻撃を避けながらそう言って聞いた昇治だが、少女は同じように鳥人間を鬱陶しげに見つめながら頷くと、昇治の問いに物凄い軽い感じで返しいてきた。
「・・着いたのは昇治様がスマホを壊された辺りです。面白そうなので、魔術により影に潜んで声を掛けるタイミングを計っていました。」
「なんだとー!?」
(それじゃあ、コイツは俺が狙われてる時には既に観戦してたって事か?何か腹立つな!)
「叫んでいる元気が有るのなら大丈夫です。・・・ですが。」
昇治の考えを余所に、少女は鳥人間を見ながら昇治に聞いてきた。
「それにしてもあの顔は見ていて腹が立ちますね。何とか苦痛に歪ませることは出来ない物でしょうか・・。」
何故か物騒な事を聞いてくるメイドさん。
昇治はそんなことが出来るなら最初からやっていると言う言葉を飲み込み「あ、待てよ?」と少し考えて少女に確認した。
「で?君は只の伝言役?アイツから何か聞いて無いの?」
「私は単に、少し遅れるからその間の貴方様のサポートをしなさいと言いつかっております。ですが、私は戦闘はあまり得意ではない唯のメイド。貴方さまがどのような魔術を使えるのか知りませんが、お嬢様が期待される方なので、私も期待したいのですが?」
そうさも当然のように期待をした表情で聞いてくるメイドに昇治は苦笑しながら。
「残念だけど、俺自体には戦闘能力は無いし、魔術も使えないよ。俺はある能力を使用する事で、パートナー次第でクリーチャーを倒す事が可能に成るってだけだ。勿論、あそこで我が物顔で空中から溶解液を吐いてきてる奴でも、簡単に倒せるよ?」
「・・・本当ですか?では、その能力は何なのですか?」
疑わしそうに聞いてくるメイド。だが、昇治はその前にまだ聞いて無い事を聞くことにした。
「なあ、能力はリチアにでも詳しく聞いてもらった方が早いけど、その前に君の名前を教えてけれないか?」
「ああ、私はレイと言います。孤児だったのをお嬢様に拾われたので、ファミリーネームは有りません。・・しいて言うならレイ・バートンですね。・・っと、話をするのも限界ですね。どうします?」
少女、レイの言う通り、敵は絶え間ない攻撃を仕掛けて来ている。
「はっはー、それ其れそれ!」
愉快そうに攻撃を繰り返す鳥人間。その鬱陶しさに苛立ちを覚えた昇治は先程浮かんだ案を言ってみることにした。
「君の能力がどういう物かは知らないけど、飛び道具が有るならアイツに一泡吹かせる事が出来るかも知れないぞ?」
「本当でございますか?」
予想道理、食いついてきた。
そして、自分の得意分野を述べる。
「私は剣の一族に仕えるメイドですが、護衛も兼ねているので拳銃を少々扱えます。ただし魔術の籠った、所謂魔ガンと言う奴ですね。・・・魔弾はどういった物か解かりますか?・・このままでは地面がヤバいですね。そこのコロッセオに隠れましょう。」
「あ、おい待て!」
イキナリの展開に少々慌てる昇治だが、確かにこのままではこの辺り一帯の地面がヤバイ。
仕方ないのでレイの言う様にコロッセオに一時の宿を借りることにした。
しかし、その行動に興味を覚えた敵が面白そうに昇治たちの行先の付近に溶解液を落としまくる。
その所為で身動きが取れなくなった俺たちは仕方なくこの場で話し合う事にした。
「むぅ~、このままでは宿に近づけませんね。仕方ありません。ここで作戦会議です。」
そういって再度魔弾の説明をし出すレイ。
「魔弾とは、専用のカートリッジに魔術を篭めて、更に専用の拳銃にて相手に魔術放つ弾丸です。・・・ココまでは宜しいですか?」
そう言って首を傾げるレイ。
(この子、今思ったけどさっきから表情が変わらんな。個性を出さない訓練でも受けてるのか?)
