零地区
・ここをさらにずっとずっと西に行った所……どの国にも属さない、広い海域がある」
「『湊』から西、『久那諸島』を抜けさらに西へ行った海域」
その言葉に、全員がハッと顔を上げた。
白河はそれを受け、静かに、だがまっすぐを向いてこう言った。
「中立海域、通称〝零地区〟―――そう呼ばれる場所だ」
・「〝零〟は、国際規約上の規定海里の穴とも呼べる場所だ。たくさんの国に囲まれながら、その海と空はどこの国にも属さない。いやむしろ……人という身分では、御さえきれない場所なのかもしれない」
・「ただ言えるのは……飛空艇が突然操縦不能になったという事だ。3機同時に、それも〝零〟に入った途端な」
・あの時、確かに舵はなかった。計器はユラユラと意味不明にふらつく、操縦桿はいう事をきかない。機体は、こちらのどんな操作も受け付けず、何かに引かれるように地上を目指した。
しかし、エンジンは生きていた《・・・・・・・・・・》。
機体は突然、飛ぶ事を忘れたように。翼を無くした鳥のように、ただ、空を遠ざかって行った。
・一瞬、前にある速度計がフラリと大きく左右に振れた。
それが、合図だった。
突然機体が、ガクンと大きく上下したのである。
・「?」
瑛己は手元のレバーとギアを見、もう一度計器を見つめた。
アクセルを踏み込む。一杯まで踏み込む。
だが。
(おかしい)
速度が上がらない。
メーターを見る。すると、それがガクガクと揺れ始めた。
ガクンッ、もう一度、機体が揺れた。今度は、下に向かってバウンドするかの動きだった。
・《副長! な、何や……変です!》
無線で連絡しようとした矢先、飛の声が響いた。
《エンジン不調?? おかしい、計器がッ》
《僕もです……ッ、うあっ》
《落ち着け、クソッ一体どうなって》