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空-ku_u-【用語集】  作者: 葵れい
登場人物 【その他】
58/89

ゼンコー(zenko_)

 ・「……ゼンコー(zenko_)、すまんが」

  言いにくそうに言うジンの姿に、ゼンコーと呼ばれたバーテンは苦笑を浮かべた。「カシラ」

 「私にできる限りで調べてみます」

 「……すまん」

 「よしてください。らしくない」

 「……」

  ジンにとってこの男は古い馴染みである。

  年はジンより5つほど上。だが敬語を使うのはゼンコーの方である。

 「あなたには恩があります」

 「……」

 「時島様の行方……調べてみます」

 「すまん」

  もう一度頭を垂れ、それからジンは言った。「厄介な事になるかもしれん」

 「身の危険だけは、充分に気をつけてくれ」

  ゼンコーは、はいと短く答え微笑んだ。

  その笑みを見るとなぜか安堵する。ジンにとってそれは昔から今も変わらない。

 ・「カシラ」

  「何だ」

  「私はカシラに感謝しています」

  「……」

  「カシラのお陰で私は、夢が叶った」

  「……」

  「『蒼光』の一等地に、こんな店が持てた。そして命長らえる事ができたのはすべて、カシラのお陰」

  「……」

  「……フズは、穿き違えてる」

  「あいつの気持ちもわかるさ」

   軽く笑って、ジンは店の出入り口へと歩き出した。ゼンコーも後に続く。

  「俺があいつの立場なら、同じように恨むかもしれん」

  「……しかし奴の命とて」

  「言うな」

  「……は」

   ジンはドアノブに手をかけた。

   ゼンコーはうやうやしく、その背中を見つめた。

   そして開ける間際。「ゼンコー」と、ジンは呟いた。

  「お前から空を奪ったのは俺だ」

  「……カシラ」

  「すまん」

   ゼンコーは苦笑した。

   この人は変わらない。

   昔からずっと、ジンという人物は何も変わらない。

   属する所は違えども、彼が飛ぶ空はきっとあの頃のまま。

  「カシラ」

   答えたその声はとても優しいものだった。

  「私は自分から、空を降りたのです」

  「……」

  「私は幸せです。生き続ければ無限の可能性がある。生きている、ただそれだけが最強の価値を持つ。そう教えてくれたのは、あなたです」

  「……」

  「あなたに感謝こそすれ恨むなど。私にはあり得ません」

  「……そうか」

  「お気をつけて」

  「ああ」

   また会おう。

   そう言って、ジンは店を出た。


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