そんな事を思いながら、意味は分かるので頷く昇治。
「よろしい。そこでですが、今私が持っているカートリッジは3種類。魔術で言うと火、水、氷ですね。そして、あのアホ鳥の吐いてきている唾が言うなれば酸性の魔術に属します。そして、酸性の魔術は氷の魔弾で凍らせるのが今の状況ではベストです。・・しかし。」
「しかし?」
イキナリ言い辛そうにしてきたので、昇治は詳しく聞こうと繰り返した。
「恥ずかしながら私の魔力ではあの酸を完全に凍らせるほどの強い凍度は出ません。なので、一時的にでも魔力の上がる物を持っていたらかして貰えませんか?」
(ああ、そう言う事か)
レイが言い辛そうにしてたのは初対面の男に借りを作ることになると思ったからだろう。
しかし、この状況ではそんな事もいって居られない訳だ。
そして、昇治には一時的に強くなる・・・いや、強くさせる方法がある。
「あるにはあるが、それにはレイの同意が居る。」
「?どういうことです?」
「俺の能力の一部に他人の能力を一時的に上げる物が有るんだが、それを行うには仮に契約する必要があるんだ、方法は簡単。体の一部に俺の血を付けながら神言を紡ぐだけだ。これをすることによって対象の能力をかなり向上させることが出来る。しかし、これは相手の同意が居るんだ。まあ、なんといっても仮の契約だからな。これが本契約なら神の命によって強制的に出来るんだが・・・。」
「・・普通逆なのでは?」
レイが俺の説明に当然の質問をしてくる。
確かに普通は逆だ。
仮の契約なら、何時でも解除できるため神の命令で強制的にやらせ、本契約の時に本人の同意を求める必要があるだろう。
しかし、考えてみれば解かるが、相手は神だ。
普通の人間の常識は通用しない。
面白そうだからといって、初対面の女性の裸の体(勿論魔法陣(古代版)を描くのに邪魔な為パンツ以外全てを取り除いた)に血の契約の魔法陣を描かせるのだ。しかも俺が魔術を使えるのであれば魔力で書けば早かったのだが、俺は魔術を使えない無能な一般人。その為血の契約がまんま血文字なので、体に付ける時にヌルヌルするは神言も入れるので量が多いから時間は掛かるはでリチアの顔が常に赤かった。序に乳首も綺麗なピンク色で時々くぐもった喘ぎ声が・・これは関係ないか。
まあ、そんな神の言い分だから何処まで信じていいかわからんが、正しい答えを知らない俺にはレイの質問に答える答えは一つ。
「俺もそう思うが、これは実際の神様の言葉だから俺は詳しくは知らん。要は契約すれば強くなれるって事だけだ。」
「さっきも聞きましたが、神の命令とかとはどういう意味なので?」
「それは神の欠片って奴を取り込んじまった様なんでな?その所為か、そのお蔭か、俺単体では強くは成れんがパートナーが居れば、多ければ多い程俺の安全が増すってわけだ。・・・お?どうやら鳥野郎、俺達のする事を待ってくれてるみたいだぞ?さっきから俺たちの周りだけ何の攻撃も来ない。」
「・・・みたいですね。これは好都合。それでは手っ取り早くその仮契約とやらをしましょうか?・・・どうするのです?キスでもしますか?それとも交尾でもしますか?」
「交尾って・・おい・・」
(こいつはどういう感覚で言ってやがるんだ?口調は変わらんが顔は真っ赤に成ってるから、恥ずかしいのは有るのだろうが・・・)
「本番行為も口づけも要らん。そもそも相手が男の場合、そんな条件なら俺が嫌だ。」
俺の言葉でレイも納得したらしく。
「それはよかったです。ならそう言う行為がお嬢様に成された事は無いという事ですね?」
「・・それは、まあそうだな。・・・そういう行為は、だがな?」
「・・・?なにか引っかかる言い方ですが、まあいいでしょう。なら、早くやってください。何時まで待ってくれてるか分かりませんから。」
