『ビスタチオ』 地上絵と空の欠片
・「地上絵?」
缶に噛み付きながら新が聞いた。
「正確にいつどの時代で描かれた物かは知れませんが、地上に巨大な絵が残っているんです。一節では、神の姿絵ではないかと」
・「むかしむかし……この地に、空から神様が降り立ったって話です」
「神様は、何もなかったこの大地に太陽を与え、風を起こし、空気を作り出した。そして最後に作り出した空から無数の雨を降らせ、それがやがて海となり山となり森となり、やがてそれは命を育み人が生まれるに至った」
「人が生まれ、そして彼らは集団を作った。集団は組織となり、やがて集落が生まれた。集落が大きくなればそれは一つの国となる」
秀一は熱心に聞いているが飛は欠伸をかみ殺している。
「人が増えれば意思も増える。願いも欲望も、人が持つ想いはそれぞれ。それが衝突しあう事もある。口ケンカ程度ならいいけれども、それが国を二分する事にもなる。ましてや命を奪い合うほどの結果を生む事もある」
ココアは甘すぎる。けれど瑛己は顔に出さず一口すすった。
「この国起源の王朝『ヘロパピウス王朝』、そして書物に残る最初の戦争はそうして始まり――天地を揺るがすほどの大嵐が起きたとされるのは、その最中であったと言われます」
「大嵐?」
「ええ……天を裂く稲妻と地を洗い流すほどの洪水。それはまさに神の怒りそのもの。私欲のために争い、神から与えられた命を奪い合う我らの姿に、神は呆れそして一度は人そのものを滅ぼそうとされたそうです」
「……」
「ですがその中でも神は、一握りいた善良な民を――争いを疎み悲しみ愚かと思う事ができる子らまでも、滅ぼす事ができなかった。彼らに慈悲を与え助けた。すべてをなくし洗い流したこの土地に、生き残った者たちが再び世界を築けるように。今度は争いのない清浄な世界を築く事ができるように。神はその子らに祝福を与えました」
最後の一口を飲み干す。ゴクリと一番喉が鳴った。
「神が手を振りかざすと空が開き、そこから無数の光が零れ落ちました。雪のように静かに降り注ぐそれはまるで〝空の欠片〟のようであったと言われます。〝欠片〟は大地に落ちると土に染み込み、土地は今まで以上に豊かになりました。そして最後に落ちた一粒は一つの〝石〟となり光を放った。それを我らは〝聖石〟とし神の代わりに崇めました。そして以来、この国のある地域では、南国にしか育つはずがない木の実が雪の中でも芽を出すようになりました。我らの国名である『ビスタチオ』はそこから取られています。それはさながら神の御技。〝欠片〟によって土地が肥えた事によるものと言われています」
――全員が。その言葉に彼女を見た。欠伸をしていた飛はもちろん、目を閉じていた磐木でさえ。
「そして民は神に敬意を払い、地上に永遠に残るように絵を描いたのだと……、何か?」
「ねーちゃん、今なんちゅーた?」
「え?」
「〝空の欠片〟……」
「はい? 一部研究者によりますが。そう言われています。大災害の後に空から振り降りたという物。大洪水の前にすでにあったという見解もありますが、最近の研究では洪水の後ではないかと……考古学者、歴史研究者が古い文献や地表、壁画を研究して得た一つの〝伝説〟ではありますが」




