時島 恵(tokisima_megumi)
・質のいい黒のパンツスーツに、黒塗りのヒール。スラリと伸びた背筋。首にキラリと光る物がある。そして―――後ろですっきりとまとめられた焦げ茶の髪。輝くような、赤のルージュ。
瑛己に向かって、銃口を向けた。
・「用件は1つ。あの時見たすべての事を忘れていただきたい。それだけです」
女は瞬きをしたが、瑛己は視線一つ動かさなかった。
・「ご理解ください。さもなくば、私はこの場であなたを消さなければならない」
・ふっ。女は微笑んだ。それは決して、美しい作り笑いではなかった。「可笑しな人ですね」
「ならば、永久に、その心に封じていただく事を願います」
「……撃たないんですか?」
「撃ちたくなくなりました」
・黒のスーツに身を包み、凛然とした空気を放つ女性。そのルージュが、輝くように印象的だ。
・時島 恵(tokisima_megumi)は小さく息を吐き、そして呟いた。「空」
「あなたはなぜ……あの時、あのような事をしたのですか?」
・「しかし、あなたはもっと自覚しなければいけない」
時島の声は、刃のような響きを持っていた。
「あなたの翼にどれだけの価値があるのか―――その背中に生えているのは、〝絶対の翼〟だという事を」
そして自分が、何を背負って飛んでいるのかを。
・(誰が、空(ku_u)を)
売ったのか……思ってからその言葉に、恵は吐気にも似た感情を覚えた。
・数少ない〝彼女を知る者〟の中に、彼女の情報を、流した者がいる。
・それが例え、誰であろうとも―――恵はそっと瞼を伏せた。
・その人物の顔を見とめると、恵は凛とした声でこう言った。
「閣下。お帰りですか」
・恵はそっと彼女の背中を抱いた。
「……大丈夫」
「恵さん」
「あなたには私がいるから。私がいるから………」
・橋爪に駆け寄る者がいた。
細身の、黒いスーツ姿の者。女性だ。後ろに縛った髪が揺れている。
秘書だろうか? それ以上何も思わず、瑛己はほとんど無意識にその姿を見ていた。
彼女は腰を落とし、橋爪の耳元に何かささやいている様子だった。
橋爪は一瞬険しい顔をしたが、身動き一つせず彼女の言葉を聞いていた。
やがて勤めを終えると、彼女は素早い動きでその場を去り、人の中へと消えて行った。
一瞬だけ振り返ったその顔は。
(時島さん……?)