「分かった。・・・じゃあ、利き腕をだせ。血を付けた箇所の方が効果は大きいらしいからな。本契約の場合は体の決まった場所にするから意味は無いが。」
俺はそう言ってレイに利き腕を出させる。
「はい。」
そして、出された腕に俺は右手の親指をズボンのポケットから出したサバイバルナイフで少しだけ切りつけ、血を出すとその血をレイの差し出した右腕に二の腕辺りに付着させ。
「我、神木昇治が宿せし剣の剣神【クリュサオル】よ。今ここに汝の力を望む子羊にその神力の一部を与え給え【神気注入】」
俺が神言を混じらせた契約の言葉を紡ぐと、レイの体が僅かに発光し、特に血を付けた右腕が凄い輝きを放っている。
そして、レイ本人はと言うと・・
「これは物凄いですね・・・これならあの程度の酸なら簡単に凍らせる事が出来そうです。」
レイはそう言うと、メイド服のスカートを捲りあげ、太もものベルトから魔ガンという物を取り出して、ポケットのカートリッジを填め込むと
「さあ、今そのムカつく面を恐怖に歪ませてやります・・・魔弾発射!」
レイの言葉と共に魔ガンから弾丸が飛び出した。
そして、一瞬遅れて気付いた鳥人間が間一髪で避けると。
「お前ら!準備が出来たんならそう言え!折角待ってやってたのに卑怯だぞ。もう許さん!これでも喰らえ!!」
そう言って鳥人間が連続して溶解液を吐き出してきた。
流石に先ほどまでの量とは違ったので、さっきのような攻撃は通じないがそれでも懸命に魔弾を撃ち続けるレイ。
しかし、そのレイも魔力の損耗が激しくなったせいか、もう凄い汗を掻いている。
この状況は流石に困ったので、忌々しい鳥人間にほえ面欠かすことは次に取っておくことにして。(もう会いたくないが。)
もう限界だと、ここには居ないリチアに向かって吠える。
「・・もうだめだ!リチアー!近くに来てんなら手を貸せ!お前は俺の剣じゃなかったのか!?手伝わないなら契約違反でもう・・」
昇治がそこまで叫ぶと、昇治の足元に幾何学模様の魔法陣が現れ、その中から声がした。その声は誰もが聞き惚れるソプラノボイスの艶妖な声だった。
「ふふ、そんなに慌てなくとも見殺しにはしないわよ。心配性ね、昇治は。」
呼ばれたのが物凄く嬉しいと言った感じの声を響かせ、魔方陣から徐々にその姿が浮かび上がってきた。その姿は、一言で言えば艶妖なる美女。いや、歳の頃は16.7という位の若さなので、美少女というべきか。金髪の碧眼に前髪は目の辺りで揃えられ、バランスの取れた彫りの深い顔立ち。背丈は昇治が170位なので、それと変わらない事から、170位で有ろう。髪は横髪を後ろで縛り、後ろ髪をストレートに腰のあたりまで伸ばした長髪だ。だが、昇治とは違い、この夏の暑い中、パーティードレスのような衣装を着て、足には赤いハイヒールを履いている。昇治とのギャップが中々に凄まじい。
その美少女が昇治に向かって言葉を掛ける。
「我が主、神木昇治様。此度の招集の遅延には相応の理由がございますれば、この敵を滅ぼした、或いは退けた後、説明させて頂きます。・・それでよろしいですか?」
「分かったから早くしてくれ!仮契約のレイだけじゃもう限界だし、元から俺は戦力に成らんのは知ってるだろうが、リチア!」
鳥人間の連続した溶解液を何とか相殺しているレイを見ながらそう吠える昇治に向かい、リチアと呼ばれた少女は、僅かながら頬を赤く染めると、昇治に承諾の意を示す。
「分かりました。我は主の剣、この身は捧げる主の物。さあ、封印解除の【神剣創生】の儀式を。」
そういって、リチアはそのモデルのようなプロポーションである胸の僅かに開いた胸元を更に広げ、あわや先端が見えるのでは・・と思う位の位置まで開ける。その胸元の谷間には赤い色で剣の模様が描かれていた。
その行為を見た昇治は少しだけ顔を赤くしたが、今はその場合ではないと思い、己の右手をリチアの胸の谷間の剣の模様に押し当て、契約の文言を並べる。
「我、神木昇治が契約せし、剣の乙女リチア・バートン。この者の力は我の力に、我が神能【剣神クリュサオル】に由って、彼の者に仮初の肉体を与えん。【神剣創生・クリュサオル】」
昇治がそう言いながら右手に宿った能力の一つを発動する。
すると、リチアの体が反り返り、剣の模様を中心に光り輝き、光の粒子となって形を失う。その後、その髪と同じ黄金の西洋剣が昇治の右手に握られていた。
その剣を両手で持つと、少女が剣に語りかける。
「よし、もうこれで怖い物無しだな。少しの間、我慢してくれよ?お前の能力も借りる事になる分は、後で少しなら我儘を聞いてやるからな?」
昇治が剣にそう語りかけると、剣が意外そうな声音で聞いてきた。
「あら、良いのですか?その様な約束。私は遅くなった分、添い寝をくらいはして差し上げようと思ったのですが?」
「それは嬉しい提案だな。・・・そしたら今夜はお前の屋敷で過ごすか?どうせ俺は宿無しだからどこでもいいぞ?そもそもここに集合場所を指定した意味も分からんし。」
「私の屋敷と言うのは良いですね。その序に遅れた要因も伝える事にしましょう。あと、ここにしていた意味も後で伝えます。・・・・来ます!」
「おう!【我の呼びかけに応えよ】出でよ!<召喚獣ペガサス>」
剣の中から発せられたリチアの声に反応し、すかさず剣から右手を離し、左手の能力でリチアの魔術である魔獣召喚を行いリチアの飼い獣ペガサスを呼び出そうと、左手で魔法陣を出しながら文言を紡ぐ。
そうする事により、魔法陣から一体の背に羽の生えた馬が出てきた。
そして、昇治は出てきた馬に飛び乗り、上を指差し、命令する。
「久しぶりだな、ペル。再会の挨拶の前に、敵を倒すぞ?・・・行けるか?」
『御意、主の主人は我の主。御意に従いましょう。』
ペガサスはそう言うや、上空の鳥人間目掛け、真っ直ぐに飛んで行った。
その背に乗り、敵に向かって剣を構える昇治。
対する敵である鳥人間は、相変わらずレイに向かって、10メートル程上空から溶解液を吐き続けている。
その鳥人間が、俺たちの様子に気付いてこちらを見た。
そして少し楽しそうにしながら。
「ほぅ~。漸く少しは楽しめそうになったな。じゃあ、次はお前らだ・・喰らえ!!ビュビュビュ!!」
鳥人間はレイに向けていた攻撃を全て昇治に向けて放ってきた。
その攻撃を俺はリチアの使える魔術の中で最高の防御力を誇る中級局地的結界魔術にて防御しながら突き進む。
その俺の行動に鳥人間は驚いて・・・イキナリ逃げ出そうと反転した。
「げっ、・・・そんなこと出来るなんて聞いて無いぞ!俺、もう帰る・・じゃな!」
そうして敵が背中を向けた所で、何とか昇治は敵に剣を届かせ・・・
「逃がすかー!、消えろーー!」
昇治がそう吠えて振り降ろすと、敵は辛うじて即死は免れたが、片腕が千切れ飛び・・・
「ぎゃああああ!!」
と叫び声を上げながら昇治を見て
「くそー!覚えてろよ!この腕の借りはぜってぇ~返すからな!首洗って待ってろ!」
そんな捨て台詞を残して遠くに帰って行った。
事が終わって地上に降りた昇治はペガサスに。
「ありがとうな!」
と、礼を言って
「いえ、お役に立てて何よりです。」
そう言ったペガサスを魔方陣に戻した後、解除した封印を元に戻す。
「【回帰せよ。剣の乙女・リチア・バートン】」
昇治の文言により、持っている剣が再び光を放ちながら、今度は人型へと形を取りながら、固まって行く。そうして、やがて元の少女の姿に戻ったリチアが、昇治に向かって抱きついて来た。
「お帰りなさいませ、我が主様♪」
その抱擁を俺はキチンと受け止めてから、気になる用件の事を聞いた。
「おう、ただいま。それより、調べ物の件はどうなった?」
「その事について、また厄介な事になったのよ昇治。詳しくは屋敷で話すわ。取りあえず昇治の交換留学の手続きは済ませてあるから、此方で何かを言われることは無いわ。住む所も人数が増える事を見越して、周りの屋敷は私名義の物にしてるから、昇治は心置きなく神能を増やして行って、一刻も早く神の依頼を完遂して人類の救世主になったらいいわ。その為にあの学園の情報網を使えるようにしたんだから。」
そう言いながら胸を張るリチア。その表情は期待と信頼に満ちている。
それ位昇治の手にしてしまった力を誇りに思ってくれているのだろう。
その事に昇治自身も微笑を浮かべる中、戦いで疲れ果てたレイが二人の甘い雰囲気に割って入った。
「お話の途中で申し訳ありませんが、その方の能力が今一分からないのですが?私に施した契約も物凄い物でしたが、お嬢様にされている物は理解不能です。」
「ああ、それもそうね。・・・さっきの戦闘を見てどう思った?」
「・・・恐れながら、ペガサスのスピードがお嬢様が駆る時より早く感じたのと、剣の腕もその方自体の腕は無さそうな筈なのに、実際はお嬢様が剣を振るわれる時より太刀筋が良いようでした。・・その方は実は乗馬と剣の才能がお有りなのですか?先程はその方はご自分で戦闘能力は無いと仰ってましたが?」
レイの質問に苦笑を零しながら、リチアは事実を告げた。
「応えは最初がノーで後がイエスよ?これは学園での授業の時にも解る事だけだど、彼には乗馬の経験も剣の経験もましてや魔術の経験も無いわ。」
「・・・は?それなら、どうして、お嬢様の得意な物ばかりを使ってクリーチャーを葬れたのですか?」
「それが彼、神木昇治様の神の気まぐれで貰った神能の力よ。今の所は体内に宿る、右手を使った神の力を借りた契約対象の体を媒介にした【剣神クリュサオル】の神剣創生と左手のその媒介にした体の持ち主の特技を使用できる【対象転換】位だけどね?今分かってる物はこれ位だけど。他の力も条件が揃えば使えるようになるわ。・・・・どう?面白いでしょう?」
そこまで説明したリチアをレイが微妙な表情で見ていた。・・どうしたのだろうか?
「その条件とは、いかがわしい行為をすることでは無いのですか?もしそうなら私は反対したいのですが?お嬢様には婚約者が居たはずでございましょう?」
(・・え?そうなのか?そんな話は聞いて無いけど?)
そう思ってリチアを見れば・・・
「あれ?その話はこの間キャンセルにした筈なんだけど?。あの西洋魔術師会のボンボンが、どう見ても私の家柄と体目当ての婚約者なだけなのに、見ても無い昇治の悪口を言うから、ボコボコニしてやったはずなんだけどなぁ。・・まあ、その話は屋敷で話すとして・・。今一度聞くけど、本当にもう日本の学園に未練はないの?此方で学園に入ってしまえば、あちらから遥々留学して来る子以外は日本の学生と交流を深める場は無いわよ?こちらでも何人か日系の可愛い魔術師は居るけど、純粋な日本人は居ないわよ?」
「でも、向こうで活動する場合とかもあるだろう?巫女さんとかと会う機会があるなら良いよ。」
「妹さんやご両親は良いの?」
(・・思い出したくない事を思い出したぜ・・)
俺のその嫌そうな顔で通じたのか、何かあったかとリチアが聞いてきた。
その質問に俺は苦笑交じりの答える
「なあ、俺が初めてこのローマに来た頃の事を覚えてるか?」
「忘れる筈が無いじゃない。あれが私たちの運命の物語りの始まりなんだから。」
そう言うリチアは微笑ながら頷いた。
「まあな。・・・けど、あの状況に至った経緯は、日本での家族と学園が原因なんだ。」
そう言った俺は、二人に俺がリチアと会う前の事を聞かせることにした。